灰と幻想のグリムガル 聖騎士、追加しました   作:2222

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時系列15話後
原作ルート外れました。


月も太陽も星もない
15,5話  il> コンテニューしますか?


 

番外 あの日を思えば

 

 「ッ!」

 

 背中に何かがぶつかった。

 

 脚がもつれそうになったけど、俺は振りかえらなかった。

 

「マナト・・・・・・!?」

 

 ハルヒロの悲鳴のような声に、俺は反射的に答える。

 

「平気!」

 

 ハルヒロに引っ張られるように走っていたアイラが顔を上げて首を振り手を振りほどき、バランスを崩して地面に転んだ。

 少し前を走るモグゾーが振り返ろうとする。

 

「アイラ!」

 

「だいじょぶ、先行って、みんな走って!」

 

 彼女は即座に立ち上がって背後を振り返った。苦い顔をしている。

 走りながら俺の腕を掴んで何か言ったが、よく聞こえない。それより、走らないと。

 

「走れ」

 

 目の前にはハルヒロの背中が見える。まずはここから離れることが先決だ。そうだよな?そうだよ。俺はわかってる。走れ、走れ、逃げないと。走って

 

「 ――― 」

 

 横で彼女がまた何か言った、よく聞こえない。でも何をしなければいけないかはわかってる。・・・そうだ振り向いて確かめないと、けど、もっと前に進まないと、行けるところまで

 

 となりで走る彼女が俺の腕を強くつかむ、掴まれた箇所が赤く汚れてた怪我、してるじゃないか。なんか、変な感じだ。俺が、治さないと。

 でもこのままじゃ無理だ。安全なところまで行って、もっと先へ、早く、走って、でも怪我が、そうだ、聖騎士は自分の怪我は・・・・・・治してやらないと

 

 彼女がこちらを向く。

 

「    」

 

 今、何を?

 

 問い返す余裕もなく、力いっぱい押しのけられ、世界が反転する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         ああ、   まっくらだ。

 

  

 

 

 

  

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           なにも、みえない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 掴みたかった手は、弾かれた。

 

  

 

 

 

 掴んだと思った手は、解かれた。

     

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺には、何もない。

 

 

 

 

 

 

 

 なにもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なにも――――――――

 

 

 

    

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・ ・ ・  な に も ・ ・ ・ ・ ・ ・ ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 無造作に突き出された拳。

 

 

 

 気遣わしげな眼差し。

 

 

 

 吹けば掻き消されてしまいそうな、微かな笑顔。

 

 

 

 

 

 みんなでみた、あの夕焼け。

 

 

 

 

 

 

 ああ、 そうか。

 

 

 

 やっと、わかった。

 

  

 

 

 

 

 

 

 俺は、ただ・・・誰かと・・・・・・みんなと一緒に・・・・・・

 

  

 

 

 

 

 

 

 ただ・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マナト」 

 

 

 俺を呼ぶ声に、じわりとどこかが暖かくなる。

 

 

 

 

  

 

  

 

 

 

 

 

 けど、真っ暗なんだ。

  

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

     

 

 

 

 

「マナト!」

 

 ××××が屈託のない笑顔で俺を呼ぶ。

 

 ××××、話したいことがたくさんあるんだ。俺たちさ、もしかして―――

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なあ、どうやって、そっちへいけばいい?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     

 

 

 

「マナトくん」

 

 ××××が照れくさそうに、×××が、恥ずかしそうに笑う。

 

 ××××、信じられないかもしれないけどさ、俺も××××のこと、頼りにしていいかな。

 ×××、きみはもっと自信を持って、顔を上げて。大丈夫、俺はそうおもってる。

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こまったな、どうすればいいか、わからないんだ。

 

 

 

 

     

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「マナトくん」「マナトっ」

 

 とろけるような笑顔の××、斜に構えようとしても嬉しさが隠しきれてない×××。

 

