インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍    作:ユウキ003

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この今回は殆どオリジナルです。作品内の展開の都合上、
一夏が簪を誘う、と言うアニメ二期第8話のお話が消滅して
おり、第10話終盤にあったスコールたちと束の会談を
前半に持ってきました。


インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 第20話

~~前回までのあらすじ~~

専用機持ちである一夏達の練度向上を図るために行われる事に

なった専用機持ちによる全学年合同のタッグマッチトーナメント。

そんな中、一夏は相も変わらず箒たちの恋心に無関心なまま

パートナーについて考え事をしていた。

が、一夏の朴念仁っぷりに対して、機龍が一つの策を講じた。

そして、晴れて一夏は箒たち3人の想いに気付いたのだった。

 

 

 

一方、学園で一夏と機龍の試合が行われていたころ。

某所にあるレストランでは……。

束「それで、君たちは何のために私をこんな所に呼び出したのかな?」

そう言ってテーブルクロスが掛けられた席を前にして椅子に座り、

そのテーブルの上に乗せられた料理を上品に食べていた束。

丁寧にナプキンで口を拭いた束の前には、スコールが座っていた。

テーブル一つを挟んで向かい合う束とスコール。

 「もっとも、予想は着くけど」

そう言ってスコールを睨みつける束。

 「新しいISを作って提供しろ、って所かな?」

スコール「えぇ。そう取ってもらっても構いません」

束「……。お断りだね。もしそうなれば、君たちはそのISを

  IS学園に向けて使うでしょ?それはつまり、私が作った物が

  リュウ君に向けられるってことだ。そんなの死んでもゴメンだね」

スコール「篠ノ之機龍、あの子の事ですか」

束「そうだよ。……今の私は昔の私のとは違うの。リュウ君を通して、

  一つ気づいたことがある。それは、『過ぎたる欲望は身を亡ぼす』って

  事だよ。リュウ君を見てて思ったよ。ゴジラを生み出したのは、

  人間自身。人から生まれた怪物が人間を亡ぼす。そして、今の

  私なら、やろうと思えばなんだってできる。リュウ君のクローンを

  作ることも、あの子のDNAからゴジラを再現する事も。

  でもしない。いや、出来ないって言うべきかな」

スコール「出来ない?世界で一番の秀才と言われたあなたなら、それくらい

     造作もない事では?」

束「そうだね。昔の私なら他人何てどうでもよかった。ただ私やちーちゃん達が

  楽しめるならなんだってやった。でも、その先に待ってる物って、

  なんだと思う?」

その問いに、首を振るスコール。

束「……。『破滅』だよ。私たち人間は、個の欲を優先し過ぎた。

  森を焼き、海を汚し、空を壊す。私たちは生き物だよ。だからこそ、

  こういった食べ物を食べてかなきゃ生きていけない」

そう言って、料理の一つ、リブステーキの骨をつまむ束。

 「でも、人間の欲って言うのはこの地球のキャパを超えかけている。

  自分の住んでる家を自分で壊してるんだよ。人間は。

  そうなれば、地球には遠くない将来破滅がやってくる」

スコール「だから、あなたはできるはずの事をしないと?」

束「そうだよ。私たち人間は自分の罪と向き合わなければならない。

  例え償いきれない程の業だとしても、それから目を背けずに

  真っ直ぐに見つめる。そして考えなきゃいけない。この世界を

  明日って言う物を。機龍君と同じように」

スコール「あの子供がそんなことを?」

束「子供、か。そうだね。確かにリュウ君はまだ子供なのかもしれない。

  あの子の言う事も、大抵の人には唯の理想に聞こえるだろうね。

  でも、だからこそ誰よりの真っ直ぐなんだよ。君たちだって見たでしょ?

