ハイスクールD×D-Formal Abnormal- 作:素品
概要;十字軍遠征の際に司教より祝福された純金から成型されている。殴打に聖性を持たせることができ、腕を認められたエクソシスト支給される武装の一つ。
↑前回木場くんの顔面吹き飛ばした武器です。元ネタは映画コンスタンティン。
お久しぶりです。私です。PS4,3もあるのに今更.hack//をやっている作者です。でもvol,1からやってる所為で積みゲーににんる
なる予感
期間が空きましたが、再開してしまいます。
ということで、木場くんの心労マッハ回 目指せバルパ―中ボス昇格編
▼ ▼ ▼
晴れ渡った夜空に、半分の月が浮いている。
ぼんやりと輝く姿は、市街地の灯りに紛れて消えていく小さな星々とは違い力強く、暗い天外で確かな存在感と光を地上に示していた。
だけど、その在り方に寂しさを感じるのは何故だろうか。
他の星たちの光では、人たちが地上に敷き詰めた人工の光によって霞んで、うろんな闇夜と同化してしまう。
星というものを人の定義で喩えようとするのは馬鹿馬鹿しいことかもしれないが、届かぬ光、自身を魅せる光を届けられない様は、今の僕には酷く矮小に思えてならなかった。
そんな中にいて、月というものは毅然とそこに在り続けている。
他の誰もが空の向こうに追いやられている場所で、有史以前から依然として有り続けている。
その姿を『美しい』以外の言葉で表現することのできない語彙力の貧弱さに嫌気も差すが、この金色の光に眼孔の奥を貫かれる痛みは、そんなことを思考の果てに捨てさせるほどの華美で僕を呑み込んでいく。
だからだろうか。
他の何もかもがその光に呑まれて見上げる美しさで空の闇に浮かび、けれども誰も手を伸ばしたところで届きはしない、自ら影に身を落とすことも出来ずにただ在り続ける様は、強さ故の孤独に感じられる。
それは、悲しい。
きっと、哀しいことだ。
「―――おっ、いたいた! 悪いな、遅くなったわ」
後ろから、自分を呼ぶような声がする。
振り向けば、目を塞ぐように黒い包帯を巻き付けた男が人の良さそうな笑みでこちらに手を振り、病院から出てくるところだった。
「ありがとうな! お前のお蔭で"あの神父"、何とかなるってよ! マジで感謝感謝だ!」
「・・・・・・そうですか」
僕の右手を両手で掴んで上下に大きく振りながら、【教会の獣】こと、賽之目 双六は僕を讃えるような言葉を並べていく。
少なくとも僕には、フリードに襲われていた神父を助けるつもりはなかった。何より神父の傷も、僕の"顔"も治したのは彼の【中の者たち】だ。
そう何度も言っているのだが、向こうは頑として聞き入れず、挙げ句に"相手が勝手に恩に感じてる時は儲けと思え"、などと仄暗い処世術を吹き込んでくる始末。
いい加減、否定するのも疲れてきたというのもあり、されるがままにしている。
それにこの人の笑顔は、どうにも毒気を抜かされてしまう。
「そうだ、お前晩飯とか・・・・・・って、そういやぁ名前なんだっけ?」
上の前歯を見せるようなバツの悪い苦笑い。
根本的に互いが相容れない立ち位置ということを分かっているのだろうか。いや、この人の場合はそもそも気にすらしていないのだろう。
「・・・・・・裕斗、木場 裕斗です」
そして僕は、今の名前を彼に告げた。
◇ ◇ ◇
時間は夜の十二時を廻ろうとしている。
双六の提案によって、裕斗はかなり遅めの夕飯を摂ることになった。
本来こんな時間に何かを食べるというのは健康的ではないのだろうが、片や悪魔と職業悪魔狩りの二人だ。特に問題はないのだろう。
