リョウトはビスマルクに連れられて王宮へ来た。本日の目当てであるオデュッセウス・ウ・ブリタニアに会うことだった。
「………本当に良いのかよ?」
「構わんと言った筈だ。オデュッセウス殿下には話は通してある」
リョウトがビスマルクに聞いたのは服装の事だ。
これからブリタニアの第一皇子に会うのに普段着で良いのかと。
ビスマルクは表情を変えずに答えた。
「いや、不安しかねーんだけど」
「今日の所は顔合わせ程度だ。失礼のないようにすればいい」
その顔合わせ程度が不安しかないのだがビスマルクにそれを言っても無駄と悟ったかリョウトはビスマルクの後ろを追う形で王宮に進んでいった。
そして王宮の一室に辿り着くとビスマルクとリョウトはその部屋に入る。
「やぁ、君がビスマルクの子供になったって言う子かい?」
「え、あ、はい……」
ビスマルクとリョウトが部屋に入るなり、やけにフレンドリーに話し掛けてきたのは立派な髭を携えた男性。彼こそブリタニアの第一皇子オデュッセウス・ウ・ブリタニアである。リョウトは驚きながらも返事をした。
「初めまして僕の名はオデュッセウス・ウ・ブリタニアだ」
「あ、えっと……リョウト・T・ヴァルトシュタインです」
ニコニコと笑みを浮かべながらリョウトの手を取り、挨拶をするオデュッセウス。その仕草にリョウトも戸惑いながら自己紹介を済ませた。
「そうかそうか、ビスマルク。良い子のようだね?」
「ハッ。お褒めに与り光栄です」
ここでオデュッセウスは首を動かし、ビスマルクに話し掛ける。リョウトらまだビスマルクの義息子になったばかりだが褒められれば嬉しいものなのだろう。
「あっと……すまないね。態々来て貰ったのに」
「あ、いえ……」
オデュッセウスはリョウトの手を離すと先程まで座っていた椅子に座る。リョウトはオデュッセウスに促されて反対側の椅子に座り、ビスマルクも隣に座った。
「さて……どんな話をしようか?」
「スラム街やテロリストの話が聞きたかったんじゃ?」
オデュッセウスは机に肘を掛けると困った様子で呟いた。それをリョウトは思わずツッコミを入れてしまう。
「ああ、そうなんだけどね……いきなり仕事の話から入るのは……ねえ?」
「は、はあ……」
オデュッセウスは頬を掻きながら周囲のSPに語りかける。話し掛けられたSPも困り顔をしていた。
「僕の弟も君と同じくらいの年齢でね……」
「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア、ナナリー・ヴィ・ブリタニア……」
オデュッセウスの発言にリョウトは思わず頭に浮かんだ名を口にする。日本とブリタニアが戦争になった時に死んだとされる皇族の名で、特にルルーシュはリョウトと同じ歳だと言うのを覚えていた。
「うん……彼等が居なくなってしまったのが最近の話でね……」
「………」
暗くなった表情のオデュッセウスにリョウトは何も言えなくなってしまう。
その後、口を閉ざしてしまったオデュッセウスにリョウトは少し溜息を吐くと口を開いた。
「俺の少し前の名は天川リョウト。父さんが日本人で母さんがブリタニア人だった」
リョウトが自身の過去を話すとオデュッセウスは顔を上げた。
「今日は仕事の話はしないんだろ?だから自己紹介と経歴を話すよ……それと貴族に対する敬語は分からないから今日はこんな口調だよ」
「ありがとう……リョウト君」
リョウトはオデュッセウスの気持ちを汲んだ上で話を始めた。口調はとてもブリタニア皇族に対するものでは無かったが、それは今のオデュッセウスには有難いものだった。
「…………帰ったらゲンコツだな……馬鹿息子が」
オデュッセウスと親しげに話す義息子に口端を上げて静かに笑みを溢すビスマルク。
因みに帰ってから本当にビスマルクのゲンコツはリョウトの頭に落ちたと記載しておこう。