インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍    作:ユウキ003

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これがいわゆる最終回です。
といっても、大半が説明文みたいな感じですが……。
字数はいつもの倍くらいになったのですが、
エピローグを分割するのもどうかと思ったので
纏めて投稿しました。


インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 エピローグ

——紅蓮の悪魔との戦いを制した銀龍——

 

——だが、その果てにあったのは、死、だった——

 

 

今、IS学園島の砂浜に、大勢の生徒や教師たちが集まっていた。

そして、彼女たちの視線の先には、一夏と、彼に抱かれたまま安らかな

眠りについた銀龍、3式機龍が居た。

 

そして、その周りでは………。

簪「機、龍。う、うぅ、う、あ、あ。うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

我慢の限界を超えた簪が、機龍の血まみれの胸に飛び込み、

声を上げて泣き始めてしまった。

その周りでも、セシリアは口元を手で覆いながら、機龍から目を背けている。

ラウラも、目こそ背けず声こそ上げていないが、それでも、その目から

大量の涙を流し続けていた。

楯無もまた、泣きじゃくる簪の肩に手を置きながら泣いていた。

 

誰もが、機龍の死に涙を流していた。

 

一夏も、機龍の頭を自分の胸に抱きよせながら泣いていた。

 

一夏『俺、お前の事、絶対、忘れないからな。機龍』

 

 

 

これで、これで終わってしまうのだろうか?

 

 

命を懸けて世界を、仲間を守った銀龍の物語は幕を閉じるのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

否!断じて否である!

 

 

 

一夏の涙が、機龍の頬へと落ち、そこを伝って彼の白式へと

落ちて行った。

と、次の瞬間。

 

 

   『パァァァァァァァァッ!!!』

何と、待機状態の白式が金色の光を放ち始めた。

一夏「え?」

いきなりの事で、涙を流しながらも愛機を見つめる一夏。

だが、それだけではなかった。

まるで、光り輝く白式に呼応するかのように、紅椿や甲龍、

ブルー・ティアーズや弐式、アラクネ、黒騎士、ゴールデン・ドーン

と言った12機。更にはレインやフォルテのISまでもが光を放ち始めた。

だが、それだけではない。

この時、学園内に保管されていた訓練用の打鉄やラファール・リヴァイヴ。

更には束の邸宅に保管されているゴーレムⅢ用の未搭載のコアまでもが

光り輝いていた。

 

そして、それらのIS、もっと言えばコアから溢れた光が壁や天井を

突き抜けて機龍の元へと飛来した。

白式や紅椿、専用機から訓練機までのISコアから生まれた黄金の光が、

集まって機龍の体へと注がれていった。すると。

 

楯無「傷、が」

機龍の体のあちこちに刻まれていた傷が、まるで映像を巻き戻すかの

ように、目に見える速度で回復していった。

やがて、光が収まった時には機龍の服がボロボロと血で真っ赤な事

以外、何一つ普通な体に戻っていた。

 

 

 

 

そして、奇跡は起こる。

 

 

 

   『ピクッ、ピクッ』

僅かにだが、永遠の眠りが訪れたはずの機龍の目が、僅かに動いた。

そして……。

 

 

機龍「……か。……い、ち、か」

僅かに開かれた目が、一夏を見つめ、同じように僅かに開いた口から、

彼の名を呼ぶ声が聞こえて来た。

一夏「ッ!機龍。お前、生き返って」

彼を始め、周囲に居た簪たちや生徒達は、機龍の奇跡の復活に

驚いていた。

 

しかし、再び機龍の瞳は閉じられてしまった。

  「機龍!?しっかりしろ機龍!」

呼びかける一夏だったが、そこへ。

クロエ「束様!」

以前機龍が臨海学校で負傷した際に、束が治療のためにと使った

生体ポッドをゴーレムⅢに運ばせながらクロエが戻ってきた。

束「くーちゃん!!」

それを見て、目元の涙を拭い、立ち上がる束。

 「いっくん!リュウ君を早くポッドに入れて!」

一夏「は、はい!」

 

その後、生体ポッドに機龍を収容したクロエは館の方へと

戻って行き、一夏達や生徒達も機龍に寄り添うようにそれに

続いた。

 

一方、砂浜に残っている千冬、束、スコール、オータム、マドカ。

マドカ「あれは、一体何なんだ?死者が復活したとでも

    言うのか?」

束「……以前、似たような事ならあったよ」

オータム「何?」

束「夏の頃、いっくんが銀の福音暴走事件の初戦で負傷した時、

  専用機である白式があの子の生体再生を行ったんだよ。

  もっとも、これもイレギュラー中のイレギュラーだけどね」

スコール「今回のあれは、それの発展形、と?」

束「こればっかりはね~。まぁ、とにかく私はリュウ君の方を

  見てくるよ。リュウ君が生き返ったにせよゾンビになったに

  せよ、まずは診察してみない事には何も分からないし」

と言う束の顔には、少しばかりの笑顔が浮かんでいた。

 

千冬「嬉しそうだな?」

束「まぁ、ね。……久しぶりだったから。あんなに思いっきり泣いて、

  奇跡を起こしてくれた、この世界に感謝してるから、かな?」

オータム「奇跡、ねぇ」

スコール「まぁ良いじゃない。彼が蘇生したのなら、誰一人失う

     事無く、事態が解決したのだから。そうでしょ?

