ハイスクールD×D-Formal Abnormal-   作:素品

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からくりサーカス読んでるとジョージの所で必ずジョージィ!!となる私です。

新連載、マジですか藤田先生

ということで、山なしオチなし小猫さんビビらせて終わり回

4月24日 最後の会話が気に入らなかったので変更しました



第二話 親しくない仲にこそ礼儀あり

駒王町。そこは悪魔が統治する土地である。

 

領主はルシファーを輩出した血族のリアス・グレモリー。十代にして上級悪魔として眷属を従え、その愛情を持って駒王学園のオカルト研究部にて、まさしく悪魔的な平温を享受する少女だ。

 

そんな彼女の元に、おそらくその半生の中で最大級の厄介事が舞い込んできた。

 

「先日『聖剣』が三本、カトリックとプロテスタント、そして正教会のそれぞれから奪われました」

 

犯人が逃げ込んできたのは日本、そしてここ駒王町に潜伏しているということだった。

 

それを奪還、及び破壊を命ぜられて遥々やってきたのは三人。内二名のシスターは『破壊』と『擬態』の権能を埋め込まれた聖剣を携えてだ。

 

只でさえ悪魔と教会の組み合わせは最悪、しかも教会にとっての最上兵器の聖剣が自分の領地に四本もある。気の遠くなりそうな自分を無視し、挑発とも取れる言動でこちらを刺激、果てには眷属、アーシア・アルジェントに救いと称して聖剣を突き付けるシスターに、一人の少年が叫びそうになったとき、それは動いた。

 

「い い 加 減 に し ろ !」

 

鈍く、それなのにやたらと大きく響く、とびっきりの拳骨が聖剣を持ち出した少女、ゼノヴィアの脳天に稲妻の如く落とされた。

 

「な、何してるんで シュギャ!?」

 

「お前も同罪だイリナ! 自分たちに任せろっつーから黙ってたが、俺たちが如何に厚顔無恥で年齢一桁ばりの我儘言ってんのか分かってんのか? なのに、好き勝手喋りやがって、聖書読む前に自己啓発本片手に社会常識を学べアホ」

 

その場の全員が驚きに目を剥く中、黙していた目に包帯を巻いた男が、動かなくなったゼノヴィアに溜め息を吐きながらもう一方のイリナにも拳骨を落とし、くるりとアーシアの方に向き直る。

 

「悪いな、アルジェントさん。馬鹿みたいな話だけど、これでも悪気はないんだよ」

 

苦笑、引き笑い、不祥事を起こした時の大人のような引き攣った微笑()みを浮かべて、男が皆に頭を下げた。

 

アーシアは、元教会の人間だ。

 

暗い面を覗くことのない、敬虔で善良な信徒としてのみの側面ではあったが、如何にその場所が悪魔を毛嫌いしてるかは爪の先程度でも知っていた。だから、ゼノヴィアの行動も受け入れられないながらも、そういう態度を取られることに理解はあった。

 

だが、この包帯男の行動はまったく予想の範囲外だ。

 

悪魔という存在を忌避し、嘲り、排除しているのが教会であり、その神の意思の執行者である祓魔師が、悪魔に身を堕とした者に頭を下げるなど前代未聞。

 

異様な光景であり、まさに異常であった。

 

「リアス・グレモリー様」

 

「! 何かしら?」

 

「此度の教会の不始末、それに加えて当方らの礼を失した態度に不遜極まる言動、何よりも貴女の眷属へ独善的な思考にて刃を向けたこと、申し訳ありませんでした。そして、アーシア・アルジェントを救っていただいたこと、感謝の言葉もございません」

 

もう何もかも常識外れだ。

 

目の前の現実と頭の中の当たり前が火花を散らし、ニューロンそのものを焼かれていくような痛みがズキズキと苛んでくる。

 

「あなたは救ったと言うけど、アーシアは悪魔になってしまったのよ?」

 

「いやいや、こちらも"情報"は受けてます。野良(はぐれエクソシスト)の始末は明らかに此方の不手際ですし、彼女をどういう形であれ、救済してくれたのは貴女たちだ。地べたに頭擦りこそすれ、事を構えようなんて思いませんよ」

 

「・・・・・・・・・あなた、本当に教会の人間?」

 

「これでも司祭の資格持ってますよ? 説教壇に登っても身内しか来ないという地獄を見ましたけど」

 

「?」

 

「あれですよ、めっちゃ練習した初ライブで観客が一人も居ないのでもキツいのに、逆に出ていったら母親が一人最前列で応援に来ていたみたいな、そんな地獄でしたよ」

 

