インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍    作:ユウキ003

26 / 46
今回はタッグマッチ開始の発表後、つまりアニメ第二期7話後半以降を
ベースにしていますが、ほぼオリジナルストーリーになっていると
思います。

※訳ありで、パソコンのデータが吹っ飛んでしまって完成間近だった
 簪とのR18の話も消えてしまいました。
 現在1から書き直しておりますので、もう少々お待ちください。
 


インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 第19話

~~前回までのあらすじ~~

機龍の獣っ子化騒動から数日が経ったある日。

その日機龍はIS学園の対岸の町へとやってきていたのだが、

そこでマドカやオータム達の長である『スコール・ミューゼル』が

偶然を装って彼に接触してきた。

そんな中、スコールを狙ってCIAのエージェントが現れた。

スコールと、彼女と機龍のデート(?)を尾行していたオータムが

あわや捕まりそうになるが、そんな二人を抱えて逃げる機龍。

そして、機龍はオータムからの攻撃を受けるも、彼は自分の

意思である、『僕たちは分かり合える』と言う言葉を二人に

ぶつけるのだった。

 

 

あれから数日後。機龍は今日も普通に授業を受けていた。

オータム達が去ったあと、束が持ってきた替えの制服に着替え、

何食わぬ顔で学園に戻った機龍。彼は一夏や千冬たちには自分が

スコールたちと出会ったことは伝えてはいない。

一夏達に余計な心配をさせまいとする機龍の配慮だった。

 

そして、そんなある日の事だった。

真耶「この度、各専用機持ちのレベルアップを図るために、

   全学年合同のタッグマッチを行う事になりました」

と言っている真耶の後ろでは、電子黒板に『タッグマッチトーナメント』

の文字が浮かび上がっていた。

一夏「タッグマッチ、ですか?」

と、疑問符を漏らす一夏。それに対して、真耶の隣にいた千冬が

答えた。

千冬「現在、各国に配備されているIS、それも専用機を狙った

   強奪事件が続いている。そして、先の文化祭でも専用機が

   狙われる事件が発生した。よって、専用機持ち達は

   万が一のためにも練度を上げる必要があると言う事だ。以上」

と、説明を受けた一夏達生徒。

 

しかし、この説明を受けていた時、箒をはじめとした女子たちの

頭の中は、別の事を考えていた。それは……。

 

   『『『『『『『『『一夏(機龍)と一緒にトーナメントに!』』』』』』』』』

 

と考えていたのだった。

 

そして、翌日のお昼休み。

シャル「い、一夏」

真っ先に動き出したのはシャルロットだった。

   「お弁当作りすぎちゃったんだけど、よかったら一緒に

    どうかな?」

と言って、一夏の前に風呂敷に包まれた大きなお弁当箱を持ってきたシャル。

一夏「おぉ、いいのかシャル」

シャル「うん!もちろんだよ!」

と、一夏が話、もといお弁当の事に反応したことに喜ぶシャルロット、

だが……。

一夏「結構多そうだな。…機龍たちも一緒にどうだ?」

と言って、一夏は話題を機龍たちの方へと振った。

それによって、シャルロットの中の期待のメーターが一気に下降へと

沈んでいった。しかし……。

機龍「ううん。僕たちは良いや。今日は学食で食べてくるよ。行こう、

   セシリアお姉ちゃん、モーラお姉ちゃん、ラウラお姉ちゃん」

そう言って、教室を出ていこうとする機龍。その去り際、シャルロットの

真横を通った時だった。

  「がんばってね、シャルロットお姉ちゃん」

シャル『え?』

と、思って振り返った時、機龍はシャルロットにだけ見えるように、

小さくVサインを作っていたのだった。

   『き、機龍。……ありがと~~!』

と、彼女は心の中で機龍に向かってお礼を言うのだった。

 

 

そして、その後簪とも合流し、食堂で集まって食事をしている機龍達5人。

しかし、そんな中でも機龍には不安があった。

一夏の事である。

 

機龍『一夏お兄ちゃんって、こう言って良いのかは分かんないけど、

   人としてあり得ないくらい鈍感だからな~』

と、彼と、彼を取り巻く少女たち、つまりは箒や鈴、シャルロットの

事を案じていたのだった。

機龍でさえ、口に出さずともあれほどのアプローチを受ければ、

自分に気があるのだろうか?と、思うくらいになりそうなのに、

一夏の朴念仁さはそれを上回っていた。

元怪獣以上の朴念仁とはこれ如何に?