     織斑先生」

千冬「……。あぁ、そうだな」

と、千冬は呟きながら、静かにうなずくのだった。

 

 

それから、色々あった。

まず、機龍の事だ。あの後、生体ポッドに入れたまま精密検査を

行ったが特にこれと言って傷などは認められず、今は眠っているだけ、

と機械に判断された。

次に、機龍とモスラの事だ。二人は大勢の生徒の前で怪獣化して

戦った。

過ぎ去った悲しみの後にやってきたのは、その大きすぎる疑問だ。

生徒達の中で様々な憶測が飛び交っていたのだが、

それを察知した束が、明日その事に関して全校生徒の前で

説明すると言って生徒達を落ち着けさせた。

しかし、それだけではなかった。

IS学園はアラスカ条約によって世界各国の干渉を受けない、

所謂ホワイトエリアのような存在だが、実際には様々な国の干渉が

あるのが実情だった。

で、監視衛星でも飛ばしていたのか、各国はデストロイア、3式機龍、

モスラの情報を得て、その情報である映像や画像なんなりを証拠に

学園側に情報の開示を迫った。

しかも運の悪い事に、機龍の人間態である篠ノ之機龍の顔まで

割れてしまっていた。

が、これに対して束が。

 「お前らより先に説明する相手が居るから待ってろ。

  待てないなら全世界のIS止めるからね」

と、ドスの利いた声で開示を迫ってくる各国の関係者を黙らせた。

また、モーラことモスラも負傷こそしたものの、その日の夕方には

目を覚まして一夏達からあの後の戦いの流れを聞き、一度は

涙を流すも、その後に起きた奇跡を聞き、安堵していた。

 

 

やがて、時間は過ぎ去り、翌日。

 

今日はすべての授業を返上して、全生徒・全教師が講堂に集まっていた。

そして、指定された時間になると、壇上の上に束が現れた。

これから行われるのは、束による機龍やモスラに関する事情の説明だ。

マイクを片手にとって講堂内を見回す束。

 

束「んんっ。え~っと。まぁみんな知っての通り、今ここに

  集まってもらったのは、あの怪物、デストロイアを始め、

リュウ君ともーちゃんの事に関する説明をするため。

でね。まずはみんな知りたい事があるだろうから、質問が

ある人は、手上げて!」

と、束が言うと、皆が皆バッと手を上げた。

 「ですよね~。え~っと。じゃあ、最前列の君!

  質問は?」

と、マイクで指さした束。

生徒「は、はい!えっと。そ、そもそも機龍君ってどういう存在

   何ですか!?あんなにおっきくなったり生き返ったり!」

束「うんうん。至極真っ得な疑問だね~。良いよ。私が知りえる範囲で

  答えてあげるよ。……で、まずそれを説明するにあたって

  ここに居る全員に質問するよ。君たちは異世界って概念を

  信じているかい?」

と、周りを見回しながら問いかける束。数秒、講堂内が騒めくが、

束が咳払いをすると騒めきは止まった。

 「今私が言った事を信じられないかもしれないけど、端的に言えば

  異世界は存在するんだよ。でだ。私の言う異世界の定義は、

  パラレルワールドと同じなんだだ」

と言うと、生徒の一人が手を上げた。

生徒「あ、あの。パラレルワールドって何ですか?」

束「そうだね。まずはそこからだね。そもそもパラレルワールドとは

  在りえたかもしれない可能性の未来と言えるね。

  そうだね。例えば、この世界にISが誕生しなかった可能性。

  パイロットが女性ではなく男性だけだったかもしれない可能性。

  名前が違っていた可能性。これらの可能性はみんな、

  今の私たちとは違う、目で見ることはできないけど在るかもしれない

  可能性の世界。それがパラレルワールドだよ。わかった?」

と言われると、頷く生徒達。

一人、未だに首をひねっている男子が居たのは、別として。

 

 「まぁ、とにかくだね。まず、私たちの世界について、

  私なりの一つの定義を教えておくね」

と言うと、束の背後にあったスクリーンに、巨大な木の画像が

映し出された。

 

 「まず、そもそも私たちが世界と認識できる物を決めよう。

  私の中では、宇宙があり、銀河系があり、太陽系があり、

  地球があり、そこに人間が生息している。これを私たちが

  認識できる世界の土台。つまりは木の幹や根っこの部分と

  考えてみよう」

という解説に、生徒達は頷き、一夏は分からないのか首を

捻っていて、隣に居た箒がため息をついたりしていた。

 「そして、この幹から生えた無数の枝の一つ一つが様々な

  世界って事だよ。まぁ、要は今の私たちも、この枝の内の

  一つって事だね。さて、もう少しこの枝を細分化してみよう」

と、やがて木の枝の方へとズームするように画像が動いた。

 「そもそも枝には太い枝と細い枝があるよね?

