灰と幻想のグリムガル 聖騎士、追加しました 作:2222
これ以降、4巻のネタ含みます。
オリジナルキャラがたくさん出ます。
オリジナル設定が色々出ます。
義勇兵クズオカ。
人は彼をクズと呼ぶ。
「・・・・・・そのまんまじゃねーか」
「今、なんて?」
「なんでもねーよ!前見てろ」
彼の答えに新入りが首を傾けた後、大股で歩きはじめる。
ここはワンダーホール。
いくら慣れた道とは言えど、何が出てくるか油断はできない。
「クズオカの独り言はいつもの事だろ。クソビビリが」
カンテラを持ち、油断なく前方を伺うのは根性最低の元盗賊現在戦士のカトー。
「そんなにおっかね―なら、一緒に寝てやろうかお嬢ちゃん」
「即金で10ゴールドくれるなら考えます」
ニヤニヤ笑いながら手を伸ばそうとする戦士のキクチに対して、聖騎士とは思えないほど冷たい眼をする新入り。
初日こそおとなしかったが、キクチに戦闘後のどさくさに色々されたのを根に持っているらしい。
「ごちゃごちゃ五月蠅いッ!まとめて燃やすよッ」
吐き捨てるのは真っ赤に塗った唇を歪めた美貌の魔法使いサクマ。
サクマの視線にたじろぎ、前衛連中は一斉に無言になる。
その隣でいつも薄ら笑いを浮かべている神官の・・・なんだったか、影が薄い男。
これら無能で馬鹿な連中をまとめて率いてやってるのが狩人のクズオカ。
つまり、俺だ。
***
ワンダーホール。
オルタナの街から北に6キロの地点にあるオークどもが占拠しているデッドヘッド監視砦からさらに進み、風早荒野を西へ35キロ行くと辺境軍の寂し野前哨基地があり、そっからさらに北へ1、5キロほど行った所にある。
ぶっちゃけて言えば、平野にぽっかりとあいた穴だ。
巨大なモグラが掘り進めたとも、大魔法の跡だの色々言われている。
いつからあるかもわからない風早荒野の地下全体に張り巡らされた迷宮でもある。
自然の洞窟と接続したりしている部分もあり、全容はいまだ不明だ。
そこへ縄張り争いに負けた種族やら、獣やら怪物やら無数の生物が住み着いた結果、義勇兵にとっては絶好の狩場になった。
当然、彼らもそこで稼ぐ。
とはいえ、戦っても全然儲けにならず骨折りにしかならない怪物なんかもいるので、その辺は見極めが必要だ。
クズオカは義勇兵歴が五年ぐらいなので、割とその辺は詳しいし手慣れてもいる。
金になる怪物の類は、簡単に挙げるとこんなのがいる。
まずはワンダーホール入口あたりに住んでいる亜人、宝石のような目を持つスプリガン、よぽどその日の稼ぎが悪い時なら狙ってもいいが、基本は無視だ。
これを相手にしてると、他のザコがきてクソうざいし強い相手からは逃げるので仕掛けが色々面倒だ。
その次に有名なのはでっかい蟻、ムリアンはそこいら中にいるから移動中に金になる変種も見つけたら狩ったりもする。
ただしあんまりやってると金にならないウストレルというのが出てくる。こいつが出ると、蟻どもが逃げてしまう。
しかもウストレルは金にならないのでただのくたびれ損になる。なのでこっちも基本パス。
以前はグリンブルという亀と鼠を混ぜたみたいなのが金になったが、あっという間に乱獲されてめったに見なくなったので、これもナシ。
今クズオカが気に入っているのは、コブラナというキモイ連中だ。
コボルトとゴブリンを混ぜて毛の代わりに鱗を張り付けたようなみてくれで、大きさはゴブリンくらいか少し小さい。
性質も両者に近いのか、鉱物を加工して作った首輪やら耳飾りやら様々な装飾品を着けていて、それがそこそこの値段になる。
問題は、丈夫な鱗のせいで矢が刺さりにくいのと、自分より強い相手とみれば、逃げる知能があるということだ。
普段は薄暗い横穴に生息していて、眼は悪いが鼻はいい。
人間には入れないような狭い横穴に逃げられると魔法も意味がない。
