やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
side沙希
「へいお待ち、ブラックラーメンだよ。」
修学旅行の一件の報告ついでに訪れたアストレイであたし達を待っていたのは、奇想天外な訪問者だった。
宇宙人4人組、聞けば名をブラック指令、ナックル星人ハルナ、バルキー星人リキ、イカルス星人イカルとの事だった。
聞くと先生の知り合いらしくて、何でも先生達の過去を教える為に呼ばれたみたいだ。
何で自分達の口から話さないのかって疑問はあるけど、興味はあるから今は気にしないでおこうかな。
それはさて置き、改めて思うんだけど、宇宙って広いんだなぁって感じるよ。
人間に近い姿の異星人もいれば、全く違う姿形をした者もいるんだからね。
まぁ、あたし達も先生達位長生きすれば、それだけの異文化交流は出来そうだけどね。
何千年とか何万年とか生きなきゃならないかもだけど・・・。
そんな事は頭の片隅に追いやって、出されたラーメンに手を付ける。
家でも外でもラーメンはあまり食べた事は無いし、作った事も少ないけど、一目見ただけで作り手の腕の良さを感じさせられる何かがそこにはあった。
やっぱり、長く生きているとこういうトコにも生き様って出るのかな・・・。
そんな事を考えながらも箸を使って麺を掴んで啜ると、黒いスープが絡んだ麺が口の中で踊った。
「こ、これはっ・・・!」
麺は程よい硬さに茹で上がっていてコシがあり、黒いスープは醤油ベースだろうがしっかりと濃い味が舌を喜ばせてくれる。
「旨いっ・・・!こんな旨いラーメン食べた事ない・・・!!」
あたしの隣で同じ様に麺を啜っていた八幡が感嘆の声をあげてるけど、あたしもその感想に相違は無かった。
美味しい、ラーメンでこれ以上に美味しいモノを食べた経験は無い。
これが、地球外のラーメンって奴なのか・・・。
この味が再現できる調味料、凄く欲しい・・・。
「喜んでいただけて何より、職人冥利に尽きますよ。」
「マスター、ミーにおかわり!」
「メンマ多めで頼むじゃな~イカ。」
ブラック指令が妙に嬉しそうに返してくるのに対して、リキさんとイカルさんがおかわりを催促していた。
食べるの早っ!?
ッて言うか、先生達も凄い勢いで食べてるし・・・!?
宇宙人って、皆こんなに食べるの・・・!?
「って、そんな事はどうでも良いのよ、あーた達、ワテクシ達と話するんでしょ?」
あぁ、そう言えばそう言う名目だったか・・・。
先生達、アストレイの過去を知る、最高のチャンスなんだ。
あたし達のこれからを左右する大事な瞬間、それに意識を傾けなければ・・・。
見れば、先生達は我関せずと言わんばかりに、話を聞くなら彼等からと言わんばかりに意識を別の方に向けていた。
何と言うか、自分達から話しても良いのに、そうしないのは客観的な事からの推測も学べと言われている様な気がした。
いや、それは考えすぎか、な・・・?
何せ、あの人達、見かけによらずに照れ屋だから、武勇伝を話してもらった事なんて、よくよく考えたら一度も無かったかな・・・。
「は、はい・・・、先生達の、大決戦以前の事を、俺達に教えてくれませんか?」
いきなり話題を振られた事に焦ったか、八幡が少し上擦った様な声で切り出した。
大決戦。
あたしはどんな戦いだったかを詳しくは聞いてないけど、この世界に怪獣や宇宙人が現れるようになった原因だとは知っている。
先生達がそれに参加していた事は大まかに察せられたし、そこで力を失った事からも、どれほど苛烈な戦だったかは想像を絶するモノだったに違いない。
そこに巻き込まれてたらと考えたら鳥肌が立つけど、今はそれを考えている場合じゃない。
何せ、そこに至るまでの先生達の道筋を知る事が出来れば、あたし達のこれからの身の振り方や、修行のやり方だって変わってくる筈だから。
「ん~・・・、ワテクシ達は別に構わないけど・・・、分かったわ、まずは初対面の時からにしましょうか?」
少し悩んだ後、ハルナさんはこれまでの事を思い出さんとしている様だった。
一体どんな話が飛び出してくるのか、あたし達は興味津々でそれを待った。
でも、飛び出してきた言葉は、あたし達の度肝を抜いて行った。
「初対面と言えば、ミー達が闇バイヤーやってた頃だな。」
「3000年前じゃな~イカ?」
「「「さ、3000年・・・!?」
3000年前って・・・!?
いや、この前驚かないとは言った気がするけど普通に驚くわ!!