 ××、きみの笑顔を見ると、どうしてだろう。なぜか心があたたかくなるんだ。

 ×××、突拍子もないようなことをやりだす奇想天外なところ、嫌われるのを恐れないところ、案外俺は嫌いじゃない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこへいくには、遠すぎて

 

 

 

 

 

 

 

 

     

 

 

 

 

 

 

 ひとりじゃ、いけそうもないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ・・・だけど・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

「    」

 

 

 ひとりにすると、すぐ泣くんだよな。君は―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「起きろバカ」

 

 

「・・・・・・君は、本当にひどいね」

 

 俺が溜息をつくと、顎の下にある肩がびくりと跳ねた。

 回された腕に力が込められて、少し痛い。

 

「うるさいバカ、背中に気をつけろって言ったでしょバカ、人の話聞かないからよバカ、本当にバカじゃないのていうかむしろバカそのものなんだけどこのバカホントなんなのマジでホントあり得ないんだけど信じられないし、反省して?ホント反省して。土下座して謝ってあ、いいや土下座はなんか安そうだから。誠心誠意シホルとホーネン師に謝って。ハルヒロとモグゾーとユメとランタに謝って。今後は心入れ替えてまともな神官として品行方正な生き方を目指して」

 

「そんなに喋って、舌噛まない?」

 

「・・・言うに事欠いてそことか、マジ有り得ないんですけどこのクソ腹黒。まっくろくろすけ。本性バレてフラレろ。ハゲて太って子供と孫に囲まれて畳の上で死ね」

 

 瞼が重い。

 

 背中にはまだ鈍痛が残ってるけど、柔らかく撫でてくる手のひらは妙に暖かい。

 こういう、感じなんだ。いいな、これ。

 

 俺は霞む目を開いて、周囲を見渡した。

 

 ここは木々で覆われたちょっとした窪地だ。

 人の気配はない、少し首を動かすと、藪を抜けた斜面に点々と血と草が押しつぶされた跡が近くまで続いているのがわかった。

 

 それから血まみれの矢と、血だまり。

 

 彼女が深々と俺の背中に息を吐いて、そのまま俺の髪をぐしゃぐしゃとかきまぜた。

 地肌を探る指の感触がこそばゆい。

 ひどく、へんなかんじだ。止めて欲しいような、そうでもないような、複雑な気持ちがする。

 頭をこういう風に触られた経験は、あまりないのだと思う。

 

「・・・・・・先に言っとくけど、骨が折れてたらごめん」

 

「えっ?」

 

 唐突な言葉に問い返すと、きまり悪そうな沈黙の後、髪の張り付いた頬を擦りつけて小さく呻く。

 なんだか、猫っぽいな。と思った。

 

 動物が特別好きなわけではないはずだけど。

 

「矢抜いて怪我治したのに息止まってて、・・・・・・心臓マッサージしたから。はじめてだから、自信なくて。痛くない?折れてない?」

 

「ああ・・・・・・そういう。大丈夫だと思う」

 

 俺は納得して、力を抜いた。変なところを心配するよな。君って。

 肩に顎を載せて体を預けたこの体勢は妙に落ち着くけど、これじゃ何もできないな。鎧も密着し過ぎてすこし痛い。

 

 名残惜しいのと堪えて右手を少し動かす。手首に小さな六芒星が光ってるのに気がついた。≪守人の光≫

 身体機能を向上させる光魔法。普通は戦闘中に使う魔法だ。

 

 そうか、こういう使い方もあるのか。

 

「あのさ」

 

「・・・・・・死ななくて、よかった」

 

 俺は黙って白い項に顔を埋めた。

 血と泥と、石鹸と干草と、どこか覚えのある落ち着くにおいがする。

 

「と、とにかくね、帰ったら、みんなと話さないと駄目だから。やっぱ前衛やめてほしいしこれから六人でやってくなら、カッコつけてないでちゃんと話し合わないと!」

 

 六人。

 

