やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
side八幡
怒涛の修学旅行が終わり、京都から地元千葉に戻って来た俺達は、喫茶店営業中のアストレイに向かうべく、慣れ親しんだ道を歩いていた。
今日は修学旅行明けの代休で、昼間っから遊びに行けるのはありがたい限りだ。
てな訳で、俺と沙希と彩加が今一緒に来ている所だった。
俺達がいない間、千葉を護る仕事を肩代わりしてもらった形となっているので、俺達はそれぞれお土産を見繕っておいた。
俺が八つ橋等の食べ物メインで、沙希は油取り紙などの軽い美容品をメインに、彩加は何のつもりか、お茶や漬物を用意していた。
あのアストレイメンバーの好みが何処に在るのかは一切わからないけど、お酒と甘いモノが基本的に好きだとは知っていたから、そんなに困らなかったか・・・?
因みに、大和と相模は、元気な事にデートしに行くらしい。
なので、彼等二人からのお土産は俺達が預かって持って行っている事になる。
まぁ、それはさて置き・・・。
「なるほど、戸部が新しいウルトラマンか・・・。」
「そうなんだ、どうする?」
その道すがらで、俺は沙希から戸部翔という、葉山グループのチャラ男がウルトラマンに覚醒した事を聞いていた。
海老名を護りたい、救いたいという想いに、宗吾さんが力を託した形らしい。
とは言え、向こうの思惑や立ち位置がハッキリしない内は、こちらから同行するつもりはない。
まぁ、一緒に訓練するぐらいならしても良いかもしれんが・・・。
「どうするも何も、宗吾さんが考え無しに動くとも思えないし、その辺りは任せていいんじゃないか?彩加も、力貸そうとしてたんだし。」
「うん、戸部君なら大丈夫だと思ったから。」
だが、そんな小さい懸念なんて、大きな信頼の前には霞んで消える。
宗吾さんが認め、彩加が信じたなら、それ以上何も言うまい。
戸部にも、ウルトラマンとなって為したい事があった。
なら、戦う理由なんてそれで良いじゃないか。
「後は、アストレイの皆さんに決めて貰おうぜ、俺は仲間が増えるならそれで良いし、敵なら倒すだけさ。」
だから、俺がやる事は単純。
味方なら協力し合う、敵なら戦う、実にシンプルだ。
これまでそうしてきた、だから、それで良い。
そんな事を考えている内に、見慣れたアストレイの店が見えてくる。
此処に来ると、帰って来たって気がする辺り、妙なもんだな。
くだらない事を考えつつ、俺は一番に店の戸に手を掛け、ゆっくりと押して開けた。
「いらっしゃい、待っていたよ。」
店に入った俺達を出迎えたのは、意外や意外で、テーブルで紅茶を飲んでいた先生だった。
そう言えば、引率に行ってた教師も今日は休みだったっけ。
先生の恰好は何時ものスーツでは無く、夏休み中の特訓やプライベートで着用していた様なラフなジャケットとジーパン姿だった。
これで様になっているのは、この人の貫録と言うモノなんだろうか・・・。
「どうもッス、今日は皆さんにお土産持ってきました。」
「律儀な事だ、俺から幾つか差し入れている、気にしなくても良かったのに。」
そんな野暮ったい考えを他所に、俺は皆から預かった土産をテーブルに並べていく。
一人頭の量はそこまで多くは無いが、それでも人数がそれなりに多いんだ、必然的に量は増えていた。
「俺達の気持ち、ですよ。」
「そうかい、なら、セシリア達も喜ぶ、掛けたまえ。」
俺の言葉に微笑みつつ、先生は椅子を指して座る様に勧めてくる。
それに従い、俺達は別のテーブルに御土産他荷物を置き、先生と向かい合う形で座る。
「あら、いらっしゃいませ、来ておられたのなら御声掛けくださればよろしかったのに。」
その時だった、店の奥からセシリアさんが姿を現した。
何時もはどうやって整えているか分からないカールをやめ、背中で纏め上げている姿に、何処か新鮮さすら覚えてしまうのは無理も無い。
師匠とは言え、見た目は絶世の美女なんだ、沙希と言う最高の彼女がいるとは言え、免疫の少ない俺では少し見惚れてしまうのは仕方ないね。
「すまん、忘れてた。」
「酷いね・・・、まぁ、良いけど・・・。」
先生の悪びれない言葉に、後から出て来たシャルロットさんが呆れた様に言う。
というか、全然気配を感じなかったんですが・・・、気配を消す修行でもしてるんですかね・・・。