  じゃあ、枝を世界とするのなら、太い枝同士の違いは

  何なのかを説明しておくね。まず、この太い枝は

  ある程度の歴史の違いを現しているんだ」

生徒「歴史、ですか?」

と、一人の生徒が聞き返す。

束「そう。例えば、歴史の教科書に載るくらいの大きな物事の事だよ。

  例えば、今の私たちが居る小さな枝が生えた大きな枝が

  持つ他の大きな枝との決定的な違い。それはISの有無だよ。

  知っての通り、私が言うのもなんだけど、ISはこの世界の

  パワーバランスを大きく変えた。だからこそ、私たちが

  今こうして生活している世界の太い枝の事を『ISの世界』と

  仮称しよう」

一夏「ISの、世界」

束「そして、このISの世界と言う大きな枝から派生した小さな枝が

  ISの可能性世界って事だよ。例えば、いっくんが男じゃなくて

  女の子だった、とか。或いはリュウ君やもーちゃんが存在しない、

  現れなかったかもしれない世界だって、無いとは言い切れない。

  それが『可能性世界』だよ。そして、今私たちが居るのも、

  このISの世界の中の可能性世界の一つって訳さ。

  私はこんな風に、枝のように分岐、細分化した多重世界を

  表した概念を『世界樹』と名付けた。つまり、私たちの

  世界もまた、この世界樹にあるほんの小さな枝の一つに過ぎないって

  事だよ」

と言うと、少しだけ間を挟む束。これも彼女なりに生徒達が

話を飲み込むために与えた時間だ。

 「さて、じゃあ次はリュウ君の世界について説明しようか。

  今言ったように、世界樹に生えた太い枝同士には大きな違いが

  存在している。そして、私たちの世界とリュウ君の世界の

  決定的な差が、『これ』が存在していた事」

と言った次の瞬間、画像が切り替わってそこにゴジラの絵が

表示された。

 

余りの事に驚きおののく生徒達。

 「リュウ君の世界において実在していた驚異的な存在である

  怪獣。その更に頂点に立つ存在。『怪獣王ゴジラ』。これがその

  ゴジラだよ」

驚きのまま、声が出ない生徒達。

 「さて。便宜上リュウ君達の世界を『ゴジラの世界』と呼ぼう。

  この世界では近代、正確には第二次大戦終結後の1950年代から

  各地で怪獣と呼ばれる、40から60メートル程度の大きさの

  怪生物が出現していたんだ。で、詳しい話はあとになるけど、

  リュウ君ももーちゃんも、そして恐らくあのデストロイアも、

  このゴジラの世界の可能性世界から来たんだよ。まぁ、

  一言で言うとだね。リュウ君達は異世界出身の怪獣って事に

  なるんだよ」

と、言うと、驚き騒めきが講堂内に広がって行った。

 「まぁただ、リュウ君が蘇生した事だけは私にも説明できないん

  だよね~」

と言って、テヘペロッとする束。しかし、まぁ、まじめな人々の

前でそれは白ける訳で……。

 

 「さ、さて、これで第一の質問である機龍君達が何者なのか?

  という答えにはなったかな?」

と、顔を赤くしながら話題を変えた。

生徒「は、はい」

頷く生徒だったが。

束「はい。じゃあ次の質問は~?」

と言うと、また再びほぼ全員の手が上がった。

 「え~っと、じゃあ次は君」

生徒「は、はい!そもそも、機龍君達が怪獣なのはわかりましたけど、

   あの子達ってどういう怪獣なんですか!?まさか、私たちを

   襲ったりとかは……」

と、恐る恐る質問する生徒。最後の方のそれは、全ての生徒や教師が

聞きたい事実だ。

 

あのデストロイアを退けた力が自分達に向いたら……。

と、考えただけで恐ろしいのだ。

しかし……。

 

束「アハハハㇵッ!ないない!少なくともあの二人が私たちを

  襲う事なんてないよ♪そこは私が保証するよ」

それを笑って否定する束

 「考えても見てよ。もし仮に、人間が大嫌いなら、わざわざ

  デストロイアと戦うかな?それに正体を現すにしろ、

  わざわざみんなの前で巨大化すると思う?好きでもない

  誰かの為に、自分の素性をバラシてまで戦うと思う?」

と言う言葉に、生徒達は黙り込んだ。

 「結局のところ、リュウ君やもーちゃんは人間が好きだから

  戦った。それだけの事だよ」

と言って、少しばかり間を置く束。

 

 「さて、じゃあ質問の答えに戻ろっか。質問はリュウ君達が

  どんな怪獣か、と言う事だったね」

 

やがて、束は語りだした。ゴジラの世界に生まれた一番最初の

怪獣王、初代ゴジラの出生が、核の暴挙によって生まれた、

結果的に人間が生み出したのだという事。そのゴジラが

日本、東京を襲い、人間の最終兵器、オキシジェン・デストロイヤー

によって倒され、骨になった事。

ゴジラの出現を境に、怪獣が現れ始めた事。モスラもまた、その時を

境に現れた、人類を守る側の怪獣である守護獣である事。

初代ゴジラの出現から45年が流れた世紀末、二頭目のゴジラが

日本に現れ、政府はゴジラを倒すために初代ゴジラの骨を

基礎フレームとして、3式機龍を作り上げた事。

そして、同胞との戦いの果てに機龍が決戦の最中で自我を持ち、

ゴジラ諸共日本海溝へと沈んでいったはずだった、と。

 

