灰と幻想のグリムガル 聖騎士、追加しました   作:2222

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3話 森の中にいる

 

 まずは義勇兵として戦ってみようという事になって、マナトが調べてきた初心者向きだという森の方へに行くことになった。

 

 門の前で身分を確認されるのを待つ間に作戦会議。

 アイラは不安そうな顔をしているシホルと顔を合わせてね笑っている。

 

「私とランタ君が前衛で、遠くの敵は弓と魔法を期待してる。ハルヒロ君は私の横を守ってくれればいけるよ。大丈夫、大丈夫ヤバかったら、逃げればいいし。大丈夫」

 

 手ぶりを交えてわかりやすく説明する笑顔のアイラにマナトが苦笑いしてる。

 

「俺は?」

 

 ちらりと振り返って肩を竦めるアイラ。ピンと指を三本立てて見せる。

 

「指揮を執る。回復する。魔法使いを守る。頑張ってね、リーダー」

 

 しばらく待たされてやっと門を出てすぐ、草むらのところに汚れた鎖帷子を身に着けた巨漢が蹲っているのに気が付いた。

 見覚えがある大きな体に少しぼんやりした表情。

 

「モグゾー?」

 

 話しかけたハルヒロに不安そうな顔がゆっくり上がる。

 

「・・・・・・えーと、同期?」

 

 きょとんとしたアイラが小声で尋ねると、隣のユメとシホルが彼女と会う前にクズオカという先輩義勇兵に連れていかれた事を伝えると、彼女はちょっと顔を顰めて、大股でモグゾーのそばへ寄り、手を伸ばした。

 モグゾーは頭を全力で撫でまわされて、めちゃくちゃびっくりした顔をしているけど、気にした様子もなくひたすら撫でている。

 

 モグゾーがハルヒロに促されるまま、ぽつぽつと事情を話す間もアイラはずっと頭をなでつづけ、何故かそれにユメまで加わりシホルまで慰めるように肩に手を置いた。

 なんだか、大きい動物を撫でてる姉妹に見える。

 

 どうやらモグゾーは先輩義勇兵たちのパーティに有り金全部とられて置き去りにされたらしい。

 

「つーかさ、だから言ったんだよ。騙されるって!オレの言った通りじゃねーか」

 

 再びしょんぼりしてしまったモグゾーをみて、ユメがランタにいいすぎやと怒るのを見ながらマナトが近寄る。

 

「それで、モグゾー君は・・・・・・」

 

 マナトはモグゾーの服装を確認して軽く首をかしげた。

 

「戦士ギルドに入ったんだよね?」

 

 座ったままなのでマナトを見上げるモグゾーが、おずおず頷く。

 確かに大剣を背負い鎖帷子を着ている所を見ると、そんな感じだ。

 

「戦士には、一応なったけど」

 

「俺達、今日が初陣なんだから全員一応だよ」

 

 マナトが優しくいうと、モグゾーはやっと少し笑った。

 

「じゃあ一応戦士さん加えて7人だね。希望通り戦士さんゲットで良かったじゃない?」

 

 さらっとアイラが言ったのでハルヒロも即座に頷く。

 6人よりも7人の方が心強いし、モグゾーは体格もいい。

 マナトは口元に手を当て瞬きして、爽やかに笑い頷いた。

 

「感謝しろよモグゾー。オレ様が暗黒騎士になったから被らずに済んだんだぜ」

 

「自分勝手なこと言わないの」

 

 しつこく頭を撫でていたアイラがモグゾーに近寄ってきたランタの頭に手を伸ばそうとして逃げられる。

 一瞬悔しそうな顔をして、わくわくした顔のユメの背中に抱き着き、シホルも引き寄せた。

 なんで自慢げな顔なんだ。

 手招きしても行かないって。

 

「私の隣にモグゾー君が来てくれれば前衛完璧だね。身軽っぽいし、ランタ君とハルヒロ君で遊撃とか?まぁハルヒロ君は偵察・・・ん、ユメちゃんも偵察?まぁいいか、後でみんなで考えれば。おめでとう。リーダー」

 

 そういって、アイラが困った顔をしているモグゾーから目を離さないままおざなりに拍手してみせる。

 つーかおれ、ランタとセットかよとハルヒロがイヤな顔をすると、マナトに背中を慰めるようにたたかれた。

 

「俺もできるだけ援護するから、モグゾー君も俺達のパーティーに加わってくれないかな」

 

 マナトにモグゾーは自信なさそうな顔のまま、こっくりとうなずく。

 ハルヒロが手を差し伸べると、モグゾーは恐る恐る手を握った。

 引っ張り上げようとしたが、立ち上がらない。

 

