やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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比企谷八幡は目撃した

noside

 

「八幡!一人じゃダメだよ・・・!』

 

ヤプールとエースキラーが現れ、真っ先に飛び出して行ったギンガを制止するように、彩加はエクスデバイザーを取り出して飛び出そうとした。

 

ヤプールが絡む事件は厄介な事を重々承知しているのだろう、その表情に余裕は無かった。

 

見れば、沙希や大志たちもまた、各々のウルトラマンへと変身しようとしており、助太刀に入ろうとしている様子が見て取れた。

 

だが・・・。

 

「行くな。」

 

だが、一夏は弟子たちを制し、行かせない様にしていた。

 

「どうしてですか・・・!?」

 

その理由が分からず、小町は抗議の声をあげる。

自身の兄が、思惑も解らないヤプールにただ独り挑んでいる事が、一度ヤプールの闇に取り込まれた小町にはどれほど危険か解っていた。

 

だから、何が起きても対処できるように、自分も共に戦いたかったのだ。

 

「これはヤプールの企みの一環だ、君達が出て行ったら間違いなく状況は悪くなる。」

 

だが、一夏は彼女よりも深くヤプールについて知っていた。

これが、自分達を誘き出すための罠だとも気付いていた。

 

八幡が最初に飛び出したのも、心配と言えば心配だったが、一番リスクが少ない方法だとも考慮しての事だったのだ。

 

何せ・・・。

 

「そこで見ている奴がいた、さっきのを見られたかも知れん、君達はそれを追ってくれ。」

 

一夏は気付いていたのだ、自分達とヤプール以外の、第三者の目がこの現場を見ていた事に。

 

ヤプールの目的は、この世界を支配するためにウルトラマンを完全に葬り去る事、ならば、そのために人間を利用しない手は無い。

 

故に、ウルトラマンに悪意を持つ人間を利用し、その正体を暴いて人間側との繋がりを弱めると言う手段に出る積りなのだと当たりを着けたのだろう。

 

一夏の言葉に、その場にいた者全ての表情が変わった。

 

謂われてみれば、微かだが自分達とは違う者の気配が極めて近い位置にある。

それが何を意味するか、大凡理解出来た。

 

正体を知られた場合、どういう事が待っているか。

それは、この力を手にした時から口酸っぱく、まるで自分達が経験してきたかのように謂われたため、どうなるか理解しているからだろう。

 

「分かったら早く行け、八幡君のフォローは俺がする、頼んだよ。」

 

一夏の言葉に、沙希達は強く頷きつつ、その第三者を追うべく走り出した。

 

決して、ヤプールの思惑通りに事を進めてはならないと、危機感を抱いて・・・。

 

「まったく・・・、愚かな事だな・・・、人間も、ヤプールも。」

 

彼等の気配が遠のいた所で、一夏は深いため息を一つ吐き、忌々しげにつぶやく。

 

全てが鬱陶しい、そう言わんばかりの、何処か憎悪とさえ取れる様な険しい表情だった。

 

「本当に・・・、目障りだよ・・・。」

 

その言葉には、怒りだけがあり、自分の望みが妨げられている事への苛立ちさえ見受けられた。

 

今の彼には、友を慈しむ心もあれば仲間を、家族を、そして弟子を愛する気持ちも勿論ある。

 

だが、それ以上に、自分達を辱め、その誇りを踏みにじり、そして敵となった者達への怒りと憎しみが勝っていた。

 

このままでは済ませない。

それはルギエルに向けられたものか、それとも別の誰かに向けられた物かは、彼にしかわからない事だった。

 

だが、彼はその怒りを自らの内に押し殺し、目の前で行われている弟子の戦いに目を向ける。

 

彼の予想が正しければ、今のエースキラーはウルトラ兄弟以外の力も持っている。

それを、八幡がどう対処するか、それも期待していたのだろう。

 

「危なくなったら俺が助けるさ、なぁ、皆・・・。」

 

小さく、小さく呟かれたその言葉は、何処にも届く事無く風と消えていった。

 

そこにある、悲哀さえかき消して・・・。

 

sideout

 