  散々殴られた上、お腹をぶっ刺されても立っていたリュウ君の姿を」

そう言って、スコールの後ろに立っていたオータムを睨みつける束。

オータムはその殺意に気おされ、視線をずらした。

今、スコールとオータムの頭の中に浮かんでいるのは、夕暮れの公園で

聞いた機龍自身の決意の言葉だった。

 

スコール「つまり、新しいISは提供していただけない、と言う事ですね?」

束「そうだよ。何度も言わせないでよね。料理は美味しかったよ。

  けど、それだけでISを提供する気にはなれないね」

そう言って立ち上がった束。と、その時。

 

   『ドゴォォォンッ!』

唐突にレストランの壁をぶち破って、マドカのサイレントゼフィルスが

現れた。

マドカ「動くな」

手持ちのライフルを束に向け、冷徹に警告するマドカ。だが。

そのゼフィルスにスッと右手を向けた束。次の瞬間。

   『パァァァァァッ!』

何と、一瞬にしてサイレントゼフィルスが粒子のように分解されて消滅

してしまった。

オータム「なっ!?なんだ今の!?」

余りの事に、オータムやスコール、そして今しがたまでゼフィルスに

乗っていたマドカ自身さえ、驚愕を隠せなかった。

 

束「デススイッチだよ」

ゆっくりと語りだす束。

 「本来は、リュウ君に危害が及んだ時のための安全装置として、

  全部のISに仕込んでおいたんだけど、こんな時に役立つとは

  思わなかったよ」

そう言って、無表情なまま語る束。

 

以前の彼女なら、こんなこともできるんだよ~、と、笑って自慢した

だろうが、彼女もまた、機龍との出会いを通して変わっていた。

普段はおちゃらけていても、戦いとは何かを知ってしまったのだ。

彼女のまた、見ていたのだ。機龍とゴジラの戦いを。

戦場においての嘲笑は彼女にとって大切な人への侮辱も同じ。

戦いを遊びと言うなら、ゴジラと機龍の戦いは何だ?娯楽か?

もし、あの戦いを見てそう思っている人間が居たとしたら、束は

激怒しその人間を殺すだろう。

今の彼女ならわかる。自分が何を作り、何を世界にもたらし、

何をしてしまったのかを。そして、戦う事の、何かを護り、

何かを得るために戦う事の痛みと、それを乗り越える覚悟。

その何たるかを見てしまった彼女にとって、戦いとは

もはやお遊びではない。命を懸けた行為なのだと気づいていた。

 

 「さぁ、これでもまだ――」

と、その時束の視線がマドカへと注がれた。

今度は束が驚く番だった。その顔に驚きを浮かべた束だが、すぐに

表情を引き締めると床に片膝をついていたマドカの前に

速足で歩み寄って跪き、彼女の顔を覗き込んだ。

 「………。あぁ、やっぱりだ」

驚いている彼女の事を確かめると、今度は諦めたような表情を

して立ち上がった束。

 「君を見てると、嫌でも思い出すよ。人間がどれだけ低俗で、

  下劣で、汚い存在かをね!」

後半から語気を強め、終いにはレストランの中に響かんばかりに

叫ぶ束。

 「何が食物連鎖の頂点に立つ種族だ!何が人類の英知だ!