「モグゾー、立ってくれなきゃおれじゃ引っ張り上げられないよ」

 

 アイラが手を腕に伸ばして一緒に引っ張ろうとしたのとモグゾーが立ち上がろうとしたのとタイミングがかち合って、ひとりだけ思わずしりもちをつく。

 

「あっ、ご、ごめん」

 

 謝るモグゾーをぽかんと見上げるアイラが少し遅れてケラケラと笑いだすのをみて、大丈夫かなとハルヒロは少しおもった。

 

 ***

 

 鳥の鳴いている野原を進み、遠く見える天竜山脈の方向へすすんでいく。

 

 動物が好きだというユメや命を奪うことに抵抗を覚えているシホルの話を聞きながら腹も減ったので、ちょっと開けたところで昼食の準備。

 元々6人前だったのを7人前にするから、ちょっと割り当てが少なくなりそうだ。

 ユメに教えてもらい野原で摘んだ食べられる草なんかを追加してスープの嵩増ししながら、それぞれ動いているメンバーを見回す。

 シホルは少し疲れたみたいで、ゆっくり手を動かしている。

 モグゾーとアイラは脱いだモグゾーの装備を点検しばがら、小さな声で話をしていた。

 ランタも空腹なせいかおとなしく調味料をすり鉢でおとなしく磨り潰してる。同じように様子を見ていたマナトと目があった。

 

「こういうのちょっといいよな」

 

「そうだね。一緒に取るようにした方がいいかもしれない」

 

 マナトが節約にもなるしと続けるのはモグゾーの有り金が全部クズオカ達に巻き上げられたと、さっき聞いたからだろう。

 

 じゃあ、頑張ってお金貯めようねと何事もないように流したアイラがどうも一番キレているようだと気が付いたのは、マナトとハルヒロだけだったのか。

 基本はランタのクズな発言を窘めたり、シホルを励ましたりユメとはしゃいだりして振る舞っているけど、結構短気なのか。

 ハルヒロは怒ったりするのは苦手だしシホルも内気だし、モグゾーもマナトも怒る姿は想像できない。

 ユメやランタも怒ってはいたけど、あまり尾を引かないタイプに見える。

 

 和やかに話しながらモグゾーの肩を叩いたり、頭を撫でたりしているところをみると、すごく優しそうなんだけど。

 背伸びして頭を撫でられるので、モグゾーが照れくさそうな顔をしてる。

 

 保存用の堅いパンに雑草となんだかよくわからない穀物が入ったスープという食事をしていると、シホルが隠れ巨乳だという話をランタがはじめ、寄せて上げた胸も見分けられるという謎の自慢を始めたところで、アイラが笑顔のままランタの襟首をつかんで土下座させる一幕があったが、なんとか森に無事たどり着いた。

 

 広葉樹だろうか、大きな葉が生い茂り、足元も丈の高い草がそこかしこに生えていて歩きにくそうだ。

 思わずハルヒロがたじろいでいると、マナトが当然のように先頭のまま進もうとして、フードを引っ張られてつんのめる。

 アイラだ。

 振り返るマナトを軽く押しのけてアイラが先頭に立つと、一瞬マナトが顔をしかめアイラが睨み返した、ような気がする。

 

 気のせいだ、きっと。ハルヒロは、自分に言い聞かせる。

 

「ユメちゃん、こっちきてもらっていい?狩人ギルドで教わったことを私にもいろいろ教えて欲しいな。シホルちゃん足元気を付けてね?」

 

 表情を穏やかにしてちょいちょいとシホルと話していたユメを手招きするアイラに、マナトが顔をこっちに向けた。

 変わらない爽やかな笑顔でちょっとほっとする。

 

「そうだね、シホルは俺の前を歩いて。ランタ、ハルヒロは左右分かれて、モグゾーわるいけど、殿を頼む。そっちの方、少し歩きやすそうだからそっちへ行こうか」

 

 頷いて、シホルの隣側に行くと、ちょっと照れた笑顔を見せてくれた。

 二列で進むっていうことかと納得して、木の根っこなんかに躓かないようにしながら森を進む。

 ふかふかぬるぬる出歩きにくいけど、ユメの先導があるのでちょっとシホルが躓く程度で済んだ。

 ユメの示した先の木にモグゾーの頭より高い位置に古い大きな爪痕とかあったりしてぎょっとしながら、森の中をうろうろする。

 

 他の動物の気配はない。

 

「本当にここ生き物いるのか?死の森なんじゃねえ?」

 

 すっかり飽きた様子のランタにユメが振り返る。

 

「ランタが五月蠅いから生き物みんな逃げたのかもしれんなあ」

 