生徒「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

束の口から語られた真実に驚き、俯く生徒達。

束「今言った事には、何一つ嘘なんてないんだよ。そして、理由は

  どうあれ、リュウ君はゴジラを抱えて海へ沈んだ後、何らかの

  外的要因が作用した結果、私たちのISの世界へとやってきて、

  海の底に沈んでいた。そして今の人間の姿になったリュウ君を私が

  見つけた。後は、今の皆が知っている通りだよ。いっくんと

  同じようにIS適正を持ったリュウ君を、私がここに入学させた」

生徒「あ、あの。どうして機龍君やフラワーさんは私たちの世界に

   来たんでしょうか?」

束「そこに関しては私から言える事は無いよ。異世界への転生

  なんて、それこそラノベのお話だしね。まぁ、推察を述べるなら、

  恐らくゴジラ世界で時空を歪める程の『何か』があった。

  この何かの事を、『原因X』としよう。この原因Xが人為的な

  装置であれ、自然現象であれ怪獣の力であれ、とにかく。

  この原因Xがゴジラ世界の可能性世界の一つで発生した。

  結果的にそれがゴジラ世界全体に対して作用し、時空の落とし穴。

  ワームホールの様な物を発生させてしまったと私は考えているよ。

  恐らく海に没した後のリュウ君や、死んだはずのもーちゃんの

  魂がこのワームホールに引き込まれ、何等かの形で人間の姿を

  得た。これが私の推察だよ」 

生徒「じゃ、じゃあ、どうして機龍君の素性を伏せていたんですか?」

束「改めて説明するけど、リュウ君の体は人間のそれと比べてスペックが

  違い過ぎるんだ。例えば治癒能力。リュウ君の傷の再生速度は

  人間のそれを遥かに上回っているんだ。人間なら即死するレベルの

  致命傷でも、1日程度で回復する。それに、リュウ君が持つ

  特殊な細胞。私はこれを『ゴジラ細胞』。略して『G細胞』って

  呼んでる」

一夏「G、細胞」

驚き、一人呟く一夏。

束「このG細胞が持っているのは、放射能を取り込んで自分の

エネルギーに変えてしまう。言わば放射能変換機構」

その内容に、驚く生徒達。

 「今の話を聞いて分かった人も多いと思うけど、その通りだよ。

  リュウ君は言わば、世界最強の毒とも言える放射能を克服した

  生命体と言う事になるね。それに、リュウ君の体の大半は

  機械でもあるし、純粋な演算処理能力もそこいらのスパコン

  以上だよ。世界中の国にしてみれば、リュウ君の持つG細胞は

  喉から手が出るほど貴重なサンプルになる。何せ、生命力に

  関しては世界一なのは誰にも否定しようがないからね。

  まぁ、私がリュウ君の素性を隠したのはそこだよ。

  あの子の素性が世間一般に公表されれば、人間は挙って

  彼をモルモットにするだろうね」

その言葉に、再び俯く生徒達。しかし、最後に……。

 

本音「リュウ君は、これからどうなるんですか?」

おずおずと上がった手は、本音の物だった。

束「……さぁね。今後リュウ君がどうしたいか。それを決めるのは

  あの子自身だから。ここに残りたいというのか、学園を去るのか。

  その答えはリュウ君が目覚めてから、かな」

楯無「篠ノ之博士。各国は機龍君とモーラちゃんの引き渡しを

   迫っているとの事でしたが。そちらはどうするおつもり

   ですか?」

と、ここに来て爆弾を投下する楯無。その話題は、一般生徒が

知らない事だが、この場で暴露する楯無。

束「引き渡すだなんてとんでもないよ。なんてたってリュウ君は

  私の家族なんだよ。それを国に売るとか、あり得ないでしょ。

  ……まぁ、奪いに来る気なら、全力でお相手するだけだよ。

  アメリカだろうが、ロシアだろうが、日本だろうが」

そう言って笑う束。

それもまた、母親としての彼女なりの決意だった。

 「さて、とりあえず私からはあと一つだけ言いたい事が

  あるんだ。リュウ君を一言で表すとどうなるか。それはずばり!」

というと、彼女の背面の画像が白に切り替わり……。

 

 「『救世の銀龍』!だよ!」

 

束の言葉に合わせて、デカデカと筆記体で掛かれた文字が

スクリーンに映し出された。

で、まぁ一部の生徒はポカーンとしているが、それを見た

千冬と箒は、やれやれと、言いたげに首を振るのだった。

 

 

その後無事に説明会も終了し、今日と明日は休みとなった。

で、束はその説明会を録画していて、各国への情報開示はこれで

十分、としてビデオレターを各国に送り付けた。

で、更に翌日。

 

 

束「で、何これ?」

朝、束は千冬に付き添われてモノレール駅前に立っていた。

そして二人の前に立つのは黒いスーツにサングラスをした、

如何にもどっかの国のエージェントらしき屈強な男が3人と、

その3人に守られている小太りの役人然とした男だった。

今、束はその男から渡された書類に目を通して、呟いたのだった。

 

役人「はい。アメリカ合衆国からの正式な書類です」

束「そんなのはとっくのとうに分かってるよ。問題はそこ

  じゃなくてこれの中身、書かれてる内容だよ。

  リュウ君達を渡せってのはどういう事なのかな?」

役人「記述通りです」

と、さっきからまるでマニュアルのような言葉でしか対応しない

役人に、束は苛立ちを覚えていた。

束「そうじゃないよ!私から息子を奪う正当な理由を

  説明しろって事だよこの馬鹿!」

ついに我慢ならなくなって怒鳴り散らす束。

役人「それにつきましても、記述された通りです。

   『3式機龍を社会に対する脅威と判定。よって捕獲し

    調査を行う』。それだけです」

束「捕獲し調査!?はっ!嘘八百の役人が!人体実験と拷問の

  間違いじゃないのか!?極め付けが社会の脅威!?

