インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍    作:ユウキ003

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今回で京都編も終わるかなって思って書き続けてたら
1万6千字を超えてもまだ終わりませんでした。
ですので、京都編もまだ1話くらい続きます。
今回はD・ゴーレム集団との戦いとマドカとの戦いです。



インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 第26話

~~前回までのあらすじ~~

京都の夕暮れの空でぶつかり合う一夏と機龍達10人とスコール達5人。

しかし、その最中戦いに割って入ってきた集団があった。

それは束の作ったゴーレムⅢを改造し、ついには簡易ISとでも

言うべきダミー・ゴーレムの群れだった。それを差し向けた者こそ、

スコール達亡国企業のトップである謎の男、ミスター0だった。

だが、彼のスコール達を駒とするやり方に怒りが爆発した機龍達。

そして、一夏達10人と更に専用機を持って参戦した真耶の

合計11人は、機龍から生み出された黄金の光、魂の絆、

『スピリッツオブネクサス』の力で、悪しき者を倒すために、

戦いへと臨んだ。

 

 

今、京都の空の上を11人の騎士たちが駆ける。

機龍「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」

   『KYUAAAAAAN!』

咆哮を響かせ、右手のクロウを回転させながらD・ゴーレムの

集団に向かって突撃する機龍。そして、それに続く一夏達。

今の11人は機龍の新たなる力、『エクストラアビリティ』である

『スピリッツオブネクサス』の力で黄金のエネルギーに包まれていた。

その11人を囲むように50機以上のD・ゴーレムが展開し、

周囲からビームを撃ちまくってくる。だが。

 

一夏「速え!なんかよく分かんねえけど、いつもより機体と体が軽い!」

普段の試合の時以上の急加速・急停止・急ターンを軽々と

やってのけ、襲い来るビームの嵐を次々と避ける一夏達。

シャル「機体に掛かっていたリミッターが外れてる。でも、その分

    このコーティングが僕たちを守ってるって事なの?」

モーラ「どうやら、そのようです!はぁぁぁぁっ!」

飛び蹴りの態勢から加速し、黄金の砲弾となってD・ゴーレムの一集団に

突っ込むモーラ。

繰り出されるキックが数体のD・ゴーレムを貫き、爆散させる。

 

本来、ISのリミッターを解除した状態では人を乗せる事などできない。

だが、今の一夏達の体はISのリミッターの代わりにその黄金の被膜が

守っていたのだ。だからこそ、殺人的な超高機動を何の負荷もなく

楽々とこなせていたのだ。しかし、機龍の力はまだまだこんなものではない。

 

一夏「はぁぁぁぁぁっ!!」

零落白夜を発動した一夏がD・ゴーレムの一体を袈裟切りにする。

爆発する機体から離れ、一瞬シールドエネルギーのゲージに目を向ける一夏。

そして、彼は驚いた。

  「あれ?エネルギーが、減ってない?」

零落白夜は機体、白式のシールドエネルギーを消費して発動する。だが、

彼の見たゲージの目盛りは99999と言う数字から動いていなかった。

一瞬、不思議に思った一夏は試すようにもう一体のD・ゴーレムを

零落白夜で切り裂いた。後方で爆炎が発生するのを聞きながら、

零落白夜を展開し続ける一夏。そして、彼は気づいた。

数字の一桁が、8と9の間をずっと行きかっている事を。

そう、零落白夜でエネルギーを消費した瞬間、新たなエネルギーが

送り込まれていたのだ。

  「何かよくわかんねえけど、これなら!」

白夜を発動したままの雪片を構えて突進する一夏。

  「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」

連続でD・ゴーレムを切り裂いていく一夏。だが、その時

彼の背後が揺らめいた。

かと思うと、更に新たなD・ゴーレムの集団が現れた。

鈴「ッ!一夏後ろ!」

一夏「え?うわっ!?」

鈴の警告で注意が逸れた一夏にとびかかり、その両腕を抑える

2機のD・ゴーレム。

  「くそっ!このっ!」

何とか振り払おうとするが、関節部分に抱き着かれるようにして

拘束されているため、雪片を震えず、雪羅で狙う事もできなかった。

シャル「一夏ッ!ッ!」

咄嗟に援護に行こうとするシャルロットだが、無数のビームの

嵐がそれを阻止した。

 

と、その時、1機のD・ゴーレムが両腕のブレードを展開し、

動けない一夏に迫った。

一夏「くっ!」

  『こんな時、ラウラのレールカノンみたいなのがあれば……!』

動けない一夏の頭の中に、独立稼働するラウラのレールカノンや、

鈴の衝撃砲、簪の春雷のイメージが湧いた。その3種は、手による

コントロールを必要としない、いわばハンズフリーの兵器なのだ。

今の彼の状況では、それらがあれば迫りくる一機を迎撃できるのだ。

が、それはない物ねだりだった。

 

 

但し、それを可能にする力があれば、別である。

   『WEAPON・CREATE』

一夏「え!?」

唐突に一夏の前にそんな文字のディスプレイが浮かんだかと

思うと、白式の右肩辺りに黄金の光が集まり、それは形を成した。

それは、一言で言えばラウラのレールカノンを白くリペイント

したかのような物だった。

  「な、なんだこれ!?」

本来白式が持ちえない武器が実体化されたことに驚く一夏。

だが、彼の頭はすぐ目の前に迫っているD・ゴーレムの姿を

捉えた事で切り替わった。

  「一か八か!喰らえ!」

まともな狙いはつけていなかったが、発砲する一夏。

放たれた砲弾は真っ直ぐに飛び、D・ゴーレムの左腕を吹き飛ばした。

  「やった!うぉぉぉぉぉっ!」

咄嗟に喜び、次に体をコマのように回転させて左右の2機を

弾き飛ばす一夏。

簪『織斑君のあれって、まさか……!』

そして、それを見ていた簪は『あの時』の事を思い出していた。

 