だから、いままでなら効率を考えると意味のない相手だったが・・・・・・。
今日はここでいいだろうと判断して、いくつか目星をつけてあるうちの一つの前で足を止める。
少し開けたところで一時休憩し、まずは奥に見えるコブラナの営巣を元盗賊のカトーが偵察に行く。
営巣は直線状の通路に無数の横穴が開いており、その人間が入り込むには狭い横穴の一本一本がコブラナどもの巣に通じている。
何かあればすぐに横穴に逃げ込むので、普通に狩るのはかなり困難だ。
だから、知恵をつかう。
サクマが女王様よろしく座っている横で、神官がクズオカの指示通り仕掛けを作る。
不器用なキクチに手伝わせれば仕掛けが台無しになるので、一人でやらせた方が効率がいい。
聖騎士は壁際に座り込んで瞑想していた。
戻ってきたカトーが獲物がいたことを告げれば、行動開始だ。
「じゃ、ミミズちゃん頑張ってね」
「はははっミミズかよ!確かに間違っちゃいねえ。がんばってマグロ釣って来いよ」
嘲笑するサクマにカトーとキクチが大笑いする。
祝詞を唱えていた聖騎士は、二人を無視し兜をつけ直して立ち上がった。
すらりとした姿と言えば聞こえがいいが、要は貧弱な体格に純粋な力比べをすればクズオカ以下。
聖騎士は盾を持って獲物を引きつけるのが仕事だが、こいつはまともな肉壁として機能しない。
何しろ装備が軽すぎる。狩人のクズオカより少しマシな程度だ。
攻撃力は戦士に劣り、俊敏さでは盗賊に劣り、支援魔法は神官に劣る。
そんな役立たずをどう利用するかを考えてやるのが、クズオカの仕事だ。
これを思いついたとき、我ながら冴えていると思った。
聖騎士が、天井の割れ目からわずかに見える小さな空を見上げて頷いた。
片手に膨らんだ皮袋を持ち、ゆったりとした足取りで口笛を吹きながら一人で暗い坑道を進みコブラナの住処へ向かう。
遠のく気配を見送り、それぞれ五人は準備を済ませて暗がりに息を潜めた。
暗闇に包まれた営巣の奥に小さな星のようなヒカリバナの明かりが見え、ここにくるとクズオカは義勇兵章を手に入れたばかりの頃のサイリン鉱山を思い出す。
しばらくすると、ぎゃあぎゃあとコブラナどもの騒ぐ声と共に、騒がしい足音が近づいてきた。
クズオカは、反対側に潜んでいるサクマが赤い唇を歪めているのを黙って眺める。
この女は、魔法を使う前にいつもこんなふうに嬉しそうに笑う。
聖騎士が持っていったのは、ワンダーホールの地表に住む大鶏メルルクの血がたっぷり入った皮袋だ。
メルルクはかなりでかい鳥なので、一匹分で用は足りる。
暗闇の中で住むコブラナは視力は悪いが鼻は利く。そして肉食だ。
コブラナどもにすれば、あれだけ血の匂いをさせた人間が単独で営巣に入ってきたのだ、さぞいい獲物に見えていることだろう。
クズオカの狩人のスキルを使って見つめる遠くに、コブラナどもの群れが走ってくるのが見える。その先頭を走るのは聖騎士。
聖騎士らしく白っぽい服装が、暗闇に見分けやすい。
時々つんのめり、転びかけて攻撃されるがすぐに引き離し駆け出し、またすぐに追いつかれるという事を繰り返す。
ある種の鳥は、子育ての間、親鳥は雛が襲われたとき怪我をしたふりをして敵をおびき寄せ、雛から引き離す。
そのことを利用した。ただ走るだけじゃ、逃げきっておしまいだからな。
やがてクズオカの鼻にも微かな血の匂いが漂ってきた。
もう一度、暗闇に僅かに見える偽装した罠を見やる。
手の届くほどの距離にいくつか見えるコブラナの高さに合わせて張り巡らされた縄。
他にもいくつか、これこそが狩人の本髄。
クズオカは目を眇めじっと待つ。
いつもよりも遅く感じるのは、気のせいか。手傷を負ったのかもしれない。
「やれ」
神官がカンテラの覆いを外し軽く上下すると、少し間があって暗闇の中で光輝く剣が大きく二度振られた。
