灰と幻想のグリムガル 聖騎士、追加しました 作:2222
ダムロー旧市街についたのは、正午よりは少し前。
朝ご飯が遅かったので、そのまま街の探索に入ることにした。
昨日と違うところを探したせいか、首尾よく1匹でうろついているゴブリンを連続で見つけ、ランタ、モグゾー、マナトで仕留めた。
「ハルヒロはちょっと無理するしね。昨日は結構深手だったし、今日はユメと一緒にシホルの護衛を頼む。ランタは中衛、俺とモグゾーで前衛をするよ」
マナトにさらりとそう言われれば、ハルヒロにも特に異論はない。
それにマナトの杖捌きは中々のものだし、腕力がある分、はっきりいえばアイラよりも攻撃力があるんじゃないかと思う。
二匹でいる奴は、援軍を呼ばれたら怖いのでハルヒロかユメも参加し、できるだけ早く仕留める。
昨日の失敗は繰り返さない。
そうやって、ちょっと失敗するときもあったけど計4匹のゴブリンを倒し、少し休憩して日が暮れる前までに帰り道がてら、あと一戦か二戦しようという事になった。
適当な廃屋を見つけて入り込むと、一人が地図を描く間に各自がそれぞれ水分をとったり軽食をとったり交代で見張りしたりをはじめた。
地図は、まだ空白地帯が多い。
この辺はほとんど真っ白なので、注意深く進もうとマナトが言っていた。
「この調子なら、アイちゃん一緒でもよかったなあ」
ふにゃっとした笑顔でユメがいうと、ランタが地図を描く手を止めて振り返った。
今日は、朝のショックを引きずっているのかだいぶ大人しい。
「ぶっちゃけ、居ても居なくても変わんねーじゃねーか。あの詐欺女!いっつもランタ様にエラソーに命令してるくせによ!何様だ!」
訂正、大人しかった。だ。
ランタの急な叫びに見張りをしているモグゾーがちらりとこっちを見てたので、首を振って安心させる。
「あのうんさぎおんな?」
「アノウンじゃなくてあの詐欺、ね」
ユメに一応訂正するが、更に首を傾げられた。
「アイちゃんて、鳥だったん?」
「そっちのサギじゃなくてさ・・・」
「じゃあうさぎ?」
「もう、いいや」
説明を放棄したハルヒロとは対照的に、ランタはますますヒートアップしていく。
「あの女!偽乳の振りしてやがったんだよ!ニセチチだぞ!意味わかんねえだろ!信じられるか?オイこらちっぱいなんか言ってやれ!陰で!貧乳を!嘲笑ってたんだよ!最低だなマジありえねぇよ」
ありえないのはお前だろ。とハルヒロが思った。
まぁ、正直、意味わかんないけど。人には事情があるし?
近くで巨乳だとか貧乳だとか言ってるの見てれば、ユメみたくあんまり気にしない方じゃない限りは、あえてそういうことは避けたい気持ちもわかる気がするし?
「ランタくんのほうが・・・・・・最低・・・・・・」
こぶしを握って熱弁し始めるランタに向けるシホルの眼差しは軽蔑に満ちている。
ユメはちょっと眉を寄せて、首を傾げた。
「なんかようわからんけどなあ、ランタと違うて、アイちゃんはユメの事わらったりしないからなあ。ユメ弓の練習でもちっとも当たらんけど、いっぱいうててすごいね、っていつもいってくれるし、おっぱい大きくなる体操とか教えてくれるしなあ」
「ゆ、ユメ・・・・・」
「シホルも腕のところとか、腰のところがきゅってなる体操とかいっぱい教えてもらってるしなあ?」
にこにこしながら話を振られたシホルがぷるぷると肩を震わせながらユメの口を押えようとして縺れ合って倒れる。
「シホルどうしたん?」
「も、・・・やめて・・・・・・」
シホル顔真っ赤だし、息も絶え絶えという有様だ。
「あんだよ、お前らそんなエロい体操してんの?教えろ。つーか混ぜろ。体操が必要なのかオレ様がチェックしてやる!さわらせろー」
「ランタ、いい加減にしろよ」
手をワキワキさせ近づく姿が気持ち悪かったのでハルヒロが声をかけると、ランタにお前も本当は加わりたいんだろうがと言い返された。