ただ、この時間で飲食店というのは限られたものとなるし、裕斗は未だ学生服のままである。さらに双六の容姿を一般人と捉えられるかどうか。先の病院でも包帯について『宗教上の理由』でゴリ押したらしいが、果たしてそれが万人に通じる筈もない。
自然と選択肢は限られてくる。
「ということで、カップ麺どれ食う?」
そう言って双六が裕斗に差し出しすカップヌードルが三つ。閉じられた蓋の隙間から、濃い薫りと共に白い湯気を漂わせている。
場所は移り、町内にある公園のベンチにコンビニにて購入してきた商品を挟む形で二人は座っていた。
ちなみにこのカップ麺の他に、オニギリやパック詰めの唐揚げと野菜サラダ、緑茶と缶ビールがコンビニの袋に入っている。
結構な量だが、双六曰く二千円以内に納めたとのこと。彼の中では一人頭千円という決まりでもあるのだろうか。
「じゃあ、シーフードを・・・・・・」
「んじゃあ、あとは"俺ら"が貰うな」
零さぬように三つの内の一つを裕斗に渡すと、双六は残った二つを手に取り片方を自身の胸の前にもってくる。
端から見れば奇妙な行動だったが、隣でそれを見ている裕斗がその行動の理由を知っていた。
だから、身構えずにはいられなかった。
脳が痺れるほどの緊張が走る中で、双六は自分の中にいる一体に語りかける。
「ほら、"喰っていいぞ"」
その言葉が言い切られる前に、カップ麺を持った手に"胸から噴き出した"『鋼のサソリ』が喰らいついた。
「ッ!?」
「あー、大丈夫だぞ? 甘噛みだから」
双六の腕ごと咀嚼する『サソリ』の姿に思わず立ち上がりそうになる裕斗だったが、当の本人はいたって呑気なものでカラカラと笑ってみせる。
これこそ双六が【獣】と称される理由だ。その身体の中に幾つもの化物を飼い慣らし、それらの体を使って戦う様から彼はそう呼ばれるようになった。
双六はその化物たちを【アラガミ】と総称している。
【アラガミ】、つまりは『荒神』。
大仰な名前と本人は自嘲しているが、裕斗からすれば人に厄災を振り撒く神の恐ろしい一面が"アレ"だというなら、それは的確な命名に思えた。
そう、思えたのだが・・・・・・。
「おい、そっちは俺の。待て、今喰ったろお前は、だから待てよ!? 俺はまだ一口も喰って、あっ、ああああああああ!?」
大声で食べ物の取り合いをしている様は、色々なものを台無しにされたような、途方もない疲労感が肩に凭れ掛かるようだった。
あとで聞いたことだったが、神父の足も吹き飛ばされた裕斗の顔も傷一つなく再生させた"翠の光"は【アラガミ】たちによるものらしく、彼らの細胞を一時的に植え付け活性化させることで、欠損した箇所を再構築させる際に発生するものらしい。
言ってしまえば、今こうしていられるのは彼らが居たからこそなのだろう。
「いい加減にしろよ"ボルグ"! おら、唐揚げ喰わせてやっからビールは俺に寄越せ。・・・・・・よし、取引は公平であるべきだよな」
一応の決着は付いたらしく、双六はビールを煽り、『ボルグ』と呼ばれたサソリは双六の腰から再び自分の尾針を伸ばして器用に唐揚げを口に運んでいる。
その光景は奇異極まるものであったが、頭を空にして見るならコミカルな掛け合いに頬が弛みそうにもなる。
だが異様は異様。
異常以上に異形が過ぎる。
「・・・・・・・・」
裕斗の心にこびりついているのは放課後での一幕。彼が他二人と来訪したときに見せた少女の悲痛な表情。
特異な出自である彼女が、この男の中に何を見たのかは分からない。だが、その片鱗が眼前にその様相を見せている。
・・・・・・どうすればいい?