聖騎士のスキル、≪光刃≫をこんな風に使うことを思いつくなんて、俺ぐらいのもんじゃないか?とクズオカは自画自賛している。
一呼吸、二呼吸
クズオカは弓を構え引き絞る。
だが、まだ早い。ぎりぎりときしむ音まだ最終が見えない。
「デルム・ヘル・エン」
クズオカは、視線を動かし、魔法使いの顔を見ようとした。
早すぎる。
「≪爆発≫」
坑道から誘い出されたコブラナの先頭に強烈な炎熱魔法が炸裂し、暗闇のなかに苦痛と恐怖の叫びが満ち溢れた。
凄まじい爆音と一瞬遅れてくる熱気、焼爛れる肉の臭い。断末魔の叫び。
後方のコブラナの目玉に矢が命中したが、その後ろのやつが逃げた。
クソっ
混乱しつつも逃げようと足掻くコブラナは巡らされた罠に足を取られ、地べたに転がったところを大きく振られた両手剣で片っ端から仕留められていく。
追撃してきた群れの後方で魔法の範囲外で罠にもかからなかった奴は、杖で撲殺され背後から刺殺される。
あっという間に死体の山が築き上がる。
戦利品を回収してから、 クズオカは唾を吐いて暗闇を睨み付ける。
後ろの方のには、逃げられた・・・・・・。
八つ当たりに壁に視線を向ける。
「オイ、サボってんじゃねえ。いい加減起きろ」
壁際で蹲っていた聖騎士が、返事とも唸りともつかない声を上げる。
まぁ、死んではいないが、火傷はしてるらしい。
聖騎士のくせに重装備じゃない新入りはかなり身軽だ。
ぎりぎり直撃を避けたのか、五体満足だし問題はないだろうとクズオカは判断した。
血の滴る大剣を右手に持ったまま、キクチが聖騎士をひっくり返して、覗き込む。
「おーい、新入り、生きてるか?どうせなら死ぬ前にやらせてくれ。頷けばいいぞオレ様は紳士だからな、死姦はしないんだ」
馬乗りにされて抵抗できずされるがままの聖騎士の兜に手を掛けようとして、肘で押しのけられた。
「触んなヘンタイ」
返ってきた掠れた声にカトーがゲラゲラと笑い、キクチは聖騎士を殴りつけて、ついでに蹴りを入れて立ち上がる。
「オレ様にはもうちっと丁寧な口を利きな小娘」
こいつ、やっぱり頭おかしいな。
蹲ったままの聖騎士をよそに、げんなりした顔のクズオカ。
カトーは大笑いしたままだ。
「おい、神官仕事だぞ。こっち先にしろ」
仕方なく掛けたクズオカの声には返事がない。
「おい、ババア、いい加減にしとけよ。神官よこせ」
続けたカトーの煽りに、魔法使いが射殺しそうな目をして掴んでいた神官の首から手を放した。
また何かドジったのか顔からだらだらと血を垂らした神官が咳き込んでいる。
サクマは凄腕の魔法使いで外見も極上だが、それ以外は全く駄目だ。
頭もイカれてるので、連れの神官の男が奴隷よろしく雑用なんかをやっている。
そんな女の言いなりになっている一見普通にそうに見える神官も、つまりはイカレてる。
現に光の護法も光の奇跡も覚えていない、最低限の神官。
まあサクマが連れてきたやつだし、そもそも神官は倍率が激しいので仕方ないが。
使える神官を手放すほどのド低能のクソマヌケはそうそういない。
サクマは舌打ちし、男三人をじろりと睨み付けた。
真っ黒な魔法使いの服は襟ぐりが深くて色々零れ落ちそうだし、化粧が濃すぎる以外は外見は悪くないので睨み付ければかなりの迫力がある。
クズオカだって、最初パーティに入れようと声を掛けたときは、なんでこんな美人がフリーでと思わないでもなかったが。
「誰がババアだって?その腐った目玉くり抜いてブタネズミのエサにしてやる」
口を開けばこれだ。
「怒るってことは自覚あったんだな。ババア。最近更に化粧ケバいんだよババア」
キレるサクマに油を注ぐカトー。クズオカも思わずうなずく。
「前よりさらに白粉くせえな、確かに」
キクチは、零れ落ちそうな胸元を見下ろして汚い無精髭の生えた顎をゴリゴリと擦る。
