ハイスクールD×D-Formal Abnormal-   作:素品

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ノリと勢いでやると失敗することを学び早八ヶ月。懲りない私です。

今作は女の子とのイチャイチャをガッツリ減らし、萌えより燃えを優先しており、基本的に作者の趣味全開です。

簡潔に表現するなら、ギャスパー君が雄叫びを上げながらガンダムを素手で殴り潰す、そんな感じになります。

ちなみに作者は奈須と正田卿とNitro+に影響受けまくってます。

ということで、始まり始まり回


prologue
幼年期の終わり


『ソレ』は震えていた。

 

黒くて、真っ黒。形という形を成せていない、落ち葉の裏を返したように蠢く住人たちよりも、より矮小で弱々しい物体。

 

だが、『ソレ』には知性が感じられた。

 

よく見れば判る。何かに成ろうとしている。

 

小さな『手』を動かして、細い『足』をばたつかせて、藻掻くように肺呼吸を繰り返しながら、ただただバタバタと全身運動を続けている。

 

歩き方を忘れたのだろうか?

 

 

 

 

 

『ソレ』はひどく、不自由に見えた

 

 

 

 

 

話し方を知らないのだろうか?

 

 

 

 

 

『ソレ』は必死に、何かを訴えているように見える

 

 

 

 

 

泣き方を、知らないのだろうか?

 

 

 

 

 

泣き声は響くのに、『ソレ』は涙を流せていなかった

 

 

 

 

 

 

ひどく、悲し気に見えた。

 

ひどく、狂っている。

 

ひどく、憎んでる気がする。

 

ひどく、馬鹿馬鹿しくなっている。

 

ひどく、無様だ。

 

もうどうしようもないのに諦めきれていない。

 

何かが足りないのだ。

 

足掻く為にも、抗う為にも、怒りに身を任せる為にも、吼える為にも、思い出す為にも、歩き出す為にも、生きる為にも、足りない。

 

見限る為に、殺す為に、滅ぼす為に、"喰らう"為にも、何もかもが足りない。

 

 

 

 

 

―――あなたも、独りぼっち?

 

 

 

 

 

赤い手が、小さな『ソレ』を包み込んだ。

 

暖かな温度と花のような甘い香り、柔らかな肉の触感が、かつての営みを想起させられ、頭の先から呑み込まれて溺れていく感覚は安心に近い感情を齎した。

 

腕の中で暴れる『ソレ』を尚も愛し気に、決して離れないようにと、もう離さぬように抱きかかえる。

 

それは何処か、麻薬のようだった。

 

 

 

 

 

―――今日から私が、あなたのお母さんよ?

 

 

 

 

 

真っ赤な子供の血で濡れた腕は、尚も慈しむように、抱き締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・年貢の納め時、だな」

 

人は光の中に居ようとする。

 

例え他人を押し退けてでも、執拗と言っていいほどに安寧のような、安らかで暖かな居心地のいい場所を求めている。

 

そんな癖して、光の中で在り続けようとするのに、その光が強すぎれば逃げるように影の中へと潜り込んで堕ちていく。

 

この世界は、酷く単純なわりに複雑怪奇な二つの事で完成されていた。

 

"奴ら"はこの世界を、そう造り上げた。

 

息を吹き掛けられるくらいに感じられる夜の闇が包み込む。それでも、人間の繁栄の象徴とも言える人工の灯火が、辺りを埋め尽くすビル群にその身を反射させ、空に瞬く星々の儚い光を塗り潰し、深まる夜の中で終わりを見せない喧騒を照らしていた。

 

金も、物も、数知れぬ数多の命の営みも、総てが見えぬ一秒先の破滅に過ぎ行く一秒前の己を思い踏破する。善を志す者も、悪を敷く者も、栄華と衰退の繰り返しを飽きもせずに重ね積み上げる。それらは日常であり、ありふれて掃き捨てるような当たり前、それなのに貴い、薄氷のような精緻さと輝きが溢れる世界。

 

見果てぬ、もしくは既に見飽きて忘れ去ったであろう未知が零れて溢れる光景を高層ビルの吹き荒ぶ風に感じながら、男は眼下の世界に今回の獲物の姿を据えた。

 

光の届かぬ極所。人の見地も至らぬ、陰鬱な底辺。聖職者さえも見放し、目を背ける底の抜けた奈落の深淵。

 

泥と吐瀉物、排ガスに脳幹を犯す腐敗した生き物たちの臭気が蔓延した、街の裏。美麗な絵画の裏地に隠された汚点。

 

そこをひたに這いずり、逃れようとする異形が一匹。

 

「さて、行きますか」

 

男は何の躊躇いもなく、ビルの屋上から飛び降りた。

 

◇ ◇ ◇

 