  馬鹿で業突く張りなクソジジイ共め!そんなんだからこの地球は

  終わるんだよ!」

マドカの出生に気付き、彼女をゴジラと重ねた束が叫ぶ。

ほんの数%の身勝手な人間な行いが地球を滅ぼすと言う事を、

ゴジラ、機龍との出会いを通して知った束が叫ぶ。

そして、罵詈雑言を吐いてある程度気持ちが落ち着いたのか

束はマドカの方を向いた。

 「ねぇ、君の名前は何て言うの?」

マドカ「………。マドカ」

束「そうなんだ~。……私ね、マドっちを見てると思うよ。

  この世界の支配者足りえるのは、人間じゃないって」

そう言ってマドカの頬を撫でる束。

スコール「それはどういう意味ですか?篠ノ之博士」

束「単純な事だよ。この世界で一番『命』の重さを

  知ってるのは法王でも大統領でも、ましてや人間でもない。

  それはリュウ君。つまり、機龍とゴジラだよ」

ゆっくりと立ち上がり、マドカに右手を差し出す束。

マドカは驚き束を見上げてから、その手を取らずに自分で

立ち上がった。

 「私たちはいつも、命のやり取りをしてるんだよ。寿命を削って

  働き、その労力をお金に換えて今を生きている。動物たちも

  そう。野生動物たちは他者を狩り、食らい、その命を、種族を

  繋いできた。……でも、人間はそれを忘れた。私たち人類ただ一種

  で世界をどうこうできると思いあがってるのさ。

  動物たちはそれを今も覚え、人間はそれを忘れた。賢くなりすぎて、

  一番大切な事を忘れたんだよ。人間は。

  ……私たちは、一人では生きていけない。豚や牛の肉を食らい、

  魚や野菜を食らい、太陽の光、恵まれた地球の環境があって初めて、

  生きていけるんだ。そして、今って言うこの世界でその重さを

  一番理解しているのが、リュウ君なんだよ」

スコール「彼が理解している、とは?」

束「リュウ君は他者との繋がりの何たるかを知っている。自分一人では

  できない事も、仲間とならできる。友達や家族がいるから

  戦える。一人では乗り越えられない壁も越えられる。それを

  知っているからこそ、リュウ君は、いや、リュウ君達は他者を、

例え敵であったとしても、憎むんじゃなく、受け入れるんだよ。

君たちを憎まないように」

オータム「はっ!そんなことできるわけあるか。あいつらは私たちは

     敵だ。分かり合おうだなんて」

束「そうだね。大抵の、と言うか、ほとんどの人間にとって他人って

  言うのは二種類のグループに分けられる。つまり、

  『敵』か『味方』か。その二種類にね。でもリュウ君達は違う」

ゆっくり、静かに首を振る束。

 「今のリュウ君はその敵と味方の両方を含めて、分かり合えると

  信じている。そして何より、今私たちがこうしていられるのは、

  リュウ君がゴジラを抑え込んいるからだよ」

スコール「ゴジラを、抑え込んでいる?」

束「そう。ゴジラってのは私たち人類が大っ嫌いなんだよ。マドっちと

  同じようにね。でも、普段ゴジラが表に出てきて暴れる事は

  無い。それはリュウ君がゴジラを封印している扉のような存在

  だからだよ。そして、どうしてリュウ君はそのゴジラを封印

  していると思う?」

マドカ「奴は戦うのが嫌いな性格だ。ただの臆病者だからだろう」

束「ぶ~。外れ。それはね、リュウ君が私たち人間を『愛している』からだよ」

と、スコールたち3人は束の言う単語にポカンとした表情で

疑問符を浮かべた。しかし。

スコール「ふふふふ、実に面白い話ですね。篠ノ之博士」

唐突に笑い出すスコール。

束「君だって気づいてる、と言うか、認めてるんじゃないの?リュウ君の事。

  そして、気にもかけているはずだよ。あの子の持つ、可能性を」

オータム「可能性だと?あのガキにどんな可能性があるって言うんだ」

束「それこそ、無限の可能性かな?もしリュウ君が人間嫌いになれば、

  後はゴジラが出てきて人間との全面戦争だよ。これは最悪の、

  破滅への最も近いシナリオなのさ。でも、今のリュウ君は

  『誰かを守るために戦う』って言うスタンスを持っている。例え

  相手が敵でも、分かり合おうとする努力をしている。銃を向けられた

  から、向け返すのではなく、握手のための手を伸ばしている。

