IS-イカの・スメル-   作:織田竹和

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幸子と蘭子を足して男にすると本作主人公の五反田弾になるのではという説が浮上してくる。




ブザー音が響いた、その直後だった。

 

『──ッ!? 八神! 織斑! 退避しろッ!』

 

千冬の鋭く逼迫した怒声が優と一夏の鼓膜に叩き付けられる。

 

「えっ、あ、はい!」

 

戸惑いながらも、威勢よく返事を返す優。しかしその命令が遂行されることは無かった。

 

「……? この音は────」

 

移動しようとした優が小さく呟く。かすかにではあるが、どこからか、まるで飛行機のような大気を切り裂く飛空音が聞こえる。些細な音ですら拾い上げるISの性能に一瞬驚く優だったが、それはさらに大きな驚愕へと進化する。

 

「ッ! 来る!」

 

一夏が上空を見上げ、短く叫んだ次の瞬間、硝子が砕け散るような甲高い破壊が会場を揺らす。会場を覆っていたシールドが破られたのだ。そしてそのシールドに大穴を開けた張本人は、ドゴッと低く大きな音を立て、土煙を巻き上げながら地面に突き刺さった。

 

「な、なにが……」

 

呆然といった様子の優。真紅の目を大きく見開いている。一夏もまた土煙の向こう側から視線を背けることができずにいた。

 

『何をしている! 退避しろ! 聞こえないのか!』

 

再度、切羽詰まったか様子の千冬の叫びが二人の耳元で炸裂した。何が何だか分からないまま、優が後方へ滑るように移動した、その時だった。

 

 

 

土煙の向こう側が、僅かに煌めいた。

 

 

 

「ユウ!」

 

一夏が動きだすよりも早く、轟音が大地を駆け抜ける。それは光と衝撃を振りまきながら、一直線に進んでいく。

 

驚愕に目を見開いている八神優へと。

 

「やばっ! 八咫鏡(ヤタカガミ)!」

 

左手を目の前にかざす。叫ぶや否や、優の手の先に、大きな円盤型の輝く幾何学模様が出現する。まるで優を守護するかのように現れたそれを食い破らんと、光の束がうねりと爆発的な速度、衝撃を以って激突する。

 

「うっ……くっ……!」

 

真正面から受け止めた優が衝撃に押されじりじりと後方に追いやられる。

 

「この程度……! あ、そういえば」

 

優はその円盤を光の束に対して傾けた。するとまるで光が鏡に反射されるかのように、その傾けた方向に向かって光線が逸れていく。

 

「そうそう、こうやって使うんだった」

 

優の斜め後ろで爆音が響く。目の前の難が去り、ほっと一息つく優。しかしまだ終わらない。光線が効いていないことに気付いた()は、ゆっくりと一歩ずつ歩を進め、その姿を現した。

 

「あれは……IS?」

 

全身を漆黒の装甲で覆い、頭部には赤い目のような物が一つ。両腕に銃口が付いており、背丈は3m程だろうか。随分と大きい。その巨体とゆっくりとした歩調からは人間味が感じられず、どこか無機質だ。

 

一夏と優はそれぞれ目の前のISの正体を掴もうとするが……

 

「UNKNOWN……?」

 

一夏の呆然とした呟きが全てを物語っていた。

 

情報0。

本来ISは全てのコアが制御下にあり、このように登録の無いコアという存在は有り得ない。

 

『二人とも聞け。何者かに学園のシステムが乗っ取られた』

 

淡々としながらも、芯の通った声で告げる千冬。そんな千冬の様子に、なにかぞっとするものを感じつつも、一夏と優は続きを促すように無言で耳を傾けた。

 

『今アリーナへの道は塞がれている。復旧の指揮を私がとることになった。しかし救援を派遣するまで時間がかかりそうだ。それまで持ちこたえてくれ』

 

小さく、「すまない」と続ける千冬。

 

そんな姉の言葉に、どう返したものかと一瞬考えた一夏。しかし現実として、目の前に危機が迫っている。

 

一夏は思考を切り替え、ユウを守るべく、競技場を回り込むようにして移動した。

 

「■■■──!」

 

錆びついた金属が軋むような不快音を上げ、黒い巨人が一夏を捉える。そして先程よりも遥かに威力の低い光線を銃弾のように小出しに撃ち出した。

 

「チィッ!」

 