ズルズルと、本来なら肉の内に納めておくべき(はらわた)が塵の転がるコンクリートに引き摺られ、ピンクの欠片と深紅の血漿を撒き散らしながら童話のパンクズのようにその道行きを押し付けていく。

 

彼は逃げていた。自分を追いかけ、追い詰め、右半身を"喰い千切った捕食者"から。

 

刻一刻と勢いを失って、暗雲な光りの陰りに自身の命の炎が焼失していきながら、それでも"死ねない体"に冷えていく脊髄の感触が自分の限界を囁いていく。

 

「チクショウ!? せっかく自由になれたのに・・・・・・、何もかもから解放されたのに!! それなのにっ!?」

 

不意に視線が上空に跳ね上がる。

 

その男は地面より遥かに離れた高所から、こちらに目掛けて落下している。

 

笑えてしまえるほどにシュールな光景であったし、そのままセルフで死んでくれるならこれ以上ない幸運であろうが、脚を畳むように墜落の衝撃を分散し、事も無げに男は着地してみせる。

 

男が眼前数メートル先に立ち塞がった。

 

「なんだよ・・・・・・、俺が何をしたってんだよ?」

 

声が震えだす。意識せずに奥歯が鳴り始める。

 

男は無言だった。目の前の重症ではすまない大怪我を相手に、異常と言える程に男は平静だった。

 

「確かに、俺は『神』の教えに反したことをした。だけどよ! やれ禁欲だ、『神』のためだ、『神』の御意志だとか何とかそればっかりだ・・・・・・。そればっかりなんだよ!! 俺は何だ? 俺は俺だ! 顔も姿も見たこともねぇ野郎の道具じゃねぇ!?」

 

赤黒い液体の混じった唾液と共に瀕死の男は叫び、落涙させながら己が身の非業を切に訴える。例えそれが、的外れな逆怨みであったとしても。

 

「だから俺は『悪魔』になったんだ!!!」

 

瀕死の男の体は、すでに人間として範疇を超えていた。

 

軽自動車を軽く上回る体躯に、白い紙のように脱色された病的な肌は、蛆が蠢くかのように隙間なく痙攣し引きつりを起こし裂傷を作っては流血箇所を増やしている。上半身こそ、右肩から下が"削げている"ことを除けば、まだ人間としての形をなしていた。だが腹部から下には、幾つもの人間の頭部が貼り付き、まるで木の根のように、何かを求めるように骨のごとく節くれだった腕を暴れさせている。

 

 

 

 

 

―――はぐれ悪魔(バケモノ) アダム

 

 

 

 

 

醜悪かつ幼稚、それが男の正体だった。

 

「なのに、口を開けば契約契約、そればっかだ! 悪魔は欲望に忠実で快楽に溺れる屑共じゃなかったのかよ!? これじゃあ、"俺たち人間と何も変わらねぇじゃねぇか"! ウザッてぇ、ウゼェんだよ、糞悪魔が理性を語るな!! だから、殺したんだよ。新しい主様を! もう俺を縛るもんはねぇ、神だろうと悪魔だろうと俺の自由を邪魔するヤツは残さず皆殺しにしてやるんだよぉ!!!」

 

興奮したような絶叫で喉を震わせながら、しかし勢いを増して噴き出す血液も気に止めずアダムは笑う。

 

楽しげに、狂ったままに、陰惨な嘲笑で頬を引き裂き尚も笑った。

 

もはや後戻りも出来ない自分の姿に、アダムは笑った。

 

「三十八人」

 

「あん?」

 

「あんたが拉致し、遊び半分に玩具にして、喰い殺した女性の数だよ」

 

ここに来て、アダムの前に現れた男が口を開く。

 

そこから語られた内容はあまりにも凄惨極まりない猟奇な悪行であり、ここに彼ら二人以外の人間が居れば誰もが閉口し口を抑えるであろう最悪なものであった。

 

だが男の声には理不尽な殺戮に対する怒りではなく、場違いな同情の色が滲んでいた。

 

「へぇ、三十八か。意外と少ねぇな」

 

「足りねぇか?」

 

「あぁ、足りねぇな。テメェも、そんなことを訊いてどうする気だよ? まさか俺の右腕喰っといて、ただで済むと思ってんのかぁああああ!!?」

 

アダムの左手の一本一本が境の部分から縦に裂けていき、別れた指は肥大化、巨大な百足のような姿へと変貌し、唾液の代わりの血を吐きながら生え揃った牙を男に突き立てようと素早い動きで迫る。

 

「別に、どうするかは最初から決まっちまってんですよ」

 

圧倒的な力と生理的嫌悪感を加速させる現状に対し、それでも男は動じずに迫る悪魔の徒党にじっと視線を据える。

 

悠然と大胆不敵に、それでいてぶっきらぼうに、加えてどこか哀れむような色を乗せて、言い放つ。

 