まさかの初対面、しかも年下に黒歴史を晒すという自爆ギャグを繰り出し虚ろに笑う男だったが、リアスら悪魔勢には難易度が高いらしく、男が何を言っているのか理解できていない。しかし一人、彼の悲惨な体験に共感できた少年が居り、瞳に涙すら溜めて同情してくれていた。

 

そんな奇妙な因果が結ばれつつある中、リアスは苦悶に蟀谷を抑える。

 

貴族の出であり、若くして多くの眷属を抱える彼女でも目の前の男は初めてのタイプだ。教会という超差別的偏見武力集団でも、間違いなくこの男は異端も異端だろう。だからといって悪質には見えないし、三人の中でも一番発言力を持っていそうでもある。利用できそうではあるが、下手なことをして逆上されるのは御免だ。

 

どうしたものか、大きく溜め息を吐くリアスに対して、男はまだ墓穴から脱出できていないのか自虐的な笑いを咲かせている。包帯で顔の半分は見えないというのに、表情豊かな男だ。

 

ちらりと自身の眷属たちに視線を走らせれば、皆が似たような顔をしている。困惑、未知との邂逅、後頭部を豆腐で殴られたような、とにかくどうすればいいか判らない、といった感じ。

 

だが一人、他とは違う者がいる。

 

視界の隅、部室の最奥で自分を細い腕で掻き抱く真っ白な少女が、まるで溺れる際にいるような形相で孤立している。

 

「小猫?」

 

「っ!?」

 

白い髪の小柄な少女が、在り得る筈のない化物に囲まれたように顔を青くし、呼び出したリアスを視界に映すと、撥ね飛ばされたように駆け寄り影に隠れた。

 

呆気に取られる彼女の服を必死に掴み、明確な恐怖を震えと共に布地を通して伝えてくる。

 

それでも彼女は一点から視線を外そうとしない、外せないでいる。

 

歯鳴りを響かせながらも、泥沼に嵌まったようにそれを凝視するのは、逃げられない絶望に対し少しでも正気であろうと抗っているからであろうか。

 

「ねぇ、一つ聞くけど、いいかしら?」

 

「あぁ、別に構いませ―――」

 

「その包帯の下は、どうなっているの?」

 

心が裏返っていくのが分かる。

 

さっきまでの評価も第一印象も全て廃棄し、改めて眼前の男を見定める。

 

主の変化に気づいた他の眷属たちが小猫と呼ばれた少女を見つけると、連鎖するように構え始める。状況こそ飲み込めていないが、どうしてそうなったのかは馬鹿でも察しがつく。

 

先までの曖昧でグダグダな雰囲気が消え、場の空気は一気に冷え込んだ。

 

これに一番慌てたのは、間違いなくこの男だ。

 

後輩二人から主導権を奪った瞬間から、適当なことを並べながら"なぁなぁ"な感じに流してやり、最終的にこの町で行動する認可を取り付けるだけの算段をつけていた。計算違いがあったのは、自分の『中身』に感づくような者の存在に気づけなかったこと。

 

男の拙い誤魔化しなど効きはしないだろう。元々、考えてることが直ぐに顔に出る(たち)である彼の口先三寸の三文芝居が通じるわけもない。

 

どうする? どうすれば、この状況を脱することができるだろうか。

 

顎に手を当て思考する仕草をしただけで次の瞬間には剣の二三本は突き刺さりそうな緊迫感の中、男は考える。

 

といっても、剣の二三本程度なら"何の問題もない"ので、あくまでも気楽にだが。

 

「えーと、何か誤解があるみたいですけど、この包帯は言ってしまえば矯正眼鏡みたいなもんで―――」

 

「この人の名前は賽之目 双六。【(ビースト)】って言えば、あなたたち悪魔の間でも有名でしょ?」

 

悪魔たちの息を飲む音が聞こえた。

 

その原因、必死に誤魔化そうと策を巡らせていた男、賽之目 双六の努力を情け容赦なく溝に投げ込んだのは、むくれたように目を吊り上げる紫藤 イリナだった。

 

◇ ◇ ◇

 

「追い出されちまったじゃねーかー!」

 

未だに起きないゼノヴィアを背負った双六と、布包みの聖剣を抱えたイリナが市街地の中を歩いていた。

 

「五月蝿いわよ、この悪魔崇拝者!」

 

「何でそうなる!? 伊達に化物飼ってねぇけど、魂の切り売りするまで困窮してないわ!」

 

「あなたの二束三文にしかならい魂なんてどうでもいいわよ! なら、何で悪魔にあんな義理立てるの!?」

 

「あっち頼まれる側でこっちは頼む側!! どっちが上か下かなんて明白だろが!」

 