現状、双六は裕斗に対して不気味なほどに友好的だ。悪魔や人間だというフィルターを廃して、彼は眼前の相手をそのままに相対する、信仰や思想といったものに染まらない稀有な種別のタイプなのだろう。
「・・・・・・い?」
だから、裕斗は余計に双六を警戒せずにはいられなかった。
人を信じるということは人間関係構築において重要なテーマとなるが、ときには致命的な隙となる。
つまりはこの状況で、露骨な善意を振り撒く人間ほど信用すべきでないということ。
「おー・・・・・・いてる?」
どうすればいいか、裕斗は思考する。
この男を、どこまで信用するべきか。信用できるのか。その配分と裁量を、今ここではっきりすべきだろう。
そう、いざとなれば双六との血戦さえ想定し―――
「"オウガ"、甘噛み」
突然、裕斗の周りが暗転する。
何事かと顔を上げようとすると、すぐに後頭部が何かにぶつかった。妙にぶよぶよしていて、ぬるりと濡れた感触に包まれている。
頭に何かを被せられたのだということは直ぐに判ったが、それが何なのか判別できない。
いやむしろ、考えたくないというのが本音なのかもしれない。
唸りのように響く空気の鳴動、人肌程度の生暖かさを含んだ風、暗がりに慣れてきた目が最初に捉えたのはピンク色の肉々しいナニカ。
もしかしなくとも、生き物の口の中だった。
「戻ってきたか?」
数秒後、解放された裕斗が新鮮な空気を吸い込むと同時に自分を覗き込む者と目があう。"右目の無い"新たな怪物が一匹、白い頭殻に剥き出しの歯、サイの角のように鋭く伸びた二本の牙を持つ化物が双六の肩から生えていた。
「なんか難しい顔してっけど、さっさと食わねぇとラーメン伸びちまうぞ?」
まさかそんな理由でこの怪物を嗾けたのか、と思わずその笑顔向けて吐きつけそうになるのをグッと堪え、堪えた分だけの二酸化炭素が肺の奥から堰をきって溢れだす。
・・・・・・もう真面目に構えるのが馬鹿らしくなってくる。
様々な諦めと双六の勧めのままに蓋を開けてカップの麺を啜り込む。所詮はジャンクフードと思う節はあるが、空腹と雨で冷えた体には最高のご馳走にも感じられた。
それから暫く言葉はなかった。
食べ物の咀嚼する音と、二体の怪物が双六のビールを奪おとするに抵抗するドタバタ音だけが響き、裕斗はそんな様を横目に食を進めていた。
「・・・・・・なぁ、木場くん。食いながらでいいから聞いて欲しいことがあんだけどよ、あぁ、今回の"相手連中"についてだ」
騒がしい沈黙の中で切り出されたのは、幾分か固さを含んだ双六からの情報提示。
カップのスープを飲み干し、双六へ向けて視線を動かす裕斗に語りだす。彼が言うには、意識の戻っていない神父が譫言のように呟いていたことがあるらしく、今から話されるのはそれについての推論だった。
「アイツが言っていたのは、『聖剣』『実験』『錬金術』、・・・・・・先遣隊の連中が全滅したこと。そして、やったのは―――」
「・・・・・・《バルパー・ガリレイ》」
知ってるのか、と驚きの色を含んだ調子で聞き返してくる言葉に返事をせず、裕斗は空になった容器の底を虚んな目で覗き見る。
バルパー・ガリレイ。
教会が保有する錬金術師の中でも群を抜いた才を持つ男。
冶金や生体に関する研究を専門とし、医術、神秘学、人工生命にも精通する様と、ある"趣向"から【
彼は有名だ。
その悪名は教会の歴史に黒点のごとく、燦然と穴を穿ち空けた。
「『聖剣計画』のことは、よく知っています・・・・・・」
苦痛を刻んだ声で裕斗が告げた言葉に、双六は途端に顔をしかめた。
教会の闇の象徴と言える大事件。神に仕え、信仰の守護者たるべき者たちが血で染め上げた地獄の底のような所業。幾重にも折り重なり、積み上げられた死体が弔われることもなく灰にされた狂気の実験。
四年前に終止符を打たれたそれは、今も教会の人間たちの記憶に色濃く残っている。
「聖剣、錬金術ときたら、あの男しかいないでしょう・・・・・・」
