コードギアス ナイトオブワンの義息子   作:残月

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その名は……

 

 

 

 

「……………何あれ、魔女裁判?」

 

 

枢木スザクの裁判が行われている予定の場所への移動を見ていたリョウトは呆れ気味に呟いた。枢木スザクは磔にされた挙げ句、護送車の上に晒し者にされ裁判所へ護送されていた。

そして、それを指示して護送車の後ろを走る車の上でふんぞり返っているのがジェレミア・ゴッドバルトである。

彼は純血派のリーダーであり、今現在エリア11を任されている人物だ。

 

 

「やれやれ……裁判所に着いたらレイス権限でマトモな裁判に」

 

 

リョウトが溜め息と共にこれからを考えていた、その時だった。突如パレードが止まったかと思えば進行方向の道路に一台の車と一人の人物が立ちはだかったからだ。

しかも車はクロヴィスの御料車で車の屋根にかけられていた垂れ幕が燃え、燃え尽きた中から仮面の男が姿を現す。

 

 

『私はゼロ』

「声を変えてるな……変声機か何かか?」

 

 

リョウトはこそこそと移動しながらゼロとジェレミアから視線を外さない。二人のやり取りを聞き逃さない為だ。

 

 

「ゼロとやら貴様のショーに付き合う義理はない。その仮面を外してもらおうか?……な、何!?」

 

 

ジェレミアの合図に護送車に随伴していたサザーランドが車の周囲に降り立つ。ゼロはそれに慌てること無く手を頭より高く上げ、パチンと指を鳴らした。すると車両後部のコンテナがバラバラになり、中からカプセルが現れた。

 

 

「なんだあれ?カプセル……もしかして報告にあった毒ガスか?」

 

 

リョウトは人混みを掻き分けてゼロとジェレミアのやり取りが聞こえる距離まで来ていた。そして視界に入ったのは今回の騒動の資料の中にあった毒ガスが混入されたカプセル。

偽物かと思ったリョウトだがジェレミアが冷や汗を流している様子から本物だと思っていた。

 

 

「くっ……要求を聞こうじゃないか、ゼロ」

『交換だ、コイツと枢木スザクを。ここら一帯に巻き散らかして欲しくないだろう?』

 

 

苦虫を潰した様な表情と声でゼロとの交渉を始めるジェレミア。ゼロは余裕綽々とカプセルをコンコンと指で叩きながら要求を求めた。

 

 

「何を馬鹿な事を。枢木スザクはクロヴィス殿下を殺した大逆人!引き渡せるはずがなかろう!!」

『違うな。間違っているぞジェレミア。クロヴィスを殺したの犯人は枢木スザクじゃあない…クロヴィスを殺したのは……この私だ!』

 

 

ゼロの発言に周囲がざわめく。そんな中、リョウトも動揺を隠せなかったが、すぐに思考を切り替えた。

 

 

「なんつー奴だ。毒ガスのカプセルと御料車、おまけにクロヴィス殿下の殺害の自白か。よっぽどの天才か、それとも馬鹿か……なんにしても俺の仕事が増えそうだな」

 

 

リョウトはそう呟きながら懐に忍ばせている物を握りしめた。

 

 

「コイツは狂っている!殿下を愚弄した罪を償わせてやろう!」

『ほぅ……そうくるか』

 

 

この混乱を治めるため、ジェレミアが合図を出すと周囲のサザーランド全機が銃を構える。

 

 

『いいのか?公表するぞオレンジを……』

「オレンジ?一体何を言っているのだ?」

 

 

オレンジ、謎の単語にその場にいるものは首を傾げるしかない。リョウトも同じく首を傾げていたが、そろそろ事態が動きそうだといつでも動ける様に身構えていた。

 

 

『私が死んだら公開されることになっている。そうされたくなければ…』

「何の事だ?貴様はいったい何を……」

 

 

困惑するジェレミアの前でゼロの仮面の左目があるであろう部分が開く。それはゼロの目の前のジェレミアにしか解らなかった。

 

 

『私達を全力で見逃せ!そっちの男もだ!』

「いいだろう。おい、その男をくれてやれ」

 

 

そしてゼロがジェレミアに命令すると、なんとジェレミアはそれに従った。周囲はざわつくがジェレミアは至って真面目な表情だ。

 

 

「ジェ、ジェレミア卿、しかし…」

「くれてやれと言っている!いいか、誰も手を出すな!」

 

 

困惑する兵士達を尻目にジェレミアは周囲の兵士達に指示を出す。場は混乱するばかりだ。

 

 

「ジェレミア卿、どういうつもりだ! 計画には…」

「キューエル卿、これは命令だ。おい、早く枢木一等兵をくれてやらんか!」

 

 

ジェレミアの命令ならとスザクの拘束が解かれる。拘束を解かれたスザクは呆気に取られたまま歩き出し、ゼロは車から降り、歩いてくるスザクと合流する。

 

 

「キミは一体……」

『話は後だ。枢木スザク、ついて来てもらうぞ』

 

 

ゼロはそう言うと、手に持った装置のボタンを押した。それと同時にカプセルが起動し、大量の煙が噴出し、市民はそれが何か分からず、逃げまどう。

 

 

「ヤバッ……毒ガスが!」

 

 

カプセルの中身を知っていたリョウトは煙を吸わないように腕で口元を押さえながら風上に逃げた。それと同時にゼロを包囲していたサザーランド達はゼロをスザク諸共に撃とうとしたが、それをジェレミアが阻んだ。

 

 

「ジェレミア卿!? 何故! 」

「言ったはずだ!! 手を出すなと!」

 

 

そう言うと、ジェレミアは次々とゼロをとらえようとする味方の妨害をする。

 

 

「全部隊に命令する! いいか! 全力を挙げて奴らを見逃すんだ!! 」

 

 

ジェレミアの突然の豹変、そして煙に惑う人々と、その混乱に乗じゼロ達は無事に逃走を果たすのだった。

 

唯一、ゼロに誤算があったとすれば、あの場をすぐに離れた事により全体を見渡せる位置に移動して逃げた己を追跡するリョウトが居た事だろう。


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