「女三人でちちくりあってんだろ。くそ羨ましい!オレにも揉ませろ!部屋に入りたい!」
「き、きもい・・・・・・ありえない・・・むり」
「きしょっランタきしょいっ」
ドン引きする縺れ合ったままの女子二人。
服とか捲れてるけど、言った方がいいんだろうか。
「盛り上がってるところ悪いけど、ランタ、地図描き終った?」
瞑想して魔法力を回復していたマナトが声をかけると、ランタが舌打ちして地図描きに戻る。
ハルヒロはほっとして食べかけだったパンを口に運んだ。
マナトがモグゾーと交代して、少し離れたところから外を見はじめていた。
シホルは顔真っ赤なまま膝を抱え込みなにかぶつぶつ言っている。
モグゾーがカバンから大きなパンを取り出して食べ始め、ランタもため息をついて地図を投げだし隣に座りこんだ。
一応、地図を確認しながらゴロゴロし始めたユメを見た。お腹、見えそう。
「そういえばさ、ユメってさ、弓の練習っていつしてるの?」
ハルヒロが声をかけると、ユメがひっくりかえったままふにゃりと笑った。
「お風呂の前とかかなあ、ユメ、弓がちっとも当たらなくて、嫌やなあっていったらアイちゃんが、狼犬のごはんのための練習だと思ったらって言ってくれてなあ。はじめて真ん中命中したらかわいい髪紐くれた」
ユメが狼犬を飼いたがっているのは常々言っていることだから、ハルヒロはあっさり納得した。
「でも最近ちょっと掠るようになってきたんじゃない?結構ギリギリっていうか」
「やろー。ユメもなあ、ゴブちんの近くに当たるとゴブちんびくぅってなって動きが止まるから、もうちょっと頑張ろうかなっておもってん」
意外と頑張ってるんだなぁとしみじみしていると、マナトが急に強張った顔でこちらを見て、しゃべらないようにという合図をしてハルヒロを手招きした。
音を立てないように近寄り無言でマナトが指さす方向を見る。
向かいの通りにあった大きな石造りの建物の前にゴブリンがいる。
一匹や二匹どころじゃない。
どうも、たった今だどりついたという感じで、何匹も周囲をうろうろと警戒して歩いている。
やたらとでかいのや、弓を持ったの、この辺りじゃ見ないほど鎧や兜まで持った重装備のゴブリンが居る。
物陰に隠れて正確な数もよくわからないが、大きな音を立てれば、気が付かれてもおかしくない。
というか、もしかして、これからもっと増えるのか?
真剣に見ているマナトの顔が青ざめている。
数えようと身を乗り出しかけたマナトの体を、思わず引っ張り戻す。
なんかこの動作に見覚えがあるな、と一瞬思ったけど、すぐ忘れた。
身を低くして二人でそろそろとみんなのところへ戻り、小さな声でゴブリンの群れの事を告げ音を立てないように身支度を整える。
さすがのランタもあらためてゴブリンの数を見て、何も言わなくなった。
「今日は、もう退こう。みんなでオルタナに戻ることを最優先で考えるんだ。音で連中気に気が付かれるとまずいから、他のゴブリンにも会わないようにしよう」
マナトの言葉に皆頷く。
シホルが目を瞑ってユメの腕をぎゅっと握り、モグゾーがふと気が付いた顔で荷物をごそごそし始めた。
「モグゾー、どうした?」
ハルヒロが尋ねると、モグゾーがカバンから柔らかそうなぼろ布を何枚か取りだして掲げた。
「うん。ぼくどうしても音が出るから、金具が当たるところに布とか挟んでおけば、少しはマシになるかなって。鞘を包んで剣も抜いたまま運ぶよ」
確かに、しないよりはずっとマシかもしれない。
「そうだね、いいかもしれない。みんなも、音が出そうなものは包んで。音を立てないように気をつけて」
声を潜めたマナトに頷き、それぞれ荷物の中からちょっとしたことに使う用の布を取りだす。
盗賊や狩人のハルヒロもユメも、あまり音がしない装備だ。
