やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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戸塚彩加は立ち止まれない

noside

 

「お邪魔するよ比企谷君、川崎さん。」

 

修学旅行の代休が明けた日、大和は科特部の部室を尋ねていた。

 

部活に入っている訳では無い大和だったが、普段は部活動中の科特部部室に来ることは少なく、珍しい訪室だった。

 

「おう、どうしたよ・・・?」

 

特に用事は無かった彼だが、部屋にいた八幡は彼をあっさりと出迎えていた。

 

部室内には既に正規メンバーの八幡、沙希、彩加が居り、何かを話している途中だった様にも窺えた。

 

彼等の表情には何処か固さが見受けられ、何かを決めあぐねている様にも見受けられた。

 

「どうしたよじゃないよ・・・、滅茶苦茶辛気臭い顔してるじゃないか・・・。」

 

「そんな顔してた・・・?」

 

それに若干引きながらも尋ねた大和の言葉に、彩加が自覚が無かったと言わんばかりに返していた。

 

どうやら、本当に深刻な事なのだと察する事が、今来たばかりの大和でさえ理解出来た。

 

「してたよ・・・、まるで、知りたくない事を知った、みたいな顔だったよ?」

 

「それ、大正解・・・。」

 

ホントどうしたと言い切る彼に、八幡はげんなりと、その通りだと答えていた。

 

どうやら大和は無意識に言葉を放っていたらしく、本気で当たるとは思ってもみなかったと言う様な表情を浮かべていた。

 

「マジなんだ・・・、って言うか、そんなに深刻なのかい?」

 

「まぁ・・・、先生の絡みでちょっとばかしあっただけだよ、気にしなくていい。」

 

心配そうに尋ねてくる大和に、八幡は言葉を濁して大丈夫だと笑った。

 

そんな彼に同調するように、沙希も彩加も、曖昧な笑みを浮かべていた。

 

言えるはずが無いのだ。

彼等が聞かされた真実の一部、そこで知った師達の抱える巨大な闇、その根底にあるウルトラマンへの憎しみ。

 

それを、只の人間であり、友人である大和には聞かせたくなかったに違いない。

 

何せ、それを知ってしまえば、彼等の今の戦いは何だったのか、分からなくなってしまいそうだったから。

 

だから、この話は然るべき時まで胸の内に秘めておくことに、大和が入って来るまでに決めていたのだった。

 

「で、何か用があって来たんじゃないのか?」

 

その話に踏み込ませないために、八幡は大和が訪ねてきた理由を問うた。

 

「あ、あぁ・・・、今度、期末考査終わったらすぐにクリスマスじゃないか、大志君や小町ちゃんが良かったら、皆で集まってパーティーでもどうかなって。」

 

それを察した大和は、これ以上突っ込むのも野暮だと判断して話題をクリスマスへと向けた。

 

既に十一月も終わりに近づき、巷ではクリスマスソングが流れ始めている時期だった。

 

故に、一カ月前からクリスマスの予定を立て始めるのも、今となっては当たり前の様に思われる。

 

「あー・・・、もうそんな時期だったか・・・、去年は、親が小町連れて外に飯食いに行ってたから、一人でチキン買って来てたっけ・・・。」

 

「唐突な黒歴史はやめようよ・・・、胸痛くなるじゃないか・・・。」

 

八幡の目が遠くなるのを見て、彩加と沙希がもらい泣きしそうな目で彼の肩に手を置いてた。

 

今だ過去のトラウマがある八幡にとって、こういうイベント事は昔を思い出すだけでダメージを受けかねない代物であるのだ。

 

「大丈夫だって、今年は沙希も彩加も、大和だっていてくれるんだ、こんなに恵まれてる事なんて無いだろ?」

 

とは言え、それを払拭して余りある程、今年は盛り上がる事は間違いないだろう事が彼等にも分かっていた。

 

何せ、今年は彼の周りには多くの仲間が、多くの友が、最愛の恋人がいるのだ。

恋人と二人きりと言うのも捨てがたいが、誰かと過ごすクリスマスと言うのもまた、格別なモノとなるだろう。

 

「そうだね、そう言ってくれると嬉しいな。」

 

そんな八幡の嘘偽りの無い感情を聞けたからか、彩加は嬉しそうにはにかんでいた。

 

友人といる事が何より嬉しい彼にとって、相手からも想われていると分かれば嬉しくもない筈も無かった。

 

「相模も来るんだろ?」

 

「まぁね、というか、南さんから来たいって言ってたよ。」

 

「南さん、ねぇ・・・?アンタも隅に置けないね。」

 

八幡の言葉に返す大和の言葉の中にあった台詞に目敏く反応し、沙希はからかいと祝福を織り交ぜた言葉を投げていた。

 

以前より、大和と南の距離が近くなっていた事に気付いてはいたが、まさかもうそういう関係にまで進展しているとは思いもしなかったのだろう。

 

「へへ・・・、比企谷君と川崎さんには負けてられないからね、勿論、戸塚君にもね。」

 

そんな言葉に、大和は少々照れながらも、胸を張って堂々と答えていた。

 

