灰と幻想のグリムガル 聖騎士、追加しました   作:2222

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2話 事務所の前にいる

  

 マナトに会えてよかった。

 

 右も左もわからない街の中で迷子になったハルヒロは自分よりちょっと高い位置にある横顔を見上げるようにしながら心の底から思っていた。

 

 なんだかわからないままいきなり見習い義勇兵になるしかないっていわれて、≪やれそうな≫レンジという銀髪の男は、殴り合いをしたロンや他の頭の良さそうなアダチ、小柄な女の子や色っぽいサッサとどこかへ行ってしまったし、調子の良さそうなキッカワも一人で行ってしまった。

 

 このかんじのいいマナトだって、また後でといって行ってしまって、残されたハルヒロ達が顔を合わせていたら、大柄なモグゾーは、感じの悪そうな先輩義勇兵のクズオカとかいうのといってしまうし。

 最後に残されたのは泣いているシホルにそれを慰めているおさげのユメ、それに文句ばっかりのランタだけだったし。

 

 だけど、仕方なくハルヒロがこうやってあたりを歩いていたら、こうやってマナトが話しかけてきてくれて。

 

「――そういうわけで、事務所の前で待ってるはずなんだ」

 

 笑顔でうなずくマナトに安堵のあまりちょっと涙ぐみそうになりながら、ハルヒロは預かり屋やオリオンのシノハラや串肉屋のことを話しながら見知らぬオルタナの人込みを歩き続ける。

 

「この角を曲がったところだね」

 

 マナトのいう通り、見た覚えのある道に、うるさい天パことランタが振り返り大きく手を振ってきた。

 

「おせーぞ。ハルヒロ」

 

 思わずイラっとしたけど、マナトがごめんとかるく流した。

 ユメとシホルといえば、首を上げて何か話している。

 つられて視線を動かすと見知らぬ人間がいた。

 服装が町の人々とは全然違うから、多分同じ見習い義勇兵。

 

 けどあの12人の中にはいなかった、ような気がした。

 

 背の高くて、青いズボンに長袖のシャツを着ている眼鏡女。

 眼鏡はいたけど、アダチだけだったし。ハルヒロより年上に見える女はサッサだけだったはずだ。

 

 たぶんハルヒロと同じか、すこし高い身長。

 しっとりした髪がまっすぐ背中まで垂れていて、ハルヒロと目が合うとにこっとわらった。

 となりのシホルやユメに比べればかなり落ち着いた雰囲気、というか縁の太い眼鏡や長めの前髪もあって、地味だ。

 

「はじめまして。さっきのなかには君、いなかったよね。どうしたの?」

 

 マナトが爽やかに尋ねると、いち早くユメがにひひぃーと笑った。

 

「アイちゃんはな、ユメたちと同じ時にきたけど、坂道でコケてなあ、はぐれて迷子になってん。そんでなあ、ここら辺うろうろしてたからユメが話しかけてみたんよ」

 

 自慢げに胸を張るユメにシホルは俯いている。

 真ん中の彼女は、左右の二人をチラシとみてからハルヒロとマナトをみつめて、ちょっと首を傾けた。

 口をちょっと開けて何を言うか考えているみたいに、少し間があった。

 

「よくわからないけど、どっちか戻られるまではここにいた方がいいかと思って。所長さんから話はもう聞いてありますから、もう同じ義勇兵見習いです、よね?」

 

 柔らかくてトゲのない優しそうな声だ。

 隣のシホルもちらっと見上げて、こくりと頷いている。

 

「・・・・・・うん」

 

「一緒に見習い義勇兵がんばろうなあ」 

 

 ユメはアイちゃん、の腕を抱え込んでるし、シホルはまだ目が赤いけど、反対の手で髪を撫でてもらって少しだけ顔を上げた。

 二人とも、腕をしっかり抱え込んで絶対離さない、という風に見える。

 思わずマナトとハルヒロは顔を見合わせた。

 

 完全に、保護者。って感じだ。

 

「良いんじゃないかな?そっちも仲良くなったみたいだし。俺はマナト、こっちがハルヒロ。これでちょうど六人だしね。よろしく」

 

 マナトが爽やかにそういうと、 アイちゃん はマナトとハルヒロに視線を投げてじっとみつめたあと、肩を揺らして、たぶん手を上げようとして、両腕をがっちりホールドされたままの事に気が付き、ちょっと笑って、軽く頭を下げた。

 

「私はアイラ。えーと・・・・・・よろしく?」

 

 ***

 

 そのあと串焼き屋に行ってみて、色々相談して、それぞれのギルドで手習いを終えた七日後、またそこで待ち合わせの約束をした。

 

 七日後、ギルドでの手習いを終えたユメやランタ、シホルとハルヒロが合流し串焼きを食べ終わり、ランタの言動に頭痛がしてきたころに二人が歩いてくるのに気が付いた。

 

 白地に青いラインの入ったフード姿のマナトに、アイラはランタと似た感じの装備に腰に剣と盾を吊り下げてる。

 爽やかな笑顔で軽く手を挙げてきたのは神官のマナト。その姿にほっとする。

 落ち着いた笑顔を浮かべているアイラは、聖騎士だ。

 風に髪の毛が少しなびいている。

 

「おっせーよ!」

 

 怒鳴るランタをよそに、落ち着きのありそうな二人がちゃんと来てくれたことに、ハルヒロはかなり安心した。

 シホルがランタに泣かされて、結構まいっていたみたいだ。

 

「遅いやんかーアイちゃんまた迷ったん?」

 