シホルもマナトもほとんど布だから、問題はランタとモグゾーだし、ランタもモグゾーに比べれば軽装だけど、鞘に布を巻きつけて音がしないようにしている。
みんなでモグゾーを手伝って、できる限りの事をした。
普段ほとんどゴブリンが居ない場所を辿るとかなり迂回しなくてはいけないらしく、マナトは何度も指で地図を辿っている。
「マナト、おれとユメにも見せて」
頷き手渡された地図を二人で確認する。
やっぱりシホルが描いていた部分が一番わかりやすくて、今日ランタが描いた部分が、正直ちょっと雑だ。
どうすればいいんだろう、とマナトを見たが、マナトは何か探すみたいに周囲に目をやり、口元に手を当てて俯き、考え込んだまま気が付く様子がない。
考えの邪魔をしたくなかったので、ハルヒロは周囲を見渡した。
出るのは、入ってきたのとは反対のあっちの崩れた窓を使う。
モグゾーがぎりぎり通れるだろう。
そうすれば、見張りゴブリンにも気が付かれないで済むかもしれない。
「シホル」
怯えた小動物のような眼差しでシホルがこちらを見た。
杖に縋るように立って、小さく震えている。
「ここまでの道のりの事、確認したいんだ。シホルって、地図描くのがうまいからさ、足元がやばいところとか避けたいなって」
「あ、あたし・・・ごめんなさい・・・こわくて・・・・・・」
すすり泣きはじめたシホルをユメが抱きしめて背中を軽くたたく。
「大丈夫、大丈夫やんなあ、何が大丈夫かはユメにもわからんけど」
しばらく泣いていたシホルが顔を上げると、マナトがシホルの肩に手を置いて爽やかに笑いかけた。
「みんなで協力すればなんとかなるよ。頑張ろう」
できるだけ、っていうかちょっとだけ音がしなくなったモグゾーがこっくり頷いたので、まずはハルヒロが先導して廃屋から出る。
左右を見渡し、遠くに弓を持ったゴブリンがこっちに背を向けて立っているのに気が付いてひやりとする。
10メートルほど先にとりあえず隠れられそうな廃屋の陰を見つけていったん戻り、ユメ、ランタ、シホル、マナト、モグゾーの順番で走る。
一番ヤバいところを抜けたと思って息を吐くと、三匹連れのゴブリンが隣の建物にいるのが見えて血の気が引く。
このままだと正面から見つかる。
どうする?
迷ってマナトを振り返ると、向かいの建物を指さされた。三分の二ぐらい壊れているが、お陰で中にいないというのもわかりやすい。
走って中に入り、全員壊れた塀の下に隠れる。
息を殺して様子をうかがっていると、ゴブリンたちなにか大声で騒ぎながらさっきまでハルヒロ達が潜んでいたところを素通りして大通りに出て行った。
そんなことを何度も繰り返し、やっと見覚えのあるあたりに出られ、思わず息をつく。
この辺は何度も来てるから、少し安心だと思ったのが悪かったんだろう。
シホルの悲鳴が聞こえたとき、いつものように躓きそうになったんだろうとしか思わず、それでも振り返るとシホルが倒れていた。
矢が足元に刺さり、血が出ているのが見えた。
「見つかった!みんな町の外まで走れ!」
倒れたシホルを担ぎ上げ、マナトが走る。
ハルヒロの仰いだ先の家屋の上に弓を構えたゴブリンがいる。
それどころか、来た方からもゴブリン三匹が走ってきた。
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ
「こっちだ!」
シホルの杖をユメが拾い上げ、こちらを振り返りマナトの後を追う。
ランタが舌打ちして降りあえるので、ハルヒロも振り返り愕然となる。
最後尾にいたモグゾーがやばい。
息が切れてる。
顔色はもっとやばい。
当たり前だ、鎖帷子も剣も重いし、普段はあんな風に息を潜めて移動したりしないから、慣れてない分ハルヒロよりも疲れ切ってる。
どうする、って言ったって、怪我したシホルを抱きかかえてるからマナトにそれ以上の事は出来ない。
どうする?