「それがどうしたのよ! 相手は悪魔でしょ!?」

 

「本気で言ってんのか?! それくらいの分別もつけられねぇとか、お前社会に出たらどうするつもりだよ!?」

 

「余計なお世話よこの社畜!!」

 

「謝れ! 俺にじゃなく全国のお父さん、お母さんたちに全力で土下座しろこの親不孝者!!」

 

ワーワーギャーと天下の往来で騒ぎ立て、かつて海を割った奇跡のごとく人波が開かれていく。

 

火が点いてしまった口論は止めどころを忘れ、白いローブ姿の女の子と黒い包帯男という奇妙極まりない光景を作り上げていた。

 

「・・・・・・すご、ろく?」

 

「おっと、起きたかゼノヴィア」

 

そんな二人に水を差すように、背中で身を捩りながらゼノヴィアが意識を覚醒させる。

 

今の状況が理解できていないのか、寝惚け眼(ねぼけまなこ)で双六の背中に額を擦り付けている。

 

「とりあえず、お暴れの許可は貰ったよ。追い出されちまったけどな」

 

「・・・・・・双六」

 

「どうした?」

 

「何故あのとき、私を止めたんだ?」

 

微睡み(まどろ)から抜けきらない声音で、ゼノヴィアがそう問いかけた。

 

あのとき、ゼノヴィアが救済と称してアーシアに聖剣を向けたときのことだ。

 

彼女としては悪魔に身を堕としても信仰を忘れないアーシアを救う意味合いでもあったからか、それを止められたのが納得できないでいた。

 

「彼女はとっくに救われてるよ。お前のは要らぬ気遣いってやつだ」

 

そんなゼノヴィアに対し、双六はあっけらかんと努めて明るく答えた。

 

「神の愛を捨て、悪魔になることが救いだというのか?」

 

「救いの尺度は人それぞれだろ。神の許しがお前らにとっての救いなら、彼女の幸福は新しい仲間との絆なんだよ。見ただろ? 大切にされてるよ、彼女は」

 

「他者に友愛を求めれば《聖女》は終わる。そんなものに、神を捨てるだけの価値があるのか?」

 

「その《聖女》ってのは、あの娘が望んでなったもんじゃないだろ? どうせ上の連中が仕立て上げたプロパガンダだろーがよ。・・・・・・マジでブラック企業だなオイ」

 

疲労、諦感、大人の真っ黒な裏事情を思い出し盛大に長々と息を吐き出す双六だったが、イリナとゼノヴィアは狐につままれたような顔で見ていた。

 

それは正しく、価値観の違いだった。

 

二人にとって未知と異様に満ちた裏話は、彼にとっては身近なもの。

 

人の闇。世界の闇を、人並み外れた場所で、人並みから外れている彼は見てきた。よっぽど、"この世の裏"というなら彼はその象徴の一人と言ってもいい。

 

だから、そういう時の対処の仕方は知っている。

 

今回の事件こそ、その締め括りなのだから。

 

「まっ、あれだよ。何が大切かを決めんのは当人であって、他人が口出すな、って話さ」

 

そう言って、双六はケラケラと笑い飛ばす。

 

他人は他人、自分は自分。その隔たりを必要以上に越えようとせず、かといって視界を掠めれば庇いもする。

 

正義漢ではない、言うなれば身勝手なヤツ。だが、人間らしい考え方をしている、それが双六の人間性であった。

 

「双六、降ろしてくれ」

 

「ん、もう大丈夫なのか? 殴った俺が言うのもアレだけど」

 

「いや、私も異性に尻を鷲掴みにされているのは初めてでな、流石に気恥ずかしい」

 

「・・・・・・双六?」

 

「待て、誤解だ。誤解しかないぞイリナさん。誓って言わせてもらうが、他意も下心も存在しない。決して私利私欲の為にやったことでないことを信じて欲しい。まず俺にとって女子高生はストライクゾーンから大いに外れているし、敢えて告白するなら俺は女性の尻よりも『ヘソ』に小宇宙(コスモ)を見る男 って、待って、聖剣はマズイッてばマズッ いやぁぁあああああああ!!?」

 

「いいから降ろしてくれないか?」

 

見ようによっては微笑ましくもある彼らを、沈みゆく太陽の橙色が照らし出していた。




小猫さんの初期スペックには多分な自己解釈が含まれます

なんというか、私的にwikiの身体スペックを見ると色々と数字的に大丈夫なのかと思ってしまうキャラです。もはやエゴですよあれは

あと、イリナさんの項目に『本作のヒロイン』という難解な一文を見つけ、三度見くらいしてしまいました。

批評、感想お待ちしてます

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