「その件、だけどさ。考え直さない?まず当分は≪光の護法≫習うのは無理だしさ、それに覚えてもそんなに拘る事じゃないよ。7人でもいいと思うんだ。俺は」

 

「やだ」

 

 子供のような声に俺は沈黙する。顔を見て話をしたい。

 

「だって、もし今日みたいなことがあって、六人になっちゃったらどうすんの。・・・・・・アタシは、きっと、それを心のどっかで喜ぶ。ひとでなしだもん」

 

「君はそんなことしないよ」

 

「アンタにアタシの何がわかるの」

 

「わかるよ」

 

 君は自分を信じてないのだろうけど。俺は君を信じてるって事とかさ

  

「っ!」

 

 不意に地面に押し付けられ、息がつまる。

 俺の上に覆いかぶさり、身を低くした彼女が周囲を見渡し困惑した表情を浮かべた。

 

「なんか、聞こえなかった?」

 

「いや、ごめん。君の話を聞いてたから」

 

 同じように小声で返したのに何故たたくのか、痛くはないけど。

 わりと理解出来ない。

 

 それよりも、血が気になった。かすり傷だけど、あちこち怪我してる。やっと見えた顔、真っ白じゃないか。

 治してやらないと。ハルヒロもそうだけどさ、君はすぐ無理するから。

 

「みんなが心配だな。元の道まで戻れる?」

 

「たぶん。ゴブリンは撒いたと思う。見えなくなったタイミングで道外したし、ハルヒロは先行ってたから、追いつかれてもいない・・・かな。みんな先にオルタナ向かってくれてるといいんだけど」

 

 少し自信なさそうに応えて、彼女は地面に手をついて立ち上がり俺の視線に首を傾げ、手を差し出した。

 

「歩ける?」

 

「うん。・・・そっちは?顔に血が」 

 

 拭いてやろうとして手を伸ばすと、後ずさりされた。

 そしてそのまま視線を逸らして手の甲で口元を擦っている。

 そこじゃないんだけど。まあいい。あとで治そう。

 

 息を吐いて立ち上がろうとした瞬間に膝が崩れてしまった。

 

 ゆっくり立てば問題ない。

 落ち着け。軽い貧血だ。

 

「もう少し、休んだほうが」

 

「そういうわけには、いかないだろ」

 

 差し出された手を握ったまま息を整えていると、俺の耳にも何かが近づいてくる音が聞こえた。

 

「敵?」

 

「わからない」

 

 俺を立ち上がらせようと、彼女が腕を回す。

 息をゆっくり吸い込み、膝に力を入れようとしたときがさがさと藪をかき分ける音がした。

 

 血の跡をたどってるのか、くそ、はやく立たないと

 

 あと少し・・・・・

 

「ハルヒロっ!」

 

 悲鳴交じりの高い声。

 腕を放されたが、かろうじて踏みとどまった俺の視界に入るのは、血だらけで崩れ落ちるハルヒロ。

  

 その背後に、錆びた剣を持った見慣れた―――

 

「ゴブリン」

 

 

「ハルヒロ、ハルヒロっ!」

 

 俺の呼びかけにハルヒロは目を開かない。

 頭にも怪我したせいか、目を覚まそうとしない。

 

 普段のハルヒロならこんな怪我しない。そんなに必死だったのか?

 

「くそっどうしてこんな・・・」

 

 込み上げてきた吐き気を堪えて、もう一度精神を集中させ、祝詞を唱えた。

 

「光よ、ルミアリスの加護のもとに―― ≪癒し手≫」

 

 何も起きない。魔法力が枯渇したんだ。

 確か、ホーネン修師が言っていた。魔法を連発し過ぎるとこうなる。俺が聞き流した言葉。

 

 手が震えてる、このままじゃ駄目だ。ハルヒロが、俺のせいで死ぬのか?考えろどうすればいい?

