注意:
今回の話において、ある記述ミスがあります。
組み分けのシーンにて、ハーマイオニーより先にオリ主の順番が回ってくるという場面があるのですが、実はそのシーン、オリ主の名前を省みるとありえない展開になっております。
ですが、修正加筆等いっさい行うことはしません。
詳しいことは後書きにて申し上げていますので、そちらのほうをご覧ください。
それらを了解した上で、どうぞ拙作をお楽しみください。
「私はきれいじゃないけれど
私を凌ぐ賢い帽子
あるなら私は身を引こう
山高帽子は真っ黒だ
シルクハットはすらりと高い
私は彼らの上を行く
私はホグワーツ組分け帽子
かぶれば君に教えよう
君が行くべき寮の名を
グリフィンドールに入るなら
勇気ある者が住まう寮
勇猛果敢な騎士道で
ほかとは違うグリフィンドール
ハッフルパフに入るなら
君は正しく忠実で
忍耐強く真実で
苦労を苦労と思わない
古き賢きレインブンクロー
君に意欲があるならば
機知と学びの友人を
必ずここで得るだろう
スリザリンではもしかして
君はまことの友を得る?
どんな手段を使っても
目的遂げる狡猾さ
かぶってごらん恐れずに
君を私の手にゆだね(私に手なんかないけれど)
だって私は考える帽子」
新入生である僕たちも含めホグワーツ中の教員、生徒が集まるこの食堂の中、しゃがれた声でそう歌い上げたあの帽子こそが、組分け帽子だ。
あの古ぼけたとんがり帽子は、ホグワーツにある四つの寮に生徒をわけるために使われる意思ある帽子なのである。
勇気を掲げるグリフィンドール。
忍耐を貫くハッフルパフ。
英知を讃えるレイブンクロー。
狡猾を極めるスリザリン。
四つの寮にはそれぞれ特有の方針があり、ホグワーツに入学した生徒は個々人の性格、資質によって各寮にわかれ、この魔法学校での日々を過ごす。
故に、この組分けの儀式は、僕たち新入生にとって一番最初の行事であると共に、今後の学校生活を左右する重要なファクターというわけなのだ。
「あぁ、なんだか緊張してきたわ……。ねぇ、アリス、あなたはどの寮がいい?」
眉根に小難しい皺を寄せて張り詰めた様相をするハーマイオニーが、心なしか細くなった声音でそう問うてきた。
「うーん、そうだなぁ。個人的にはハッフルパフなんか、穏やかでいいな。それに、グリフィンドールやレイブンクローもかっこいいと思うよ。まぁ、でも、スリザリンは少し、肌に合わないかもしれないけど」
「……なんだか、煮え切らないのね」
「まぁ、うだうだ考えてもしょうがないよ。なるようになる。組分け帽子は、僕らの心を汲みとってくれるわけだからね」
「……そう、ね。うん、きっと」
目蓋をぎゅっと閉じて、組分けが始まって賑わいを見せ始めた周囲に目もくれず、ハーマイオニーは一心になにかを祈っているようだった。
……どこか、好きになれない寮でもあるのだろうか。
*
「オブライエン・A・クラレンス!」
体感時間だけれど、やたらと早く、僕の順番は回ってきた。
「が、頑張ってね、アリス……」
組分け帽子が置かれているところまで進み出る僕を、不安げに声を揺らしながら、ハーマイオニーが送り出してくれる。
「うん、行ってくるよ」
心細くなっているのだろう。安心させてあげたくて、できる限り、柔らかく微笑んでみる。
「え、ええ、行って、らっしゃぃ……」
尻すぼみに見送ってくれた彼女を背に、僕は、組み分け帽子とやらを頭にのっけた。
『オブライエン・A・クラレンス。……ふむ、悪くない。決して、悪くないぞ。偉大な魔女と心優しき男の血を継ぎし者よ』
不意に、帽子が言葉を放ちはじめる。
この考える帽子は、僕らの頭の中を覗き込み、僕らの資質とやらを見極めるという話だ。
『逆境に負けぬ強き芯、苦境に耐え抜く精神、無知に甘えない知識欲、それに……くっくっ、君の奸智とは高級な菓子を隠れて食べてしまう程度のものか? ふっふっふ。いや、どの寮に入れたものかな?』
…………。
『くっくっ、本人もどこの寮でもよくよくやっていけそうではある。いや、けれど、スリザリンだけは少し見方が違うかな?』
まぁ、あそこは、あまりいい噂がないからね……。
『残念なことだがね。さて、どうも私には決めきれない。おぬし自身はどうしたい?』
……なら、グリフィンドールがいい。
『ああ、グリフィンドール。それもいいだろう。しかし、他を選んだとしても、君にはそれぞれ別の未来が必ず開けている。その中で、どうしてこの寮を?』
それは、まぁ、母さんが在籍していた寮だから……。
『そう、そうだったな。ふむ、ならば、よかろう――――』
「――――グリフィンドールっ!」
組分け帽子が高らかに、そう謳った。
瞬間、四つの寮ごとにわけられたテーブルのうちの一つから、割れんばかりの歓声が響いた。
新しい仲間を歓迎するその声に、僕は思わず、頬を緩めた。
「ありがとう、組分け帽子」
『いや、構わんよ。なにせ、私は考える帽子なのだから』
*
そんなこんなで組分けは順調に進んでいった。
各々、自分が思っていたように寮にわけられていき、その度に受け入れ先から盛大な歓待の声があがる。
ハーマイオニーも、幸運なことに、僕と同じ寮へとやってきた。
そんな中、一人、空気が違う子もいたみたいだけど。
彼、ハリー・ポッターだったかな。聞いたことがある名前だ。
僕と同い年で、とてもとてもすごいことを、それも赤ん坊の頃にやってのけたって話を知っている。
そう、たしか、生き残った男の子だとかなんだとか――――。
追記:
読者様からのご指摘にて、組分けの描写の際、主人公の姓
ですが、そこを踏まえましても、加筆修正はいたしませんことを決めました。
当方の勝手な都合ですが、アルファベット順でなく、あいうえお順だと意識して、お読みください。
その意図を申し上げますと、こう、組分けに際し緊張するハーマイオニーが心細げに主人公を送り出す、というシチュエーションを当方自身が見てみたかったからです。
ゆえ、今回はこのようにさせていただきます。
勝手ですが、ご寛恕いただきますようお願い申し上げます。