叫びたくなる気持ちを抑える為に、八幡と彩加と一緒に深呼吸を繰り返して何とか自制心を取り戻す。
「・・・、それで、どんな初対面だったんです?」
なんとか落ち着いた時、あたしはその話の続きを聞くために切り出す。
年前時点の強さを、その根源を。
「メトロン星人っていう異星人が侵略とか私用で使ってる宇宙ケシの実とかマンダリン草を密輸してたのよ、あぁ、モチロン、非合法だけど。」
「吾輩達は4000年の付き合いなんじゃな~イカ?」
よ、4000年・・・。
分かっちゃいたけど、人間の100年の寿命なんてあっという間のモノなんだろうね・・・。
「で、とある星の集会所に俺達含めて20人ぐらいでミーティングしてた時なんだが、・・・、あぁダメだ・・・!思い出したくもねぇ・・・!!」
話の途中、リキさんが唐突に震えだした。
どうやら、その内容が相当なトラウマなんだろう事が察せられる。
「あれは恐ろしいわよ・・・、何せ、集会所の周りを、ティガが率いていた特務隊に囲まれたのよ・・・。」
「ウルトラマンが20人以上・・・、死んだと思ったぜ・・・。」
「に、20人・・・!?」
今この世界にいるウルトラマン以上の数に・・・!?
それ、あたしがヤラれても死ぬ覚悟するわ・・・!!
「あぁ、あの時か、まだ光の国で外縁部隊やってた頃だな、まぁ、言って見りゃモルモット隊ってとこさ。」
「本当に、相変わらずですな・・・。」
思い出したように語る先生の瞳には、懐かしさと憎しみが混在しているように見え、その根底を知っているだろうブラック指令が悲しげに呟いていた。
彼等が辿って来た道と、受けた仕打ちの根底を知っているのだろうか、本当に悲哀が伝わって来た。
「まぁ、何とか逮捕と密輸品の押収だけで済んで良かったわ、なんせ、その当時で既に処刑人の異名が知れ渡ってた頃だし・・・。」
「出会ったら死を覚悟せよ、と、裏世界の住人は恐れていたモノですよ、私も、ヤンチャしていた頃は彼等とは合わない様にしていたモノです。」
しょ、処刑人って・・・。
仮にもウルトラマンに付けられる異名じゃないよねそれ・・・。
と言うか、20人ものウルトラマンに囲まれても何とか生き残れてる事が驚きだよ・・・。
逃道完全に塞がれてるのに、爆殺されなかったんだろうか・・・?
まぁ、無条件降伏なら逃れられただろうけど・・・。
「もう土下寝したわよ、全員で五体投地よ、見っとも無く命乞いしたし、光の国近くの死星での労働もしたもの・・・、あんな怖い事はもう懲り懲りよ・・・。」
うわぁ・・・。
逮捕に次いで強制労働って、奴隷時代じゃあるまいし・・・。
「大変だったんですね・・・、というか、先生達の方が完全に悪人面してそうなやり口じゃないですか、それ・・・。」
その話を聞いて、八幡は何とも言えない表情を作りながらも尋ねていた。
まぁ、完全に特殊部隊なやり方だよね。
それも、かなり悪質な追いつめ方の・・・。
だから、余計に光の番人って言うよりは、地獄の番犬って言う方が合ってる気がするんだよ・・・。
「光の国の中でも、特に過酷な任務を帯びる事が多かった部隊だそうです、はねっ返り者が多かった様に受け取れますが、その辺はどうですか?」
思い出したように、ブラック指令が先生に対して問いかける。
彼も、先生達が率いていた部隊の事は知っていても、内情までは知らないと言う事だろう。
とは言え、何も知らないあたし達からしてみれば、何とも言えない心持ではあるんだけども・・・。
「あぁ、ウルトラマンの中でも不良って呼ばれるヤツラを集めて結成したのよ、問題児ばかりだったけど、アタシ等に比べりゃ可愛いモノだわさ。」
「玲奈が一番問題児だったような・・・。」
玲奈さんが思い出したように語った内容に、リーカさんが苦笑いを浮かべていた。
まぁ、玲奈さんの様な破天荒かつ真っ直ぐな人はそうはいないだろうけどね。
って言うか、ウルトラマンでも問題児ってのはいるもんだね・・・。
人格や性格があれば当然ちゃ当然だろうけど。
「そんな荒くれ者を集め、他のウルトラマン達が滅多に取らない多数による包囲戦を使ってくるんだもの、怖いったりゃありゃしないわ・・・。」
「ミー達も何度やられそうになったか・・・、いや、密売とかやめりゃ良かったんだろうがさ・・・。」
か、かなり訓練されてらっしゃるのね・・・。
いや、そう言えば遥か昔に軍人だったと小耳にはさんだ事があるし、その延長線上で戦闘と言うモノを熟知している結果だろうね。
まぁ、絶対的な信頼と練度が無けりゃ意味為さない戦法なんだろうけどさ・・・。
「光の国に属していた期間は500年程と極短い間と聞いていましたが、その間で並のウルトラマンでは成し遂げられない程多大な戦果を挙げていましたよ、特に、ティガの邪神討滅戦は今や裏世界でも語り草、伝説ですよ。」
じゃ、邪神って・・・、響きからして相当ヤバい手の相手じゃないか・・・?
そんなんに勝つなんて、やっぱりすごいんだ、先生って・・・。
というか、500年ってかなり長・・・、くないのかな・・・?