丁度一夏の進路を妨げるように着弾したそれに、一夏も敵の意図を察し、苦々しく舌打ちした。どうやら敵は自分を今殺すつもりはないらしい。

 

何とか突破できないかと隙を伺っている間にも、敵はゆっくりと優のいる方向へ進み始めている。対する優は先程から退避を試みているものの、一夏同様、黒い巨人の砲撃に晒され、応戦を余儀なくされていた。いや、むしろ優に対する攻撃は一夏のそれなど及ばない程に苛烈だった。

 

「ちょっ、うわっ!?」

 

さらに優の駆るアマテラスは装甲が極端に薄く、一撃一撃が致命傷になりかねない。故に下手に逃走や迎撃に走れず、回避による現状維持を強いられていた。

 

「ユウっ!」

 

今はまだ大丈夫だろう。しかしこの膠着状態を何とかしなければ勝機が無い。歯痒さを感じる一夏。しかし一方で、もしかして、これは自分が招いたものではないのか。そんな懸念が一瞬よぎる。今彼女が危険な目に合っているのは自分のせいではないのかと。

 

 

 

『でもさ、もしそれで一夏くんが襲われて怪我でもしたら……ううん、最悪死んじゃったりしたら本末転倒だよ?』

 

 

 

昼の会話が一夏の脳裏で再生される。

彼女の問いに、自分は何と返しただろうか。

 

一夏の思考を打ち切るように、巨人の銃口が再び優に向けられる。銃口に強い光が収束していく。先程とは比べ物にならない輝きに、

 

「クソッ! 間に合え!」

 

形振り構わず、瞬時加速を発動する。目にも止まらぬスピードで巨人へと疾駆する一夏。巨人の目が機械音と共に一夏を捉える。しかし大技の隙をつく形で飛び出した一夏に、一瞬ではあるが対処が遅れたようだった。優に向けている反対側の腕を一夏に向け、あからさまに威力の低い砲撃を何発か撃ち出す。しかし──

 

「そんな攻撃で当たるかよ!」

 

前方から迫りくる光の銃弾を、躱し、斬り捨て、難なく突破していく。急激な加速と無茶な動作。身体が軋むような悲鳴を上げるのを感じながら、歯を食いしばり、強引に推し込める。

 

「まだまだァッ!」

 

再度、瞬時加速を使用し爆発的に加速する一夏。瞬間、間合いへの肉薄。ぐっと柄を握る手に力が篭る。斬撃を警戒し、巨人は半身を逸らし、回避行動を取った。が──

 

「うおおおおおッ!!!!!」

 

──3度目の瞬時加速。一夏の軌道が急速に折れ曲がり、巨人へと吸い込まれていく。

 

勢いそのままに巨体へと体当たりをする一夏。激突による衝撃と破砕音が轟く。吹き飛ばされまいと踏みとどまる巨人の足元で地面が陥没し、ひび割れていた。

 

「はあッ!」

 

一夏はさらに、文字通り密着した状態から、体制を変え、巨人の胴体を蹴りつけると同時に、逆袈裟に太刀を振るう。

 

「■■──!」

 

繰り出される高速の斬撃。刃と鎧が悲鳴を上げる。強引に振り抜き、蹴った勢いを利用して瞬時に離脱。

 

「はあっ、はあっ……!」

 

荒れる呼吸を整える。見ると、巨人はゆっくりと後ろに倒れていく。

 

「よし、隙あり!」

 

バランスを崩す巨人に向け、優が高速で飛翔する。装甲が極端に薄い分、アマテラスの加速は白式のそれと比して尚迅い。

 

空を駆けながら、その手に長剣を出現させる。形状は刀の様だが、どこかメカメカしい。

 

「もらった……!」

 

あと少しで間合いというところで、長刀を振りかざす。その刹那──

 

「へ?」

 

──巨人の単眼が、優を捉えた。

 

ぐるんという機動音と共に、バランスを崩した状態で首だけをこちらに回した巨人に、一瞬虚をつかれる優。そして流れるような動作で、右腕を優に向けて翳した。

 

「何その動き気持ち悪い!」

 

倒れながら首と腕だけを一切の淀みもなく動かす。人間離れした動作。優の悲鳴も尤もであった。しかしそうも言っていられない。

 

巨人の右腕に装備された銃口。そこには先程から貯め続けた高密度のエネルギーがひしめき合っている。

 

「あ、やば」

 

