ガリ勉少女を愛くるしげにするためには、   作:ひょっとこ_

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長らく間があいてしまいましたね。。
しかも、それほど話も進むわけではありませんし。。


第五話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホグワーツ魔法魔術学校において、勉強嫌いの生徒たちが殊更に避けたい授業はといえば、言わずもがな、手厳しいことで知られるミネルバ・マクゴナガル教諭が担当する変身術と、これまた鼻持ちならないことで名高いセブルス・スネイプ教諭の魔法薬学の二つであろう。

 そんな話を、僕は母さんから経験談として聞かされていた。

 だからといって変な偏見があったわけじゃないし、百聞は一見に如かずとの諺もある。

 実際、変身術の授業はたしかに手厳しくはあったものの、生徒側に合わせたアドバイスもきちんと同じように言い渡され、なんとそのお蔭で僕も変身魔法をどうにかこうにか成功という形に持っていけたのだ。

 それに、マクゴナガル教諭は僕の所属するグリフィンドール寮の寮監でもあったので、そんなに毛嫌いする理由もなかった。

 

「そこ、オブライエン、呆けている暇があるのか。ふむ、ならば、よほど今しがた提出した課題に自信があるのだろうな。よかろう、我輩が今この場で評価をつけてやる」

 

 が、しかし、しかしだ。

 なんだ、この噂に違わぬ鼻持ちならなさは。

 たしかにヴェロニカからも、魔法薬学のスネイプには気をつけろといわれていた。

 

「ほう、たしかによくできている。しかし、この戯言薬、些か香りが立ちすぎているな。大方、火にかける時間をミスしたのをどうにかこうにか誤魔化そうと、そうだな、臭い消し草でも加えたのだろう」

 

 はんっ、と僕を嘲笑しつつ、スネイプ教諭はさらに続けた。

 

「臭い消し草は戯言薬に加えようと、たしかにその効能自体には影響を与えない。しかし、我輩は先の授業で言ったはずだ。きちんと、教科書のとおりに調合して提出せよ、とな」

 

 よって、減点。オブライエン、貴様のこの戯言薬の点数は十点中四点だ。

 簡潔に、攻め立てるように、スネイプはぴしゃりとそう言ってのけた。

 同じこの時間に授業を受けているグリフィンドール、スリザリン生たちの眼前で、見事に僕にレッテルを貼ってのけた。

 クラレンス・A・オブライエンは課題を誤魔化して提出する悪知恵の働くやつ。

 まぁ、そんなレッテルを意識するのなんて、このホグワーツにはスリザリン生とこのスネイプ教諭くらいだろうけど。

 

「それは、どうも、お世話様でした……」

 

 まさか考え事に耽っていただけでこんなことになるとは思っていなかった僕は、どうにかそれだけを言って改めて座席に座りなおした。

 ちなみにこの一連の出来事は、授業中に突如として始まり、こうして数十人からの生徒たちの目の前で起こったのである。

 

「はーぁ……」

 

 どうにも、スネイプ教諭は自身が寮監を務めるスリザリンの生徒以外には当たりが強い。

 特に僕たちグリフィンドール生に対して、殊更に酷い。

 ただ、その授業だけは正確無比、的確かつ迅速で、そこだけは僕も認めるところである。

 そう、ただただ嫌なやつなだけであるのだ、スネイプ教諭という人は。

 

 ――アリス、大丈夫?

 

 隣の席に座るハーマイオニーが、一文を添えた紙切れを寄越してくる。

 一瞬顔をそちらへ向けると、はしばみ色の瞳に不安と心配とをありありと浮かべてこちらを見やっていた。

 

 ――大丈夫。いつか、この点数は取り返してみせるよ。

 

 だから、ややおどけた調子で顔文字まで付け加えて、僕はすぐさまハーマイオニーに紙切れを返した。

 どうやら、それを見て彼女も安心してくれたらしい。教壇に立って、黒板に板書を書き込んでいるスネイプ教諭へと、その視線は戻っていった。

 さて、とはいったものの、どうしたものか。

 魔法史、呪文学、天文学、魔法薬学等、ある程度の予習は母さんとすませてきた僕ではあるが、こういった事態は予測していなかった。

 担当教諭が自分を毛嫌いしている状況で、さて、どうやって教諭に自身を認めてもらったものだろうか。

 先ほどのようにスネイプ教諭に絡まれないように、隠れつつ、僕はやはり再び思考の海に潜っていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――というわけなんだけど」

 

「ふぅん、たしかにあの人の贔屓は有名だけど、そこまでのは聞いたことがないね」

 

「そうなの? ハリーも僕と同じような感じでさ、ちょっと参っちゃってて」

 

「ああ、それはいけない」

 

 一日の授業をすべて受け終え、夕餉をすませた後、僕は寮の談話室でヴェロニカに相談を持ちかけていた。

 初日以降、なんだかんだで僕は彼女を頼りにしていて、勉強を見てもらったり、こうして相談に乗ってもらうことが度々あった。

 それで、今もこうしてわざわざ話を聞いてもらっているというわけなのだが。

 

「しかし、いやはや、どうしたものだろうね」

 

 どうもヴェロニカにとってもこれは難しい問題らしい。

 典雅な仕草でソーサーからカップを持ち上げ、口元に運ぶ彼女は、眉根に皺を寄せて考え込んでしまったようだった。

 こうなると考えが一まとまりするまでは梃子でも動かないので、僕はヴェロニカが用意してくれたハーブティーを彼女の典雅な仕草を真似つつ、喉に流し込んだ。

 

「……ん、ラベンダー」

 

 口に含んだ瞬間、鼻を抜けていった香りは疲労の復調によいとされるハーブ、ラベンダーのものだった。

 些細だが、間違いなく気遣いで選ばれたのであろうこのハーブティーに僕は、いい先輩と出会ったものだなと改めて感じ入ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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