「御無沙汰してます、あ、これ皆からの土産です。」
「まぁ、ありがとうございます、遠慮なくいただきますわね。」
俺の言葉に、セシリアさんはパッと華やぐ笑みを浮かべながらも、せっせかと土産を抱えて店の奥へと一旦引っ込んで行った。
「おっ、来たな。」
セシリアさんと入れ替わりに、宗吾さん達が姿を現す。
すげぇ、久々のアストレイ全員集合だ・・・。
ここで戦いでも始まったら、地球壊れそうだな。
「彼を連れては来なかったか、まぁ、それでも良いけど。」
「その事だ、説明してもらおうか、何故関係の無い者を巻き込んだ?」
どうやら、宗吾さんは京都から戻ったばかりらしい、先生の目付きが鋭くなる。
彼の事、というのは恐らくウルトラマンになった戸部の事だろう。
「あの時、本来なら俺が出るべきじゃ無かったからな、それに、何かを助けたいって想いに、ゼノンが答えたんだ、運命だろ?」
どうやら、戸部のウルトラマンへの覚醒は、運命的なモノは有れど、アストレイの総意では無く宗吾さんの独断だったらしい。
俺達はこれまで、大志と言う例外を除いては偶然にウルトラマンの力を手に入れた様なものだ。
だが、戸部は違う、ウルトラマンに成れる素質はあったとしても、意図的に渡されたようなモノ・・・。
それは、ウルトラマンに成らされた、とも取れることだった。
「運命、か・・・、俺が一番嫌いな言葉だ。」
「相変わらず、だな・・・、爺さんとこにいた時に、それで何度もめた事か・・・。」
運命と言う言葉に、先生の表情があからさまに変わった。
運命と言う、定められた物事が嫌いなのだろうか、それとも、別の何かか・・・。
多分、アストレイの皆さんがこれまで辿って来た道が、そう思わせる圧を感じさせられた。
と言うか、前から気になってたけど、先生達の話に出てくる爺さんって一体誰なんですかね・・・。
まさかとは思うけど、先生の師匠なんだろうか・・・。
「ハァ・・・、まぁ良い・・・、客人を待たせるのも失礼だ、早くお通ししろ。」
宗吾さんのやった事を認めたのか、先生は一つタメ息を吐いてそっぽを向いていた。
何処となく子供っぽい仕草がおかしくて、俺達は状況を忘れてクスリと笑ってしまった。
っていうか、客って一体・・・?
俺達に合わせたいって事は、先生達の古馴染みって事か・・・?
思い当たるのがその辺りしかなく、一体どんな人が来るのかと首を傾げる俺達の前に、3人の男性と、一人のオネェが店の奥から姿を現す。
「あの・・・、ラーメン作れと言われて来たら、なんでこんな目に・・・。」
その内の一人、強面スキンヘッドの男性が何処かやれやれと言った風に尋ねていた。
その様子からは、自分から訪ねてきたと言うよりは拉致られたって感じが察せられた。
「そうよそうよ!!折角マスターのラーメン食べてたと思ったら、こんな都会まで連れて来られるなんて思ってもみなかったのよ!?」
男性の言葉に追従し、バブリースタイルなオネェが怒りの声をあげてていた。
尤も、本気で怒っていると言うよりは、勘弁してくれと言わんばかりの様子だった。
「すまんな、どうしても俺達の弟子に教えておきたかったんだ、古馴染みをね?」
「ユーに拉致られた時はもうダメかと思ったぜ・・・。」
「勘弁してほしいじゃなイカ・・・。」
悪びれた様子の無い宗吾さんに、英語交じりで話す男性と、独特な喋り方をする男性が嘆く様子を見せていた。
拉致られたって事は、運悪く宗吾さんの帰り道に居たって事か・・・、南無・・・。
心の中で合掌する俺の前で、強面の男性以外の三人の姿が突如として変わった。
「う、宇宙人・・・!?」
唐突な変身に、俺達は無意識に臨戦態勢に入り、それぞれの変身アイテムを取り出す。
『ちょ・・・!ちょっと待って・・・!?ワテクシ達は敵じゃないわよ!?』
その行動に驚いたか、オネェ言葉の男が変身した白っぽい体毛を持った宇宙人が狼狽えていた。
敵意が無い事を伝える為に、ソイツは膝を着いて手を振る。
「彼等は古い知り合いだ、敵だったり味方だったり、よく分からない関係だがな。」
そんな彼の言葉を裏付けるように、コートニーさんが俺の手に手を添え、ゆっくりと降ろさせる。
コートニーさんの言葉を信じるなら、この宇宙人たちは敵では無く、善良なヒト達と言うコトか・・・?
