灰と幻想のグリムガル 聖騎士、追加しました 作:2222
今日はこれぐらいにしようとマナトが言ったので、ずぶ濡れのランタとだいぶ乾いたとはいえ、泥の跡が残る袖をかいで嫌そうな顔をしているアイラが素直に頷いた。
「戦利品がいくらになるかも気になるし、初悪徳も捧げなきゃいけないしな、肉食おうぜ肉」
ランタの言葉にモグゾーもちょっと考え頷く。
「ユメもちょっとおなかすいたしなあ」
「お昼軽くしたもんね」
女の子二人の言葉に確かにとハルヒロも頷き、肩を落とした。
体力はともかく、はじめて肉を裂く感触が結構キツかった。
「じゃあ、森出たらまた私一人で行くね?」
当然のような顔で言うアイラに思わず視線が集中する。
「な、なに?」
「アイちゃん、また道に迷うんちゃうかな?」
「・・・一緒に行った方が・・・いいと、思う」
「ていうかさ、昨日も寄り道したけどどこいってたの?」
「いや、たいしたことでは・・・・・・」
ハルヒロの言葉にアイラが軽く言い淀む。
慌てて手を振って、ちらっとマナトを見るが笑ってる。
「べ、べつに、言いたくなければ言わなくていいけど、また迷子になったら、大変だしさ・・・?」
ハルヒロの言葉にモグゾーも真剣な顔で頷き、ランタにまでだよなーと同意され、彼女の表情が軽くひきつった。
「そ、そこまでひどくない・・・よ・・・?ちゃんと帰れたし」
「方向音痴の人って、皆そう言うよね」
マナトにとどめを刺されて、思わず天を仰ぐ。
「光明神ルミアリス様、この腹黒神官何とかしてください。具体的に言うとメタボハゲにして下さい。二十年ぐらいかけて徐々に脱毛とたるみの恐怖を味合わせてやってください」
「むしろそんな低能な祈りを捧げた方が加護無くすと思うよ」
さらりと返すマナトに心底嫌そうな顔をするアイラ。
「どす黒、今すぐ焦げろ。色白過ぎるんですけどなんなの?どんな化粧品使って腹黒さ誤魔化してるの?」
「そっちこそ脳細胞と筋肉をギルドで取り換えてきたのかな」
低レベルな争いを始めた二人からそっと離れて、五人で固まる。
「神官と聖騎士って、仲悪いの?」
「さぁ、けど、ぼくたちには優しいよね。二人とも」
「つーかよ、二人とも光明神ルミアリスの使徒だろ?あれいいのかよ」
「も、もしかして二人ともギルドの場所がルミアリス神殿だから、何か、あったのかも・・・・・・」
「白神のエルリヒちゃんと黒神ライギルと同じかなあって、ユメおもうやんかあ」
天敵かよ。と思ったが、ハルヒロには口に出さないだけの分別があった。
結局、アイラの寄り道に全員でついていくことになった。
本人はかなり気まずそうな表情を浮かべて少し先を歩いているし、ユメとシホルが両脇で話しかけているので、ちょっと男どもは話しにくい。
どうせならと頼まれ、道中目についた薪になりそうな枯れ枝なんかを拾いながらいくと、しばらくしてちょっと大きめの家が見えてきた。
大きな家に、近くに納屋があってそのあたりを馬のような牛のような家畜が歩いている。
たしか農家やなんかは南方面にあるとマナトが言っていた気がするけど・・・とおもっていたら、隅の方に毛皮なんかがたくさん吊るされているのが目に入った。
普通の農家とちょっと違うのかもしれない。
「あんまり大勢で行くと迷惑だから」
七人で集めた薪を運ぶためにじゃんけんすると、ハルヒロとマナトが勝ち、アイラがさらに肩を落とし薪を両手で抱え家の裏側に向かった。
四人が生垣近くで休憩しているのが良く見える。
アイラに言われ、二人は戸口から少し離れたところで待つことになった。
「何の用だろ?」
