灰と幻想のグリムガル 聖騎士、追加しました 作:2222
見習い義勇兵、一日目!
オルタナ辺境義勇兵団レッドムーン事務所の前で泣いてる子達をみてたらお下げの子に話しかけられて、なんとか概要を掴んでから所長に会い、どうして他の12人と来なかったのか軽く質されたものの特に興味がなかったのか深く追及されることなく義勇兵見習い章と10シルバーを手に入れた。
というよりも、床にある真新しい血の跡はなんなのか、とか、書類的なものは要らないのかとか、他の職員はいないのかとか、他に義勇兵の事務所があるのかとか、ここは一体何時からやってるのか、とか逆に質問をしたので邪魔だったんだろう。
性別が男なら、もうちょっと詳しく聞けたかもしれないと思いながら階段を下りると、三人は縋るような目でこっちを一斉にみた。
アタシなんかを。
内心、緊張と恐怖で嫌な汗が出たけど頑張って平静を装う。
小さい子に泣かれるのは、めんどくさいしなんか、なんでか不安になるし、嫌だなあ。なんてちらりと思ったりもした。
ていうか、まずめんどくさいが出るあたりどうなの人間として。
人間性に不安があるね。アタシ。
そのへん考えるともっと怖いことになるので断定しよう。
私はとりあえずこの子たち宥めようとおもった。異議なし、決定。
笑顔を作って胸に下げた見習い章をみせると、三つ編みの子がふにゃっと笑い、生意気そうな男の子も安心した顔になった。
泣いてる女の子は、少し落ち着いたのか不安げなままだったから、残り数段の階段をわざと飛び降りて頭を撫でてみる。
ぎゅっとしがみ付かれたので空いてる方の手で二人も交互に撫でると、男の子の方はちょっと照れて離れてしまったけど、指先で掴んでもう一度撫でるとそれ以上離れなかった。
手の届くところにいてくれると、安心する。今度は、失敗しない。
・・・・・・今度?わからない。棚上げ。
三人の名前を教えてもらって、どうやら戻ってくる予定の子がいるらしいのでそれまで待つことにする。
でも帰ってくるんだろうか?
楽しいこと見つけたり、めんどくさかったり、都合のいいことになったら、帰ってこない、よねぇ。
人間て、そういうものですし?
「つーか、おせーよ。ハルヒロのヤツ」
ランタ君が不安を押し殺して生意気な口ぶりで文句を言うと、ユメちゃんがハルヒロ君(仮)の肩を持って反論した。
ユメちゃんも怖いんだろうけど、そういう事をあんまり口に出さない。
ふわっとした口調だから、そう感じるだけかもしれない。
だとしたら、結構損してるよね、とちょっと同情する。
頭なでなでされるのは嫌じゃないらしいので、もっと撫でとく。
私の腕をぎゅっと握ったままの小動物じみたシホルちゃんは、不安な顔で二人の争いを見ている。
うーん、また泣きそうだ。
あとたぶん、つかまれてるところあざになってそう。でもそれぐらい不安なんだね。頼れるものには全力で頼りたいし、隠れられるものには隠れたい。
すげーよくわかる。シホルちゃんは羨ましいほど小さいし、可愛いし。
きっとそれが、許されてたんだ。
深呼吸して、溜息にならないようにゆっくり息を吐きだす。
私まで怖がると収拾つかなくなるから、不安を感じてないみたいに装うしかない。
次に義勇兵見習いとして動きながら、この世界の事を知って選択肢を増やそう。
選択肢を知って、前もって準備したら、きっと大丈夫。
なにがあってもきっと大丈夫だって、私がアタシに嘘をついた。
***
義勇兵8日目!