隠す事など何もない、全てを話せる相手にはトコトン素直な彼らしい一面だった。

 

「おめでとうさん、なら、此処で油売ってないで早く行ってやれよ。」

 

それを簡素に祝福しつつ、こんな所にいるんじゃないと八幡が背を押す。

 

南を待たせてやるなと言う配慮だろう、その言葉は柔らかかった。

 

「そうさせてもらうよ、じゃあ、予定が決まったらよろしくね。」

 

それに頷き、大和は手を振って部室を後にした。

 

その言葉からは、最早場所も確定している様な言い方だったが、あながち間違いではないのも事実だった。

 

何せ、八幡達の口からアストレイの誰かの耳に入れば、店を貸切にしてくれるなどしてくれるのだから。

それは、ただ単純にアストレイメンバーがお祭り好きという面もあるからだろうが、学生の彼等からしてみればありがたいコトこの上無いモノだった。

 

「でも、楽しみだね。」

 

彼が去った後、沙希は八幡に微笑みかけながらも話しかけていた。

 

クリスマスと言う時期を意識すれば、付き合って半年経たない彼等にとっては、今までにない一大イベントだったに違いない。

 

だからこそ、二人きりとはいかないまでも、好き合う者と一緒に過ごせることが、何よりも楽しみなのだ。

 

「そうだな、その後、二人きりになるか。」

 

「もう・・・。」

 

沙希の手を取りつつ、しれっとクリスマス会の後の事を話す八幡の言葉に、彼女は照れながらも満更ではない様子だった。

 

それだけ、彼女が八幡の事を愛している証でもあるようだが・・・。

 

それはさて置き。

 

「彩加も、クリスマス位は小町を誘ってやってくれよな、その方が小町も喜ぶだろうし。」

 

「あ、はは・・・、御見通し、だよね・・・?」

 

彩加と小町の関係を突っつく八幡に、彼は自分の頬が熱を帯びていくのをハッキリと自覚した。

 

今現在、付き合っているとは言い難い距離感な彩加と小町だったが、小町の兄である八幡に突っつかれてしまえばどう答えるのが正解なのか分からなくなるのも無理はない。

 

尤も、八幡の想いとして、無二の親友と大事な妹が付き合う事になるのは思う処が無いわけではないが、二人の幸せを願い、両名をくっ付けようと動いているのだ。

 

「小町も彩加の事を良く話してくれるんだよ、だから、よろしく頼むぜ親友。」

 

親指を立てながら頼まれれば最早断る訳にはいかないと、彩加は苦笑して頷いた。

 

親友にお願いされれば断る道理など無い、彩加もまた、八幡を無二の親友と想っての返事だった。

 

「んじゃ、そろそろ帰るか、今日は予備校だったな。」

 

「そうだね、行こっか。」

 

そろそろ家路に就く時間だと、彼等は各々のカバンを掴み、部室を後にした。

 

これから後に待っている、愛しい時間を心待ちにしながらも・・・。

 

sideout

 

noside

 

同じ頃・・・。

 

「うっさいし!どっか行けっ!」

 

雑貨店などが立ち並ぶ通りにほど近い場所で、一人の少女の怒声が響き渡った。

 

道行く通行人は何事かと一瞬視線をその少女の方へ向けるが、すぐにその視線を逸らした。

 

無理も無い、その少女に絡むのは、ガタイの良い、一見してチャラそうな大学生と思しき男3人組だったのだ。

もし制止しようと声を掛ければ、こちらがどうなるか分かった物では無い。

 

そう判断して、皆、助け船を出す事さえ出来ずに知らんふりをして通り過ぎていくばかりだった。

 

「そんな連れないコト言うなよ嬢ちゃん?暇なんだろ?」

 

「そーそー、楽しいコトしてやんぜ?」

 

リーダー格の、金髪に染めた髪を逆立て唇にピアスを開けた男と、その取り巻きが壁際に追い詰めながらも少女に強引なナンパを仕掛けていた。

 

少女は髪を金髪に染めていたため、彼等と同類と思われたのだろう事が窺い知る事が出来た。

 

「キョーミねーし!ウザいからさっさと消えろし!!」

 

だが、少女からしてみればそれは言い掛かりにも等しいモノであり、自分は違うと言い切れると感じていた。

 

故に、彼女は拒否の姿勢を示し続けた。

 

「そう言うのいらねーから、さっさと来いよ!!」

 

一向に頑として首を縦に振らない彼女に痺れを切らしたか、彼女を逃がさない様に左右を固めていた男が一人、いい加減着いて来いと彼女の手首を掴んだ。

 

どうやら、ナンパという体裁を装っていたが、結局は無理やりにそう言った行為を行おうとしていた事が露呈したのだ。

 

「は、離せし・・・!!」

 

男達の目的に合点が行ったのだろう、彼女の瞳に初めて怯えが宿った。

 

なんとか逃げようともがくが、男女の筋力差で抑えつけられたら勝ち目はない。

 

逃がさない、男達が下卑た笑みを浮かべた、その時だった・・・。

 

 

「お巡りさん!こっちですよ!」

 