  私が送ったビデオレター見てないの!?きっちりはっきり

  リュウ君の言葉や覚悟がたっぷり詰まったデストロイアとの

  戦いの映像、ちゃんと見てんのかテメェ!」

次第にオータムのような口調になっていく束の肩に、千冬が

手を置いた。

千冬「落ち着け。……ここはIS学園だ。そして、機龍は

   正式に篠ノ之機龍として学園の生徒として登録されている。

   ここに在籍する生徒は各国の介入を何ら受けない。

   よって貴様らの行為も全てアラスカ条約の禁止事項に

   抵触している。即刻お引き取り願おうか」

役人「……あなた方は軍事大国アメリカを敵に回しますよ?」

と、完全な脅しをかけてくる役人。

  「それだけではありません。恐らく、我が国以外も彼を

   奪取しようと企んでいるはず。ならば、我々に与えた方が

   まだ安全と言う物で——」

束「与える?ふざけんなよ。リュウ君は物じゃない。自分で考え、

  笑って泣いて怒る。喜怒哀楽を持った人間だ」

役人「ですが、彼は元怪獣のはず。そのような物に人権など」

と言うと、束が鬼の形相で役人を殴り飛ばそうとしたが、

その手を千冬が止めて、何かを耳打ちした。

 

その内容に驚く束。だが、すぐに彼女は魔女のような笑みを浮かべた。

束「え?マジ?マジでそんな事して良いのちーちゃん」

千冬「……まぁ、お前だけが使える最強の殺し文句だがな」

束「そうだね!さっすがちーちゃん!あったま良い~!」

と言って、笑顔のまま役人の方を向く束。

 「さて、じゃあまず一言言わせてもらうけど、リュウ君を

  連れて行くのなら、条件がある」

役人「……何でしょう?」

束「それはもう簡単だよ。リュウ君を連れて行く対価は、金輪際、

  つまり、二度と私が許可したIS以外の機能を私が!

  外からのアクセスで停止するよ!」

と言うと、流石の役人も驚いた顔をしていた。

役人「博士!あなたは何を言っているのかわかっているのですか!?

   大体、ISを外部から停止するなど!」

束「出来るさ。事前に私は、万が一リュウ君にISの力が向いた時の

  為に、世界中にある全てのISのコアにデススイッチを

  仕掛けたんだよ。後はポチッと人差し指一本で終わりだよ。

  私が指定したISのコアは機能停止を起こし、私が再起動の

  命令を出すまでそのコアは使えない。たった467機しかない

  ISだよね~?私が止めたら色々不味いんじゃないのかな~?

  例えば~、アメリカのIS全部止めて~、私が反米テロ組織に

  コアも装備も銃弾も満載のISを数十機渡すとか~。

  そうなったら~、アメリカはどうなっちゃうのかな~?」

と、今度は束が脅す番だ。やたら良い笑顔で役人の周りを

そう言いながらクルクルと回る束。

 「そ・れ・に~♪説明し忘れたけど~。リュウ君は二重人格なんだよ~。

  それでね~。リュウ君の中には人間が大大大っ嫌いなゴジラの

  人格があってさ~。リュウ君に何かすると~。ゴジラが

  出て来て暴れだすよ~。それも、あの60メートルサイズに

  まで大きくなって~」

と言うと、『ガウッ!』と、ライオンのようなポーズと声真似を

する束。

 「お前らみんな皆殺し確定だよ~♪アメリカはゴジラが振り撒く

  放射能によって汚染され、人が住めない土地になる。

  そして、更に人間を憎悪するゴジラは、人間を一匹残らず

  消し去るために暴れ回るぞ~。その時~、君たちアメリカは

  責任、とれるのかな~?散々人体実験して~、ゴジラを

  世に解放った時、責任、取れるのかな~?」

と言うと、役人は忌々しそうに顔を歪めると、無言でエージェント

達を引き連れて帰って行った。

 「そうだ~♪帰れ~♪ざまぁみろ~♪

  ふははははははっ!!」

返って行くアメリカの犬たちを見て笑い出す束。

 「いや~すっきりした~。ありがとうちーちゃん」

千冬「まぁ、私も奴らの強引なやり方が気に食わなかった。

   それに、機龍は私の教え子だ。奴らに渡す義理もないし、

   むしろ私には守る義務がある。それに……」

束「それに?」

千冬「友人の息子をあんな奴らに渡したとあっては、一夏達に

   何を言われるか、わかったもんじゃないからな」

と言うと……。

束「ふぉぉぉぉぉっ!まさかのデレ期!?ちーちゃんにデレ期が

  来たぁぁ『ガンッ!』って痛ぁぁぁぁっ!?」

騒ぎ始める束の頭をぶっ叩く千冬。

千冬「デレ期ではない。教師として、一人の姉として当然の事を

   したまでだ!」

と、少しばかり顔を赤くしながらそう言うと、校舎の方に

向かって歩き出す千冬。

束「あぁ!待ってよちーちゃん!」

そんな千冬を追う束。

 

こうして、大人二人の活躍によって機龍の安全は守られた。

 

 

 

やがて、デストロイアとの戦いが終わって、一週間ほど経った日の

事だった。あれから、機龍は生体機能も安定したため、3日後、

束が役人を追っ払た日の午後には、寮の自室で点滴を

打たれながらもまだ眠っていた。

 

そして、簪は眠り続ける機龍の傍にずっと寄り添っていた。

毎日のように、部屋には大勢の生徒達が訪れた。一夏を

始め、箒や鈴、ラウラやセシリア、静寐や本音と言った、

1組のクラスメイトや、かつての猫化騒動で知り合った

服飾部や写真部の部長。それだけではない。恐らく、今まで

言葉を交わした事も無いであろう生徒達が、花束や折り鶴を

手にやってきた。

 

そして、一夏達もまた、クラスメイト達に説明をした。

彼らはモーラの力で機龍の過去を見ていたからだ。人類の

所業で生み出され、殺され、利用されたゴジラと機龍の過去。

それでもなお、大切な人との思い出が、彼を守るための存在、

3式機龍で居させた事。

一夏達は、その事を聞かれる度に何度も何度も、思い出す限りの

記憶を話した。

 

そして、その話を聞くたびに、大勢の生徒が泣いた。

 