ハルヒロの問いかけにマナトも軽く首を傾げている。
開け放れた戸口に近づき、アイラが声をかけるとしばらくして中年くらいの女の人が出てきた。
アイラの抱えていた薪をみて嬉しそうに頷き、こちらを見てさらに頷く。
アイラが頷き、マナトも頷き返した。
「行ってみようか」
マナトに促されてハルヒロも頷いて戸口に近寄る。
「紹介します。同じ義勇兵見習いの仲間です。他の子は、今あっちにいます。こちらはレシアさん。森が近いから水場とか、穴鼠の事を教えてもらえないか昨日おじゃましたの」
これ、お礼。と薪を示して見せたのでハルヒロは納得した。
ちなみに今はさっきまでの低レベルな争いをしていた時とは打って変わって穏やかな笑みを浮かべ、朗らかな口調なので絵にかいたような感じのよさだ。
女って、怖い。
とハルヒロはちょっとおびえながら頭を下げる。
「この時期は雨が続くから、薪をこんなに集めてもらって助かるわ。怪我しちゃって薪割も楽じゃないから」
レシアさんは爽やかな笑顔のマナトを見てかなり嬉しそうだった。
「で、話の流れでケガしてるけど町で治してもらうのって、結構お金がかかるっていう話をしてたから。私が昨日少しやったんだけど、完全に治せなかったから今日もちょっと、来たんだけど・・・」
「残りは俺が治すよ。神官だしね」
マナトがあっさり頷いたので、アイラは小さくゴメンと言った。
ハルヒロが薪小屋へ薪を運び戻ってくる頃にはマナトは治療を終えていた。
爽やかに笑って両手に麻袋と野菜を抱えたまま軽く手を上げてみせる。
「ついでに家畜の治療も頼まれちゃってさ。お礼にこれもらったよ」
「神官は大変だね」
ハルヒロが麻袋の方を受け取ると、ずっしりと重い。
覗き込むとイモが入っていた。
とりあえず、よく食べるモグゾーの事を考えても明日の分くらいにはなりそうだ。
「アイラは?」
「水汲み手伝ってる。あとは家畜の世話だって」
「は?」
思わずマナトの顔をみると、なんだか面白がっているような、少し困ったような顔をしていた。
***
「おせーぞ。腹減ったー」
「はいはいごめんねー。これ頂いたから食べて。モグゾー君もはい」
アイラにベリーの入った小さなパンを渡されユメとシホルが歓声を上げる。
晴弘rも渡された一つを千切って口に運んだ。甘酸っぱくて美味い。
なんだか、こういうのを食べるのは久しぶりな気がする。
色々手伝わされたものの、最後にお礼だと言って、作り立てのパンをもらえたのは結構ツイてた。
こき使われたから、これぐらいもらってもいいよなという気もするけど。
途中で、先帰っていいよと囁かれたマナトが首を振って、アイラが申し訳なさそうに引き下がってたが。
アイラは手伝いながらレシアの話に相槌をうち、時々家畜の事なんかを質問していたけど、途中からはマナトが森の事やゴブリンの事を色々聞いていた。
マナトは感じがいいので、相手も色々と話してくれて、ハルヒロは隣で感心してるだけだったが。
抱えていた野菜をモグゾーが背負い袋に移して担ぎ上げ、マナトが少し躊躇ってからアイラの肩を叩いた。
びくりとして、振り返った困惑顔にマナトが笑いかけ頷く。
「じゃあ、みんなで帰ろうか」
オルタナの市場はいろいろな屋台が立ち並び、ゆっくり見回れば一日ぐらいあっという間に過ぎてしまうほど数が多い。
買取屋も当然いくつかあり、夕刻近いためその日の戦利品を持った義勇兵たちが大勢たむろしていた。
「混んでるなあ」
「あたし・・・・・・苦手、かも」
「シホルは埋もれそうだもんな」
パーティの中では一番小柄なシホルを気遣いつつ、一人店先に行ったマナトの姿を探すが見当たらない。一緒に行けばよかった。
