インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍    作:ユウキ003

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今回は小説とアニメの設定を織り交ぜたオリジナル回です。
ですので、アニメ本編だけを見ている方には分からない場所が
あるかもしれません。ご了承ください。


インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 第23話

~~前回までのあらすじ~~

ゴーレムⅢ、全12機の襲撃を乗り越え、更なる力を発現させた機龍と

絆を深めた一夏達。そして、長年の姉との不和を解消した簪。

そんな数日後の事。一夏と機龍は何と、全女生徒の身体測定の

測定係に選ばれてしまう。一夏の方は早々に箒たちにしばかれて

離脱。逆に機龍が全女生徒の身体測定を担当する事になってしまう。

そんなこんなで、刺激的過ぎる午前中を過ごした機龍は、自分の中で

暴れる欲望が原因で体調不良になりかけてしまう。

そんな彼を見かねたモーラの提案で、彼女と簪、セシリア、ラウラの4人

は彼の欲望、性欲を止めるためにひと肌脱ぎ、彼と体を重ねるのだった。

 

 

やがて、それから数週間後。

今、機龍は大勢のクラスメイトたちと共に、新幹線の座席に座っていた。

機龍「京都か~。テレビとかで見た事はあったけど、行くのは

   初めてだな~」

そう言って、流れる車窓の風景を目にしながら呟く機龍。

鈴「そっか。機龍は京都初めてよね。私なんてこれで3回目よ

  3回目。最初は楽しかったけど、今じゃもうね~」

と言って、愚痴りながらもセシリア達とトランプをして遊んでいる鈴。

 

機龍はそんな彼女の愚痴に苦笑をしたが、すぐに車窓の方に視線を向け、

周りの生徒に悟られないようにしながらも、その表情を引き締めた。

 

その理由は、修学旅行出発の数日前。つまり、今日より数日前の

会議の内容によるものだった。

 

 

その日、機龍、一夏、箒、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラ、簪、

モーラ、更に2年と3年の専用機持ちであるフォルテとダリルが

楯無によってとある部屋に招集されていた。

総勢12名にも及ぶ専用機持ちが一堂に会していた。

楯無「さて。今日みんなに集まってもらったのは他でもないわ。

   修学旅行に関してだけど。事前に、フォルテとダリル、

そしてこの私が1年に特別に同行する事に関しては

聞いているわね?」

モーラ「3学年の中で、一番専用機持ちが多い1年生。それが学園からの

バックアップを受けられない京都に集まった際、それを狙って

現れるかもしれない亡国企業と戦うため。でしたよね?」

楯無「そうよ。モーラちゃんの言う通り、私たち3人が同行する理由は

   万が一の際にこちらの戦力を整えるため。でも、これは半分はずれで

   半分当たりよ」

一夏「どういう事ですか?」

と、疑問を浮かべた一夏だが、それに答えたのは楯無ではなかった。

 

フォルテ「やっぱ、やるんすね、ファントムタスクの掃討作戦」

と言う呟きに1年、つまりは一夏達の視線が気怠そうに語っている

フォルテに集まった。

機龍「掃討、作戦?……どういう事ですか。楯無さん」

楯無「言葉通りの意味よ。……以前から幾度となく学園を襲ってきた

   ファントムタスク。学園祭の時もそうだけど、イベントの時は

警備がより厳重になるって思われるだろうけど、実際には

大勢の人間が集まる事で逆に個人を集中的に監視する事など

できなくなってしまうわ。あの時、企業の人間に成りすました

亡国企業のメンバーが入り込んだのが良い例よ。ましてや京都は

警備なんてないし、援護してくれる戦闘教員の先生たちもいない。

土地勘のない場所で更にバックアップもなし。戦闘力も低下している。

これだけ揃えば、むしろ向こうが襲ってこないと言う事の方が

おかしいわ。でもね、逆に来るとわかっているなら戦い方は

いくらでもあるわ。……良い?よく聞いて。私たちはこの日、

京都でファントムタスクと決着をつけます」

普段の飄々とした態度から一転して、鋭い眼光を宿した瞳が、一夏達を

見つめていた。

その目に、一夏達は悟った。『間違いなく、京都で戦いが起きる』と。

 