  言ったよね?リュウ君は世界で一番、命の重さを知ってるって。

  だからこそ、だよ。敵を敵とだけ認識するのではなく、相手を人間と

  認識し、意思の疎通ができると信じ、例え傷づいても相手に手を伸ばす。

そんなリュウ君だからこそ、この世界を治めるに相応しい器。

王様だ。そして今も、その王様と共に歩もうとしている人の数は

増え続けている」

スコール「いずれ、篠ノ之機龍は世界を動かす人間になる。そう

     仰りたいのですか?博士」

束「ふふ、その通りだよ~~ん♪」

と、ここに来て硬い表情を崩し、笑みを浮かべる束。

 「近い将来、機龍君はこの世界を動かすだけの王様になる。私は

  そう考えてるんだよ。……と、そうだ。例の新型の件だけど、

  気が変わった。受けてあげるよ」

と、彼女の提案に再び驚く3人。

スコール「そ、それは構いませんが、一体なぜでしょうか?」

束「簡単な話だよ。君たちにもっとリュウ君と向かい合ってほしい。

  そのために協力する。そう思っただけだよ。

  これからよろしくね、ファントムタスクの美女さん達♪」

そう言って、束は3人に向かってウィンクをしたのだった。

 

 

一方、場所は変わって、束とスコールたちが居るレストランでも、

IS学園でもない場所。

どこかの高層ビルの薄暗い一室から、赤い液体、ワインの入った

ワイングラスを片手に持った壮年の男が窓越しに見える眼下の

街並みを見下ろしていた。と、その時。

   『ミスター0、皆さんがお揃いです』

唐突に彼の横に四角いウィンドウが現れ、そこにSOUND ONLY

と書かれた物が浮かび上がると、通信ウィンドウから加工音声が

流れ、ワインを持つ男性、ミスターゼロと呼ばれた男に話しかけた。

0「わかった。すぐに会議を始める」

そう言って、パチンと指を鳴らす男。すると窓のカーテンがサーっと

自動で掛かり、薄暗い部屋の光源だったシャンデリアが光を放ちだした。

そのシャンデリアには、立体映像投影装置が組み込まれているようだった。

 

やがて、部屋全体が暗くなったかと思うと、ゼロと呼ばれていた男を

中心に、周囲に13人の人影が彼を囲うように現れた。

 

但し、その人影はまるでシャドーマンのように人間の輪郭を移し、

その頭上に彼らを表す1から13の数字が描かれているだけだった。

0「おはよう、或いはこんばんは、諸君」

そう言って周囲のメンバーを見回す男。

輪郭たちのポーズは様々で、立っているように見える者。椅子か何かに

座っているように見える者など、実に様々だが、彼、或いは彼女には

そんなことはどうでもよかった。

4「ミスターゼロ。早速で悪いが本題に入ってくれ」

と、加工されてくぐもった声が4番の——話し方からして男性――影から

していた。

0「あぁ、そうだな。今日の議題は彼女についてだ」

再び指を鳴らしたゼロ。すると、彼の前に映像が現れた。

 

そこにはスコールの姿が映っており、その映像は彼女が機龍と接触し、

CIAに捕らえられそうになった時のものだった。

 

0「現在、我らがファントムタスクの実行部隊隊長である

  スコール・ミューゼルについてだが、今の彼女は我々の

  目に余る事をしている」

11「聞けば、民間人と接触した上にCIAにまで

捕まりかけたそうだな」

9「全く。そんな女が実行部隊の隊長など。片腹痛いわ」

イレブン、ナインと続いてスコールの批判を行っていた。

他の者たちも同じように何も言わないが、スコールに良い思いを

してはいないだろう。

1「どうでしょう。ミスター0。そろそろ、『人事異動』などしてみても

  良いのではないでしょうか?」

0「むふ。そうだな」

そう言ってスコールの立体映像に目を向けるゼロ

 「役に立たない駒は、適当に捨てるに限る」

と、次の瞬間、彼は指を鳴らしてスコールの画像を処理するのだった。

 「駒など、世界中を探せばいくらでもいる」

 

彼、彼女たちファントムタスクの幹部会にとって、スコールでさえも

駒の一つに過ぎなかったのだった。

だが、スコールがこの事を知るのは、まだ少し先の話であり、彼ら

幹部会の選択がどうなるのか、それはまだ誰にも分からない。

 