「モグゾー、マナトどこだろ?」
「ふもっ」
疲れと空腹でちょっと意識が飛んでいたらしいモグゾーが慌てて周囲を見渡しても、見覚えのある姿が見えない。
「私、探しに行こうか?」
「方向音痴はすっこんでろよ。しゃーねぇ、ちょっくらオレが行くか」
ランタが一歩踏み出そうとしている横で、ハルヒロは聞こえた言葉に驚き思わず振り返った。
「うわ、ランタが自分から動くとか・・・・・・」
「明日は雨やなあ」
「雪かも」
ユメとシホルも同意して頷くと、ランタは両手をわきわきさせて威嚇する。
「シホルゥーなんだてめぇ、さっきからチクチクと、隠れ巨乳の下に牙隠してやがるだろ。見せろ!」
「かっ隠してないし!太ってるだけだからっ着やせしてるだけだから!」
胸元を隠すように腕を交差させてシホルが否定すると、アイラがシホルを守るようにランタの前に出る。
「ランタ君、シホルちゃんのこと好きなのはわかったからリーダー探してきてよ」
「す、好きじゃねぇよ!?」
「わかったわかった。ユメちゃん も 好きなのわかったから。はい行ってらっしゃい。ありがとうよろしくね」
両肩を掴んでくるりと回転させて無理やり押し出すと、ランタは二三歩たたらを踏んで、何か言いかけてアイラの表情を見てくそっと呟いて走り出した。
「・・・・・・アイちゃん凄いなあ」
ユメが尊敬の眼差しで見上げてくるのを穏やかな笑みで受け入れ、アイラは頷く。
「そういう生き物だから。2褒め1鞭がコツだね」
「珍獣扱いかよ」
「調教師・・・?」
ハルヒロとモグゾーがどん引きし、シホルは衝撃を受けた表情で調教と呟いた。
結局、穴の開いた銀貨と大小の牙は、全部合わせて190カパー。つまり1シルバーと90カパーになった。
宿代が二部屋で20カパーだから残り24カパーずつの取り分。
余った2カパーはマナトに預けて次の時に割るのに使うことになった。
「小さい方の牙の評価がどこも違うからよ。ヨロズ屋で聞いた。んで、それより高い値段付けた店に売りつけたってわけよ。オレが」
「なんでヨロズ屋?」
ハルヒロの疑問にマナトがにこりと笑う。
「物を預かるときに鑑定するだろ?つまり他の子売屋を回るより正確に判断できるんじゃないかって」
ハルヒロとモグゾーが感心し、アイラが拍手しするとつられてユメもぱちぱちと拍手する。ランタがかなり嬉しそうな顔をした。
「頭良いね。凄いじゃん。売買関係はランタ君向いてるんだね」
「ふっふっふ。おおよ、もっと褒めろ」
胸を張って、どや顔するランタにうんうんと頷きアイラが頭を撫でる。
「才能だよね、尊敬する。これから買い出しの時とかはぜひお任せしたいな」
「そうだね。ヨロズ屋にもだいぶ嫌な顔されてたし、買取屋でも粘って、かなり恥ずかしい勢いで交渉してたから」
笑顔で頷くマナトにランタがぐるりと振り返って指をさす。
「オイこらさりげなくディスってんじゃねーぞ爽やか腹黒。ホレ愚民ども、才気溢れるランタ様の事をもっと敬え尊敬しろ」
「えらいえらい。頼もしいね。腹黒はわかってないよね。ユメちゃん、凄いと思うよねぇ」
「確かになあ。いっつも悪口ゆうばっかりって思ってたけど、意外な才能やなあ」
水を向けられたユメが素直にほめると、ランタがさらに胸を反り返らせる。
「だっろー?わかってんじゃねぇか」
「凄いよ。ありがとう。頼りになるランタ君に売買関係はこれから全部お願いするね」
「おう、まかせとけ」
上機嫌なランタの頭をアイラが笑顔で撫でまわしている姿をみて、一同は生温かく頷いた。
調教師とペットだこれ。