だが、一人だけ機龍は、浮かない顔をしていたのだった。

 

彼が願う事はたった一つ。敵か味方かなど関係ない。

一人でも大勢の人間たちの笑顔だ。それこそが彼の戦う原動力であり、

彼を内から支えるものである。彼は、一人でも多くの人に幸せで

あってほしいと願い、戦う決意を固めた。

だからこそ、彼はスコール達と戦う事になるかもしれない現状に

納得できないでいた。

機龍『僕は、みんなを守りたいと願った。でも、それはお兄ちゃん達だけ

   じゃない。スコールさんやオータムさん。そして、マドカちゃん。

   戦いになれば、間違いなくお兄ちゃんたちとスコールさん達は

   戦う事になる。……その時、僕はどうすれば』

彼にとって、守りたいもの同士が戦う。今にして思えば、機龍が人間同士の

戦いに本格的に介入するのは初めてかもしれない。

初めて殺意を向けられた時、ラウラの時は結果的に試合であったし、

後に暴走したレーゲンを止めると言う事態に発展しただけだったし、

それ以前のゴーレムⅠに関してもあれは無人機だった。

銀の福音の時も、あれは暴走した福音を止める、と言う物だった。

オータムと戦った時はゴジラが主導権を握っていた。

 

彼にとって、その拳は人間に向けて、全力で振り抜いてはいけない代物だ。

人間に全力を向けると言う事は、自分が護ろうとした者を傷つけている

と言う事だ。

だが、戦いになれば、機龍はどちらかと戦わなければならない。

 

一夏達と築いてきた絆は本物だ。それを裏切る事はできない。

が、だからと言ってスコール達に刃を向ける事が正しい事だとも思えない。

 

出口のない迷路に迷い込んだかのように、堂々巡りを繰り返す機龍。

しかし、彼の思考は唐突な衝撃で中断された。

今、彼の背後に一人の人影が迫っていた。そして……。

   『ピトッ』

「ひゃぁっ!?」

唐突に冷たい何かを頬に押し当てられた機龍はびっくりして素っ頓狂な

声を上げてしまった。

ダリル「あっはっは!ひゃぁ、だってさ!何乙女みたいな悲鳴

    上げてんのさ!」

そう言って、グシュグシュと機龍の頭を撫でたのは、護衛の名目で

同行していたダリルだった。

機龍「だ、ダリル先輩!驚かさないでくださいよ!」

ダリル「うるせ~。お前がガキの癖にいっちょ前に悩んでたから

    悩みをすっ飛ばしてやったんだろうがよ」

その言葉に、はっとなる機龍。

   「ほらよ、これでも飲んで頭冷やしな」

そう言って一本の缶ジュースを放るダリル。機龍はそれをうまくキャッチして、

ジュースから彼女の方に視線を移した時には、彼女は既に近くの座席の

方に戻っていた。

それに対し、機龍は薄く笑みを浮かべてからジュースを飲み始めた。

 

 

やがて、数十分後。京都に到着した一行。

彼らは一度、旅館へ赴き、そこで荷物を下ろしてから各々

グループを作ったりして、京都の町へと繰り出していった。

機龍はラウラ、セシリア、簪、モーラと共に町中を歩いていた。

モーラ「ここが古都、京都ですか。私も訪れるのは初めてです」

笑みを浮かべながら風情ある建物に目を向けるモーラ。

 

ちなみに、一夏及び各クラスのクラス代表は班行動とは別に

一人で各地のクラスメイト達の写真を撮りまくっていた。

そして、機龍も今は愛用のカメラを片手にラウラ達や、更に

別のクラスメイト達の写真を撮っていた。

 

そんな時だった。

セシリア「ふぅ。少し歩き疲れましたわ」

簪「あ、それなら近くに和菓子屋さんがありますから、

そこで休みますか?」

モーラ「そうですね。機龍はどうですか?」

機龍「う~ん。じゃあ先に行ってて。僕はもう少し写真を撮って

   後から合流するから」

ラウラ「わかった。では後でな」

 

そう言って、機龍は笑みを浮かべながら4人と一度別れた。

だが、それを建物の影から見ている人物が居た事には、誰も

気づかなかった。

 

そして、機龍が近くの写真を撮っていた、その時。

 