少し前のタッグマッチの時。ゴーレムⅢとの戦いの中で、簪は

本来持っていなかったはずの『二本目』の夢現を具現化させて

使用した。

 『結局あの後何回試してもできなかったけど。もしかして

  あれも、機龍の力なの?』

一瞬、そちらに注意が向いていたため、簪は背後から接近する

D・ゴーレムに気付くのが遅れた。

 「しまった!?」

咄嗟に夢現を構える簪だったが、それを下から掬うように

切り上げられ、弾き飛ばされてしまった。

 「くっ!?」

 『不味い!でも!もしかしたら!』

一か八か。簪は右手に拳銃、モーラのアイギスの武装である

ツインウイングスをイメージした。

 

すると、簪の右手に黄金の光が集まり、それは淡いブルーに

ペイントされた一丁の拳銃、ツインウイングスとなった。

 「やぁぁぁぁぁぁっ!!」

   『ビシュビシュビシュッ!』

叫びをあげながら引き金を引きまくる簪。

この時の相手が普通のISだったならばシールドを貫通できなかった

かもしれないが、如何せん相手はD・ゴーレム。

 

数発は耐えたが、すぐに貫通され腕や足、胴体を射貫かれた

D・ゴーレムは爆散した。

それを肩で息をしながら見つめ、そして手元の青いウイングス

に目を向ける簪。やがて、ハッとなった簪は音声コマンドで

弐式に命令を送った。

 「今使える武装の全部をリストアップ!お願い!」

すると。

   『OK、MyMaster』

いきなりそんな文面が現れ、それに被さるようにリストが現れた。

そこには……。

 

 「雪片弐型、雨月、空裂、牙月にガルム、ブルー・ティアーズ

  まである。まさか……。私たちの武装データが『共有化』

  されてるの?」

そう思った簪は、今度は少し離れた所で一夏が使っていた

雪片をイメージした。すると、先ほどのウイングスと同じ

ように黄金の光が集まり、それは新たな雪片となった。しかも

一夏の手元から雪片が消えた様子はない。

 「やっぱり!……これなら!」

一つの確信に至った彼女は、すぐに通信ウィンドウを開いた。

 

 「みんな聞いて!」

ラウラ「簪か!どうした!?」

一夏「あ!それって雪片か!?」

簪「今の私たちはお互いの武装を『コピー』できるの!

  見てて!」

そう言った次の瞬間、弐式の周囲に黄金の光が無数に生まれ、

それが淡い青色のブルー・ティアーズとなった。

セシリア「わ、私のブルー・ディアーズが!?」

簪「お願い!」

驚くセシリアと、ブルー・ティアーズに命令する簪。

次の瞬間、四方八方に拡散した4基のBTがD・ゴーレムを

撃ち落としていった。

 「次!」

その掛け声に合わせ、粒子となって消滅するブルー・ティアーズたち。

そして再び簪の両手に黄金の光が集まり、今度はカスタムⅡの持つ

ガルムが二丁現れ、それをD・ゴーレムに向かって乱射した。

数発の銃弾を喰らい、ギクシャクと不規則に手足を振って爆発

していくD・ゴーレムを見ながら一夏達は驚いていた。

 

シャル「武装を、コピーって、まさか」

そう思って黄金に輝く自身の愛機の右手を見つめるシャルロット。

そして彼女は何かの決心をすると叫んだ。

   「リヴァイヴ!ラウラのレールカノンをコピーして!」

   『YES、MyLady』

次の瞬間、右側のカスタムウイングの上に担ぐようにオレンジ色の

レールカノンの砲身が現れた。

   「行っけぇぇぇぇぇっ!」

次の瞬間、そのレールカノンから砲弾が発射され、一撃で

D・ゴーレムのどてっぱらに風穴を開けた。

   「すごいよこれ!」

モーラ「成程!それなら、私だって!」

次の瞬間、黄色と黒にリペイントされた双天牙月を取り出し、

それを分割して二刀流となったモーラがD・ゴーレムの

集団に向かって突進していった。

 

 

そして、驚いているのは彼、彼女たちだけではなかった。

千冬やその周りに居る生徒達だった。

本音「ぶ、武装の共有化って、そ、そんな事できるんですか?」

と、恐る恐る近くに居た千冬に問う本音。

千冬「ありえん。最近の研究ではコア同士が繋がり、互いの進化を

   促していると言う事例がある。だが、武装の共有化など、

   前代未聞だ」

そう言って本音の質問に答える千冬。そんな時。

束「ふっふっふ。確かに普通ならそうかもしれないけど。

  でもねちーちゃん。見ての通り、今のリュウ君といっくん

  達は普通じゃないんだな~これが」

千冬「どういう意味だ?」

束「今のいっくん達はまさに字のごとく繋がっているんだよ。

  ……力が覚醒した今のリュウ君をコンピューターのサーバー。

  それ以外の皆をネットの端末、ノードとして例えた感じだね。

  個々のノードは中央のサーバーに接続され、同時にサーバーを

  介して他のノードとも接続される。それによって個々のデータは

  サーバーであるリュウ君によって必要な時にどれかのノード、機体に

  瞬時に送られる」

千冬「だが、仮にデータが送受信できたとして、なぜ武装を実体化

   させる事ができる?」

束「良い質問だねちーちゃん。確かにデータだけの受け渡しじゃ武装

  なんて作れない。普通ならね。でも、言ったでしょ?