 不機嫌そうに応えるのは、さっき流れでちっぱいちっぱいとしつこくからかわれたせいだ。

 

「この辺は泥ゴブリンとかグールがでるらしいよ。俺達みたいな新人向きなんだってさ」

 

 マナトの言葉にユメとシホルが思案顔になる。

 みんなの足が止まったことに気がついて、アイラが振り返って周囲を見渡す。

 

「泥んこプリンとクル、ほかにも穴鼠とかいるってお師匠がゆうてたけどなあ。ユメなあ、動物とか好きやしなあ」

 

 泥ゴブリンとグールだって一応訂正したけど、ユメは聞いてる様子はない。

 

「あ、あたしも動物よりは、泥ポプリとか、のほうがいいかな、って」

 

 小さく手を上げて、意外とはっきり間違えてるシホル。

 

「そもそも、泥ポプリンじゃなかったゴブリンとグールがどういう姿なのか、知ってる人いる?ていうか、どこにいるんだろ。そもそも森でいいのかな、聞いとけばよかったなあ私も」

 

 剣に手をかけたまま少し離れた場所に立っていたアイラが口を開く。

 

 ゴブリンはなんとなく、人型、のような気はする。

 いそうな場所は・・・・・・。

 

「ひょっとして水場、とかかなあ?一応動物はみんな水飲みに来るもんやし」

 

「水場っていうと、川とか・・・・・・?」

 

 今まで歩いてたところには、なかったような気がする。

 ユメの言葉に首を傾げながらハルヒロが答える。

 

「泥ゴブリンていうくらいだし、どっちかーつーと沼とかドロッとかネバッとした感じのとこじゃねえの?」

 

 ランタにしては、まっとうな発言だ。

 少し離れたところに立っていたモグゾーがちょっと首を傾げ、言おうかどうしようか悩んでいるみたのに気が付いてマナトがどうしたのと水を向けた。

 

「あ、あの、こっちの木の辺りに穴が開いてるみたいなんだけど・・・・・・なんかの巣かな」

 

 指さす方向の木の根元をよくみると子供の頭ぐらいの大きさの穴がある。

 改めてみれば、隣の木にも。

 

 ウサギ穴かな?とおもって注視したのが良くなかったのか、ランタがうわっと悲鳴を上げた。

 足に茶色の生き物がくっついて、いや噛みつかれてる。

 

「いででででっ!ぎゃっマジいてえ!」

 

「穴鼠!」

 

 ユメの言葉をかき消すようにランタの悲鳴が響く。

 

「ちょっ!だれか助けろ!」

 

「みんな離れて。ランタ君、自分で頑張って。初悪徳のチャンスだよ?」

 

 マナトがシホルの腕を引いて、慌てるランタから遠のく。

 

 ユメは剣鉈を振り上げ、周囲を見渡し、ハルヒロは短剣を引き抜きランタの足元へ刺そうとした、が逃げられた。

 動物って、こんな早いのか。

 何匹いるかわからない数の穴鼠の群れが高速で足元を駆け回る。

 ちっとも攻撃が当たらないどころか、ハルヒロも太ももをかまれた。

 

「はぁ!?ちょ!誰か―助けろよ!モグゾーぉぉ!」

 

 ランタの悲鳴に思わず剣を抜いて走り寄ろうとしたモグゾーも穴鼠の動きに困惑しやたらめったら地面に刺そうとするが、当たるはずもない。

 

「ちょっとでもダメージ与えたら動物は近寄らんて、お師匠ゆうてたから!」

 

 懸命に攻撃を与えようとするユメの言葉にハルヒロは腕を噛みつかせて動きを止めようと苦心する横に結構な勢いで石が飛んできた。

 思わず顔を上げると、アイラが離れたところから石を再度投げ振ってくるのが見えて、思わず飛んで逃げる。

 

「なにすんだよ!」

 

 とっさに怒鳴ると、だから逃げなってと罪悪感ゼロの声が返ってきた。

 

「そっか。モグゾー近寄らないで、何か投げるんだ!」

 

 思わずマナトやモグゾーを見れば、こっちも木の枝や結構大きい石を 投げた。

 穴鼠に向かって、というか、穴鼠にたかられているランタとハルヒロに向かって。

 

「お前らなあー!」

 

 ロングソードを振りかざし、穴鼠を追いかけるランタをよそにユメもちょっと離れたところから弓を使うことにしたらしいので、慌ててハルヒロもその場から逃げようとする。

 雨あられと降り注ぐ石や木は穴鼠にちっとも当たらない。

 

「マリク・エル・パルム」

 

 シホルの魔法文字が完成し、マジックミサイルがランタの体をかすめ地面に当たると、誰かが投げた石にぶつかり弾かれた石は穴鼠に命中した。

 