いや、何千年、何万年単位で生きてそうだし、あたし達感覚だと、ホントに数年、下手したら一年かそこらの程度なんだろうな・・・。
それよりも、だ・・・。
生ける伝説が師匠だなんて、あたし達は恵まれているんだろうか・・・。
まぁ、良くも悪くも導いてくれてるんだから、素直に恵まれてるって思おう。
そうじゃなきゃ、これまでやって来たことを嘘にしてしまいそうだったから。
八幡と出会えて、彩加と出会えて、今までに知らなかった温かさを与えてくれた人達との絆を、不幸とは思いたくなかったから。
「そういや、邪神討滅戦から暫く後に一度お会いしましたが、それまでの間に何が有ったんですかい?」
そう思っていた時だった、ブラック指令が何かを思い出したように先生に尋ねていた。
聞けば、空白の期間があったらしい。
まぁ、この人達レベルならちょっとした行動も噂になるだろうし、それを気にしていたのかもしれない。
だけど、そうする意味が見当たらないのも事実だけど。
「ミー達も気になってたんだよなぁ、同じ時期に光の国でベリービッグな事件があったって・・・。」
リキさんが口を開きかけたその時だった、突如として巨大な圧の唸りが店内を震わせた。
その圧は、喋らせてなるモノかと言わんばかりの、黙っていろと言う無言の声だった。
あまりの圧に、あたし達も動けなくなり、呼吸さえままならなくなってくるほどだった。
「おしゃべりが過ぎるぞ、バルキー星人リキ、誰がそれを話して良いと言った。」
「で、でもよティガ・・・!」
相当キている事があたし達からも分かる程、先生の目はこれまでに見た事の無いほどに険しかった。
その険しさたるや、何時ぞや奉仕部とやり合った時以上のものだった。
何時でも物理的に口を封じてやる、雰囲気がそう物語っていた。
見れば、セシリアさんとコートニーさんは先生と同じ様な目を、シャルロットさんや宗吾さん、玲奈さんとリーカさんは、怒りと悲しみが混在する様な表情を見せていた。
それは多分、リキさんが触れようとした事が、彼等にとっては屈辱以外のなにものでも無く、今も悔恨として残っている証に他ならないと察するには十分すぎる程だった。
「なるほど・・・、相分かりました、これ以上の追及は野暮、ってなもんですな。」
「理解が早くて助かる、一夏、その辺にしておけ。」
あたし以上に察したブラック指令が、何処か物悲しそうに諦め、宗吾さんは少しだけ表情を戻して礼を言って、先生を宥めていた。
それを受けて、先生は此処で漸く覇気を収めてラーメンに向き直った。
そこで漸く、あたし達もプレッシャーから解放されて、荒い呼吸を整える作業が出来る様になった。
怖いなんてもんじゃない、死ぬかと思ったよ・・・。
「・・・、まぁ、暫く見ない間に、光の国から離反して、話を聞けばあんな感じよ、そこから2000年、ワテクシ達はメイツ星人ムエルトとかとつるんで、時々ティガ達と会ってた訳。」
その空白に何かあったかは濁して、ハルナさんがタメ息を吐きながらも話を続けた。
なるほど、腐れ縁、もとい、悪友って言うべき関係だったって事か・・・。
今は亡きムエルトさんも、その事を知っていたんだろうね・・・。
でも、それだけならどうしてそんなに思い詰めてるんだろ・・・?
「それまで付き合いを持った宇宙人を、光の国と喧嘩してでも護る御人好しだったんだけど、何時しか行き過ぎてる様になったのは確かね、時に、ウルトラマンと同士討ちして、地球人を討ってでも、仲間を護る程には、ね・・・。」
「ッ・・・!」
その言葉に、あたし達は何も言えないぐらいの衝撃を受けた。
その姿勢は、今のあたし達に近い様に思えたから。
師匠と同じ道を辿っている事は、弟子の身分としては喜ぶべき事なんだろうけど、あたしはそれ以上に怖く感じてしまった。
仲間を護るために、どんな相手とでも戦うと言う事は、何時しか周り全てが敵だけになる可能性だってあるというコト・・・。
ムエルトさんが、先生達の様になるなと言ったのは、その先に待つ破滅に行くなと言う事なんだろうか・・・。
「だからね、ウルトラマンと地球人が嫌いだった彼等が、そのどちらにも当て嵌まるアナタ達を弟子にしたのはおったまげだったワケ、ま、ワテクシ達が話せる事はこれで御終い、ささ、ラーメンでも食べましょ。」
そんなあたし達を置き去りに、ハルナさん達は視線をラーメンに戻して、そこから一切喋らなくなった。
知りたい事は大まかに知る事が出来た。
だけど、それは、あたし達が望んでいたモノとは、些か違っていた様だった。
だから、あたし達は何も言う事が出来ず、何もする事が出来ず、すっかり冷めて伸びてしまったラーメンをただ茫然と見る事しか出来なかった。
知らなくていい真実も、時にはあるのだと感じながら・・・。
sideout
次回予告
クリスマスが近づき、街も賑やかになってきた中で、再び陰謀は動こうとしていた。
真実に触れかけた彼等が選ぶ行動とは・・・。
次回、やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている
戸塚彩加は立ち止まれない
お楽しみに