『普通じゃない』って」

そう言ってどこか自慢げな笑みを浮かべる束。対してそれだけでは

分からない千冬と生徒達。

千冬「もったいぶるな。さっさと教えろ」

束「リュウ君はさっき、あの場に居た箒ちゃん達のIS全てと

  繋がった。そして、覚え、学んだんだよ」

千冬「……。何をだ」

束「箒ちゃんの紅椿の持つ特性、無段階移行、シームレスシフトを

  一瞬で理解し、リュウ君はそれを自分の能力として取り込んだんだ」

千冬「奴がシームレスシフトの能力を手に入れたと言うのか?」

束「手に入れた、だけじゃないね。そもそもあれはパイロットと

  機体の経験値に合わせて自己開発を進めるプログラム。言うなれば、

  自己進化プログラムだね。そして、リュウ君はそれを紅椿と

  繋がった瞬間にコピー、取得し、数秒でそのプログラムを更に

  進化させた。今のリュウ君はいわば、異常ともいえる速度で

自己進化を続ける究極の生命体」

本音「で、でも、リュウ君はどうしてそんな事が出来るんですか?」

恐る恐る質問する本音。

束「さっきも言ったように、リュウ君の体の一部は機械なんだよ。

  それも、頭の中までね。そして、リュウ君はいわば、

  生命と機械のハイブリッド。両方のメリットを持ち生まれたんだ。

  今回の進化はその機械的要因が絡んでいるのさ。

  リュウ君が紅椿のシームレスシフトをコピー、発展させて

  この短時間に習得した能力、それが、『エネルギー変換機能』」

千冬「エネルギーを変換するだと?」

束「そう。リュウ君の中にあるエネルギーを元にして、

  『物質』を作り出すんだ」

それには流石の千冬も一瞬だけ驚き、すぐに平静を装った。

千冬「そんな事が出来る訳ないだろう。物質からエネルギーを

   作る事はできても、エネルギーから物質を作るなど、

   それでは——」

束「『神の所業』、だね。正しく」

そう言って、笑みを浮かべる束。

 「そう。リュウ君は今、普通の人間、いや。普通の生命体なら

  できないようなことを成し遂げつつある」

と言いつつ、再び機龍達のバトルフィールドを見上げる束。

 「リュウ君はサーバーとして、今自分たちが共有する武装の

  データと共に、その武装の作成に必要なエネルギーを

  G-PATHで必要な機体に供給。コアがデータとエネルギーを

受け取り、リュウ君からの命令に従って瞬時に武装を生成する。

これもまた、覚醒したリュウ君の力の一つだね」

千冬「ISのリミッターを解除するほどのハッキング能力。

   その上で機体と搭乗者を守る程の高硬度防壁の展開能力。

 自分も戦闘中でありながら友軍に無制限でエネルギーを送る

膨大な保有エネルギー量と補給能力。

IS能力の学習、獲得、応用をやってのける頭脳。

それが全て、覚醒した奴の力だと言うのか?」

束「そうだね。でも、敢えて言わせてもらうけど、リュウ君の進化は

  むしろこれからなのかもしれない。そして、この能力

  さえも、その進化の通過点なのかもしれない」

千冬「機龍には、まだ上があると?」

束「むしろ、上限なんてないのかもね。リュウ君には」

そう言って、束は再び夕暮れの空で戦う戦士達を見つめるのだった。

 

そして、上空の戦いはと言うと……。

   『KYUAAAAAAAAN!』

咆哮と共に、機龍の口からメーサーが放たれ、それが横薙ぎに

D・ゴーレムの集団を薙ぎ払っていく。

と、その時、残っていたD・ゴーレムの半数が後方で待機

していたスコール達5人の方へと反転、突進していった。

オータム「ちっ!私らはマジで用済みって事かよ!」

咄嗟に手持ちのライフルで狙撃しようするオータム。

   『ビシュッ!ビシュッ!カチッカチッ!』

だが、そのビームはたった数発が出て、2機を撃ち落としただけで

使えなくなってしまった

    「クソっ!こんな時に!」

ライフルに向かって悪態をつくスコール。だが、今の彼女に

そんな余裕はなかった。

スコール「オータム!前!」

オータム「え?」

咄嗟に顔を上げたオータムの眼前には、大きくブレードを構えた

D・ゴーレムが居た。

    「ッ!」

間に合わない!そう彼女の中で彼女の脳自身が叫ぶ。

走馬灯のように記憶が駆け巡る。オータムの視界が酷くスローになる。

    『嫌だ!私は、私はまだ!』

ゆっくりと、D・ゴーレムの刃が振り下ろされようとしていた。

    『まだ、死にたくない!』

きつく目を閉じたオータムの瞳から、僅かな涙が飛び散る。

それが、ヘルメットの中で光に照らされ僅かに輝く。

 

 

 

そして、銀龍はその輝きの意味を悟り、空を駆けた。

彼が夕暮れの空を駆ける理由は唯一つ。己が全力で守るべき

相手を、彼にとって、例えどう思われようと、『大切な友人』を

護るために。

   『ギュッ!』

   『ガキィィィィン!』

不意に、誰かに抱かれたように感じるオータム。そして、自分の目の前で

金属同士がぶつかる甲高い音が響いた。

恐る恐る目を開けたオータムは気づいた。自分が今、機龍に

抱きしめられている事に。

そして、未だに機龍の背びれ部分にD・ゴーレムの刃が打ち付けられるが、

その程度の攻撃では3式機龍の体に傷一つ付ける事などできない。

次の瞬間。

 

   『ズガンッ!』

弾丸のように射出された機龍の尻尾の先端がD・ゴーレムの腹部を

貫いた。

それを肩越しに確認した機龍は、ゆっくりとオータムを放した。

機龍「オータムさん、怪我は……。ないみたいですね」

そう言って一安心したような様子の機龍。

オータム「お前、どうして」

機龍「それ、さっきも聞きましたよ?でも、だからこそ何度でも

   言います。僕は、ただ純粋にあなた達も守りたい。だから

   命がけで守る。ただ、それだけです」

そう言うと、機龍はオータムに背を向け、彼女を庇うように空に立つ。

 