 ぎゃあん!というすごい悲鳴がして穴鼠の群れが一斉に撤退する。

 

「アレは確かに夜遭いたくないね。看板でもつける?鼠注意って」

 

 完全無傷のアイラがやっと寄ってきて、土と葉っぱまみれのランタの背中をパタパタを叩く。

 何か所も噛まれたランタが納得いかねーと流血しながらぶつぶつ言っているのをはいはいと聞き流している。

 

「今のがシホルの魔法?すごいなあ」

 

 功労者だったシホルにユメが絶賛すると、シホルは照れくさそうな顔になった。

 

「・・・・・・マナトくんが、・・・魔法使ってみたらって・・・」

 

「どっこがだ!オレに当たってたじゃねーか!だいたい、モグゾーもアイラは前衛なのに何逃げてんだよ!助けろよ!肉壁だろーが!ハルヒロは役に立たねえしよー」

 

「お前なーおれでも短剣が当たらなかったのに、あんな小さい的にモグゾー達が当たるわけないんだから、当然の判断だろ?シホルだって当てようと思ったわけじゃないんだし」

 

 ハルヒロが一応習ったのは対人ぐらいの大きさを想定して格闘術だから猫ぐらいの大きさの相手はかなり分が悪い。

 

「ワザとだったら、もっとタチたりーよ!隠れ巨乳だからって許されると思うなよ!そっちのちっぱいも狩人ならちゃんと弓で仕留めろよ!」

 

「ちっぱいゆうな!あんなチョロチョロされたら当たるわけないし!」

 

「まぁまぁランタ君落ち着いて。ここはひとつ投石最強ということでいいじゃない?ね?」

 

「よくねえよ!お前の剣は飾りか!?胸と同じなのか!?この偽乳ぐふっ」

 

 噛みつくランタの頭をわしわしとなでて笑っていたアイラが両手をクロスさせて首を絞め始め、モグゾーが止めに入る。

 怪我の治療をしてたマナトは、一通り治したことを確認してふっと息を吐いて顔を上げた。

 

「ユメ、今のは肉食?こういう相手はほかにもいるのかな」

 

 尋ねられて、ユメはうにゃーと首を傾げた。

 

「お師匠は、ゆってなかったかなあ。穴鼠も雑食ってゆってたし、奥の方までいったらわからないけどなあ」

 

「あ、そういえば教官が穴鼠に義勇兵が殺されたことがあるって言ってたかも?あの歯だし、子供とかヤバイよね」

 

「後は居そうなのは蛇とか、蜂とか?鹿がいるなら狼もいる・・・んだろうな」

 

 ハルヒロの言葉に狼、いいなあとうっとりし始めたユメの肩をたたき現実に戻し、穴鼠に気をつけながらとりあえず水場を目指すことした。

 

 が、現実はそう簡単なはずもなく、水場を見つけることなくもう一度穴鼠に襲われたところで日が傾き始めた。

 

 

「・・・・・・どーするよ」

 

 さすがに元気のないランタがぼやき、ハルヒロは「どうするも、帰るしかないだろオルタナに」とぐったりと返す。

 

「骨折れボーイのくたびれ冒険やったなあ」

 

 ぽつりと漏らすユメの言葉に「骨折りボーイじゃなくて・・・・・・」と言いかけて更にハルヒロの肩が下がる。

 骨折り損なボーイズは四人で、ついでにいえばガールズも三人いる。

 

「で、でも・・・・・・なんでもない、です」

 

 何かを一生懸命否定しようとしたシホルがしょんぼりし、モグゾーがおなかすいたともらした。

 

「帰ったら、まず市場かどこかでご飯を食べよう。西区の方の義勇兵の宿舎があって、見習いでも格安で泊まれるんだ。今日はそこに行ってみよう」

 

 マナトがみんなを見渡しきっぱりと言うと、それまで黙っていたアイラが片手を軽く上げてリーダーと声をかけた。

 

「森出たら、ちょっと単独行動していいかな?」

 

 アイラの言葉に、マナトが少し驚き言い淀む。

 

「もう暗くなるから、単独行動は・・・・・・」

 

 疲れ切った様子のハルヒロ達をみて、マナトが判断に困っているらしいのを見てアイラが笑顔で頷く。

 

「大丈夫、森で独り残るわけじゃなくて、ちょっと帰り道を寄り道してみようと思って。日が暮れきる前には町に入るようにするよ?宿舎にもちゃんと行く。この辺は、割と安全そうだし、問題ないでしょ?」

 

 重ねられる言葉にマナトはしばらく目を瞑り考えてから頷く。

 

「わかった」

 

 


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