エリカ、回想する
その後のことを、すこしだけ書いておく。
アンツィオ高校には、約束通り、プラウダから食料一年分が届けられた。
だが、小麦を期待して目を輝かせる生徒たちの前に転がり出したのは、大量のじゃがいも。
生徒たちは、おおいに落胆した。
絶望した、と言っていいほどだったという。
しかし、それは一時のこと。
アンツィオの
カチューシャが継続の三人になにを約束したのかは、不明なままだ。
ただ、試合後の撤収作業中――
KV-1が一輛、行方不明になっていることが発覚した。
後日、よく似たKV-1が、継続高校で目撃された、とも聞く。
それを知ったプラウダは、ただちに声明を発表し、遺憾の意を表明した。
だが、強硬なことで知られるプラウダの外交部は、なぜかこのときに限ってそれ以上の抗議を行わず、話はうやむやになったそうだ。
そして、私は――
試合の後、勇気を出して、黒髪のあの子に聞いてみようかと思った。
カチューシャのような天才のそばにいて、つらくないのか。
嫉妬したり、無力感で絶望したりしないのか。
でも、やめておいた。
近くで見ているうちに、あのふたりの関係は、私が想像していたのとは、すこし違う気がしてきたから。
それに、あの子のことは、やっぱり、すこし苦手だ。
黒森峰に帰ってからのことだが……
べつにこれといって、書くことはない。
カチューシャの指揮をじかに見たからといって、戦車道の技術が向上したりはしなかったし、チームメイトとの関係も変わらない。
結局のところ、私は、私だ。
人は簡単に変わったりしない。
ただ――
あの子を見ているうちに、思うようになったのもたしかだ。
ちょっとくらいずうずうしくても、非常識でも、人は生きていける。
その程度で死んだりはしないのだと。
あの事件以来、私の心に、金髪のおちびさんが棲みついている。
その子はときどき、ひょっこりと顔を出しては、私に勇気がないと笑ったり、ああしなさいよとけしかけたり、ときには私のかわりに怒ったりするのだ。
私は今も、その子にせっつかれている。
(……もう。わかったわよ)
私は、小さく息をついて、手もとを見おろす。
手のひらの上でころんと転がったのは、ぶさかわいいご当地キャラのキーホルダー。
この不細工さんのせいで、私はこのところずっと、おちびさんに責められっぱなしなのだ。
視界を、あの人が横切る。
黒森峰のパンツァージャケットをきりりと着こなした、私のあこがれの人。
胸が、どきんと鳴る。
「隊長、すこしよろしいですか――」
緊張のせいで、声はひどくかすれている。
あの人がふり向く。
私は走って、あの人に近づく。
ああ、視界が、真っ白だ。
というわけで完結です!
じつをいうと、ぼくは今まで、自分の書いたものを人に読んでもらったことがほとんどありませんでした。
このお話も、誰かに見せるつもりで書いていたのじゃなかったんです。
そんでもって、まあ、ぶっちゃけると、半分くらい書いたあたりで先に進まなくなっちゃったのですね。
ただ、完成させたいなーという思いはあったので、じゃあどっかで公開しちゃえばいいんじゃね? 連載ってかたちにすればしめきりができるからがんばって書く気になるんじゃね? と考えたのが、ハーメルンさんにおじゃまするきっかけになったのでした。
公開する前は、人に読んでもらっても別にたいして変わらないんじゃ? と思ったりもしたのですけど、これは大間違いでした。びっくりするくらい励みになるものですね! 感想をもらえるのがすごくうれしかったです! (次の展開を当てられると多少ヘコみますが)
ちなみに作品の目標は以下の三つでした:
- 大学選抜戦で活躍しなかった(※何回か観ると、あっそんなことねーわカッちゃんすげー活躍してるわってなるんだけど、初回の印象ではこうなる)カチューシャを活躍させる
- いつも不遇なKV-2を活躍させる
- エリカをめちゃめちゃ苦労させた末に爆発させる
どうでしょう。達成できていたでしょうか!?
最後まで読んでくださったみなさまに感謝です!
それではまたいつか!