無論、中には機龍を怪物だと罵る生徒もいた。だが、そんな生徒

の数は少数であった。

現に、機龍は死ぬ気でデストロイアと戦い、最後は何一つ、

怨嗟を叫ぶ事無く、一度は感謝と共に息絶えた。

どこまでも純粋に、命を護ろうとした彼の意思と、

彼自身が持つ覇王のカリスマは、大勢の人々を引き付けたのだ。

 

そして、事件終息から一週間後の夕方。

 

今、簪は機龍の左手を右手で握り、ベッドとベッドの間に置いた

椅子に座ったまま眠っていた。だが、その時だった。

機龍「……し」

僅かに聞こえた声に、眠りが浅かった事もあってかうつらうつらと

目を開ける簪。やがて。

  「…んざし」

声が聞こえた。その声にハッとなった簪は、視線を声の主の顔の

方へと向けた。そこには……。

 

  「簪」

開かれた目で彼女を見つめ、開かれた口で彼女の名を紡ぐ、

彼女、更識簪にとって、最も愛おしい人の笑顔だった。

  「簪、ただい、ま」

その言葉に、簪は………。

 

 

 

 

 

 

——おかえり。機龍——

 

涙を流しながらも笑顔を浮かべ、そう告げるのだった。

 

 

それから数十分後。機龍の覚醒を機械でモニターしていた束と

クロエがやってきて、クロエは機龍の再検査。束はその事を

一夏や千冬たちに知らせて回った。

 

ちなみに、喜びのあまり放送室に突撃した束がそのまま校内放送

のマイクをひっつかんで『リュウ君が目覚めた~~!』

なんて叫んだもんだから、千冬がやってきてひと悶着あったのだが、

それでも束や生徒達の胸に安堵感が広がった。

そして、覚醒から数時間後には機龍も普通に動ける程度にまで

回復した。

で、クロエが機龍を検査したところ、驚くべき事実が発覚した。

 

その日の夜、束によって彼女の邸宅に一夏と機龍、モーラや

レイン達専用機持ち13人。千冬と真耶の教師陣、更には

スコールとオータムと言った、主要メンバーが集められた。

理由は、機龍に発覚した事実を説明するためだった。

 

千冬「それで。今度は何が分かったんだ?」

束「うん。リュウ君」

機龍「うん」

束「リュウ君の生体データを昔、まぁデストロイアと戦う前と

  今の君の物と比較したところ、変化が見られたんだ」

機龍「変化?どんな?」

束「うん。そもそも、これまでのリュウ君の体を構成していた

のは、ゴジラ細胞、つまりはG細胞な訳だけど、今は

それに変化、というより、進化しているって言えるんだ」

一夏「進化、ですか?機龍が?」

と、言う一夏と、彼と同じように首をかしげている箒

やレイン達。

 

束「うん。普通のG細胞の持つ効果は、驚異的な治癒力と、

  放射能の無害化、或いはエネルギー吸収能力だけ。

  けどね、さっきリュウ君の体を調べてみた時にわかったんだ。

  今のリュウ君の細胞は、ISのように最適化、つまりは

  フィッティングを繰り返しているんだ」

一夏「……えっと、それって、つまり?」

と、首をかしげざるを得ない一夏。

箒「本来生物が行えないようなことをしている。

そう言いたいのですか?」

束「そうかもしれないね。まぁ、G細胞の効果自体が異常だけど、

  それを差し引いても細胞が自動的に機械みたいに

  最適化をすることなんてありえない。これは恐らく、 

  リュウ君が復活した際に浴びた大量のエネルギーによって

  G細胞が活性化して進化したんだと思うよ。私はこの

  新しいG細胞の事を、『進化型G細胞』。

  EVOLUTIONALY-G-CELL。英語の訳をもじって

  『EG細胞』って名付けたんだ」

機龍「EG、細胞」

束「あと付け加える事があるとすればもう一つだけ。

  リュウ君とゴジラの持つG細胞は本来、ゴジラにしか制御できない

  危険な代物なんだよ。けど、EG細胞はそれも超越した。

  例えば、特定のDNAを与えたEG細胞はそれに合った進化を

  する。つまりだ。例えば人間のDNAを学んだEG細胞は

  人間の構造や情報を得て、人間にとっての最強の薬になるんだ」

スコール「薬、ですか?」

束「そう。ガン治療や喪失した五感や四肢の回復。何でもありだよ。

  ゲームで言うの所の完全回復薬だよ。どんな病気やケガも

  立ちどころに直す。正しく覇王の祝福だね」

機龍「僕の体に、そんな変化が……」

そう言って、右掌を見つめる機龍。

 