優がとっさに空いている手を構えると同時に、カッと閃光が迸る。瞬息の後、万雷が如き咆哮を上げる熱線が優の視界を埋め尽くした。

 

 

 

 

「ユウ……?」

 

荒れ狂う光の奔流が収まっていく。周辺の大地は焼け焦げ、抉れ、破壊の痕跡としてこびりついている。

 

しかしそこに、

 

「そ、んな……」

 

彼女の姿は無かった。

 

ハイパーセンサーによって一夏は全方位全角度の景色を視認することができる。しかしそれでも見当たらない。忽然と、跡形もなく消えてしまったのだ。

 

「まさか……死ん……っ」

 

ぐっと言葉を飲み込む。それを口にしてしまえば、目の前の現実を認めてしまうことになる。しかしそれでも、優が敵の攻撃によって消えてしまった事実は変わらない。血の気が引いた真っ青な顔と、焦点の合わない瞳。そんな状態の一夏に、もはや戦意は残されていなかった。手から愛刀が滑り落ちる。がしゃん、と重たい音を立てた。

 

「俺は……守れなかったのか……」

 

呆然自失とする一夏の視界の端で、解放回線の通知が躍った。

 

『一夏! しっかりしろ!』

 

聞き慣れた親友の声。鼓膜を殴打する激励の言葉に、思わず耳に手を当てる。しかし手で耳を塞いだところで、ISが受信し続ける限り弾の声は響く。

 

『ユウなら多分生きてる! アイツがそう簡単に死ぬわけないだろ!』

 

「けど、どこにも反応が……」

 

『ISには絶対防御がある! 何よりあの能力をお前も見たことあるだろ! それより救援がそっちに向かっている! まだ完全復旧とまではいかないが、お前らの戦闘で空いた穴があるからな。そこから突入する手はずになっている。だから一夏、何としても持ちこたえろ!』

 

「……わかった」

 

恐慌状態に陥りかけた頭を振って、気を引き締める。そうだ。まだ戦いは終わっていない。

 

「ん? そういえばなんで今攻撃されなかったんだ?」

 

今の一夏は無防備極まりない。しかもその状態で会話までしていたのだ。隙以外の何物でもない。

 

一体どうなっているのかと、物言わぬ巨人を見る。

 

先程まで一夏は気付かなかったが、一夏の放った斬撃は巨人の左肩を大きく切り裂いており、傷口からはパチパチと小さな火花が上がっている。そこから伸びる左腕はだらりと力なく垂れていた。

 

「……って、なんだ、あれ」

 

傷口の中に見えるのは断線したコードや金属。どこにも人肌が見当たらない。さらにあそこまで装甲が損傷するのも本来ならば有り得ない。何故ならISには搭乗者の身体を保護するためのシールドが存在するからだ。

 

しかし前提が違うのだとするとこの結果も頷ける。

 

「そりゃ、そもそも守るべき人体が無けりゃこうなるか」

 

即ち、無人機。

 

それならばと、手加減する必要はないとばかりに、一夏は愛刀を拾い上げた。

 

巨人は未だに動きを止めている。しかし気のせいか、どこか困惑の色が感じられた。まるで一夏同様、優を見失っているかのようだ。

 

絶好のチャンス。刀を構え、脚部に力を込める。今まさに、巨人に向けて加速しようという、その時だった。

 

 

ピピッ!

 

 

短い電信音と共に、優の存在が知覚される。それも──

 

「よし、今度こそ隙ありぃ!」

 

「なっ!?」

 

──巨人の真上。

 

思わず目を疑う。いつの間にか優は巨人の真上を陣取り、手には長剣を構えていた。

 

気付いた巨人が瞬時に残った銃口を上に向けるが、もう遅い。すでに剣は振り下ろされていた。

 

「■■■■──!」

 

ザクッという音が聞こえてきそうなほど長剣が深々と食い込む。一夏が作った傷口に向けて振り下ろしたのだから当然である。パチパチという火花が飛び散るが巨人も優も気に留める様子は無い。

 

銃口に光が収束していく。しかし優は離脱しようとはしない。

 

「ユウ! 早く逃げろ!」

 

至近距離で攻撃を受ければひとたまりもない。一夏の叫びに、優は静かにほほ笑んだ。

 

「大丈夫だよ。多分」

 

優の剣が紅く煌めく。次の瞬間、

 

 

 

「……『皇焔』」

 

 

 

轟────!