ハルヒロは振り返りながら走ったせいで瓦礫に躓きかけて、何とか地面に手をつく。
手が痛い。
砕けた石畳に雑草がうっそうと茂ったり、焦げた石やら骨、陶器がそこいらじゅうに転がっているんだから。
立ち上がり、握った、石。
「ランタ石投げて!マナト!モグゾーがんばって走って先行って!おれたちで時間稼ぐから!」
「おおお!」
ランタが戻ってきて剣を仕舞い、足元の石をやたらめっぽうに投げつける。
当たらなかったけど、一匹のゴブリンが一瞬怯み、足が止まる。
ずらりと抜かれた剣は、錆びてない。
いや、まだこっちに走ってくる奴がいる
短剣を抜くか、まだ距離がある。
ハルヒロはもう一つ石を投げつけ、走りながら簡単に打ち払われるのを見た。
ちらりと見上げた先の弓を持ったゴブリンは動いていない。
たぶん、射程からは外れた、きっとそうだと信じながらハルヒロもどんどん石を投げつける。
隣に来たユメが弓を構えて、射った。
「あたった!」
勢いよく走ってきたゴブリンの腕に弧を描いた弓矢が、当たり転倒する。
背後にいたゴブリンが動揺して足を止めた。
連続してユメが弓を放つと、じりじりと後退し、何か相談している。
ただ立ち止まったおかげで荒くなっていた息が少し落ち着いてきた。
どうしよう。
「ユメ、ランタ、走れる?」
「おう」
「うん」
じりじりと後退しながら背後を、縋るような気持ちでハルヒロは振り返った。
白い服の男が、走ってくる。
「マナト・・・っ!」
「モグゾーにシホルと先に行ってもらってる。瓦礫原の方だから、みんなもあっちを目指して、牽制しながら後退しよう」
瓦礫原っていうのは、文字通り街の外までひたすら延々と真っ黒に焦げた瓦礫しかない方の事だ。
オルタナに戻るには遠回りになるけど、遮蔽物になるほどの建物が一切なくてすべて瓦礫に覆われてる。
ゴブリンどころかネズミ一匹いないけど、ひたすら見渡しがいいので、アイラの希望で一度そこでお昼を食べた。
アイラ一人だけ何もなくて落ち着くといって、全員に引かれて落ち込んでいたのが妙に懐かしい。
なにもないけど足場が悪すぎて雨上がりっていうこともあって全員泥まみれ砂まみれにもなり、二度と行かないという結論になったはずだ。
走りにくいし、戦いもしにくい。
当然、追いかけにくい。
ここから最短距離で街の外へ出るよりは、瓦礫原の方が近い。
剣を抜いて近寄ってくるゴブリンは三匹。
一匹は、ユメの弓で負傷してる。
矢を持ったのは、降りてくる様子がない。
真剣な顔で錫杖を構えるマナトに頷き、ハルヒロは短剣を引き抜く。
ランタが改めて剣を抜き、ユメも剣鉈を構えた。
***
オルタナにつくころには、すっかり暗くなってしまっていた。
なにしろダムローをでても、日が暮れれば危険な生き物がいるという話だから警戒しながら歩かなくてはいけないし、全員疲労困憊だったから普段よりもずいぶん時間がかかってしまった。
それでもかがり火の焚かれた北門が見えてきたときは、マナトでさえ安堵の息を吐いていたし、ランタに至っては駆けだしてつまずいて景気よく転んでゴロゴロとのたうち回っていた。
「シホル、もう少しだから頑張って」
「・・・・・・はい」
何度もつまずき、見かねたマナトが腕をかして、何とか足を動かしていたシホルは息も絶え絶えと言った有様だ。
「お腹、すいたなあ」
「今なら、草でもいい」
元気なく言うユメに続いてぼそりと呟いたモグゾーの目が怖い。
「も、モグゾー落ち着いて。あとちょっとだから、がんばろうよ」
なんとか宥めるハルヒロも正直かなりつらい。
城門くぐって、門番に見習い章を見せて、入ってすぐの屋台でとりあえずなんか食べよう。
なんでもいい。
あとなんか飲んで、ひとごこちついたらゆっくりご飯を食べたい。
それから宿舎に戻って、風呂に入って、さっさと寝よう。
それだけ何度も繰り返し考え、やっと門に辿り着く。
幸い、日が暮れてから門の外に出ようとする人間はめったにいないし、日が暮れてから入ってくる数少ない人間も大半は義勇兵だからそんなに待たずに入ることができた。
「今日はもう遅いから、戦利品なんかは明日まとめて売り捌こう。それじゃあ、みんなお疲れ」