「そっかぁ?オレ様は化粧濃い女も好きだぜ。特に化け物みたいな顔で泣きわめくところとかスゲー良いぜ。サクマ、試すか?」
「死ねクソウジ虫ども!不細工の×××が!」
「ああっ!?ンだとてめえなんか×××じゃねえか!」
言い返されると速攻キレるキクチに嘲笑うカトー。
「まてよサクマ。×××なのは、カトーだけだぜ×××で×××かもしれねえけど」
「×××!×××で×××なくせになにいってやがる!キクチてめえ死ね!くたばれ!」
「×××の分際で!×××!×××!イカレサクマクソ×××の×××が!」
魔法使いの毒蛇みたいな怒りっぷりにクズオカが笑うと、残り二人が同時にそっちを向く。
「笑ってんじゃねえよクソオカッこのクズ!だいたいてめえが×××で×××なのが悪いんだろ!」
「誰がクソオカだボケッ死ね!死んで詫びろぼけカスが!」
「五月蠅いッあたし以外の人間は全員くたばればいいッ!!」
四人が煽りあってる間に神官は地面に膝をつくと、聖騎士に魔法を掛けた。
「光よ、ルミアリスの加護の下に、≪浄化の光≫」
解毒魔法。
そう。毒だ。
聞こえた魔法に、クズオカは顔を顰める。
コブラナどもは毒を使うことを覚えたのか。
毒は厄介だ、しばらくこの狩場は控えた方がいいかもしれない。
クズオカはコブラナ程度の攻撃が当たるようなへまはしないが、戦士に比べればどうしても薄手だ。
万が一当たり所が悪いと、なにしろヘボ神官だ。解毒が間に合わない可能性がある。
貶し合う無能どもを横目に、クズオカはちらりと二人の様子を伺う。
治療を終え、膝を落としたままの神官が何か言ったらしい。
血と泥で汚れ座り込んだまま俯いていた聖騎士が兜を脱いで顔を上げた。
神官が顔に手を触れて火傷を治している。聖騎士と一瞬目が合った。
不意に熱風で炙られたみたいなひりつくような痛みを感じ、クズオカは目を逸らす。
あれには覚えがある。
ずっと昔、俺たちは仲間だ、一緒に頑張ろう、だなんて平然と口にする奴が近くにいた
あのころ。
クズオカは思考を止める。
俺は、自分の命が一番大事だ。
それと金。他は、どうでもいい。
いい加減煽りあいに飽きたカトーとキクチが死体を弄りはじめ、サクマがイラついた顔で腕を組んでこっちを見ている。
最低にイカレたクソ女なのに、クズオカはパーティから追い出すことができない。必要だからだ。
「お前、それ好きだよな」
「面白いだろ。この感触が堪んねえ。つかお前こそなにやってんだよ」
「いやこうやって隠し持ってるやつがいるって聞いたからな。試しだ試し」
「キタねぇーな。中身でたじゃねえか、うっわきめぇ動いてんぞ」
「おめーに言われたくねえ。ガキかよ」
魔法使いが舌打ちする。
まだ傷が塞がっていない聖騎士が立ち上がった。
「まだ」
「・・・もういい」
「そう」
聖騎士は顔半分に布を巻いてから兜を被り、のろのろと神官も立ち上がる。
神官がいつもの薄ら笑いを浮かべて魔法使いの隣に立ち何か囁き、苛立ったままサクマにごちゃごちゃと飾りをつけた拳で殴られて軽くよろめく。
いつもの見慣れた光景だ。
聖騎士は武装を整え、死体の腹を捌いているカトーと指先だけを喜色満面で踏み潰しているキクチを見やってから、兜の庇の下から乾いた視線でクズオカを見た。
「それで、次はどこ行くんです?クズオカさん」
***
それは、真冬の出来事。
オルタナへの帰り道だった。
地平線は太陽の残滓でかすかに明るい。
いまのうちに野営の準備をしようと慌てて天幕を張る一行が、それを見つけたのは。
「なんだ、・・・人?義勇兵、か?」
「なに?」
縄を引っ張っていたロンが訝し気に目を細め、アダチが頬を顰める。
少し後方でそれぞれ作業していた女たちも、その声を聞いて天幕の裏から回ってそれを見つめた。
反対側で天幕を設営していたレンジも無言のままチビちゃんの横に立つ。