 

空気を飲み込み、蛇の様にうねり、強大で強烈な光と熱を以って目の前の景色を塗りつぶしていく。

 

「炎……?」

 

一夏の小さな呟きすらもかき消す勢いで燃え盛る炎。優の持つ長剣から放たれたそれは、巨人の中も外も悉くを燃やし尽くさんとばかりに激しく蠢いている。

 

 

 

────第三世代型IS「アマテラス」

 

第三世代型兵器2種を搭載し、スピードと近距離攻撃力と耐熱性に極端に特化した機体。

非常に分かりやすい性能のこの機体は、こと物理防御能力値以外における話であれば、間違いなく第三世代最強のカタログスペックを誇る。

 

アマテラスの間合いに入った時点で、黒い巨人には既に逆転の目は皆無だった。

 

 

 

 

十分だと判断したのか、優は剣を引き抜き、空中を滑るように巨人だった物から距離を取った。

 

未だ燃え続ける巨人の骸。装甲が変形し、熱で回路が焼き切られたそれは、もはや原型を留めていなかった。

 

改めて優を見る。エネルギーは大分消耗しているようだが、目立った損傷はない。自然と溢れ出てくる言葉に身を任せるように、一夏はゆっくりと口を開いた。

 

「……ユウ、やりすぎじゃね?」

 

「大丈夫大丈夫! 対人戦ではここまでやらないから!」

 

引きつった表情の一夏に、朗らかに笑う優。差異はあれど、互いに緊張が弛緩していくのを自覚していた。戦いは終わったのだと、そう思っていた。

 

「いやでも威力高すぎだって。俺あれ食らったら多分死ぬって」

 

「大丈夫大丈夫! ほら、本当なら絶対防御あるし!」

 

「いや無理だって。いくらなんでも無理だって」

 

「大丈夫大丈夫! ISって宇宙開発のために作ったんでしょ? 宇宙に行ったら太陽にぶつかることだってあるよ! ぶつかりまくりだよ! かの天才しののの博士がこんなことを想定してないはずないよ!」

 

「いや想定外だって」

 

呑気に会話を続ける二人。もはや非日常は去った。我々は日常を取り戻したのだ。

 

 

 

 

などと油断していたからだろうか。

 

「■■──!」

 

二人はその瞬間まで気付かなかった。

 

「ッ!」

 

「え、うそ」

 

もはや悲鳴に近い機械音。ばっと二人が振り返る。未だ闘志の宿る赤い一つの目。向けられた銃口には強い光が収束している。

 

「一夏くん後ろに隠れて!」

「優! 俺の後ろに!」

 

二人同時に同じ行動を取る。普段ならただのお間抜けで済むが、こと戦闘時においては致命的な隙となる。

 

「しまっ──!」

 

それはどちらの呟きだったか。既に迎撃は間に合わない。今にも必殺の光線が撃ち出されんという、その時だった。

 

「目標確認」

 

気品の漂う声。視界の端で、風を受けて揺らぐブロンドが光る。侵入者の存在に、錆びついた鉄屑が擦れ合う音を立てながら巨人の首がぎこちなく動く。

 

しかし、既に遅い。

 

「──狙撃します」

 

瞬間、一条の青い光線が走る。音をも置き去りにするそれは巨人の胸を貫き、射線上にあった巨人の右腕を吹き飛ばした。

 

「■■──■──……」

 

ズシン、と音を響かせ、巨人の身体が膝から崩れ落ちる。単眼は光を失い、やがてゆくりとフィールドに倒れ伏した。

 

 

しばしの沈黙。

 

 

やがて張り詰めていた空気が静かに霧散していくのを感じ、優が口を開いた。

 

「なんていうか、すごかったね。アレ」

 

安心しきったようにため息をつく。そんな優に釣られるように一夏も武器を収納した。

 

「ああ。セシリアが助けてくれなかったらどうなっていたことか」

 

「ほんとほんと。アマテラスの盾はさっき至近距離でビーム受けた時に駄目になっちゃったからさ、正直打つ手なしって感じだったんだよね」

 

そう言って、先程の戦闘で穴の開いたシールド付近に佇む青い機体に視線を向けた。

 

一夏との模擬戦を終えたセシリアは、ブルーティアーズの消耗を回復するため、ピットに機体を置いたままだった。エネルギーをチャージし直し、軽いメンテナンスが終わるのを待っていた彼女だったが、幸運にもアリーナの外ではなく内部で待機していたため、こうして間一髪救援が間に合ったのだった。