機龍「えっと、次は、ッ!!」

咄嗟に身を翻す機龍。次の瞬間、彼が立っていた近くの建物の

ショーウィンドーのガラスが音を立てて粉々に割れた。

道行く人々が何だと足を止め、振り返る中で機龍は近くの薄暗い

路地の中に飛び込んだ。

 

  「狙撃。まさか、スコールさん達、なのか」

そう言って、室外機の影から僅かに顔を出そうとしたが、その室外機の

すぐ近くの地面に銃弾が突き刺さった。

彼は先ほど、人間離れした聴覚によって遠くからの、サプレッサーを

つけた狙撃の僅かな発砲音を聞き分け、咄嗟に回避したのだ。

 

そして逃げ込んだは良い物の、動けなくなる機龍。

  「せめて、相手の顔だけでも……!」

そう呟いた彼は右手だけをクロー化させ、それを盾のように

展開しながら、路地の外の方に目を向けた。

 

彼の機械としての能力があるからこそ、その目にはズーム機能などが

盛り込まれていた。それを駆使して、弾丸の飛んできた角度や速度から

射撃地点を割り出し、そこへズームする機龍。

 

 

だが、彼の目には、彼自身が見たくない『者たち』が映りこんだ。

 

 

 

  「そ、そんな……!どうして、『先輩』達が」

 

 

 

彼の目に映ったのは、狙撃銃を構える3年のダリル・ケイシーの姿と、

その彼女の後ろで驚愕した表情のフォルテ・サファイアだった。

 

 

 

だが、彼に驚いているだけの時間はなかった。

   『ジャキッ!』

唐突に、彼の頭に銃口が突き付けられた。

オータム「さぁて。大人しくしてもらうか」

機龍「その声、オータムさん、ですよね?」

ゆっくりと両手を上げ、立ち上がった彼が首だけを動かして

後ろに振り返ると、そこには今まさに自分にリボルバーを

突き付けているオータムの姿があった。

 

オータム「へへへ、どうだい?驚いたかい?自分の仲間が裏切り者で」

機龍「……はい。…それで、僕は一体どうなるんですか?」

オータム「スコールがテメエをお呼びなんだよ。大人しく付いて来な」

機龍「わかりました」

今の彼には、唯々頷く事しかできなかった。

 

 

数分後。機龍はオータムに監視されながら一つの高級ホテルへと

足を運んだ。

  「ここに、スコールさんが」

オータム「そうだっつってんだろ。わかったらさっさと歩け」

そう言って、機龍の背中を小突くオータム。

そして言われるがまま、エレベーターに乗り、上階のエグゼクティブ

フロアまで移動する機龍とオータム。そんな時だった。

 

オータム「テメエ、なんでわざと捕まった?」

機龍「………」

オータム「しらばっくれても無駄だぜ。テメエの力なら、私を

     倒すことだってできたはずだ。それとも何か?

     敵の本拠地に乗り込んでって逆に殲滅しようって

     腹積もりか?」

機龍「僕は、そんなことは考えていません。ただ、皆さんと

   話がしたかった。それだけですよ」

と、静かに呟く機龍。

オータム「けっ!バカじゃねえのか!話し合いだと?まだ

     この前みたく分かり合えるだのなんだのとぬかす気か?」

機龍「……はい。僕は、それを信じていますから」

まるで、自分自身に言い聞かせるように呟く彼の姿に、オータムは

バツの悪そうに舌打ちをするのだった。

 

やがて、エレベーターを降りた機龍は、オータムに言われるがまま

同フロアにあるプールへと足を運んだ。

オータム「スコール、連れてきたぜ」

そう言って、こちらに背を向けるように配置されていたチェアに

体を預けていたスコールに声をかけるオータム。

スコール「あら、ご苦労様オータム」

そう言って彼女はチェアから体を起こし、二人の方へと

歩み寄ってきた。

 

それに合わせてオータムはリボルバーをしまい、どこかへと

行ってしまった。そんな彼女を見送った機龍だったが……。

    「お久しぶりね、機龍君」

と言うスコールの声に、彼は視線を彼女の方へと戻した。

機龍「はい。お久しぶりです。スコールさん」

と、挨拶をする機龍だったが、次に何を言えば良いのかわからなくなって

しまった。と、その時。

 