束「デストロイアの一件でリュウ君はある意味進化したと

  言えるんだ。今のリュウ君なら、自分の意思で60メートル

  サイズまで巨大化できるんだ。加えて、今まで発動した

  力もね。リュウ君。何でもいいから手に物をイメージしてみて」

機龍「イメージ?う、うん」

そう言われ、機龍は右手を開き、そこにフォークをイメージした。

すると、そこに銀色のフォークが銀の光と共に現れた。

そして、同時に機龍は自分の中から僅かにエネルギーが抜けた

と感じていた。

  「これって……」

束「リュウ君が京都で見せたエネルギーを物質に変換する

  エネルギー変換機構。以前ならそれはSoN発動中にのみ

  使用可能な力だけど、今のリュウ君はそれを生身の状態で 

  できる。そして、今のリュウ君の進化速度ははっきり言って

  異常だよ。生物の進化速度を超えて、機械的速度で本能が

  学習し、進化する。生物の持つ進化と機械の持つ学習スピード

  を持った、異常な進化。

  私はこれをHYPER・EVOLUTION、『超進化』と

  名付けたんだ」

機龍「超進化。僕の体が、進化、する」

束「後、リュウ君には悪いと思ったんだけど、体の中にリミッターを

  いつくか掛けさせてもらったよ」

簪「リミッター?どういう事ですか?」

束「単刀直入に言えば、リュウ君のあの時の死の大本は大きすぎる

  力を、リュウ君の傷ついた体自身が受け止めきれなかった事なんだ。

  『アルファリミッター』。全部で1から100まで段階的に

  リュウ君の力を抑え込んでいるんだ。といっても、解除とかは

  リュウ君自身の意思でできるんだけどね」

機龍「そっか。……ありがとう束」

頷き、2、3回手を握ってから礼を言う機龍。

束「正直に言うと、それらの大半はG細胞の進化が大本なんだよね。

唯でさえ非常識なそれが更に非常識な進化をした事で、

リュウ君の体をどこまでも高めていく。

今リュウ君に出来るのは、異常な速度の進化、物質生成、加えて、

大気中の微量な放射能の吸収とエネルギー変換。

そのエネルギー変換効率も、徐々にだけど

上がってきているんだ。

  ……こういうのはどうかとも思うけど、リュウ君。

  多分君はこの世界で最も『神に近い存在』なんだよ」

機龍「………」

 

一夏「えっと、それで、結局機龍はどうなったんですか?」

と、ここに来て話について行けてなかった一夏が挙手をした。

束「一言で言えば、リュウ君はこれからも進化するし、

  どんどん強くなっていく。それこそまさに、EG細胞を持つ者

  だけが歩む事が出来る、『神へと至る道』」

千冬「神、か」

束「リュウ君は今後、生と死を超越した存在になるかもしれない。

  その時は、むしろリュウ君にとって肉体さえただの器。

  いや、枷になるかもしれない。荒唐無稽かもしれないけど、

  可能性は0じゃない」

 

機龍「僕は、そんな事に興味はないよ」

自分の右手のフォークを見つめながら呟く機龍。

そして、フォークは粒子となって消えた。

  「僕は神様になんか興味はないし、体を枷だとは思わない。

   僕は誰かの笑顔と有り触れた毎日を守る力と、みんなと

   笑って、触れ合える体と心があればそれで十分だから」

そう言って、彼は拳を握りしめた。

 

  「織斑先生。お願いがあります」

と、機龍は決意の籠った瞳で彼女を見つめるのだった。

 

 

そして、翌日の朝。

普通に授業が再開された朝、1年1組の教室には完全復活した

機龍の姿があった。

しかし、誰もが彼の素性を知ってしまったため、話しかけずらい

状況になっていた。

そんな中で朝のHRが始まったのだが……。

 

千冬「さて、朝のHRはこれで終わりだが、機龍からお前達に

   話したいことがあるそうだ。機龍」

機龍「はい」

頷き席を立つ機龍。そんな彼の様子に騒めく生徒達だが、

彼が真耶に促されるまま教卓の前に立つと、それも静まった。

 

そして、緊張が流れ出した。しかし。

 

 

機龍「この場で、僕は皆さんに言わなければならない事があります」

誰もが冷や汗を流し、彼の言葉を待った。だが、それはある意味において

裏切られた。

 

 

  「嘘をつき、皆さんをだます結果になった事、今この場で

   謝罪させてください!申し訳ありませんでした!」

 

そう言って機龍は思いっきり頭を下げた。

一方の生徒達は、予想外のセリフに目をぱちくりさせている。

静寐「え、え~っと、それはどういう意味で」

 

機龍「素性を隠すためとはいえ、皆さんにこれまで嘘をついていた

   事は言い訳のしようがない事実です。そして、僕の

   素性も束が説明してくれた通りです。僕は人間では

   ありません。人殺しの、怪物です」

ギュッと、両手を握りしめる機龍。

  「だけど、これだけは言わせてください。僕は、この学園

に来て、大勢の人と出会いました。その思い出は、僕に

とって大切な宝物です。だからこそ、お願いがあります。

こんな化け物の僕で良ければ、皆さんの学友として、

友人として、ここに居させてください!お願いします!」

機龍は己が願いを言葉に乗せて放ち、再び頭を下げる。

 

 

機龍はそのまま待った。拒否されるのが怖くないと言えば

嘘になる。だが、それでも、出来る事ならと彼は思っていた。

 

 

 

 

 

そして、彼の思いは実った。

   『パチパチパチパチッ!』

返ってきたのは、拍手だった。その音に呆気に取られ、

顔を上げる機龍。

彼が見たのは、笑みを浮かべる一夏や箒達クラスメイトだった。

  「え?あ、あの。僕は……」

生徒「リュウ君は怪物なんかじゃないよ!私たちのクラスメイトで

   可愛い弟みたいなもんだよ!それに、私前に機龍君に

   勉強教わった事あるし、また教えて欲しいんだよね~」

  「あ~それ私も~!」

本音「リュウ君また勉強教えて~!」

生徒「それにウチのクラスは男子が居るんだし、そのアドバンテージ

   捨てるのもね~」

  「そうだそうだ~!可愛い機龍君を他のクラスに渡すな~!」

   「「「「「お~~~~!」」」」」

  「あ~あと!私もっと猫モードの機龍君も見たいし~!」

   「あ~!確かに賛成~!」

と言って、彼女たちも笑みを浮かべながら頷き合っていた。

 