 

しかし、機龍が心配なのはそこではない。

  『もし、このまま箒お姉ちゃん達が真っすぐに一夏に告白

   できなかったら……』

その先を否定するように首を振る機龍。

  『ダメだ。それじゃあ、お姉ちゃん達が可哀そうだ』

そう思いながらテーブルから見える外の青い空の方に視線を

移す機龍。

  『出来る事なら、箒お姉ちゃん達にはその恋を叶えて欲しい。

   でも、僕が何かすることって正しいのかな?

   いや、でもやっぱり恋って言うのは本人たちが色々

   するもので、でもでも……』

と、悩んでいる機龍。

そして、そんな彼の様子に気付いた簪たち。

簪「機龍?どうかしたの?」

機龍「え?あ、ううん。何でもない。ちょっと考え事をしてたんだ」

モーラ「一夏さん関係の事ですか?」

機龍「……うん」

一瞬だけ驚いてから、すぐに肯定する機龍。

  「その、いくら何でも一夏って鈍感すぎるなって思って、

   下手な同情かもしれないけど、箒お姉ちゃん達があんまり

   だからって思って」

簪「確かに。……織斑君ってちょっと」

ラウラ「あぁ。いくら何でも鈍感すぎるからな。箒たちも

    直接告白でもしない限り……」

モーラ「一夏さんが3人の気持ちに気付く事はないでしょうね」

機龍「そこをどうにかしたいんだ。でも……」

セシリア「この問題に機龍自身が関係することが正しいのか、

     悩んでいるのですね?」

機龍「うん。こういう問題は、どこまで行っても一夏とお姉ちゃん達

   自身の問題だからね。……でも、出来る事なら」

と、言い淀む機龍。

その話に顔を見合わせるセシリアや簪たち。

 

彼女たちからしても、一夏の鈍感さは目に余るものがあった。そんな時。

モーラ「実らない恋ほど、女性にとって残酷な事はないでしょうね」

料理を食べながらポツリと呟いたモーラ。

セシリア達は、心の中でその言葉に頷いた。

今、恋をしている彼女たちだからこそわかる現実だった。

 

出会った少年の思いを知り、過去を知り、心を通わせ、互いを

愛し合っている。その愛は、彼女たちにとって世界で一番甘い

果実のような物だ。

一度その味を知ってしまえば、もう手放すことはできない。

彼と言う存在と今を共に生きる事が、彼女たちにとってもっとも

楽しい時間だからだ。

彼女たちが『もし機龍と出会っていなかったら?』と考えたが、

それだけで簪、セシリア、ラウラの背中に悪寒が走った。

 

だが、それだけではない。仮に出会ったとしても、いくら告白スレスレの

行動を起こしても、相手は気づいてくれない。それもまた、

残酷な現実になる。

ならばストレートに告白すれば良いのでは?と周りからは思われる

だろうが、それを簡単に出来れば誰だって苦労しないのである。

今の箒たちのように。

 

機龍「……僕、放課後一夏お兄ちゃんに少しだけ聞いてみる。

   タッグマッチのパートナー、誰にするのか」

その言葉に、周りの4人は何も言わなかった。

 

そして放課後。

機龍は一夏と一緒に寮への道を歩いていた。

その少し離れた後ろを、簪や箒たち9人が歩いていた。

ラウラ「お前たち3人も、かなりの苦労人のようだな」

シャル「い、いきなり何の事かな?」

ラウラ「隠す事でもないだろう?お前たちにとっての一夏の事だ。

    あいつの鈍感さにお前たちが辟易しているのは、すでに

    周知の事実だ」

鈴「……。まぁ、ね」

 