少年の声で、警察を呼ぶ声がどんどん近付いてくる。

 

「ちっ・・・!何処のどいつだぁ!?」

 

やってくれたなと言わんばかりに、リーダー格の男が怒声を張り上げた。

 

何処のどいつがやったと、彼は辺りを見渡した。

 

すると、彼等か10m程離れた場所で、別の方向に手を振る、短く切りそろえた青みがかった黒髪の少年の姿を見付けた。

 

「テメェ、ガキがぁ!!カッコ付けてんじゃねぇぞ!!」

 

逃げれば良いのだろうが、バカにされたと解釈したのだろう、頭に血が昇った男達は彼女から離れ、少年へと殺到する。

 

口封じ、と言うよりは憂さ晴らしに近いのだろう、集団で掛かってタコ殴りにするという目的があったに違いない。

 

取り巻きの男が少年に掴みかかろうとした刹那、少年の姿がぶれる様に掻き消え、瞬く間にその男の背後に回り込み、次に迫っていた男の腹に蹴りを叩き込んでいた。

 

「うげぇぇぇ!?」

 

鳩尾に綺麗に叩き込まれたからか、男は呻きと共に胃液を吐きながらも吹っ飛び、少女の近くの壁に叩き付けられて動かなくなる。

 

「このガキィ!!」

 

仲間がやられた事に激昂したか、リーダー格の男がもう一人の取り巻きと共に殴り掛かる。

 

だが、少年はそれすらも受け流す様に躱し、男達の腹部を狙って素早い正拳突きと回し蹴りを叩き込んだ。

 

「うがぁぁぁ!?」

 

「げぇぇぇ!?」

 

少年の力とは思えぬ程強烈な力に、男達は悲鳴をあげながらも地面に転げまわった。

 

力が違い過ぎる。

明らかに手加減されていると気付いたからか、男達の顔が恐怖に彩られて行く。

 

少年が本気になれば、自分達などどうなったモノか分からないと言う、猛獣を目の前に隔たりなく見た時と似た感覚を抱いたに違いない。

 

「・・・。」

 

少年は機嫌が悪そうに、眉間に皺を寄せて男達にゆっくりと近付いて行く。

 

まるで、今終わらせてやると言わんばかりの、威圧感を伴った動きだった。

 

「ひッ・・・!す、すいませんでしたぁぁぁぁ!!」

 

本能的な恐怖に耐えられず、男達は顔面蒼白となって、動かなくなった男に肩を貸して一目散に逃げていった。

 

その間、わずか数十秒ほどの事であり、見ていた通行人たちも一体何が起こったのか、イマイチ理解し切れていない様子だった。

 

「ふぅ・・・、あ、大丈夫でしたか?」

 

その少年は、男達が去った事を認めると、張り巡らせていた強烈な存在感を霧散させ、年頃の少年の様な、年上の少女に向ける様な純粋な笑みだけがあった。

 

「う、うん・・・、あ、ありがと・・・。」

 

今の今まで、大の男3人を一瞬であしらった少年が、こうもにこやかに話しかけてくるのだ、どう返せばよいのか分からないと言うのが本音だったに違いない。

 

「よかったぁ、いやぁ、ホント。」

 

彼女の返答に、少年は屈託のない笑みを浮かべていた。

 

まるで、心の底から良かったと、本当にそう思っている様だった。

 

「あ、アンタは・・・?」

 

そんな少年に興味を惹かれたか、少女は何かを聞こうとして口を開こうとした。

 

「あ、あーーーっ!?し、しまったぁぁぁ!!」

 

だが、それは少年の絶叫と共にかき消される。

 

まるで、忘れていた何かを思い出した、そんな様子だった。

 

「姉ちゃんにセール品の買い込み頼まれてたの忘れてたぁぁ!!もう始まっちゃうぅぅ!!」

 

その少年は先程の小競り合いで地面に落したであろう買い物バッグを慌てて拾い上げ、本来の道に戻ろうと急いでいた。

 

「それじゃあ、お姉さんは気を付けて帰って下さいね!!」

 

「あ、ちょ、ちょっと・・・!?」

 

手を挙げて別れのあいさつ代わりとし、走り去って行く少年の背中に声を掛けようとしたが、少年が振り返る事は無かった。

 

一人、静寂の中に残された少女の手は、行く宛も無く彷徨っていた。

まるで嵐が過ぎ去ったかのような、そんな心地を抱きながら・・・。

 

「・・・、ちょっと、カッコいいじゃん・・・。」

 

誰にも聞こえない程小さく、彼女は呟いていた。

 

今は幻滅したが、嘗て憧れた相手の輝きがそこにあったからか、それとも別のモノかは、誰にも分からなかったが・・・。

 

だが、少女も、そして、走り去った少年もまだ知らなかった。

 

この日の出会いが、何時か二人を結ぶポイントとなるなど・・・。

 

sideout

 




次回予告

クリスマスに向けて予定を立てる八幡達の前には、常に厄介が待ち構えているのだろうか。
一人の少女の言葉に、彼等は何を想う?

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

比企谷八幡は呆れている

お楽しみに

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