 

 

場所は戻ってIS学園。お昼休み。

今、屋上では一夏と機龍達9人が集まってお弁当を持ち寄っていた。

機龍「それで、一夏はお姉ちゃん達の想いに答えてあげる事にしたの?」

と、早速爆弾を放り込む機龍。途端に一夏達4人は顔を茹でダコのように

真っ赤にしてしまった。

モーラ「あらあら♪皆さん初心なのですね~」

鈴「し、仕方ないでしょ!あそこまで言っちゃったら一夏だって

  気づいちゃうし!あ、あああ、後はもう勢いに乗ってコクって殴って!」

簪「な、殴る?」

セシリア「大方、告白したのが恥ずかしすぎて、と言うところでしょう」

箒「わ、私たちも、似たようなもんだ」

シャル「言ったら言ったで恥ずかしくなっちゃってさ////

    いろいろと、その……」

一夏「そういや、俺あんとき何回死にかけたんだっけ」

と、言い出してため息をつく一夏。それを見て簪たちが笑っていた時

だった。

 

機龍「ごめんね。余計な事をして」

と、そう言って唐突に謝る機龍。

鈴「……別に。気にしてないわよ」

そう言ってお弁当の料理を口に運ぶ鈴。

 「結局、一夏は単純に告白でもしない限り気づかない天然物の

  朴念仁だったわけだし」

一夏「う、言い返せない」

鈴「逆に感謝してるわ。おかげで、腫物が取れた感じ。もう下手な

  事言って勘違いされる心配もないし」

箒「まぁ、おかげで私たちも自分の気持ちを正直に打ち明ける事が

  できた。だからありがとう、機龍」

シャル「そうそう。これからもよろしくね」

機龍「箒お姉ちゃん、鈴お姉ちゃん、シャルロットお姉ちゃん。

   ……うん、よろしくね」

と、絆を深めていたのだが……。

 

シャル「あ、そう言えば機龍達はパートナー決めたの?」

ラウラ「……もちろんだ。今回は、簪が機龍の相棒となった」

と、どこかがっかりしているラウラ。

シャル「へ~。どうやって決めたの?」

ラウラ「じゃんけんだ」

一・箒・鈴・シャ「「「「え?」」」」

ラウラ「じゃんけんだ」

一夏「いやそこはわかってるから」

と、その決め方にポカーンとしている箒たちと、どこか悔しそうな

セシリア、モーラ、ラウラ達3人。

 

で、放課後。一緒に寮の部屋に戻ろうと機龍と簪が二人で歩いていた時だった。

機龍「簪。お姉さん、生徒会長さんとの事についてだけど」

そう言った瞬間、足を止める簪。

以前、彼女は機龍に対して姉である楯無と和解したいと言う事を

口にしていた。最近はいろいろとゴタゴタしていたので、すっかり

先送り状態になっていたのだが……。

 

簪「うん。そうだよね。……いい加減、私も覚悟を決めないとね」

そう言って、スカートの裾を両手で握りしめる簪。その時、機龍の

両手が優しく彼女の手を包んだ。

 「機龍」

機龍「大丈夫。きっとできるよ。僕も応援するよ」

簪「機龍。……ありがとう」

機龍「ううん。……ずっと、こうしたかった」

簪「え?」

機龍「僕は、ようやく幸せってものを見つけられた気がしたんだ。

   毎日簪や一夏お兄ちゃんたち。先生やクラスの皆。束やクロエ。

   それだけじゃない。たくさんの人に出会って、見つけられたんだ。

   同じように、僕の戦う意味も見つけられた。

   僕はみんなの幸せを守るためにこの力を使う。ゴジラとして

   生まれ、機龍として生まれ、僕は今、この世界に篠ノ之機龍

   として生きている。だからこそ、僕はこの力の全てを。簪や

   みんなのために使う。ようやく見つけられた、僕自身の

   意思で。だから、お礼なんていらないよ。今の僕があるのは、

   簪や、みんなのおかげだから」

一筋の涙が彼のほほを伝い落ちた。やがて、ゆっくりと機龍を

抱きしめる簪。

 