 

「本当に間に合ってよかったですわ。というかアナタ方はもう少し連携という物をですね……」

 

回線越しにくどくどと説教を垂れるセシリア。確かにセシリアが駆けつける直前のミスは、二人の息が悪い意味でぴったりであったため発生したものだ。それを自覚しているからか、一夏も優も大人しく耳を傾けていた。

 

「ですからあの場では両者が反対の方向に『ビーッ! ビーッ!』──もう、なんですの!?」

 

セシリアの説教を遮るようにして、それぞれのISが警告を発する。

 

「ッ! あのデカブツまだ生きてるのか!?」

 

一夏が驚愕に目を見開く。先程倒れ伏した巨人の残骸から発せられるエネルギーが急速に増大している。それをセンサーが感知したのだ。

 

セシリアがライフルを構え、一夏もまた愛刀を顕現させる。しかし優は、二人とは全く別の懸念を抱いていた。

 

(生きてる……? 仮にあの状態で動いたとして何ができるんだ? 両腕は使えない。あとはもう頭突きか迎撃覚悟のバンザイ・アタックしか……まさか!)

 

優の端正な相貌が一瞬にして強張る。

 

「まずい! 自爆だ! 離れろ!」

 

形振りなど構っていられない。優にしては珍しく切羽詰まった様子で、語気も荒く叫ぶ。セシリアは必死な優の声色に意図を察したのか、シールドの外側へ離脱する。しかし一方で一夏は……

 

「ゆ、ユウ?」

 

豹変とも取れる優の様子に面喰い、動けないでいた。そんな一夏の様子に小さく舌打ちをしたかと思うと、すぐさま一夏の元へ飛翔した。

 

その間にも巨人が放つエネルギーは膨れ上がっていく。今一つ状況を掴めていない一夏に、優が抱き締める形で覆い被さった。

 

直後、

 

『ビーッ! ビーッ!』

 

もはや間の抜けた印象すら感じる警告音ごと何もかもを焼き尽くすかのように、アリーナ全体を爆風と爆音が支配した。

 

 

 

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 

 

 

「アハハハハハハハっ! これであの雌も大人しくなったかなあ」

 

暗い部屋の中。数多のモニターと様々なボタン、キーボードが女を囲むようにずらりと張り巡らされていた。青い光を点滅させ、静かに佇むそれらを愛しそうに撫でる女。その光に、女の穏やかな微笑みが照らし出される。

 

「あの子を作った甲斐があったよ。壊されちゃったのは予想外だったけど」

 

「結構頑丈に作った子なんだけどなあ」と呟く横顔は、まるで玩具が壊れた子供のように無垢で無邪気で残忍だった。

 

「それにしてもハイパーセンサーのジャミングかー。まさか完成してたとはねー」

 

どうやら女には何かしらの誤算があったらしい。しかしそこに悔しさの色は無い。あっけらかんとした様子で、手近なキーボードを操作し始めた。

 

「まあいいや。とりあえずこれで箒ちゃんに近付く悪い虫は排除できただろうし」

 

女の手も口も止まらない。まるでそこに誰かがいるかのように──或いは実際にいるのかもしれない──楽しげに語りかける。しかしモニターに照らされた表情は、先程とは打って変わって能面のように冷たかった。

 

「まさか箒ちゃんを騙すためにいっくんを利用するとはね。何を考えてるのかは興味ないけど、いっくんや箒ちゃんには近付けないようにしないとね。ちーちゃんもそいつに騙されてるみたいだし、私が何とかしないと」

 

無機質な相貌がぼそりと呟く。

 

 

 

「3人共私のものなんだから。私だけの……」

 

女はモニターに映し出された、黒髪の少女を睨み付けた。

気を失っているようだが、それでも尚人並外れた美貌であることが伺える。

 

ぶつん。と、糸が切れるような音と共に、モニターの電源が落とされた。

 

「あの子達には私がいればいい。私にはあの子達がいればいい」

 

 

 

 

 

────お前は、要らない。




謎の天才美少女発明家を敵に回してしまった八神優!
持ち前の美貌と幸運で果たしてこの危機を乗り越えることが出来るのか!
大丈夫!幸運さんがいる限り死にはしない!なんとかなる!

次回「八神、死す」
デュエルスタンバイ!

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