それは、人に見えた。皮鎧を身に着けている。小柄でたぶん女か。
逆光で顔は見えない。
足を引きずりながら、ふらふらとこちらへ向かって歩いてくる。
「・・・おーい、怪我してんのか?」
ロンの言葉にこたえる声はない。
夕暮れの冷えた風がそれの方から吹いてきて、嗅いだことのあるようなどこか不安になる生臭い匂いがした。
「死体だ」
ぼそりとアイラが呟き、背負っていた剣を引き抜き走り出す。
「――は?なんて――」
ロンが問い返すころには、突風みたいな勢いでアイラは剣をそいつに突き刺していた。
そいつは、おそらく抵抗か攻撃しようとして手をかざしたが、武器を持っていなかった。
腕は盾に弾かれ、がら空きになった顔面に鋭い突きが真っすぐ後頭部へ突き抜けていて、そいつは膝をついて動かなくなる。
剣を引き抜くと、死体はそのまま地面に伏せて動かなくなった。
アイラは死体の前で膝をつき、何かしてから立ち上がってこっちを見る。
「チビちゃんは、解呪使えましたっけ?」
いつもの明るい声で尋ねられ、チビちゃんはレンジの顔を見上げて激しく首を振った。
「・・・・ぁっ・・・ぃ」
「・・・まだ覚えてないって」
「じゃあ、仕方ないですね」
チビちゃんの代わりにサッサが答えると、アイラは死体の方へ振り返って、しばらく上を向いて思案してから首の後ろ辺りを掴んで引っ張りはじめる。
「ちょ、ちょっとどうするんの、っていうか、なんなのよっ!一体ッ」
サッサは混乱しながら駆け出して、死体を掴んでいるアイラの顔を見た。
いつもと同じように、口元は少し笑ってみるように見える。
けど、このまえ寝てる間にこっそり切った前髪の下から覗いて見える眼鏡の奥は――
「こっち風上だし。少し離しておかないと」
「あぁあ、・・・・・・そう」
「解呪使えたら、灰になるからあとのこと考えなくて済んだんですけど」
重たそうに死体を引っ張るアイラから、サッサは一歩離れて頷いた。
振り返るとレンジとアダチはもう天幕を張りに戻っている。
ロンはやや迷っていたが、アダチに声を掛けられてこちらに背を向けた。
「向こう、行って大丈夫ですよ」
チビちゃんが困った顔でこちらを見ているのに気がついて、サッサも躊躇いながらそっちへ戻る。
少し後ろで、アイラが死体を引っ張る音が聞こえた。
翌朝、天幕から出たレンジは周囲を見渡して少し離れたところで燻る焚火とそこに座り込んでいる生きた人間をみつけた。
「おはよーございます。レンジさん」
振り返りもせずに掛けられた声に、ああ。と、レンジは答えた。
少し眠そうだが、いつもと同じ声色。
仲間に入れてからずっと、この調子だ。
「焼いたのか」
「結構かかりました」
「物好きが」
レンジがそういうと、アイラは立ち上がり爪先で灰を蹴散らし燻っている薪に土をかける。
「そんな善人だったら、よかったんですけどね。あいにく」
俯いた頬に影が落ちて、表情は読めなかった。
灰が風に散っていくのをぼんやりと眺める白いおもては、初めて会った時と同じように冷静で、薄い作り笑いは魂のない人形めいている。
「ルミアリス教徒は、つまり神官と聖騎士は死んだら光明神の懐に抱かれることになってます」
レンジは戦士だ。
逸らした視線の先で、葉のない寒々とした木々が風に弄られている。
その上を冬の白い空をまるで水に流されるように鳥が飛んでいく。
「けど、戒律を破れば背教者として、煉獄を彷徨う亡者になるのだと。私を指導した人は言ってました。帰ってきた人はいないから、本当のところは知りませんけど」
「だからなんだ」
少し苛立つレンジに、アイラは笑った。
「ただの、世間話ですよ」
オリジナルキャラ
カトー 元盗賊の戦士・男
キクチ 戦士・男
サクマ 魔法使い・女
コブラナ(種族)
≪コブラナイ≫より名前を借りました。