フォルテ「ちょっ!なんでここにそいつが居るんすか!?」

プールの方から声が聞こえたので、そちらに視線を向けた機龍と

スコールだったが、機龍の方は途端に顔を真っ赤にして、体ごと

180℃回転した。

 

 

今、プールの中では一糸まとわぬ姿のフォルテとダリル改め

≪レイン・ミューゼル≫が泳いでいたのだった。

レイン「お?来たみたいだなガキんちょ」

と、顔を赤くしながら胸やあそこを腕で隠すフォルテと、対照的に

どこもかしこも隠す気が0のレイン。

機龍「ご、ごめんなさい!お二人が居るのに、き、気づかなくて!」

と、顔を真っ赤にして、背を向けながら謝る機龍。

しかし、そんな彼の前に今度はスコールが回り込んできた。

 

スコール「あらあら。この程度で赤面するなんて。あなたもまだ子供ね」

と、言って笑うスコールだったが、彼女の場合は水着こそ着ているが、

それでも一般的な水着よりは露出度が高く、その大きな胸や美貌と

相まって、更に機龍を赤面させた。

レイン「お~お~。何顔赤くしてんだよ。この前女子全員の下着姿

    見た癖によ~」

と、プールの方から何やらヤジを飛ばしてくるレイン。

機龍「そ、それとこれとはべ、別で、あの、その」

何とか弁解しようとするが、何を言って良いのか分からない機龍。

 

オータム「ったく。さっきから何騒いでんだよ」

と、そこに今度は水着に着替えたオータムまで現れた。

声のした方に視線を向けた機龍だったが、彼は顔を赤くしたまま、

彼女の方を見つめていた。

    「な、なんだよ。何見てんだよ」

機龍「あ、その、ごめんなさい。オータムさんが、あまりにも、

綺麗だったから」

咄嗟に弁解する機龍だったが……。

オータム「は、はんっ!テメエに褒められてもうれしくもなんとも

     ねえっての!」

そう言ってプールの中に飛び込んでしまった。

 

ちなみに、そんな彼女を視線で追った機龍だったが……。

フォルテ「何こっち見てるんすか!変態!」

機龍「ご、ごめんなさい!」

と、プールの方に視線を向けたために、再び裸体のフォルテと

レインを見てしまった。

レイン「良いじゃねえか。こういう時は、見せつけてやろうぜ」

と言って、フォルテを抱き寄せたレインは……。

フォルテ「あ、ちょっ、こんな所で、ん!」

甘く熱いキスを交わしたのだった。

それを見て、更に顔を真っ赤にした機龍だった。

 

 

やがて、何とか心を落ち着けた機龍は、制服姿のまま、スコールの

隣のチェアに体を預け、ただぼ~っと上空の天井から降り注ぐ

太陽光を防ぐためのパラソルを見つめていた。

しかし。

スコール「それで、あなたはどうするのかしら?」

唐突に、パラソルの刺さっていたテーブルをはさんで反対側の

チェアに腰かけていたスコールに聞かれ、機龍は意識を戻した。

 

その言葉の意味は彼には分り切っていた。

機龍「例の、作戦の事ですよね?」

スコール「えぇ。私たちファントムタスクの掃討作戦。既に

     あの子、レインから内容は聞いているわ。

     あなたも参加するのでしょう?」

機龍「……。僕は、正直に言えば、こんな風になんて、

   戦いたくありません。僕は唯、みんなの笑顔を守りたい。

   それだけの、はずなのに」

スコール「そのみんなとは、学園のあなたのご学友の事なのかしら?」

機龍「みんなはみんなです。一夏お兄ちゃんや簪、ラウラお姉ちゃん達や

   箒お姉ちゃん達。織斑先生、山田先生、束、クロエ。でも、僕は

   スコールさん達の事も守りたい。そう思ってます」

スコール「あら?それはファントムタスクへの参加と言う事で

     良いのかしら?」

機龍「ち、違います。僕は唯——」

体を起こしてスコールの方を向く機龍。だが。

スコール「それは余計なお節介よ。機龍君」

機龍「ッ!」

否定しようとした機龍を遮り、彼の目を鋭いスコールの眼光が射貫く。

 