 ユメもピョンピョンはねて迎えに走っていく。

 

「アイラさん、髪の毛、切っちゃったんだね」

 

 泣き顔から一変して嬉しそうな顔をしたシホルの言葉にあっとおもう。

 ユメと同じくらい長かった髪が頬に当たるぐらいになっていて、シホルと比べてもずいぶん短い。

 

「あー走ったりするからじゃないかな」

 

 ハルヒロが答えると、シホルはびくりとしながら何度もうなずいた。

 

「そっか・・・・・・大丈夫かな、あたしたち」

 

 ランタとユメに笑顔で対応している二人は、特に困ってる風には見えない。

 むしろ、余裕ありそう。

 ユメに抱き着かれているアイラは背中をポンポンとたたいて笑っているし、こっちを見たマナトと目が合ってハルヒロは笑い返す。

 

「大丈夫、なんじゃないかな。たぶん」

 

 七日ぶりの串肉を食べながら、呼び方の事でああだこうだといいあったあと、ひとりだけ串肉じゃなくてその横で売っていたパンを買って食べているアイラをちらりと見る。

 目元にほくろがあるのに気が付て思わず見ていると、眼鏡越しの目が合った。笑いかけられて、思わず笑い返す。

 

「どうしたの?大丈夫?」

 

 思わず動揺して首を振り、いや、え―とと言いかける。

 目元にほくろがあるんだねとか、言ってどうするんだおれ。

 

「なんか、髪短くなったよね」

 

 アイラは結構長いまつげをぱちぱちさせて、ハルヒロをじっと見つめてきた。

 

「な、なに?」

 

「なんでそんなこと聞くの?」

 

 なんで、って、マナトとランタ、ユメの後ろに隠れながら恥ずかしそうにしているシホルに思わず目をやって、視線を戻す。

 

「あの、いや、余計なことかもしれないけど女の子だし、一応?」

 

 なんでこの人おれの事じっと見るんだろうと居心地が悪くなってきた頃にやっとアイラが頷いた。

 

「大丈夫。髪、乾かすのに手間がかかるから切っただけだから」

 

「そっか」

 

「もしかして、心配してくれたの?優しいんだねハルヒロ君は」

 

「別にそこまで深く考えたわけじゃないけど」

 

 いや、実際心配してたのはシホルだし。

 けど、なんかユメも喋ってると癒されるけど、普通の反応が返ってくるのって大事だよな、と心の中でうなずく。

 

 ほとんど初対面といえど、年の近い者同士打ち解けるのも結構早い。

 とくにマナトが内にこもりがちなシホルへユメを通して話しかけたり、ランタがいろいろ口喧しくいうのをアイラが笑顔で相手をしつつ適当に誘導しているせいかもしれない。

 

「さて、そろそろオレから重大発表だ」

 

 急にランタが改まった声を出したので、五人の視線が一斉に集中する。 

 

「オレは戦士ギルドに入りませんでした!」

 

 無意味にきっぱりとした宣言に思わずマナトを見れば、微妙に顔が引きつっていた。

 それぞれのクラスを決める時もそこそこ長く議論してたし、戦士になることを希望したのはランタだったから、当然だろう。

 

「で、何になったんだよ」

 

 頭痛がするのを我慢しながら尋ねると、ランタは不満そうな顔をしていた。

 

「なんでみんな驚かねーんだよ。スーパーなサプライズだろ?」

 

「暗黒騎士はねー驚くっちゃ驚くかも?ま、むしろ神官になった方が驚いただろうけど、いいんじゃない?」

 

 アイラののんびりした声にランタが首飾りを引っ張り出そうとしたまま固まる。

 まぁ、ランタが神官になったらびっくりするかもしれない。

 何しろヒーラー、他人のけがを治したりフォローするタイプには見えないと思わずうなずく。心の中で。

 

「なんでネタバレすんだよ!せっかくオレがビックでクリエイティブなロマンを」

 

「ピッグでクリンティブロなマロン?」

 

 ユメが心底不思議そうな顔で聞き返して、思わず脱力した。

 なんだそれ。

 髑髏が付いた首飾りをぶんぶんと手で振り、暗黒騎士のロマンをアイラとユメへ熱弁するランタにシホルがドン引きしている。

 

「つーか、なんでわかったんだよ!つまんねーな」

 

 逆切れの上不貞腐れてるランタが腕組してアイラに尋ねると、聖騎士は軽く首をかしげた。

 

「ソレとこっち?」

 

 指さす先は鎧にある髑髏の紋章。アイラの鎧には光の六芒。確かに気が付いてみれば一目瞭然だ。

 

「まぁ、剣も魔法も、使いたいよね。格好いいしねー」

 

「お?おお。わ、わかってんじゃねぇか」

 

「暗黒騎士は相手をぶち殺す事『だけ』考えるなら一番効率良いし。悪霊を使役できるから手数も増えるしね。君の性格的に向いてるんじゃないかな」

 

 さらっとランタを肯定するアイラと、口を開けたまままじまじとアイラを見つめるランタ。微妙に・・・・・・いや、かなり嬉しそうで思わず引くハルヒロ。 

 そして二人で盛り上がる暗黒騎士談議。

 それをちょっと引きながら見守る4人。

 

「なんでそんなに詳しいの・・・・・・?」

 

 震える声のシホルにアイラがにっこり笑った。

 

「私の教官、暗黒騎士の事大っ嫌いだったから」

 

 聖騎士語るより暗黒騎士の事を語る時間の方が長かったんじゃないかな。と、乾いた笑顔で語るアイラにランタまで少し引いてた。

 

 


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