灰と幻想のグリムガル 聖騎士、追加しました 作:2222
オルタナからダムロー旧市街までは、だいたい一時間ぐらいかかる。
町の外から様子をうかがい、朽ちかけた建物の中に全員隠れてからハルヒロが偵察に出ることになった。
盗賊だからという理由で偵察に出ているけど、実のところまだスキルをあまり覚えてないので、ぶっちゃけただの一般人と変わらない。
いや、森の中でユメと泥ゴブリンを探し回ったから、少しはマシかも。
多分、マシ。言い聞かせながら、ハルヒロは瓦礫の山を迂回しそっと壊れた家屋を覗くと、いた。
半分崩れた塀に背をもたせてゴブリンが一匹、寝ているようだ。
泥ゴブリンよりも少し体格が良く、衣類も身に着けてる。
肩から袋をかけていて、アレはゴブリン袋といい、財産なんかが入ってるらしい。
気が付かれないようにそっと戻り、みんなに報告する。
「よし、やろう」
マナトがまじめな顔をして頷き、全員の顔を見渡した。
「モグゾーとアイラはどうしても音が出ちゃうから、俺とハルヒロ、ランタで近寄る。接近できたら三人で息の根を止める。四人は少し離れて囲んで、シホルとユメはもし起こしちゃったら弓と魔法で遠くから狙って。アイラとモグゾーは急いで前に出て」
みんな頷く中、アイラが何か言いかけて、少し遅れて頷く。
「どうかした?」
「・・・・・・大丈夫。ちゃっちゃと済ませよう。リーダー」
何度か音を立ててしまったものの、なんとかゴブリンのもとに辿り着き、ランタがゴブリンを刺しマナトが絶命するまでショートスタッフで攻撃して倒すことができた。
ランタがゴブリンの顔を覗き込み呼吸を確認し、マナトが目を瞑って六芒を示す。
モグゾーとユメ、最後にシホルが入ってきている最中にランタがゴブリンの胸から剣を引き抜き、マナトがゴブリン袋を確認している。
ハルヒロはゆっくり息を吐いて、浮いていた汗をぬぐい、ふと気が付いた。
一人足りない。
慌てて外へ出ると、隣の建物の影に立っていたアイラが目を大きく見開いて剣を抜いているのが目に入った。
「やっおわっ」
驚いてつまずき、何とか壁に手をついて転ばずに済んだと思ったのもつかの間、
「ハルヒロっ!」
背後からマナトが飛び出してきて危うくぶつかりそうになって、避けたと思ったら、次に飛び出してきたランタに正面衝突して無様に転がった。
「パっと見7人入ったら狭いし、入口がここだけじゃなんかあったとき全員中じゃ危ないと思って、でも先に言うべきだった。ゴメン」
アイラの申し訳なさそうな弁解にマナトが頷く。
「そうだね。次からは俺にも相談して」
「つか!パルヒロお前ビビり過ぎなんだよ!お前ひとりで騒いだだけじゃねぇか。しかもオレにまでぶつかるしよ。頭ぶつけたじゃねぇかよ」
反論してやりたかったが、あいにく鼻血が口の中を伝ってしゃべる気にならない。
アイラが水筒を手渡してくれたので受け取って口を漱ぐ。
モグゾーとユメが周囲を警戒してるから、焦らなくて大丈夫だ。
マナトが念のためといってランタの頭に魔法をかけようとしている中、シホルが「ついでに中身も治ればいいのに」と呟くのが聞こえた。
そのあと、一匹か、二匹のゴブリンを見つけモグゾーとアイラで攻撃を仕掛け、背後に回ったハルヒロ、ランタが奇襲をかけ弓や魔法で牽制するという方法で最初のを含めて5匹仕留めてゴブリン袋から銀貨や牙、鉱石を手に入れ全部売り払うと、雑費を差し引いて一人頭1シルバーと30カパーになった。
雑費というのは言うまでもなく宿代や食費燃料費、それから絶対欲しいとアイラが強硬に主張したため購入した地図用の帳面と鉛筆の代金だ。