 不意に口を押えられて眼を剥くと、口元を歪めた彼女が藪の向こうに視線を向けて軽く頷きかけた。

 

 ゴブリンの増援だ。手間取り過ぎた。

 

 彼女は無理やり口角を上げて、へたくそに笑ってみせようとしている。

 俺を助けるために、魔法力を限界まで使い、さっき一人でゴブリンを殺したせいだ。

 

「ねぇ、落ち着いてよ。あらかた血は止まってる。少し瞑想すればアタシがもう一度魔法を使えるから。ハルヒロは、大丈夫だから」

 

 震える囁き声に俺はしっかりと頷いて見せた。

 冷静に、ならないと。

 

 そう。ハルヒロを追っていたゴブリンは一匹倒した。

 だが、残念ながら群れを組んでいたらしく、残りのゴブリンが俺達を探している。

 とっさに近くの茂みにゴブリンの死体を押し込め、俺達は意識の戻らないハルヒロを抱えてこうやって息を潜めているわけだけど・・・・・・。

 

 まだこちらに気がついていなくても、時間の問題だ。

 

 ゴブリンは、幸い鎧のヤツでもホブゴブリンでもなかった。

 おそらくハルヒロが俺達を探しにきて、徒党を組んで徘徊してたのと運悪く遭遇したんだろう。

 ここは、ダムロー旧市街から近いから。

 

 きっともっと先まで走れば、ゴブリンにハルヒロが襲われることはなかっただろう。

 

 けどきっと俺は、―――

 

「変なこと、考えないでよ。アンタ死んだら殺すからね」

 

「え?」

 

「文句あんの」

 

 頬をつねられて俺は思わず顔を顰め、問い返そうとしてやめた。

 

 悪い事というのは、何度も重なる。

 まるで、世界がどうしても俺達をここで殺したいみたいだ。

 

 ゴブリンの声が近い。それに気がついた彼女は青い顔で押し黙り、目を瞑る。

 大丈夫だと、お互い口癖になってしまった言葉をいいかけて止めた。

 

「あのさ、ハルヒロは正直、俺より冷静じゃないかって思ってる。結構、頼りにしてるんだ。ハルヒロの事。リーダーに向いてると思う。ちょっと流されやすいけどさ」

 

 ハルヒロの顔に飛んでいる血を袖口で拭った。しっかりと握りしめられた短剣は手から離れる様子がない。

 なあ、ハルヒロ。いつもは結構冷静なのにさ、そんなになってまで俺の事、探してくれたんだろ?

 

 祈るような気持ちでハルヒロの左手を握る。血を出し過ぎたせいで体温が低い。時間がない。

 二手に分かれて、近づきつつあるゴブリンの囮になり、ハルヒロを守らなきゃならない。

 

 顔を上げた君に俺は頷いた。

 

「いってあげなよそれ。絶対嬉しいから」

 

「・・・そうかな?」

 

「うん。あのね、男子会しなさいよ。男子会。私は女子会するからさ。そんでさ、これからも綺麗なもの見たり、美味しいもの食べたり、一緒に楽しいこと、たくさんしようよ」

 

「いっしょに?」

 

「いっしょに、みんなで。アタシが何とかするから」

 

「俺って、そんなに信用ないの」

 

 そういって俺が笑うと、一瞬真顔になり、それから君はなんだか痛そうな顔をした。

 

「ばかね。本当に。ちっともわかってないんだから」

 

 そういって、俺の頬についていた血を指先で拭うと表情を緩めて、いつもみたいに笑って見せようとする。

 もう限界なのは、分かってる。

 

「無理しなくていいよ。俺が行く。待ってて」

 

 そういうと、泣きそうな顔で君は頷いた。

 

 なあハルヒロ。俺、話したいことがたくさんあるんだ。

 だから―――

 

 




マナトくんは本来よりも日頃の負担が軽減されていたのと、本来到達するべき地点まで走らなかったことで判定にプラスがつき蘇生成功しましたが、代わりにゴブリンに追いつかれました。

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