と言うか、昔は敵だった事もあるんですね・・・。
どうしたらそんなに和んだような雰囲気だせるんですか・・・。
いや、もう深く考えないようにしとこう・・・。
「コイツ等、昔の俺ぐらい喧嘩っ早いからなぁ、まぁ座れよ。」
「「「(いや、貴方の影響だから。)」」」
そんな俺達の声なきツッコミを無視して、展開は流れていく。
宇宙人の姿に変身しなかった男性を除いた三人が俺達と相席してくる。
既に宇宙人の姿から人間の姿に戻っているので、見てくれの抵抗は少ないか・・・?
「あの・・・?そちらの方は・・・?」
だが、これだけ濃い彼等に埋もれないどころか、一際異彩を放つ男性に俺は注意を惹かれていた。
何せ、人間の姿なのに、何処か達した様な、何かを感じたから・・・。
「・・・、彼が、ギンガですかい・・・?」
その男性は、俺を真っ直ぐ見据えながらも先生達に尋ねていた。
何故、俺の事を知っているんだ・・・?
「あぁ、俺の弟子だ。」
彼の言葉に頷き、先生は俺を見ながらも微笑んでいた。
それはまるで、昔の仲間に身内を自慢するかのように、ただ純粋にそんな感情だけが現れていた。
「それ、ジョークじゃ無かったのかよ・・・!?」
「ホントだったとは、驚きじゃな~イカ!?」
黒い宇宙人になっていた男性と、ネズミっぽい見た目の宇宙人だったヒトが、先生の言葉に驚いていた。
俺達を弟子にとったと言う事が驚きなんだろうが、何故そこまで驚くのかが理解出来なかった。
俺達とアストレイのこれまでの付き合いを振り返っても、普通の師弟関係は築けていたと思うし、先生達は俺達を弟妹、息子娘の様に思ってくれていた事はずっと感じていた。
だと言うのに、一体何をそこまで驚くのか・・・。
「京都で聞かされた時も驚きましたが、実際目の当たりにすると、何と言えば良いのか・・・。」
「ホントにねぇ・・・、ワテクシも驚きましてよ?」
俺達以上に困惑しているのが、先生達の古馴染みだと言う4人だった。
その様子に、先生達は苦笑するだけだったから、俺達三人は一体どうした物かと固まる事しか出来なかった。
「今日は、その事について説明したい、美味いラーメンでも食いながらね?」
先生の言葉に、スキンヘッドの男性はなるほどと苦笑しながらも肩を落とし、アストレイの皆さんはガッツポーズをしているなど、何処かカオスな様子を呈していた。
い、一体、これから何が始まるんだ・・・?
「君達に教えておきたい、これから先の選択のために、俺達アストレイの過去を、彼等からね・・・?」
「「「ッ・・・!!」」」
先生の言葉に、俺達は雷に打たれたような衝撃を受けた。
これまで、俺達が敢えて触れようとしなかった事。
それは、アストレイの過去の出来事・・・。
それを知れば、俺達のこれからが変ってしまう様な気がしていたのか、無意識にその話題を避けていたのかもしれない。
それを間近で、ある時は敵で、ある時は味方として見て来た彼等なら、先生の全盛期も知っている筈だ。
だとすれば、俺はそれを知らなくちゃならない。
超えるべき壁、織斑一夏、ウルトラマンティガの力がどれほどのモノか、今ここでその片鱗を掴んでおきたい。
俺が沙希と彩加に目配せすると、二人とも同じ想いだと言わんばかりに頷いてくれた。
何れ、別かれる事となる時に、俺が如何すべきか、俺達が如何するべきか、それを決断する材料にもなる筈だから。
だから、此処で師の事を、そのバックボーンを掴んでおくのも、俺達弟子の役目だと悟ったから・・・。
sideout
次回予告
アストレイの過去を知る者達との邂逅に、八幡達は自身の下に来た力の意味を問う。
それは、これから先の未来を選ぶためのカギとなる事となる・・・。
次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている
比企谷八幡は踏み出した 後編
お楽しみに