 

side八幡

 

『行くぜ、ロボット野郎!!』

 

先生からの指示を受けて、俺は目の前に佇む機兵、エースキラーに向かって行く。

 

ウルトラマンを模して造られた存在だとは、たった今聞いた訳だが、その性質を知っている訳ではない。

 

だから、俺は慎重かつ、それでも全力を以て拳を繰り出した。

 

飛び掛りつつ繰り出した俺の拳を、エースキラーは爪が巨大化した様な手を薙ぐ事で払い、攻撃を防いだ。

 

だが、負けじと崩れた勢いを利用して後ろ回し蹴りを見舞い、相手にカウンターの隙を与えない。

 

腹に入ったは良いが、押し返せただけでダメージは無いみたいだ、エースキラーは何でも無い様な雰囲気を出しながらもこっちに向かってくる。

 

『なんて固い鎧だよ・・・!それならッ!!』

 

飛び蹴りをしつつ、俺はギンガストリウムへと変化、跳ね上がったパワーで対抗する。

 

小難しい技も色々覚えてはきたが、それでも俺がやり易いのはやっぱりこの力で相手を押し込むスタイルだ。

 

振るわれるエースキラーの爪を躱し、蹴りを蹴りで防ぎながらもタックルで奴との間合いを取りつつ戦う。

 

しかし、反応が薄いロボットはやり辛いもんだ、有効打かどうか分からんのは、戦いを優位に進める上で非常に不利な事では無いだろうか。

 

まぁ、そんな事なんて考えずに、圧倒しちまえばいいんだけどなっ!!

 

『コイツを喰らえ!ギンガサンダーボルトォ!!』

 

間合いがある程度開いた際に、俺は十八番の技、ギンガサンダーボルトを放つ。

 

これは効くぜ!!

 

『エースキラーよ、ウルトラ兄弟の技を使え!!』

 

ヤプールの言葉に反応したエースキラーは、腕を十字に組み、交戦を放ってギンガサンダーボルトを相殺した。

 

『あれがウルトラマンの光線技って奴か・・・?すっげぇ威力だな・・・!』

 

だけど、防がれる事は百々承知、俺は次の手を持っていた。

 

『ウルトラマンゼアスの力よ!スペシュッシュラ光線!!』

 

身体の左側で十字を組んで放つ技、スペシュッシュラ光線を放つが、それもエースキラーの突き出された右腕より放たれた光線により相殺された。

 

やっぱ一筋縄じゃいかないよな、だが、俺は負けたくないんでな!!

 

『これならどうだ!』

 

爆炎に紛れて跳躍、身体を捻って勢いを着けたスワローキックをお見舞いする。

 

それは狙い違わずにエースキラーの胴に突き刺さり、その巨躯を大きく吹き飛ばす。

 

この技も、タロウから教わった物ではあるが、今では俺の得意とする技の一つだ。

この技を使って負けるなんてあっちゃいけない。

 

だから、このまま押し切ってやるぜ!

 

『行くぜ!ウルトラマンネオスの力よ!!』

 

ギンガスパークNEOを操作し、光の戦士、ウルトラマンネオスの必殺光線、腕をX字に交錯させて放つマグニウム光線を撃った。

 

それは起き上がったエースキラーを捉えようとしていた。

 

だが・・・。

 

『ウルトラマンダイナ、ソルジェント光線!!』

 

エースキラーが腕を十字に組み、放たれたその光線がマグニウム光線の奔流をかき消した。

 

『なにっ・・・!?今のは・・・!?』

 

今のは、玲奈さんのソルジェント光線・・・!?

何故コイツが撃てるんだ・・・!?

 

『ウルトラマンメビウス、メビュームシュート!!』

 

ヤプールの声と共に、再びエースキラーが動く。

 

左腕に右手をかざし、胸の前で交錯させてから広げた後に頭上で∞を描く。

 

『くっ・・・!ウルトラマンメビウスの力よ!メビュームシュートッ!!』

 

俺も負けじと、同じ技で対抗する。

 

十字に組まれた腕から、全く同時に光線が放たれ、ぶつかり合ってその威力を相殺した。

 

『メビウスの技まで・・・!?まさか、コイツは・・・!?』

 

『驚いたか!コイツはエースを倒すために作られたエースキラーなどという、古い存在はとうに超えている!!』

 

俺の驚愕に答える様に、ヤプールの哄笑が響いてくる。

 

ったく、耳障りな嫌な声だぜ・・・!