オータム「お前、バカだろ。……私らはテロリストなんだぞ。

     それを、なんで……」

機龍の後ろで俯いたオータムの体が震える。

    「お前が、私を憎めば、それでいいはずなのに。

     そうなれば、私だって、こんな、こんなに」

 

ずっとスコールの傍で戦ってきた彼女にとって、機龍と言う存在は

イレギュラーだった。

彼女にしてみれば、いっその事戦いの中で自分を憎んでくれた方が

楽だったのだ。

ならば自分も相手を憎むだけでよかったのだ。なのに、機龍は……。

そう。彼女もまた、機龍によって乱されていた。

そして機龍も、彼女の心境を理解した。

 

機龍「例え、僕の事をどんな風に思われても、僕は、人間を。

   一夏お兄ちゃんたちも簪たちも、先生たちも、クラスメイトの

   みんなも。……そして、オータムさん。あなたを、

   愛しているから」

その言葉に、唇を噛みしめるオータム。

  「だからこそ、僕は愛する人たちを、命を護りたい!

   それが僕の願いだから。その願いのために、僕は戦う!」

   『KYUAAAAAAAAAAAAN!!』

次の瞬間、黄金のベールを纏った機龍が空を駆ける。

悪しき人形を打ち払う。

 

機龍と一夏達が、オレンジ色の京の空を駆ける。

そのたびに機械人形であるD・ゴーレム達が爆散する。

砕けた破片が周囲に飛び散る。数の有利を奇跡の力が覆す。

一・箒・鈴「「はぁぁぁぁぁぁっ!」」

赤と白と赤黒い剣戟が切り裂く。

セシリア「そこですわ!」

シャル「うぉぉぉぉぉっ!」

ラウラ「喰らえぇぇぇぇっ!」

モーラ「はぁぁぁぁぁぁっ!!!」

真耶「当たりなさいっ!」

青、オレンジ、黒、黄色、緑の機体達から無数の銃弾が放たれ、

薙ぎ払う。

簪「行っけぇぇぇぇぇぇっ!!!」

楯無「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

無数のミサイルが襲い掛かる。その弾幕を抜けた機体を

蒼き槍が穿つ。

そして………。

 

機龍「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

   『KYUAAAAAAAAAAAAAAAAN!!!』

銀色の龍が空を駆ける。

稲妻の如きメーサーが空を薙ぎ払う。無数のミサイルが飛ぶ。

銀色のドリルが、爪が一閃するたびにD・ゴーレムを破壊する。

 

そして、機龍が最後に残った一機のD・ゴーレムに迫り、次の瞬間。

   『ズガンッ!』

機龍のスパイラルクロウが最後のD・ゴーレムの胸部を貫いた。

クロウを引き抜き、彼が後ろに下がった刹那、最後の一機が爆散した。

 

一夏「お、終わったのか?」

機龍が最後の一機を撃破したことで、一夏達は構えていた武器を

下ろした。と、その動作に呼応するように一夏達、正確には白式たちを

覆っていた黄金のバリヤーが消滅し、スピリッツオブネクサス、

『SoN』の力で作られていたコピーウェポンも粒子となって消滅した。

やがて、周囲に敵影が無い事を確認した機龍は後方に待機していた

スコール達へと近づいた。

 

機龍「スコールさん、オータムさん、マドカちゃん、それにレイン先輩、

フォルテ先輩も。お怪我はありませんか?」

スコール「えぇ。おかげ様でね」

機龍「そうですか。良かった~~」

と、自分の事のように安堵している姿に、ズレを感じるレインやフォルテ。

そんな時だった。

 

スコール「それで、どうするの?さっきの戦いの続き、する?」

その言葉にハッとなる機龍。

さっきの続き。それはつまり、機龍達とスコール達の戦いの事だ。

その言葉を聞いた一夏達は機龍の近くに集まり、再び武器を構えた。

対して、レインやフォルテ、マドカ達も各々の武器を構え、臨戦態勢

へと移行した。

 

が、その時だった。

束『はいはいは~い。ストップだよ皆の衆~』

その場にいる16人の眼前に束が映ったディスプレイが表示された。

機龍「束」

束『ちょ~っとだけごめんねリュウ君。私に喋らせてもらえるかな?』

機龍「うん。構わないよ」

と、この場に割り込んでくる形となった束に対し、機龍には特に

怒った様子もなく、彼女に任せた。

 

束『それじゃ、んんっ!え~、私からスコール・ミューゼルさん以下

  5人の皆さんに提案があります。まず第1に。さっぱりばっさり

  言うと、君たちはファントムタスクの幹部会から裏切られ、

  用済みとされたと言う事。これすなわち、君たちの後ろには

  バックアップしてくれる存在が消えたと言う事だね』

と、ストレートに事実を告げる束。

 『第2に。今の君たちはすっかり消耗している。素人でも君たち5人が

  リュウ君達11人に対して勝機がないのはわかるよ』

突き付けられる事実に、悔しそうに唇を噛みしめるオータムやレイン達。

 

が、次の一言は、誰も予想していなかった。

 『と、そこでお姉さんから提案なのですが、君たち、私に雇われる気

  は無い?』

機龍「え?」

オータム「は?」

10人「「「「「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?!?!」」」」」」」」」」

疑問符を浮かべる機龍、オータムに続いて一夏達10人が

絶叫した。

機龍「た、束。本気なの?」

束『もちのろんだよリュウ君!いや~私って世界中の国から狙われてる

  からさ~。最近どこかに腰を落ち着けようと思ったんだけどそれだと

  ぜ~~~ったい狙われるからボディーガードを探してたんだよね~』

スコール「それで、私たちを雇いたいと?」

束『うん!衣食住に給料ももちろんだすよ!しかも!君たちのISの

  無償アップデートも補償しちゃうし、新型武装もテスト、装備も

  し放題!悪くないでしょ?』

と、スコール達を誘う束。

 