7日間の規定鍛錬をなんとか終えて、雨の日の捨てられた子犬みたいなモグゾー君がパーティに入り、7人になった。7人だ。びっくりだ。
いや、どうしようと一瞬思ったけど、ハルヒロ君が普通にモグゾー君のこと心配したので、一時棚上げ。
ハルヒロ君が優しくていい子で少しほっとした。
7人になっちゃったけど、まだ駆け出しだし、人数云々の事は、モグゾー君がきっと気にするのでみんなの前では絶対に言わないと決めた。
それに、抜けるとしたら私だ。戦士は絶対必要だったし。
女はあまり戦力にならないという所長の言葉も忘れるわけには、いかない。
戦力にならなきゃどうなるのか、とか。
最初、6人の時、それぞれのクラスを決めようという話をして、軽く説明をして彼は神官は、と言いかけて一瞬私を見て言い淀んだ。
その隙に、ランタ君が自分は戦士がいいといったので、じゃあ私は前衛と回復ができる聖騎士になるというと、彼は少し迷いながら自分も前衛と回復役の神官になるといった。
本当はどうも私に盗賊か神官やってほしかったみたいだったけど、ハルヒロ君も戦士はちょっとなあっていう雰囲気だったし。
神官よりは、聖騎士の方がなんとなく引かれたし。
まぁ、結局ランタ君は戦士じゃなく、完全にその場のノリで選んだっぽい暗黒騎士になったけど。
ちなみに私に聖騎士としていろいろ教えてくれた騎士、自称教官は昔、恋人を暗黒騎士にとられたらしい。
そんな愚痴を言われてもその時は思ったけど、なんとなくわかった。
この子、目を離すとこっちが不安になる。
暗黒騎士ってみんなそういう感じなのかな
とりあえず大丈夫になるまで面倒見よう、って、みんなの顰蹙買ってる姿を見てそう思った。
そうやって、なんとか森に行き、すごく疲れた。
集団行動は苦手だし、森の中は視界が悪くて落ち着かない。
鎧も剣も盾も、重いし、固いし、着て走って振り回してもまだ慣れないし擦れた部分が痛いし汗も不快だ。
これを明日も明後日も続けると考えただけで眩暈すらしたけど、言った所で何が変わるわけでもないので、ひたすらユメちゃんシホルちゃんの頭を撫でて心を癒した。
それから、森まで行く途中で見かけた農家をひとりで訪ねてみた。
最初に見つけたところは扉も開けてもらえずに素気無く追い返され、恐る恐る行った二件目は外で作業している人に話しかけたら、奥さんがけがしてるという事で、なんとか話をしてもらえた。
農家から作物を盗まれることや強盗に遭うことを警戒されてた、らしい。
喰い詰めた義勇兵は、そういうことをするらしい。
そういうのは賞金首になるという話も脅しを含めてされたので、真面目に頷いておいた。
はじめての魔法は、かなり疲れた。
神官か、聖騎士か、魔法使いか、という違いがあっても、シホルちゃんを見る限り疲れることに違いはないんだろう。
涼しい顔で光魔法を連発していたことを思いだし妙にいらいらしたせいか、頭痛がするまで使っても完全に治せなかった。
それでも奥さんは立ち上がって動けるようになったと感謝されたので、明日も来ると約束したら、森の中にある川の位置を教えてくれ、頼みごとがあるときは、何か手土産を用意する方がいいという有効なアドバイスももらった。
オルタナに戻るともう外は真っ暗で、石畳は月と星の光が反射していて、なんだか不思議だった。
あてもなく神殿のある北区を歩き、立ち並ぶ屋台をみたりしたあと、ごはんを買った屋台で義勇兵宿舎の場所を聞いた。
西区の近くの義勇兵宿舎、という場所に行こうとしたら、西区と言うのはいわゆるスラム街で、治安がよろしくない。
つまり、夜更けに右も左もわからないような人間にとっては、町の外を歩いてるよりかえって危険だということに気がついたのは、歩いてる途中に女の人の悲鳴が聞こえたときで、正確に言うと女の人にのしかかった男にヤクザキックかました時だった。
ていうか、ヤクザって、なんだっけ。
そう思った時には、逆に私が地面に殴り倒されていた。私超弱い。