スコール「私はあなたに守ってなんて、言った覚えはないわ。

     ましてや、それはあなた自身の自己満足なんじゃないの

     かしら?他者を守る事で周囲に自分の力を知らしめ、

     頼られる存在となり、周囲からの信頼を得る。

     そう言うのを、偽善と言うのよ」

その言葉に、機龍は最初、反論しようとした。だが、できなかった。

 

機龍『僕の選んだ道は、偽善なのか。僕が、そうする事で、  

   心の中で、喜んでいたのか。もし、そうなら、僕は、

   最低だ』

きつく目を閉じ、膝の上に乗せた掌に力が入る。

スコール「あなたは唯、戦いが怖いからそれを言い訳に

     しているだけ。違う?そして、あなたの言った

     分かり合えるという思想も、捉え方次第によっては

     唯の甘ちゃんな理想論よ」

 

スコールの言葉に揺れ動く機龍の心。今まで、彼自身が正しいと

思いしてきた事、他者を守る事を偽善、お節介、言い訳と否定され、

分かり合える事が出来ると思う事を理想論と否定され。

全てを否定された機龍の心は、既にボロボロになっていた。

 

その目に涙を溜めている機龍。

     「……。泣くなら他所で泣いて頂戴。ここではやめて」

それだけ言い残すと、スコールは立ち上がってプールへと

飛び込んでいった。

そして機龍も、ヨロヨロと立ち上がると、フラフラとした足取りで

プールを、ホテルを出て行った。

 

ホテルから出て京都の町に歩いていく彼の姿を、プールの外、

テラスから見つめているのは、オータムだった。

そんな彼女の横に歩み寄るスコール。

オータム「良いのかい?結構気に入っていたみたいだが」

スコール「……この程度でつぶれるようなら、所詮その程度だった。

     それだけの事よ」

そう言われ、オータムはスコールから眼下に見える機龍の方へと

視線を移してから、すぐに踵を返してプールへと戻って行った。

残されたスコールは……。

 

    「もし、本当の王様なら、この程度で折れてはダメよ」

と、静かに呟くのだった。

 

 

 

その後、機龍はどこをどう歩いたのかは、覚えていない。

何度かポケットの携帯もなっていたようだが、それも今の彼に

とってはノイズ、雑音でしかなかった。

 

やがて機龍は、気づいたときには、もうすでに旅館の自分の部屋に

戻っていた。

そして、その部屋の端っこで、壁に背中を押し付けるような恰好で

体育座りの姿勢のまま、泣いていた。

 

そんな彼の精神世界では、機龍とゴジラが背中合わせで座っていた。

体育座りの機龍と、彼に背中を密着させながら胡坐をかくゴジラ。

機龍『僕の、してきた事は、全部、全部、偽善だったのかな』

ゴジラ『………』

もう一人の自分は、何も言わない。

機龍『僕が、みんなを守りたいって思う事は、余計なお節介なのかな』

ゴジラ『………』

彼は唯、黙ったまま機龍の言葉を聞いていた。

機龍『僕は、僕は……』

そう言って泣きはらしている機龍だが、やがてゴジラは無言で

立ち上がると、深層意識の奥底へと向かって歩き出した。

  『答えてよ!ゴジラァ!』

そして、とうとう立ち上がって振り返り、去って行くもう一人の自分に

向かって声を荒らげる機龍。

 

だが、それでもゴジラが答える事はなかった。

 

何も答えてくれないもう一人の自分の姿に、機龍の中の

悲しみが更に膨れ上がった。

 

そして、その悲しみが更なる涙となって機龍の瞳からあふれ出した。

 

結局、機龍は簪や一夏達が旅館に戻ってくるまで、ずっと自分の部屋で

泣き続けていた。

最初に機龍の元に来たのは、セシリアやラウラ、モーラ、そして

簪たちの4人だった。

   『コンコン』

ラウラ「機龍?戻っているのか?」

と、部屋をノックしながら中に呼びかけるが、返事はない。

そして、ラウラはドアノブを捻ってみた。

   『キィィ』

   「開いている。機龍?いるのか?入るぞ?」

そう言って部屋の中に入るラウラとそれに続くセシリア達。

 