今の彼女たち5人にしてみれば、もはや亡国企業には戻れない。

しかし、テロリストである彼女たちには、企業以外に行く当てもない。

そうなれば……。

スコール「……。わかりました。その提案を受けます」

オータム「スコール、本気かよ」

と、提案を受けると言うスコールの横に近づき耳打ちをするオータム。

スコール「どのみち、企業にはもう戻れないわ。とはいえ、あそこには

     未練もないし。それなら博士に雇ってもらった方が早いでしょ?」

そもそも、彼女たちはテロリストだ。組織に属していたからこそ、

様々な活動ができたと言う物。だが、その組織から捨てられた以上、

彼女たちの選べる選択肢は少ない。

スコールはそんな中で一番最善の判断をしたと言う事だ。

 

束「うんうん!決まりだね!あ、それじゃあ悪いんだけど

  こっちと合流してもらってもいいかな~?」

と、モノレールの中で通信している束だが、その周りでは生徒達が

怯えた表情をしていて、それに気づいた千冬。

 「どうせ戦いも終わったみたいだしさ~。詳しい話はこっちで——」

千冬「ちょっと待て。束、お前は奴らを私たちと合流させる気か?

   奴らはどうあれ、テロリストだ。生徒達をむざむざ危険に

   晒すわけにはいかん。私は反対させてもらうぞ」

束「え~?う~ん、どうしよ~」

と、千冬の言葉に疑問符を浮かべてから悩む束。

結局、何とか束が千冬を説得し、千冬の一言で一両目を空け、そこに

スコール達5人を乗せる事になった。

 

 

一方、上空では……。

機龍「では、そう言う事なので、一度降りましょう」

スコール「そうね。詳しい話はそこで」

機龍「はい。……みんなも、良いかな?」

と、後ろの一夏達に振り返って問う機龍。一夏達は、最初は

納得できない、と言った表情を浮かべていた。が、すぐに

その表情を崩してため息をついた。

一夏「まぁ、わかったよ」

と、とりあえずは納得した様子だったのだ。

そして、一夏の言葉に機龍が頷いたのを合図に、彼女たちはモノレール

の方へと降下していく、はずだった。

 

マドカ「まだだっ!!」

その時、唯一人その場から動いていなかったマドカが唐突に叫んだ

かと思うと、最前列で降下していた機龍の背中に向かって突進した。

簪「ッ!機龍!」

自分たちを抜かして機龍に迫る彼女を見た簪が叫ぶ。

マドカ「はぁぁぁぁぁぁっ!!」

黒騎士のフェンリル・ブロウが機龍に向かって振り下ろされる。だが。

   『ガキィィィンッ!』

ブロウの刃を機龍のスパイラルクロウが防いだ。

機龍「………」

   『ガキンッ!』

火花を散らしていたブロウを弾き飛ばし距離を取る機龍とマドカ。

その時、機龍の周りに武器を構えた一夏達が集まる。

一夏「お前っ!どういうつもりだ!?」

マドカ「まだだ!まだ、まだ私は終わってなどいない!私は、負けない!」

もはや自棄になっているように叫ぶマドカ。

対して、雪片を構えた一夏が黒騎士に切りかかろうとするが、それを

機龍のクロウが遮った。

一夏「機龍」

機龍「………。良いよ。ここで決着をつけよう。

   あの日、僕は君と約束したからね。君と戦うって。

   そして、ゴジラが君を認めれば、彼は、いや、僕は君の

   力になるって。……でも、だからこそもう一つだけ約束

   してほしい」

マドカ「……。何だ」

機龍「もしマドカちゃんが僕に勝ったら、僕の中に居るゴジラを開放する」

その言葉に絶句する一夏達。

  「但し、僕が勝ったら、僕たちと一緒に来てもらうよ」

マドカ「……それでも、私は、負けない……!」

ブロウを構えた黒騎士が再び機龍に向かって突進してくる。

 

機龍「彼女の事は僕に任せて。一夏達は下がってて」

そう言うと、機龍はスラスターを吹かして同じようにマドカに

向かって行った。

マドカ「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

機龍「………」

   『ガキィィィンッ!』

気合と共にブロウを振り下ろすマドカとそれを無言のままクロウで

受け止める機龍。

 

と、その時機龍の左手が伸びて黒騎士の装甲に触れた。次の瞬間。

マドカ「ッ!どういうつもりだ!」

咄嗟に機龍と距離を取るマドカ。一夏達はそんな彼女の行動をいぶかしんだ。

   「エネルギーを『分け与えて』、慈悲でもかけたつもりか!」

そう、機龍は先ほどの一瞬で黒騎士の中にエネルギーを流し込んだのだった。

機龍「もう、黒騎士のエネルギーは殆ど残っていなかった。今のまま

   戦ったとしても、フェアじゃない。だから僕が勝手に力を

   与えた。それだけだよ。だからマドカちゃんはその『状況』を

   利用すれば良い」

そう言って、クロウを構える機龍。対してマドカもブロウを構えた。

次の瞬間。

   『KYUAAAAAAAAAANN!!!』

マドカ「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

同じタイミングで突進した二人の刃が空中でぶつかり合い、火花を

散らした。

 

 

今、マドカの頭の中では忌々しい『大人』達の言葉が反芻されていた。

   『もう誰も、私を弱いなどと言わせるものか!全てを壊して、

    証明してやる!私が、世界最強だと言う事を!』

身勝手な理由で生み出され、捨てられた彼女にとって、世界とは

即ち、憎しみの対象でしかない。

 

   『希望などないのよ』

   『絶望しかないのよ』

そして、マドカの頭の中に、『あそこ』で大人たちに聞かされた

言葉が蘇る。

マドカ「絶望しか、それしかないと言うのなら、私が絶望そのもの

    になってやる!」

身勝手に利用された絶望が強大な怒りや憎しみとなってマドカの

中から吹き出す。その怒りをフェンリル・ブロウに乗せて機龍に

叩きつける。

 

 

 

その時、不可思議な現象が起こった。いや、この現象は以前にも

起きた物だ。そう、ラウラと機龍がシンクロした、あの時のように。

 

 

マドカの心の奥底は、暗い深海のようだった。周囲は真っ暗で、

正に一寸先は闇、とでも言うように、何一つ光源のない漆黒の闇が

広がっていた。

そんな中に、一人マドカの、彼女の意識と心だけが漂っていた。

   「認めるものか……!勝手に私を生み出した人間など!