彼こそ、世界最強の覇者にして暴君の力を受け継ぐ者。

何人たりと彼を遮ることあたわず。絶対の力を持つ者。

されど彼もまた心を持つ生き物。ただ一人の孤独の前には、

その力も意味をなさない。だが、今の彼は孤独ではない。多くの

仲間、家族に支えられ、今を生きている。

将棋の玉、王は万能の駒だが、それ一つで敵に勝てるほど強くはない。

機龍もまた然り。いくら最強であろうと、一人ではできない事や

乗り越えられない物もある。

 

王には必要なのだ。彼自身の傍で支えてくれる仲間が。戦友が。友が。

そして同時に、その友たちは王の精神的支柱となり、逆に王は

仲間たちのために様々な困難を乗り越える力を見せる事もある。

王だけでは足らず。

王を支える者たちだけでは足らず。

 

二つが揃って初めてその力は輝きを増していく。

簪や、ラウラ、セシリアは王、機龍の事を想っている。

一夏達もまた然り。だが同時に、機龍もまた彼らを想っている。

片方が欠けただけでもその輝きは失われるだろう。

 

だが、その輝きは誰にも消すことはできない。

共に生き、笑いあった本物の『絆』は決して消えない。

繋がった心、『魂』は純度を増し、それは宝石のように光り輝きだす。

その輝き、光は王、神からの恩恵となって王自身と仲間たちを、

世界を照らすだろう。だが、今はまだその時ではない。

何故ならば……。

 

楯無「あ、居た居た。探したわよ」

と、そこに現れたのは楯無だった。彼女が近づいてきたのに

気づいて、簪から離れて涙を拭う機龍と、同じように

抱き合っていたのを見られたのでは?と思い恥ずかしいのか

顔を赤くしてそっぽを向く簪。

 

機龍「こ、こんにちは楯無さん」

簪「………」

何とかぎこちないながらも挨拶する機龍と視線を

合わせようとしない簪。

そんな彼女に一瞬だけ視線を向けてから、楯無の方に

戻す機龍。

機龍「僕たちに何か用ですか?」

楯無「用、と言うか、宣戦布告、かしらね?」

機・簪「「え??」」

宣戦布告、と言う単語に機龍だけでなく簪まで反応して

楯無の方に視線を向けた。

 

途端に表情を引き締める楯無。

楯無「生徒会長は学園で最強でなければならない。

   だから私はだれにも負けないわ。当然あなたたちにもね」

そう言って扇子を広げる楯無。そこには、無敗と言う単語が

描かれていた。

  「トーナメントではお互い全力を出しましょう。

   言いたかったのはそれだけよ。じゃあね」

と、一方的に話を切り上げると彼女は行ってしまった。

訳が分からずポカンとしていた機龍だが、すぐに頭を振って疑問を

書き消して簪の方へと視線を向けた。

機龍「簪、大丈夫?」

簪「大丈夫。って、言えれば良いのかな?正直微妙。

  お姉ちゃんに怒ってる自分もいるし、お姉ちゃんを

  怖がってる自分も居る」

機龍「簪」

どこか乾いた笑みを浮かべている簪に対して、機龍の彼女の手を

優しく握るのだった。

 

唐突な楯無の宣戦布告。その裏にある彼女の狙いとは?

そして、束はスコールたちとの協力関係を結んだ。一方で

そのスコールを用済みと判断したファントムタスクの幹部たち。

 

各々の思惑が世界中で交差する。その交差が、物語の中の

人物たちを戦いの渦中へと誘う。

 

     第20話 END

 




作中では、機龍の行動スタンスは『人間とその未来を守る』と言う
事になっており、私が仮面ライダー好きなのもあってか
それに近い行動スタンスになっています。ご了承ください。

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