門から少し離れたところで、疲れているはずなのに爽やかな笑顔のマナトが言い、みんなのろのろと動き出そうとしてユメが不意に人ごみの方を指さした。
「アレ、アイちゃんとちがう?」
指さす方には、外出着に帯剣した眼鏡女が白いストールを巻いた義勇兵らしい女の人と話している。
深刻な話らしく、俯いた顔は今にも泣きだしそうだし、こちらに気が付いた様子もない。
「よし、バックアタックだな」
止める間もなく、急に元気になったランタはそういって、人込みの中に入り込み、アイラの背後に回る。
「どうしよう、アレ」
「・・・・・・ろくなことしないから、止めた方がいいんじゃ」
さっきまで息も絶え絶えだったとは思えないほど、実感のこもった声のシホル。
モグゾーはすでに屋台の方へ意識を取られている。ていうか、ふらふら歩きだしそうだ。
「よーし、アイちゃーんただいまー!」
ユメの声に、びくんっとアイラの顔がこちらを見た。真っ白になった顔がこちらを見た。
ぽかんとした顔が徐々に緩んで、ちょっとこっちが動揺するくらい、嬉しそうな満面の笑顔になる。
それから訝しげに周囲を見渡し慄然とした表情になる。
そしてよろめく様な足取りで白ストールの横を過ぎて一歩進みでて、何か言おうとしたとき、
「すきありぃぃぃぃい!」
背後から忍び寄っていたランタが彼女の背後から襲い掛かり、アイラから流れるような動きで肘鉄食らってくの字に曲がったところを膝蹴り背中に肘鉄を入れられて地面に転がった。
のたうち回るランタに白ストールがとどめに蹴りを入れ踏みつけて剣を突き付けた。
「アタシの前でいい根性してるね。クソ変態野郎。潰されるか斬り落とされるか、好きなの選びな」
と、どすの利いた声だけ響いて、汗が出る。
「あ、あのごめんなさい。すみません。コレがアレです。バカの子ですみません。なんか、大丈夫みたいです。すみません」
一瞬しんとした周囲に、ため息交じりのアイラの声が少し聞こえた。
ランタに突き付けられた抜身の剣を手で軽く押さえてアイラが頭を下げている。
訝し気にしていた白ストールが目を回しているランタとアイラとこっちみて、ため息をついて剣を収めた。
やがてまた周囲の喧騒が戻ってきて、二人の話している内容は聞こえない。
なにかしみじみ話して、白ストールがアイラの肩を叩く。
同情と憐れみのこもった激励付きだ。
去っていく白ストールに深々と頭を下げ、顔を上げるとピクリともしないランタを嫌そうに見て、軽く蹴りを入れてから襟首をつかんで引きずってくるアイラ。
いつもの笑顔なのに、怖い。
絶句していたユメとシホルが思わず後ずさる。
どさりとランタから手を放し、アイラが一歩詰め寄る。
全員がじろりと一瞥され、シホルがひっと声を漏らしユメに抱き着く。
ハルヒロは思わずマナトを見た。
さすがマナト、こんなときでも平然と視線を受け止めて爽やかな笑顔だ。
「ただいま。遅くなってごめん」
アイラは息を吸い込んで、何か耐えるように唇を噛みしめ睨未口を開いた。
「遅いんだよバーカバーカ!六人とも孫に囲まれて死ねッ!バカバカ」
押し殺した声でアイラはそれだけ言い捨てて、くるりと背中を向ける。
「ほんとっバカッ」
最後に吐き捨ててそりゃーもういい走りっぷりで、あっという間にアイラの背中が見えなくなった。
「に、・・・・・・にげた?・・・の?えっ?」
「すっごい早いなあ、アイちゃん」
抱き合っていたシホルとユメが呆気にとられ、モグゾーがごはんとつぶやく。
「じゃあ、改めて解散でいいかな。みんな、お疲れ」
さらりと流して呻いているランタに癒し手をかけようとしているマナトに一応、聞いてみる。
「あの、追いかけなくって、いいのかな。えーっと、・・・・・・アレ。めちゃくちゃ怒ってたけど」
「うん。俺が後で何とかするよ」
爽やかに笑うマナトに、いいのかなと思いながら頷くハルヒロ。
そうか、ならマナトに任せよう。マナトに任せれば大丈夫。
とりあえず・・・・・・ハルヒロは、そう、信じる。
翌日、マナトとアイラは口を利かないどころか目も合わさなかったので、ハルヒロはマナトにもどうにもできないことがあるんだと学んだ。