既に外は夕暮れになっており、部屋の中の電灯はついておらず、

薄暗かった。

電気のスイッチを探してそれを入れるラウラ。そして、4人の

目に映ったのは部屋の隅で縮こまっている機龍の姿だった。

別れた時と今の彼のあまりの変わりように驚く4人。

 

ラウラ「機龍?何があった?大丈夫か?」

彼の横に跪き、その肩に手を置き声をかけるラウラ。だが、機龍は

反応しなかった。

それを見かねて、顔を見合わせるラウラ、簪、セシリア。

しかし、それを見かねたモーラが自身の能力で彼の記憶を

読み取った。

 

数秒後。一瞬だけ驚いた彼女は、すぐに表情を引き締めた。

モーラ「機龍?今は、一人になりたいですか?」

その問いに、機龍は唯、首を縦に振るのだった。

 

そして、ラウラ達は後ろ髪を引かれる思いで、モーラと共に機龍の

部屋を後にした。

セシリア「あの。モーラさん。機龍は一体……」

モーラ「今ここでは話せません。簪さん、一夏さん達全員を集めてください。

    ラウラさんは織斑先生と山田先生、それと楯無生徒会長さんに

    連絡をお願いします」

ラウラ「作戦に関わる者全員か。ならばダリルとフォルテも——」

モーラ「いいえ。あの人たちは既に味方ではありません」

簪「え?」

その言葉に混乱する簪たち。

 

モーラ「機龍の記憶で見た事を、お話します。機龍と深いかかわりを

    持つ、皆さんに」

 

 

その後、モーラの呼びかけで一夏達をはじめとして1年専用機持ちの

8人、楯無、千冬、真耶の11人が一つの部屋に集められた。

そして、モーラの口から語られた、機龍のついさっきまでの記憶。

 

簪たちと別れた後、レインに襲撃されたこと。フォルテが彼女の側に

着いた事。そして、オータムに連れていかれた先でスコールに出会い、

彼女から機龍自身の戦う意味や思いを否定され、心身共に

ボロボロになって戻ってきて、泣き続けていたことを。

 

その事実を知った一夏達の顔が、見る間に憤怒の表情に変わって行った。

ラウラ「何が偽善だ……!機龍の過去も、何も知らぬくせに!!」

鈴「次あったら、あいつら全員、私がぶっ潰す!」

怒りがその場を支配する。

一夏「俺、ちょっと機龍の所行ってくる!」

そう言って部屋を飛び出そうとする一夏だが、そんな彼の腕を

掴んで千冬が止めた。

千冬「やめろ。今の貴様が行って何になる」

一夏「でも!」

千冬「これは奴自身の問題だ!お前たちが口を挟むな!」

なお行こうとする一夏を戒めるように、千冬の怒号が響く。

 

そして、その声に一夏達も落ち着きを取り戻した。

  「確かに機龍の今までの行動を見てきたのなら、何より

   あいつの友人であるお前たちなら、そのスコールと言う

   女の言い分は頭にくるだろう。

   だが、その突き付けられた現実に向き合うのはあいつ自身だ。

   このまま奴が絶望するのか、それを乗り越えるのか、それは

   機龍自身が決めなければならない事なんだ」

その言葉に、一夏達は押し黙りながらも、各々が悔しそうな表情を

浮かべていた。

 

そして、その間も機龍は悩み、泣き続けていた。

 

 

誰かを守りたいと言う思いを否定された銀龍の心は深く傷ついた。

 

彼は悩み続けていた。自分のしてきた事が正しかったのかを。

今の彼には、何が正しくて、何が間違っているのかさえ、

わからなかった。

そして、自分と言う存在が正しいのかさえ……。

 

彼の絶望が更なる絶望を呼び覚ますのか?

それとも……。

 

今、銀龍の心の強さが試されようとしていた。そして、戦いの

始まりを告げる鐘の音が鳴り響く時が近づいてきた。

 

     第23話 END

 




今回はアニメや仮面ライダーと言ったヒーロー物に
よくある苦悩回にしてみました。
また、原作小説で出てきたキャラについてですが、
フォルテとレインは出てきていますが、
アリーシャは今のところ出番はありません。
それと、スコール達と一夏達の戦いもかなり
オリジナルな展開にしようと思っています。
評価、コメントなど、お待ちしております。

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