機龍「僕、は、ここに居ても、良いんですか?」

と、機龍は目を見開き、驚きながらもそれを口にした。

生徒「居て良いも何も、機龍君は私たちの『クラスメイト』じゃない!」

と、それを言った彼女にしてみれば、ありふれた言葉かもしれない。

他の生徒達もそれに頷いているが、その言葉が一番響いたのは、

機龍自身だった。

 

機龍の両目から、涙が流れ出す。

  「あ、あれ!?私なんか不味い事言っちゃった!?」

というと、機龍はブンブンと首を左右に振った。

 

機龍「違う。違うんです。ただ、僕は……」

 

そう言って、機龍は涙を拭いつつも他者を魅了する笑みを浮かべ……。

 

  「皆さんに、出会えて、本当に良かったって、思えたんです」

 

彼は思った。自分は、最高の友人に恵まれたのだと。

 

 

 

 

しかし………。

 

一方の生徒達はハートがキュン死寸前だった。何故なら……。

 

生徒「ヤバい。それはヤバいよ機龍君」

機龍「え?」

いきなりそんな事を言われたので、涙を止め、キョトンとする機龍。

  「え~っと。ヤバいって、どういう意味ですか?」

 

生徒「それは、もちろん。……可愛すぎるよ機龍きゅん!!!」

 

機龍「へ?」

 

生徒「あ~もう!我慢できない!」

 

と、一人の生徒が言うと、大勢の女子たちが立ち上がった。

  「機龍君!」

そう叫んでガシッと機龍の手を取る女子が一人。

機龍「は、はい!?」

  「結婚しましょう!!」

 

ぽく、ぽく、ち~ん。

どこかで木魚を叩く音が聞こえて来た後、機龍は……。

機龍「えぇぇぇぇぇぇっ!?」

セシリア「ど、どうしてそうなるのですか!?」

簪「だ、ダメ!機龍は私の!」

ラウラ「わ、私とて認めんぞ!け、結婚なぞ!」

モーラ「というか、許嫁の私だって居るんですよ!?」

驚く機龍と立ち上がるセシリアや簪、ラウラ。

 

機龍「あ、あの!どうして結婚の話に!?」

生徒「だって~♪機龍君があんなにキュンキュンする台詞と

   表情浮かべるんだも~ん!お姉さんもう我慢できないよ~!」

という生徒に唖然となる機龍。そして彼は……。

機龍「お、織斑先生!」

と言って教師である彼女に助けを求めるが……。

 

千冬「私は知らん。お前達の問題はお前達で解決しろ」

と言って楽しそうに笑みを浮かべていた。

機龍「えぇぇぇぇぇっ!?」

そうして驚いている間も……。

 

生徒「さぁ機龍キュン!挙式の用意をしましょう!私が男装するから

   機龍キュンはウェディングドレスでね!」

そんな事を言っている生徒の目は、確実に『イって』いた。

それはもう何をしでかすか、分からないくらいに。

何てことを言っていると……。

   『バァァァァンッ!』

それはもうぶち破るような勢いで扉が開かれ、そこに居たのは……。

服飾部部長「その服、私が仕立ててあげるわ!」

機龍「ぶ、部長さんまで!?というかどうしてここに!?」

明らかに血走った目と荒い息の服飾部部長だった。そこへ……。

 

束「いや~。ごめんね~リュウ君」

機龍「束!?」

彼のすぐ近くに通信ディスプレイが浮かび上がり、そこに束の

顔が映った。

束「実はさっきの挨拶、こっそり全校生徒に向けて流しちゃった~。

  テヘペロッ♪」

と言われた瞬間、機龍は廊下の方に視線を向けた。

 

案の定には、狼のような視線の女子たちが無数に居た。

結局のところ、普段から周りに優しく接していた彼の愛らしさや

仲間たちを守るために死闘を繰り広げた事、今の言葉や彼の持つ

カリスマが大勢の女子たちを惹き付けてしまったのだ。

雌が雄のフェルモンに引き寄せられるように……。

ましてや王の血筋のそれは、とてつもない威力を持っていたのだ。

 

アワアワ、と言いたげな機龍は、最後の砦であり兄貴分で

ある一夏の方を見た。

そして、視線が合った事で呆然としていた一夏は叫んだ。

一夏「機龍!何でもいいからとりあえず逃げろ!」

その言葉を聞いた次の瞬間、機龍へ窓を開けてそこから飛び降りた。

進化した肉体を駆使して普通に地面に着地して一度息を付く機龍。

 

だったのだが……。

 

   『ドドドドドドドッ!』

何やら、ヤバそうな地鳴りが聞こえて来た。機龍は、ギギギと金属音が

しそうな動きでその音がする建物の角の方へと視線を向けた。

すると……。

 

生徒「「「「「機龍きゅ~~~ん!!」」」」」

 

案の定、目がおかしい生徒達が無数に飛び出してきた。更に……。

簪「機龍~~~!」

上の窓からISを纏った簪やラウラ、セシリア達まで

飛び降りて来た。

そして、機龍は………。

 

機龍「何でこうなるの~~~!?!?」

 

絶叫し、生徒達から逃げるべく走り出した。

だが、それでも彼は、笑っていた。

 

走りながらも、雲一つない空を見上げる機龍。

 

そして、彼は………。

 

 

——義人、僕、見つけられたよ。友達——

 

異世界の大切な人への思いをはせながら、機龍は笑みを

浮かべるのだった。

 

 

     鋼鉄の銀龍  END

 




これを持って、鋼鉄の銀龍は終わりです。
但し、元々考えていた三次創作『救世の銀龍』へと物語は
続いて行きます。

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