 

だが、俺の予想が正しければコイツは・・・!

 

『ギンガ!コイツは貴様が師と崇める存在、アストレイを抹殺するために作られた存在、いわばアストレイキラー!伝説とまで謳われたその力の全てをコピーしてある!!』

 

『ちっ・・・!』

 

先生達のデータが仕込まれているのか・・・!

なんて厄介な事してくれるんだよ・・・!

 

アストレイメンバーの大半の技や戦い方は見て来たつもりだ、だけど、一人だけ戦い方を、技を見ていない人が、一人いる。

 

それは、俺の師匠、織斑一夏、ウルトラマンティガの戦い方だ。

 

その技の威力は未知数、どんな技かも分からない。

これ以上に無いマズイ状態だ。

 

『行くのだアストレイキラー!ウルトラマン共を血祭に上げてやれ!!』

 

ヤプールの命令と共に、エースキラー改め、アストレイキラーは不気味な唸り声をあげて此方に向かってくる。

 

しかも、緩慢な歩き方では無く、ウルトラマンを彷彿とさせる様な、何処か機敏とも言える動きだった。

 

『くっ・・・!!』

 

だが、逃げ腰になっている場合じゃない。

 

構えを取り、迎え撃つ体勢を取る。

 

振り下ろされる右腕の叩きを払いながら、俺は直伝のストレートパンチを腹に見舞うが、それでも僅かに退かせられる程度だった。

 

その腕を掴み、大きく投げ飛ばそうとしてくる。

 

『ぐぉぉっ・・・!まだだッ!!』

 

後ろに大きく投げ飛ばされたが、その隙にギンガセイバーを展開、ヤツの背後を切りつける。

 

ダメージが通ったか、アストレイキラーはよろめき、俺に追撃をかける事が出来なかった様だ。

 

その隙に体勢を立て直し、改めて向き直った。

 

だが、奴も負けてはいられないと感じたか、左腕のブレスの様な物から光の剣、メビュームブレードを発生させた。

 

ちっ・・・!何処までも先生達のマネをしやがって・・・!!

 

ちったぁ自分の力で戦ってみやがれってんだ!!

 

ほぼ同時に立ち上がった俺とヤツは全くの同時に走り出し、腕の剣で斬り合う。

 

ったく、嫌な事にリーカさんの太刀筋にそっくりだ、見た事がある分予測して着いていく事は出来る。

 

だが、それでもロボットが相手な分、感情が読めない上に加減が一切ない分、やり辛いものがある。

 

クソッ・・・!紛い物とは言え、アストレイの力をそのままコピーしているんだもんな・・・!

 

『やり難い・・・!だけど、俺は勝つッ!!』

 

だけど負けたくない。

それに、これは俺の力試しにもなる。

 

なんせ、このデータは嘗ての先生達のデータを使っているに違いない。

 

ならば、俺はそれを超えてやる!

喩え紛い物でも、データを使っているのに変わりはないのだから!!

 

『いい加減に、しろってんだよっ!!』

 

拮抗状態の最中、コンパクトに畳んだ蹴りをアストレイキラーの腹を蹴って距離を開けた。

 

だが、それが悪手だった。

 

『ウルトラマンガイア、フォトンエッジ!!』

 

後ずさるアストレイキラーの頭部から、赤い光刃が放たれる。

 

俺は何とかギンガセイバーを掲げる事は出来たが、それで全てを防げるわけでも無い。

 

ギンガセイバーが弾き飛ばされる様にかき消され、幾分か弱まった光刃が俺の身体を襲った。

 

『ぐぉぉぉっ・・・!?』

 

思いっ切り吹き飛ばされ、盛大に地に倒れ込んでしまった。

 