    絶対に——」

ゴジラ「ぶっ殺してやる、か?」

マドカ「ッ!?」

その時、唐突にマドカの心の中に黒い光の塊が現れ、それが

人型を成した。

その人こそ、黒髪と赤い瞳のゴジラだった。

 

ゴジラ「よぉ、邪魔するぜ」

マドカ「お前!どうやって私の中に!?」

ゴジラ「相棒の力さ。テメエの黒騎士のコアを経由してお前の

    精神世界に俺がダイブしているって事らしい。俺も

    よくは知らねえが」

そう言って肩をすくめるゴジラ。

マドカ「ゴジラ、貴様が私に何の用だ」

ゴジラ「用?それはあれしかねえだろ?お前を俺が認めたら

    力を貸してやるって話の続きだよ。

    だがまぁ、今はそれどころじゃねえな」

マドカ「………」

ゴジラ「言っとくが、相棒に勝てないようじゃ俺になんて

    勝てないぜ?」

マドカ「……い」

ギュッと、拳を握りしめるマドカ。

ゴジラ「まぁ、今のテメエであいつに勝てるとも思えねえがな」

マドカ「…さい」

プルプルと彼女の体全体が怒りに震える。しかし、ゴジラはそんな事

など気にせずに言葉を続ける。

ゴジラ「……。戦いの先にお前が望むものは、なんだ」

が、今まで不敵な笑みを浮かべていたゴジラの表情が瞬く間に

引き締まり、マドカを睨みつける。

 

マドカ「うるさいっ!うるさいうるさいうるさいっ!私は、

    私は強くなるんだ!世界最強に!だからお前を倒すんだ!  

    私の力でこの世界を亡ぼすために!!」

ゴジラ「………」

もはや自暴自棄とも取れる台詞にゴジラは自分自身を重ねていた。

 

   「お前は、何がしたい?何かを壊したいのか?」

マドカ「そうだ!壊してやるのさ!私をこんな形で生み出した世界を!」

それを聞くと、まるで壁にもたれかかるような態勢になるゴジラ。

ゴジラ「んで、お前はどうする?テメエの気に喰わないもん全部

    殺して、壊して、最後にお前が残ったとして、お前はどうする。

    もうテメエの前には壊すもんも残ってねえ。最後に残ったのは

    テメエ自身だけだ。それでどうする?最後は自分で自分を

    終わらせるか?」

マドカ「黙れ、黙れ黙れぇ!」

ゴジラ「……。それじゃあ答えにはならねえな。お前、自分の

    中にある『答え』ってやつを見つけた事、あるか?」

そう言いながらゆっくりとマドカの方に歩み寄るゴジラ。

ゴジラ「人間ってやつはどこまでもクソッタレだ。自分たちの欲望に

    どこまでも貪欲だ。金、地位、名誉、どこまで言っても

    更にその上を目指したがる。だがなぁ、これだけは言える」

マドカの真正面に立ったゴジラの赤い瞳が、真っ直ぐにマドカを

見つめている。その瞳に、僅かにたじろぐマドカ。

   「どんだけそれがクソッタレだろうがな。例え、そいつより

    数十、数百、数千倍聖人君子な奴がいたとしても、

    こん中に答えを持てねえ奴はどこまでも弱い」

そう言って、右手の親指を左胸に突き付けるゴジラ。

 

   「さっきまでの相棒もそうだ。自分の答えを見つけられない

    から悩んで、悩み抜いて、答えを見つけた。だからあそこに

    現れた。……だからだ。答えを持ってるやつは強い」

マドカ「答え、だと」

ゴジラ「そうだ。ちっとばかし違う言い方なら、『理由』だ。

    相棒は命を護るために戦うと言った。それが、あいつ自身が

    見つけた『答え(理由)』だ。そして、俺の場合は気に喰わない奴を

    ぶっ飛ばす。それが俺の戦う『答え(理由)』だ。

    ……俺もあいつも答えってのはシンプルだ。けどな、だからこそ

    それは曲がらねえ。強く在れる。もう一度聞くぞ。

    お前の戦うための答えは何だ。破壊か、絶望か、それとも」

ゆっくりとマドカの胸に右手の人差し指を突きつけるゴジラ。

   「お前はさっきの戦いが終わった時、動揺していた。

    お前自身が本当に答えを見つけているなら、動揺なんてしない。

    何があろうと震えることなんてねえ」

じっと、真っ赤な瞳がマドカの瞳を真正面から、真っ直ぐに見つめる。

 

その赤い瞳は震えも、偽りも、虚構もない、破壊神であり、獣だからこそ

生み出せるどこまでも真っ直ぐな瞳。

そして、逆に俯き震えるマドカ。普段は寡黙で強気な彼女が震えていた。

黙ったままのマドカ。

   「テメエはな、自分自身に嘘をついているんだよ。昨日までの

    相棒と同じだ。何かを理由にして、本心を隠して逃げている。

    だから弱い。………テメエの心にもう一度だけ手当ててみな。

    お前の心は何て叫んでる。何を求めてる」

俯くマドカを見下ろす彼の瞳には、どこか哀愁にも似た表情を

浮かべていた。

    