「つーか、こんな楽なら最初からダムローに行きゃよかったよな」
マナトから分け前を受け取ったランタが銀貨を見つめていう。
つい頷きかけ、ちょっと待てよとハルヒロが思ってると、近くの屋台をちょっと見に行っていた女子三人が戻ってきた。
手に持っているのは、シホルとユメが甘いパンと果汁水、アイラは平べったくで大きなパンとどうやらナッツ茶だ。
思わず見つめていると、アイラがパンをちぎってわけてくれた。
「あ、ありがと」
「つい買ったけど、よく考えたら食べきれなかったの。味もちょっと期待と違ったし。食べて食べて」
そう言いながら四等分にしてハルヒロに一切れくれた。
買う前に気が付くべきだと思ったけど、もらった手前、ツッコむのもなーと思ってたら、空気を読まない男がしっかり受け取った後で「気づけよ。しかも本当に微妙な味だしよ」と言ってあやうく回収されかけてた。
「これ、煮込みとかに合わせると美味しそうだよね」
とモグゾーが頑張ってフォローすると、アイラは感心したように何度も頷き、モグゾーはセンスがあるよねぇとマナトに同意を求め、ちょうど飲み込むタイミングだったマナトは少しむせている。
「あ、ごめん。ね、大丈夫?」
慌てた顔で背中を叩くアイラに頷くマナトを見ながらハルヒロも一口千切って食べる。
確かにぼそぼそして単品で食べるには微妙だ。
「それで、どうかしたの?」
落ち着いたマナトにお茶を手渡して、アイラが首を傾げるとランタがあー。といった。
「ダムローで楽に稼げんなら、森行く必要なかったんじゃねーのって話。ほとんど稼げなかったしよー」
「森で練習したから、今回上手くいったんだと思うけど。偵察にしても攻撃にしても。君の≪憎悪斬≫もこの何日かでずいぶん精度上がってるし、意味は十分あったとは思うな」
軽く持ち上げての反論にランタが目をしばたたかせ、珍しく素直に頷いた。
「まあ、練習してもちっぱいの弓は全然当たらなかったけどな」
「うなっ!」
思わぬ流れ弾でユメもむせてシホルに背中を擦られてる。
「どうも斬りも当たると凄いんだけどね、モグゾーって力あるし。身長高いから、やっぱりすごいよね。けど、振り幅大きすぎて狭いところあんまり向かなかったね。森も室内も怖いから、ちょっと考えないと」
アイラの言葉にモグゾーが殴られたようによろめいた。
「魔法もよぉ、ほとんど意味ないしな」
「弓と違ってほとんど無音なのを生かして不意打ちできるといいんだけど。人間が行くよりも効果的だしね。ただまだ射程と効果が・・・・・・ぶっちゃけ石投げても同じようなもんだよね。光るからちょっとは違うのかもしれないけど」
シホルがぐらりと倒れ込み、なんとかユメと杖にすがりついている。
「ハルヒロも偵察行ってバレたりするしな。逆に襲われてどーするって話だろ」
「今日は仕方ないでしょ。それでも私たちの中じゃ一番向いてるし、石畳に慣れてないし瓦礫でどうしても音がたつし。むしろハルヒロは必殺狙えない分、君が無音を心がけて奇襲狙うべきかなとは思うよ。ていうか、いつも騒ぎ過ぎ」
「はぁ?そっちだってでかい攻撃当ててんのほとんどモグゾーだったろ。全然使えねえじゃねえか。盾で殴っても意味ねえだろ」
「そうなんだよね。やっぱり聖騎士は防戦が基本だし、スキルを覚えない限りは頭使うのと、現状の技術向上しかないよね。腕力つけなきゃ」
かろうじて立っているマナトが、膝をついたハルヒロに視線を向けてゆっくり首を振った。
明日も、頑張ろう。