それでエネルギーの大半を持って行かれたか、カラータイマーの点滅が始まり、徐々に身体から力が抜けていく感覚が強くなっていく。

 

『フハッハッハッハッ!!ギンガよ!これで貴様も終わりだな!!』

 

嘲笑う様なヤプールの声が聞こえてくるが、それに返す余裕は当の昔に無くなっていた。

 

呻きながらも、身体を蝕む激痛に身を捩る事しか出来なかった。

 

『どうした!?お前の師匠とやらに助けは求めんのか!?』

 

ヤプールの挑発に、俺は頭の何処かで、そういうことか、と納得してしまっていた。

 

恐らく、ヤプールの言う目的、ウルトラマンの抹殺はついででしかなく、本当の目的は、先生達をここに誘き出し、完膚なきまでに終わらせる事だろう。

 

言ってみれば復讐と言う事になるだろう事は想像に難くない、それだけ散々アストレイに辛酸を舐めさせられて来たんだろうから。

そうでも無ければ、アストレイキラーなんていう、先生達を殺す気満々なモンを作り上げる事も無いだろうからな。

 

だが、だからどうしたと言うのだ。

この喧嘩は俺が買った、ならば、最後まで俺がやるのがケジメってもんだろう。

 

『う、ぉぉぉ・・・!!』

 

痛む身体に鞭打って、無理やり立ち上がりながらもファイティングポーズを取り続ける。

 

『先生達の手は、沙希達の手も借りん・・・!お前は、俺が倒してやるっ!!』

 

負けて堪るかと言う想いを、紅に燃やして!!

 

『ウルトラマンタロウの力よ!』

 

腕を胸の前で交差させ、その力を一気に解放させる。

熱く、強い炎、それを纏った。

 

『ほう!ウルトラダイナマイトか!!面白い!だが、死ぬのは貴様だけだ!!』

 

この技に見覚えが有ったのだろう、ヤプールは何処か愉しげに嗤い、アストレイキラーもまた動き始める。

 

『貴様の師の技で逝くが良い!!ウルトラマンティガ、ゼぺリオン光線!!』

 

ティガの名前が聞こえたと言う事は、この矢鱈長そうなための仕草も、恐らくは先生の技を使うための予備動作と言う事か・・・。

 

だが、足りない。

そんな程度で、俺は負けてられない。

 

紛い物はいらない。

俺が欲しいのは、本物だけなんだよ!!

 

『ウルトラマンメビウスの力よ!!』

 

だから、この二つの炎を同時に使う。

 

交錯させた腕の間、カラータイマーを中心に燃え盛る炎が一気に広がって行く。

 

二つの炎をフュージョンさせた大技、これしかコイツは倒せない!!

 

『死ねぇぇッ!!』

 

ヤプールの声と共に、アストレイキラーのL字に組まれた腕から光線の奔流が放たれる。

 

だが・・・。

 

『う、おぉぉぉぉっ・・・!!』

 

それを腕で抑え込みつつ、一歩一歩前進し、その距離を詰めていく。

 

一歩、また一歩、意識が遠くなるような程、頭が熱にやられつつあった。

 

だが、それでも負けられなかった。

俺は、必ず勝つと決めたから・・・!!

 

『ば、バカなっ・・・!?』

 

ヤプールが慄く声が聞こえてくるが、それに構っている余裕は無くなっていた。

 

だから、身体の全てが持って行かれそうになる光線の奔流を堪え、遂にアストレイキラーを間合いに捉えた。

 

逃げられてはこの気張りが無駄になってしまうため、俺は後先を考えずに組み付いた。

 

どっかで見た様な自爆技だなと、頭の片隅でぼんやりと考えていたが、それでも構わない。

 

だから・・・!!此処でお前を倒すっ・・・!!

 

『ストビューム・・・!ダイナマイトォォォォォッ!!』

 

身体の内に残るエネルギーをスパークさせた瞬間、俺の視界は白く塗りつぶされた・・・。

 

sideout




次回予告

一難去ってまた一難。
彼等を取り巻く思惑は、平穏さえ呑み込んでしまうのだろうか・・・。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

川崎沙希は手を伸ばす

お楽しみに

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