ブリタニア本国でクロヴィス暗殺の報を聞いたリョウトはレイスの待機所となっている施設で情報を漁っていた。
「クロヴィス殿下がテロリスト弾圧に出ていた際にG-1ベースに何者かが忍び込み暗殺……か」
「しかし……厳重な警備を抜けての暗殺など可能なのでしょうか?」
リョウトの呟きに一緒に情報整理をしていたケインか聞いてくる。それはリョウトも不思議に思っていた事だった。
G-1ベースは指揮をする為の移動基地の様な物。しかも総督が乗っているとなれば厳重警備となっている筈。にも拘らず今回の事件が起きたのだ。不思議と思わない方がどうにかしていた。
「クロヴィス殿下……」
リョウトは情報を見ていたパソコンから手を離して空を仰いだ。クロヴィスはイレブン……日本人からは、あまり良い評価の対象ではなかったが総督としての仕事はキチンとしていたし、レイスの仕事で日本に行った時は取り締まりの仕事にも協力的だった。
その際にもリョウトはクロヴィスからチェスの勝負を挑まれており、その最中でクロヴィスの昔話をよく聞かされており、その時のクロヴィスの顔は今でも……寧ろクロヴィスが死んだ今だからこそ鮮明に思い出していた。
そして、リョウトが再びパソコンに視線を戻そうとした時、部屋の扉が開いて部下が入ってくる。
「隊長。オデュッセウス殿下がお呼びです」
「ん……わかった」
やっぱり来たか……リョウトはそんな事を思いながらケインに後を任せてオデュッセウスの執務室へと向かった。
「オデュッセウス殿下、リョウト・T・ヴァルトシュタイン出頭致しました。」
「ああ、リョウト……呼び出してスマナイね」
オデュッセウスの執務室へと足を踏み入れたリョウトだが、やっぱりか……と心の中で溜め息を吐いた。自分もクロヴィスの暗殺に心を痛めていたが、元来心優しいオデュッセウスがその事に心を痛めていない訳がない。リョウトの予想通りにオデュッセウスはあまり眠っていないのか目の下に隈を作り、明らかに体調不良と寝不足をさらけ出していた。
「殿下……他の者が見たら医者を呼ぶレベルの顔になってますよ」
「うん……最近、眠れなくてね」
クロヴィスの暗殺は思った以上にオデュッセウスの心に傷を作っていたとリョウトは思う。そして次に出るであろうオデュッセウスの言葉にも予想が着いていた。
「悪いんだけど……エリア11に行ってクロヴィスの事を調べてきてくれないかい?」
オデュッセウスがこの事を切り出すのはリョウトは予想済みだった。今回の一件は不可解な所が多く、レイスが出動するに値する程の事件となっている。現地のブリタニア軍は総督暗殺の事で指揮系統がバラバラになってしまっているとの報告も上がっているので、これも納めなければならない。
「了解です。ではレイスはエリア11へ赴き、事件の調査と事後処理を行います」
「うん……頼んだよリョウト」
リョウトはオデュッセウスの命令を受け、敬礼をしたが憔悴しているオデュッセウスは相変わらず覇気がない。
「オデュッセウス殿下……」
「リョウトォォォォォォォッ!!」
リョウトがオデュッセウスに何かを言おうとした時、それを遮ってギネヴィアが執務室へと凄い勢いで入ってきた。
「リョウト、今すぐにエリア11へ行きクロヴィス暗殺の件を調べてきなさい!」
「ギ、ギネヴィア様……それはたった今、オデュッセウス殿下から命が来たので行こうかと……」
ギネヴィアは執務室へ入るなり、リョウトに詰め寄ってクロヴィスの件を調べる様にと命じた。しかし、この事はギネヴィアが来る前にオデュッセウスから告げられたと口にするとギネヴィアはフゥと一息着いた。
「なら、結構。私とお兄様の名ならば憚れる事なく、行くことができるでしょう。さっさっとお行きなさい」
「畏まりました」
ギネヴィアは一方的に告げるとリョウトにもう行けと急かした。リョウトはギネヴィアとオデュッセウスに頭を下げ、執務室から出ようとした時にギネヴィアから声が掛かる。
「リョウト……命令はしましたがアナタはちゃんと帰ってきなさい。アナタまでいなくなったら私もお兄様もビスマルクも悲しみます」
「…………了解です」
去り際に此方を気遣う事をするなんて相変わらず、ギネヴィア様も可愛い所があるな……とリョウトが考えた辺りで書類を纏めたファイルがリョウトの顔面目掛けて飛んできた。それを上手くキャッチしたリョウト。飛んできた方を見るとギネヴィアが顔を赤くして睨んでいた。
「余計な事を考えてないで早く行きなさい!」
「アイアイサー!」
考えていた事が口に出たか、顔に出たか……それを察知したギネヴィアは羞恥に顔を赤くしてリョウトに怒鳴り、リョウトは慌てて走り出すのだった。