ガリ勉少女を愛くるしげにするためには、   作:ひょっとこ_

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ご無沙汰でした。
非常に遅れた、というか半分エタってるまでありますが。
続きます。一応。


第六話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セブルス・スネイプにとって、マチルダ・オブライエンとはよくわからない人物であった。

 不可解。奇妙。それに尽きる。

 ホグワーツにまだ学生として籍を置いていた折、マチルダはいろいろなことをしていた。

 時に、O.W.L試験やN.E.W.T試験で優秀な成績を修める優等生であり。

 時に、当時名を馳せた悪戯仕掛け人たちの手助けをする愉快犯であり。

 時に、ジェームズ・ポッターに悪辣なからかいを受けていたセブルスを自己満足的に庇い立てる偽善の人であった。

 態度と言動、そしてそれらがもたらす結果に酷く矛盾染みたものを感じさせる人物であった。

 

「スネイプ教授、教科書のここの記述なんですけど……」

 

 さて、今日になってホグワーツで教鞭を執るスネイプの前に、ある年、一人の生徒が現れた。

 クラレンス・A・オブライエン。セブルスにとって理解し難い存在である彼の魔女、マチルダ・オブライエンの息子である。

 

「……そこの記述は、、正しくはこうなる。――――、だ。理解したかね。Mr.オブライエン」

 

 先ほどの魔法薬の授業の内容に関して質問に来たらしい彼に、顔をしかめて、一層声を低くしながら、しかし答えてやると、アリスは疑問に得心を覚えたらしく、満足げな笑みを浮かべた。

 正直なところ、セブルスはアリスに対する態度をどうとるべきか、決めあぐねていた。測りかねていたのだ。彼の魔女の息子との接し方を。

 なにせ、アリスは容姿こそ父親似で東洋の血を感じさせる顔立ちをしているものの、その瞳、そして中身に関しては母親とまったく同じものを引き継いでいた。

 ふとした折にアリスがマチルダの影を帯びると、セブルスはどうするのが正解であるのか、わからなくなるのだった。

 いっそハリー・ポッターに、憎き男の小倅として接するようにしてしまえたら楽なのだろうが、そうするのもセブルスにはなんだか憚られたのだ。

 わからないからこそ、ハリー・ポッター以上に手厳しくしてしまうことも幾度かあったが、依然としてセブルスはアリスという少年に胸の内を波立たせられていた。

 

「どうした。早く次の授業なり、自習なりへ戻れ。お前にはわからんだろうが、我輩はこう見えて忙しい」

 

「……先生。えっと、そのですね」

 

 質問に答えても魔法薬の教室から出ようとしないアリスに痺れを切らせて退室を促すも、なにか言いたげにこちらを見つめ続ける様子にいよいよもってセブルスは困り果てた。

 セブルスはこちらを見やるその瞳を知っていた。

 それは、昔のある日、悪戯仕掛け人らのちょっかいからいつものように庇い立てしてくれたマチルダに、あの言葉を投げてしまったその時に、彼女がセブルスに見せた瞳とまったく同じものを感じさせた。

 寂しさ、虚しさ等が綯い混ぜになったようなその瞳は、どうにもセブルスの心境を掻き立てた。

 

「えぇっと……」

 

 言い淀んでいたアリスが、意を決したのか、口を開いた。

 いったい、如何様な言葉が飛び出してくるのかと、セブルスは戦々恐々とする。

 

「その、先生は僕のこと、お嫌いなんでしょうが、僕はべつに先生のこと、嫌いじゃないっていうか、えっと、仲良くというか、親しくというか、そう在りたいと思ってます。……そ、それだけです。ではっ」

 

 上気した表情で一息に捲し立てて、慌ててこの場を退散するクレアに、彼の言葉に、セブルスは鈍器で殴られたかのような衝撃を受けた。

 もはや、言葉すら出ない。

 初めて顔を合わせて以来、こちらもあちらもあまり友好的とはいえない態度を一貫してきたのもあってか、セブルスほどの男がその場に数分、固まるほどの威力がアリスの言葉には内包されていた。

 セブルスは頭を抱える。

 ああ、本当に、どうしてくれようか、クラレンス・A・オブライエン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 城内を駆けて、魔法薬学の教室から図書室への道を急ぐ。

 空を切るときの若干の冷気が火照った顔に心地良い。

 

「ああぁぁぁぁっ……」

 

 込み上げてくるものを堪えきれずに、変な声が喉から漏れる。

 ああ、とんでもないことを口走ってしまった。しかも、あのスネイプ教授にだ。

 もはや告白染みていた。あの言葉は。

 絶対なんかこう、変に思われた。絶対だ。

 ああ、鬱だ。

 

「やだ。なに、あの子」

 

「一年生ね。魔法か、なにかに失敗しちゃったんじゃない?」

 

 城内の複雑極まる通路を一つ、二つと駆け抜ける度に、奇異の目を向けられるのも気にならない程度には、クレアは絶賛暴走中であった。

 だって、あれだ。あんなことを言うつもりなんて、なかったのだ、うん。ほんとに。

 悪いのは、ぜんぶ母さんなのだ。

 スネイプ教授のことで相談したくて手紙を送ったのがすべての始まりだった。

 入れ知恵である。冤罪だ。僕は悪くない。

 セブルス・スネイプという人間を昔から知っている母さんの言に惑わされただけなのだ。

 

「ハーマイオニーぃ!」

 

 ほとんど絶叫に近い声をあげて、図書室に飛び込む。

 司書のピンス先生が飛んできて、僕のことを不届きものとして睨み付け、なにか言い募ろうとするけれど、それよりも早くに、これ以上ピンス先生を刺激しないように走るのではなく、早歩きで図書室の奥へ向かう。

 そこには、ハーマイオニーが面食らった表情でこちらを見やる姿があった。

 腰を下ろしている机には本と羊皮紙、羽ペン、インクが広げられていて、如何にも、というか確実に自習に励んでいたところへどうもお邪魔してしまったらしかった。

 まあ、いい。関係ない。というか、事は一刻を争う。

 杖を取り出して、一振り、二振りして、本を所定の棚に戻して、ハーマイオニーの荷物をまとめあげる。

 

「ちょ、ちょっとアリス!? いきなりどうしたのっ?」

 

「ごめん。緊急事態。具体的には僕の精神状態がヤバい。まあとにかく、来て」

 

 腕を取って引っ張りあげる、そのまま手を引いて、わなわなと震えるピンス先生の横を通り抜ける。

 あとで大目玉を食うかもしれないなぁ。そのときはハーマイオニーのことは庇い立ててやらないと、さすがにダメだよな、うん。

 

「い、いったいなにがあったの……?」

 

 しきりにこちらへ問いかける声を流して、グリフィンドールの談話室へ入る。

 そのまま暖炉の前のソファへハーマイオニーへ誘導して、僕は彼女に泣きついた。

 

「なっ!? ア、アリスっ!?」

 

 なにも彼女の問いかけに答えないままで悪いけれど、しばらくこうさせてほしい。

 ハーマイオニーの匂いはどうにも、落ち着くのだ。

 

「……もう、なんだかわからないけれど。あなた、今小さな子供みたいだわ」

 

 呆れたような声が聞こえて、頭に手が添えられた。

 クレアは、ゆっくりと撫でてくれるその手が心地よくて。

 ハーマイオニーは、あまりに年頃らしくもなく甘えてくる同い年の男の子の姿が微笑ましくて。

 二人はそこが談話室だということも忘れて、しばらくの間そうしていた。

 あとで周囲がどう騒ぎ立てたのかは、言うべくもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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