   「俺は、昔人間ってやつに家族を殺された」

静かに、ゆっくりと語りだすゴジラ。

   「俺の体もクソッタレなくらい毒を浴びて変化した。

    おかげで、一端の化けもんの完成さ。

    ……だから人間どもをぶっ殺そうとした」

皮肉な笑みを浮かべていたゴジラだが、すぐに表情が引き締まった。

   「俺は殺しまくった。殺して殺して殺して。逃げる奴、

    泣いてる奴、立ち向かって来る奴、いろんな奴らをぶっ殺した。

    家族を殺した奴らを許せなかった。俺を変えた奴らが許せなかった」

その瞳に、復讐の業火が灯る。だが……。

 

   「けどな」

しかし不意に、その炎の輝きが失せた。

   「結局、殺しまくっても家族や安住の地なんてもんは、帰っては

    来なかった。殺しても殺しても、心ん中に空いた穴は、

    埋まらなかった。……オメエはどうなんだよ、『マドカ』」

マドカ「私、は……」

ゴジラ「俺は別に力を求める事が間違ってるなんて言うつもりはねえ。

……けどな、お前はその力で、『何か』を掴めたのか?」

その言葉に、マジマジと自分の両掌を見つめるマドカ。やがて、

彼女の掌が閉じられて拳となって行く。

マドカ「私には、それ以外、理由なんてない。

    戦う事しか、それしか、理由にならないんだ!!」

ゴジラに向かって叫ぶ。

   「戦うために、兵器のパーツとして生み出された私に

    それ以外の理由なんてあると思うか!?私は、戦う事

    でしか生きる理由を示せないんだ!!」

立ち上がったマドカの拳がゴジラの頬に突き刺さる。数歩たたらを踏んで

後ろに下がったゴジラの顔に更に彼女の拳が繰り出される。

   「私は、私はそうするしかなかったんだ!戦うしか!

    それしか、知らなかったんだ!だから!だからぁっ!」

やがて、彼女の瞳から大粒の涙が溢れ出す。泣きながらも拳を

振り上げ、パンチを繰り出すマドカ。だが、その力は次第に

弱くなっていった。

   「だから戦うんだ!私はぁっ!」

ゆっくりと拳を振り上げ、繰り出そうとした刹那。

 

   『ギュッ!』

不意にゴジラがマドカの体を抱きしめた。

ゴジラ「バカ。……殴るか泣くかのどっちかにしろよ。

    お前、このままだと、壊れちまうぞ」

すぐにその抱擁を振りほどこうとするが、ゴジラは決してマドカを

放そうとはしなかった。

マドカ「それでも、それしかないんだ!私には、私には、

    それ、しか」

次第に反抗する気力もなくなってきたのか、静かに嗚咽を漏らすマドカ。

 

 

と、その時、ゴジラがマドカの事を更に強く抱きしめた。

ゴジラ「生きる意味を見つけるってのは、確かに自分の中にある

    答えを見つけるって事だ。……けどな、誰もそれを

    テメエ一人で見つけろなんて言った覚えはないぜ」

マドカ「え?」

不意に、マドカの口から、普段の彼女らしからぬ、少女のような

疑問符が漏れる。

少しだけ抱擁を緩めたゴジラは、彼女の瞳を見つめた。

 

ゴジラ「俺は確かに人間が嫌いだ。身勝手のクソ野郎どもなんざ、

    どうなったって構わねえ。けどな、お前には、俺みたいに

    なって欲しくねえんだよ。……人間殺しまくって、殺されて、

    心が空っぽのまま死んでいくなんて、最悪だ。下手な同情って

    言やぁそれまでだが、でもな。お前はまだ引き返せる」

その言葉に、驚きこそしたマドカだが、すぐに皮肉そうな笑みを浮かべた。

マドカ「無理だな。今更、私一人では。引き返す意味も、理由なんて」

もはや、自棄になっているマドカ。それを見たゴジラは……。

 

 

ゴジラ「お前に戦う以外の生きるための答えが見つけられねえってんなら、

    俺がお前の、マドカの生きる答えになってやる」

マドカ「え?」

再び、呆けた声を上げてしまうマドカ。 

ゴジラ「言ったろ。答えを見つけるは、一人だけでじゃねえって。

    俺がお前の生きる『理由(答え)』を作ってやる。だから今はこれだけ

    言うぜ」

そう言うと、少しばかり深呼吸するゴジラ。

 

 

 

 

 

 

 

———マドカ、俺と来い———

 

 

 

それは、全く持ってストレートな命令文だった。

来てくださいとか、来るか、ではなくはっきりと『来い』である。

傍から見れば何を言ってるんだと思われるだろうが、

いろんな意味を込めて下手に着飾らないのがゴジラである。

故に、どこまでもストレートなのである。

 

そして、ゴジラの言葉に呆然となるマドカ。

マドカ「私に、来いと、言うのか?この、私に」

ゴジラ「……」

突然の事で震えるマドカを静かに見つめるゴジラ。

と、その時、ゴジラの腕がマドカを引き寄せた。

   「良いか?答えないなら、俺が今すぐ相棒と変わって

    お前を倒してでも連れて行く。文句も苦情も一切

    受け付けねえ。意地でも俺はお前を連れて行く」

と、歯に衣着せぬ言い分に、マドカは戸惑った。

マドカ「連れて行くとは、どこへだ?」

ゴジラ「決まってるだろ。俺がテメエの生きる理由になるんだ。

    俺の居る場所にだよ」

その言葉に、マドカは驚き、困惑し、そして思った。

思った事をゴジラにぶつけようと、彼女が口を開く。

 

 

 

 

 

 

———お前、バカだな——— 

 

 

そう言った彼女の表情は、今まで見た事もないほど、笑みを浮かべていた。

 