まぁ、その直後に押し倒されてた女の人がその男を背後から杖で殴りつけ、つづいてもうひとり女の人が現れて、二人がかりでぼこぼこにしていたけど。
二人は≪荒野の天使隊≫というクランの人で、この辺で同じクランの人が性的な被害に遭ったので犯人を捜していたらしい。
クランと言うのはパーティーよりも緩やかな結びつきで、志を共にする人たちの集まりだと説明してくれた。
で、大体この辺で一度記憶が途切れてる。
どうやら力尽きて寝たらしい。
目が覚めると夜明け前で、部屋の隅で毛布を掛けられてた。
部屋には、物を書くための机と寝台が二つ。
衣装掛けには三角帽と白いストールが良く目立った。
二つの寝台は埋まっていたけど、起き上がってもそもそしていたら神官の方が起きた。
寝起きの顔で見つめ合った後、とりあえず、お風呂入ればといわれて、気がつかなかったアザだらけの体にため息をつきながらぬるいお湯に入り、もう捨てようと思ってと言って着替えをくれた。
彼女は、薄着になった私を見て、顔を顰めると≪癒光≫という魔法でいっぺんに治してくれた。
私は防具をつけてる分、切り傷以外の打撲とかもあるから癒光の方がいいなと思った。
ただ≪癒し手≫より魔法力の消耗が、だいたい倍になるのが欠点らしい。
義勇兵宿舎に送ってもらう途中、彼女は、女の義勇兵は、色々あるから気をつけないと。と事例を挙げて教えてくれた。
少なくとも、男の義勇兵からは聞けない貴重な忠告だ。
他にも話したそうな雰囲気だったけど、とりあえず薄暗い市場で買い物するコツを教えてくれ、パーティーにあと二人女の子がいて、モグゾー君のような目に遭いそうで心配だという話をすると、もし何かあれば女同士で話ぐらいは聞けるよと言ってくれた。
きっと、今の段階ではただ話を聞くだだろうなと、アタシは思ったけど、ゼロよりずっとマシなので私はお礼を言った。
一方的に助けてもらえるような甘い世界じゃないんだって、何度も言い聞かせる。
何かしてもらうには対価が必要で、彼女たちのところは女性限定のクランだというだけで、女同士だからってなんでもしてくれるわけじゃない。
あらかじめそういって予防線があると、かえって楽かもしれない。
勝手に期待して裏切られたような気持ちになるのも、なんか、嫌だし。
なににせよ、最低でも見習いを卒業して、使えるようにならないといけない。
話はそれからだ。
宿舎が見えるところで別れを告げて、朝焼けの中を歩いていたら宿舎の前に一人佇んでいるのに気がついた。
あちらは気がつかずに、ただ昇りつつある太陽の方を向いていた。
朝焼けの中に佇む頼りない後姿は、途方に暮れた迷子みたいだった。
当たり前だ。
みんな記憶喪失だし、所持金も同じようなものだし、右も左もわからないし、今日も明日もわからないのも一緒だし。
とりあえず率先して仕切ってるけど、ぶっちゃけ立場一緒だし。
むしろこいつ、盾持って鎧着てても嫌な前衛やるとかいっちゃう・・・・・・・・・バカだし。バカだ。バカ。
ちょっとかわいくいうとヴァカ。
私がその事実をについてつらつらと考えていると、彼が振り返り、何か言いたげにくしゃっと顔をゆがめた。
一瞬、泣くんじゃないかって気がした。
けど堪えるんだろうな、みんなから頼られるリーダーになってしまったから。
ていうか、自分が泣きそうな顔したって事にも気がついてなさそうな感じがする、なんてことに気がついて自分でもびっくりした。
・・・・・・ひとりぐらい、こいつを頼らないのが居ても、いいんじゃないだろうか。
本人も気がついてない頼りない背中を、アタシ達は、アタシくらいは守ってやるべきなんじゃないだろうか。
そんなことを、おもってしまった。
「おはよー。ごっめん。道迷っちゃってさー」
私が何か言われる前に反射的に嘘をつくと、彼はそれを信じたみたいに笑った。信じたいだけなのかもしれない。みんな嘘かもしれない。
ムカツクほどすがすがしい、胸が痛くなるような笑顔でこいつは、・・・・・・。
なので、私は臆病で小心者で卑怯なアタシに嘘をつくことにした。
徹底的に。