「同情はするよ。あんたは運がなかった」

 

襲い掛かる巨大な害虫を、上体を逸らすのみで手早く躱すと共に、男の"左目が蠢いた"。

 

 

 

瞼を掻き分けながら現れるのは、"黒い触手"。

 

 

 

粘液質でコールタールのように泥々と溢れだしたそれらが、瞬く間すらなく片手分の百足たちに絡み付けば、まるで捻切るように手繰り寄せ、遅れて形成された"漆黒の(アギト)"の中へと次々に引き摺り込んでいく。

 

自分の身を裂いて造り上げた百足たちが皆一様に咀嚼されるのを、目を剥くきながら立ち尽くすアダムが次に見たのは、喰い殺すはずだった男の眼孔から這い出てくる金色の球体、それを中心に纏わりつくように形となっていく一本の兵器。

 

最初に刃、次に砲口、堅牢な盾が追加され、最後に柄が顕れれば、遂に完成する。

 

 

 

無骨で巨大、それはクロガネ色の銃剣だった。

 

 

 

「シッ!!」

 

僅かな駆動音を響かせながらに短く呼吸、吸引した酸素を糧に男の体が前へ弾かれる。

 

呆けたように動かぬアダム目掛け一息に接近、スレ違い様に胴体を両断し、斬り離した半身が地に落ちるより早く残された下半身に向けて躊躇いなくトリガーが引かれる。それに反応し放たれた一陣の熱波が、瞬く間にアダムの下半身を焼き払った。

 

「・・・・・・ちくしょう、最後の最後で、お前みたいなヤツに目を付けられる。せっかく人間も辞めたってのに、どこまで最悪なんだよ、俺の人生は、よぉ」

 

悲鳴と奇声をあげながら燃えていく自分の半身を視界の隅に見ながら、静かに歩み寄る男の方に首を転がして見る。

 

達磨にされ、地面に横たわる無様な姿を晒しながら、どこか安心したかのように近寄る自らの死期、空っぽになった左目の代わりに右目の眼球らが自分を見据えるのに、アダムは息を吐いた。

 

「・・・・・・なぁ。お前、神に祈ったことあるか?」

 

「どう見えます?」

 

「まぁ、優等生には見えねぇな」

 

肩を竦めるように答えた男に、アダムは笑い混じりに冗談を返した。

 

さっきまで殺し合っていたというのに、二人の間に流れる空気には微塵の緊張も、悪意も存在しない。

 

声だけ聞くなら、珈琲でも片手に持ちながらの談笑にすら聞こえてくる。

 

「そう言うあなたは、優秀だったらしいですね」

 

「あぁ、唯一の自慢だ。それも今じゃあ、この様だ」

 

「人間、どうなるか分かんねぇもんですよ」

 

「お前が人間語んのかよ。俺より化物らしい化物じゃねぇか」

 

「一応は人間のつもりですよ。これでも、ですけど」

 

既知の友人のようにアダムは笑ったが、男は困ったような苦笑を浮かべながら足下に転がるアダムに目を細めた。

 

救済はない。

 

神はそういうものだ。

 

人の届かない所で人を愛でながら、彼は何も与えない。

 

それなら代償有りでも物を与え、さらに甘えさせてくれる悪魔の方がまだ魅力的に見えてくる。

 

これは当たり前で当然のことであり、当然の報いをもって終わる寸劇に過ぎない。

 

「何か、遺すことは?」

 

これで最期だ。

 

あとは死に逝くのみの彼の喉に剣先を置きながら、男が静かに問い掛ける。

 

死後に救いはない。

 

ならば、聴かねばならない。

 

彼の悔い、未練、やり残したことを。

 

「・・・・・・なら、この世界を作った奴に言ってくれ。『死に腐れ』だ」

 

突き刺す。

 

深く、深く、痛みすら感じぬ間に命を狩り奪い、自らの糧にする。

 

哀れな悪魔にも不相応の大振りの剣をもって、巷を賑わせた連続猟奇殺人は終結されたのだった。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

男は懐から携帯端末を取り出し、ロックを解除する。

 

上役への連絡するためだったが、上司の番号を押す前に呼び出しの音が鳴り響き、画面一杯に通知を示すアイコンが表示される。

 

表記された登録名は、【サイクロプス】。

 

「・・・・・・取り敢えず、伝えとくよ」

 

通話状態にした携帯を耳元で構え、向こうにいる存在に向けて、男は言い放つ。

 

相手の嗤い声が聞こえてくる。

 

今まさに男が言う言葉も、そいつにとっては享楽のネタでしかないのだ。

 

 

 

 

 

「『死に腐れ』、この糞野郎」

 

 

 

 

 

世界が始まる。

 

新たな物語。

 

演者が叫び、【転生者】が歩み出す。


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