ゴジラ「けっ!あぁそうだ!俺はバカだよ!だからな」

そう言って再びマドカを抱き寄せるゴジラ。

   「一度手にしたものは、人だろうが何だろうが

    絶対に手放さねえからな。テメエが俺から逃げて見ろ。

    泣いて謝ったって地獄まで追いかけてってテメエを

    引きずってでも連れ戻す。文句は?」

彼の言葉に、マドカは……。

 

マドカ「だったら、そのたびにたっぷり言ってやる」

そう言って、先ほどとは違う、『うれし涙』を流しながら

笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

~~戻って現実世界~~

先ほどから剣戟戦を繰り広げていた機龍とマドカだったが、

機龍はゴジラが戻ってくるのを感じ、一度下がった。そして、

同様にマドカも動きを止めた。機龍は感じ取っていた。

ゴジラがダイブから戻ってきた事とマドカが動きを

止めた事の意味を。

機龍『ゴジラ、どうだった?』

ゴジラ『やれるだけの事はやったし言う事は言った。なぁ、相棒。

    ……頼みが、あるんだが』

と、後半はどこかバツの悪そうな顔のゴジラ。それを見て、

機龍は深層意識の中でクスリと笑みを漏らした。

 

機龍『あの子を笑顔にするのは、僕じゃないみたいだね。

   わかった。使って』

ゴジラ『あぁ、遠慮なく使わせてもらうぜ』

そう言うと、機龍の精神はゴジラと入れ替わった。

そして、次の瞬間、銀色だった機龍の体表の色が変化し、

ゴジラが目覚めた時の姿、『黒龍』へと変化した。

 

簪「あの姿って、確か」

モーラ「はい。あの黒い色が示すのは、ゴジラです」

シャル「で、でも、突然なんで?」

と、いきなり機龍からゴジラ、黒龍へ切り替わった事に戸惑う

簪たち。しかし。

一夏「……。信じてみようぜ」

箒「一夏」

一夏「機龍と、あいつを。……ゴジラを」

そう言って、一夏は真っ黒な黒龍の背中を見つめるのだった。

 

ゴジラ「さぁ、マドカ。決着をつけようじゃねえか。勝った方が

    負けた奴を好きにする。これでどうだ」

その問いに、マドカの口元が薄く笑みを浮かべた。だが、

それは今までの歪んだ笑みではなかった。

マドカ「その約束、忘れるなよ?」

ゴジラ「あぁ、お前が『勝てたら』な」

対してゴジラも心の中で不敵な笑みを浮かべていた。そして……。

 

ゴ・マ「「勝つのは、俺(私)だ!!」」

フェンリル・ブロウとスパイラルクロウを構えた二人が突進する。

   『ガキィィィィィンッ!』

一撃目でぶつかり合い火花を散らすブロウとクロウ。

ゴジラ「おらぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

マドカ「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

そのまま、お互いに一歩も引かずに互いの全力をぶつける二人。

盛大な金属音と火花が幾重にも飛び散る。

 

と、その時、ゴジラのクロウの一撃が僅かに黒騎士の

フルフェイスマスクを掠めた。その衝撃でマスクにヒビが入り、

さらにヒビが広がって、マスクが砕けた。露わになるマドカの素顔。

しかしその程度では攻撃をやめず、逆にゴジラの懐に飛び込んだ

彼女の左手のアッパーがゴジラの顎を捉える。大きくのけ反り、

距離を取ったゴジラは、態勢を立て直すと再び突進していった。

そのまま戦いを続けるゴジラとマドカ。そして、その様子を見ていた

一夏やスコール達。その時だった。

 

スコール「……。あの子」

オータム「ん?スコール?」

不意に呟いたスコールと彼女の言葉に振り返すオータム。

スコール「笑ってるわ」

オータム「え?」

そう、スコールのゴルーデン・ドーンのハイパーセンサーが

ゴジラと戦いながらも、マドカが今まで見せた事もない満足げな笑みを

浮かべているのを捉えた。

それを見たスコールも、マスクの奥でひそかに笑みを浮かべた。

スコール『ホント、何もかもが変えられていくわね。『あの子達』

     の手で』

そう思いながら、彼女は黒龍の背中を見つめるのだった。

 

 

やがて、戦いも終局にと向かっていた。

流石に連戦が続いたためか、肩で息をしだしたマドカ。

彼女は両手でブロウの柄をギュッと握りしめる。対するゴジラも

無言でクロウ状態の右手を後ろに引き、突進の構えを取る。

そして、次の瞬間。

   『ガキィンッ!』

目にも止まらぬ速さで二人が空を駆け、一瞬だけ、ほんの一瞬だけ

二人の刃が煌めき、交錯した。

 

お互い、背中を向け合い、己が刃を振り抜いた姿のまま制止する

マドカとゴジラ。

が、次の瞬間。

   『ビキビキビキッ!バリィィィン!』

マドカの手にしていたフェンリル・ブロウにヒビが入り、瞬く間に

砕け散ってしまった。

数秒、砕けた柄を握りしめるマドカだったが。

マドカ「……。私の、負けだ」

その言葉に振り返ったゴジラは、ゆっくりとマドカの元へ

近づき、そして。

 

ゴジラ「だったら、行くぞ」

硬くも温かい銀色の掌で彼女の頭をポンポンと優しく叩くと、

モノレールの方へと向かって行った。

マドカは、そんな黒龍の背を見ると、他の者に見られないように

俯いてから笑みを浮かべ、ゴジラへと続いてモノレールへと

向かったのだった。

 

   第26話 END

 




え~、と言うわけでマドカはゴジラのヒロインとして
落ち着きました。で、ゴジラは完全に俺様キャラです。
次回で京都編は終わる。かどうかは分からないですが、
楽しんでいただければ幸いです。

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