裕斗はよく知っていた。
その恐怖と暗闇を。
よく知っている。あの惨状を、誰よりも近くで見てきたのだから。
「確かに、聖剣と錬金術とくればあの爺さんしかいないだろうな。だけど、だからこそ不可解な点がある」
「? 不可解、何がです?」
「なんで今更に、聖剣なんてもんに手を出したかってことだよ」
対して双六は裕斗の意見に至極全うに肯定したが、新たに疑問を出してきた。
それこそ今更というものではないだろうか。
バルパーという人間の噂を端的にでも聞いたことがあるならば、その性癖と偏執性は知られているはずだ。
曰く、聖剣狂い。
聖剣という存在は、どんな人間であろうと多少なりとも興味を惹かれるものだ。そんな中で、バルパーの聖剣に対する執着は常軌を逸していたという。
学者、研究家というのは大小なりにどこか正道を外れた思考をするものというのは、偏見を抜きにしても在るものだ。
だからといって、『皆殺し』とまで呼ばれるのは、彼くらいなものであろう。
だから、彼は教会を追われることになる。
否、自ら逃亡を謀り、そして逃げ切った。
道すがらに迫りくる追っ手の尽くで足下を赤く染め上げながら、彼は行方をくらますことに成功する。
そんな彼が聖剣を盗み出すことが不可解か。むしろ、自然と言うべきではないだろうか。
なんの隔たりもなく、気兼ねなしに聖剣を思うままにできることは、この上無い至福の瞬間であることが容易に想像できた。
裕斗の疑心に満ちた視線を受け止めながら、双六はどう答えるべきか思案するように『オウガ』の喉を撫で上げ、暫くしてこう答えた。
「バルパー・ガリレイは、現存するあらゆる聖剣に欠片も興味を持っていない」
―――――――――えっ?
「・・・・・・十数年前に、一度向こうから訪ねてきて話す機会があったんだ。そん時に散々聞かされたよ、
思考が凍結する裕斗を横目に捉え、敢えて畳み掛けるように双六は言葉を紡いでいく。
「"第二次"聖剣計画。ヤツが『皆殺し』の忌名を付けられる実験も、教会の一部の上層部が、バルパーの研究に痺れを切らして強要したものだったらしい」
双六の内で黒いモノが渦を巻く。
おおよそではあったが、隣に座る少年の正体に彼は勘づき始めている。少なくとも、生まれついての悪魔ではない元人間の転生体、加えて教会に近い所にいた子供であるということに。
後は連想ゲームだ。
「本来、聖剣計画はバルパー・ガリレイだけのものだった。そこに教会が乗っかる形で今の形になった」
これを裕斗に伝えることに意味があるとは到底思えない。この真実が彼にとっても、これからのことでも益になるはずがない。
それでも伝えようと思ったのは、今から向かい合う相手がどういう存在であるかを知っているべきだと思う、双六の
殺し殺されるだろう相手を、ただ殺し殺されるだけにしたくない。
所詮は身勝手な自己完結。
けれども、それを忘れてしまえば、きっと人は本当の意味で【獣】以下に成り果てるのだろう。
「聖剣計画の本当の目的、バルパーがやろうとしていたのは"聖剣の創造"。神の力を介さない、人間だけの為の、自分の為の聖剣を造り出すことだった」
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「・・・・・・そうか、ヤツが来たか」
ボロボロの姿になって帰ってきたフリードの報告を受け、老人が一人物思いに耽る。
懐かしむように、頬に笑みを浮かべながら。
「ならば、備えよう。万全を持って迎え討とう。お前と違って、儂は脆い老い耄れだ」
人が倒れている。
五人、六人。
糸を切り離された人形のように、さっきまで生きていたであろう死体が、屈強な男たちが作り物のごとく五体を投げ出して転がっている。
赤い円陣、無数の英文字、幾何学模様と二体の絡み付く蛇、漠然としているようで理知整然と床に描かれた『錬成陣』の上で老人は空の見えない天井を仰ぎ見た。
「懐かしいな、【
左手に《赤い石》を転がしながら、賢老は静かに歩み出した