今回は少し回りくどい内容です。
自己紹介を済ませた二人はブリタニア軍人と揉め事を起こした場所から移動していた。
それと言うのもナオトから警察沙汰は御免だと言われたからである。
そして話をしたいと言うナオトに着いていく事にしたリョウトはナオト行き付けの店に来ていた。店の名は『春日屋』
そこでリョウトは予期せぬご馳走に有り付いていた。
「美味い!すき焼きは最高だね!」
「………少しは落ち着いて食ったらどうだ?」
ナオト行き付けの店は少し高級な居酒屋で幅広いメニューでイレブンから絶大な人気を得ている店だった。ナオトは話をする為に店に連れて来たのだがリョウトは話そっちのけで料理に舌鼓を打っていた。
「ブリタニア人がすき焼きをがっつく姿は珍しいもんだな」
「……んー俺、生粋のブリタニア人って訳じゃ無いんだけど」
其処へ店の店主がカウンターから顔を覗かせるがリョウトは店主の言葉を否定して箸を止めた。
「生粋のブリタニア人じゃない?」
「俺、ハーフなんだよ。父親が日本人で母親がブリタニア人。今はブリタニア人の養子になってるけどね」
ナオトはリョウトの言葉に首を傾げたがリョウトは呑気にお茶を啜りながら答える。
「ハーフ……か」
「日本人とブリタニア人のハーフですが何か?」
ナオトは何か思いれがあるのか『ハーフ』の言葉を口ずさみ、リョウトは何か問題でも?とナオトを睨んだ。
「いや……少しな……それよりも聞いても良いか、どうしてブリタニア軍で働いてるんだ?」
「………少し話が長くなるけどいい?」
ナオトの言葉に少し考えたそぶりを見せたリョウトは自信の過去を語った。
父親は不正を暴く正義のジャーナリストだった事。
しかし父親も母親も死んでしまった事。
その後、一時期荒れた事。
ある事を切っ掛けにブリタニア人の養子になった事。
その後、ブリタニア軍として様々な国に行った事。
現在、レイスと呼ばれる部隊で働いている事。
「っとまあ……こんな所かな」
「坊主も……苦労してんだなぁ……」
全ての話を追えた時、ナオトは口を開かなかった。カウンターで話を聞いていた店主は涙ぐんでいた。
「だから今日はすき焼き食べれてスゲー嬉しいんだ。久々の日本食だったからさ」
「そーいやオメェさんはイレブンじゃなくて日本人って呼んでくれるんだな」
「イレブンって呼び名は好きじゃ無いんでね」
店の店主と楽しそうに話をするリョウトにナオトは更に質問を重ねる事にした。
「なあ……日本とブリタニアは敵対関係にあるが……お前はどう思ってる?」
「んー……国同士で仲が悪いのが人に伝染して相性最悪かな」
ナオトの質問をリョウトは湯呑みの中のお茶を見詰めながら呟いた。
「国同士でって……それ以外は違うとでも言う気か?」
「俺さ……色んな国の戦いを見てきた。戦争、クーデター、テロリスト……その中でも国が戦争に負けても個人では負けてない人達を見た」
リョウトはオデュッセウスやビスマルクと共に見てきた国や戦争を思いだしなが言葉を繋ぐ。
「戦場の勝敗なんて政治家の中にしか無い。一人の戦士や個人の勝敗は個人の中に有る。個人が本当の意味で敗れる時はその本人が屈服した時だけだと思ってる」
「それが今の日本と日本人って事か?」
リョウトの言葉にナオトは疑問を重ねた。今聞かなければならない事だと思ったからだ。
「屈服してないから戦争が起きる。支配してる国に不満があるからテロリストがのさばる……今日のブリタニア軍人を見れば大いに不満があるのは分かるけどね」
「だろうな……日本で……日本であんな奴等にデカい顔されるなんて……」
リョウトの言葉にナオトはギリッと歯を鳴らした。
「でも国同士が仲が悪くても個人では仲良く出来ると思ってる」
「個人では……仲良く?」
リョウトはニッと笑みを浮かべ、ナオトはキョトンと呆けてしまう。
「ブリタニアと戦争していた敵対国の人とも友達になれた人は居たよ。さっきも言ったでしょ国同士が仲が悪くても個人では違うって」
「だから何だって言うんだ!日本とブリタニアは戦争をして日本は負けた!それ以外が……」
「だから個人では負けてないでしょナオトさんは」
リョウトの発言に激昂したナオトだがリョウトは言葉を遮ってナオトを指差しながら笑う。
「負けてない。屈服してないから今日、ブリタニア軍人に刃向かったんだ、他の人達は遠巻きに見てただけなのに」
「それは……」
リョウトの言葉にナオトは言葉に詰まる。何故か反論できなかったからである。
「俺はブリタニアが全て正しいとは思ってない。だからブリタニアの中に居て間違った事を裁いていく。それは何処に行っても同じだし、これからも変える気は無いよ。それにそうしてたからナオトさんにも会えたんだしさ」
「リョウト……」
ブリタニアの輪の中に居るがブリタニアの悪事を裁く。そして敵対国の中でも友を作る。そんなリョウトの思いにナオトは思わずリョウトの名を呟くだけだった。
「お前は……これからもそうするのか?今は良いだろうが……お前がブリタニアに居る限り日本を捨てた裏切り者と言われる日が来るかも知れないんだぞ!」
「俺の大将はブリタニア皇族の中でも珍しい性質の人でね……時間は掛かるかも知れないけど今の世の中をより良い方向に持っていってくれる……そう信じたいんだ」
リョウトが思い出すのはブリタニア皇族でありながら温和で無欲でお人好しな第一皇子だった。
等と話をしていたリョウトだが店の中に備え付けの時計を見て青ざめた。
何故ならば既に日付が変わる程の時間になっていたからだ。
「や、やべぇ!とっくに帰る時間過ぎてた!?」
「ん、なんだ門限でもあったか?」
リョウトの叫びに店主は時計を見上げる。
「そんな感じ!ゴメン、帰るわ!」
「あ、おい!?」
ナオトの引き止める声にもリョウトは立ち止まる事も無くそのまま店から出て行ってしまう。
「ゴメン!日本に来たらまた此処に来るよ!」
リョウトは去り際にそんな事を叫びながら、政庁の方角へと走り去って行った。
「最初は軍人らしいと思ったが……なんとも慌ただしい坊主だったな」
「ああ……妹と同じ歳だし……帰る時は年相応に見えたよ」
店主もナオトと同じく店の外へ出てリョウトが走り去った方角を眺めながらリョウトの軍人の顔と子供としての顔の両方を見て戸惑いを隠せなかった。
「国では無く個人なら……か」
ナオトはリョウトが残した言葉を心に刻むのだった。
因みに急いで政庁に帰ったリョウトだが帰りの遅いリョウトを心配したオデュッセウスがオロオロとしており、モニカも心配していたがその心配は怒りへと変わり、リョウトは政庁の前で正座で1時間ほど説教を受けるのだった。