と、静かに話しながら女子たちが歩いているころ、機龍が一夏に

例の話題を振った。

機龍「そういえば、一夏はタッグマッチのパートナーを

   決めたの?」

一夏「あ~、いや。まだなんだよな~」

機龍「そっか。誰か候補はいるの?」

一夏「あぁ、やっぱ箒か鈴やシャルロットの誰かなんだけど、

   俺射撃がまだまだだから、そこを補ってくる相手が良いんだよな~」

機龍「じゃあ、シャルロットお姉ちゃん?」

一夏「そうだな。3人の中で一番射撃がうまいのは、

やっぱシャルだよな~。ただ、最終的には呼吸って言うか、

相性みたいなのもな~」

機龍「相性。……お兄ちゃんの白式なら、箒お姉ちゃんの紅椿や

   鈴お姉ちゃんとのツートップでの戦い方や、シャルロット

   お姉ちゃんとの前衛後衛を分けても戦えるけど」

一夏「そうなんだよな~。……はぁ、悩むな~」

機龍「………」

そういってため息をしている一夏を横目に見ている機龍。そんな彼の

視線に一夏が気付いた。

一夏「ん?どうかしたのか?」

機龍「うん。……ねぇお兄ちゃん。今お兄ちゃんって好きな人、居る?」

と、その質問に後ろを歩いていた3人が驚き声を上げようとするが、

それを押しとどめ、静かにしていろ、とジェスチャーで伝えるラウラ。

一夏「な、なんだよいきなり」

機龍「少し、ね。一夏お兄ちゃんももう年頃だから、そういう人って

   居るのかなって思って。…どうなの?」

一夏「好きな人、か~。……微妙だな~。仲の良い女子はたくさん

   いけるけど、そういうのはいないかな」

機龍「そう」

と、一夏に見られないように悩んでいるような表情を浮かべる機龍。

チラッと振り返った後ろでは、箒たち3人がため息をついていた。

 

そして、それを見た機龍は、一つの決断をして、その場で足を止めた。

一夏「ん?どうした機龍?」

急に足を止めた彼に気付いて、同じように足を止めて振り返る一夏。

そして、少し離れた後ろを歩いていた箒たち7人も足を止めた。

機龍「一夏。……明日の放課後、僕と試合をしよう」

 

 

   「「「「「「「「え?………えぇぇぇぇぇっ!?」」」」」」」」

 

 

唐突な宣言に、一夏や箒たちの叫びが夕暮れの空に響いたのだった。

 

 

そして、翌日の放課後。

今、一夏と機龍は互いのピットに待機していた。

そして、二人の傍にはそれぞれ、箒たちと簪たちが寄り添っていた。

だが、試合間近にあっても一夏は落ち着いては居られなかった。

そんな彼の様子を知ってか。

箒「一夏、大丈夫か?」

周りに居る箒たちが一夏の事を心配していた。

一夏「大丈夫、って言うか、今は機龍の本心が知りてぇな」

その言葉に黙り込む3人。

 

一夏を含めて、4人はわかっていた。機龍は本来戦いを好まない。

その理由は彼女たちの頭の中にきっちり叩き込まれていると言っても

過言ではない。あの戦いの記憶が4人の脳裏に浮かぶ。

その機龍がいきなり一夏と試合をしたいなどと言い出したのだ。

4人が困惑するのも無理ないだろう。

そして、それは機龍のピットに居た簪たちも同じだった。

 

簪「機龍、本当に織斑君と戦うの?」

今、ロケット砲装備の銀狼の最終チェックを済ませ、それを装着している機龍に

疑問を投げかける簪。

機龍「うん。できるかわかんないけど、もしかしたら、これで

   一夏に箒お姉ちゃん達の思いを伝えられるかもしれないんだ。

   だから、行ってくる」

ラウラ「そうか。賢いお前の判断だ。私は何も言わん」

機龍「ありがとう。…ただ、お姉ちゃん達には一つお願いしたい事

   があるんだ」

セシリア「お願い?」

と、セシリアはラウラ、モーラや簪は首をかしげるのだった。

 

   『ビーッ!』

試合開始の合図と共に二つのピットから白式・雪羅と銀狼が

同時に飛び出した。そして、空中で向き合う二人。

ちなみに、とでも言うべきなのだろうか。

今一夏達が居る第2アリーナは既に大勢の生徒たちが席を埋め尽くしていた。

実際、一夏と機龍は戦った事がない。と言うか、機龍に限っては

生徒たちの前で戦った事は数える程度しか無い。たまに行われる

一夏達の練習にも顔を出す生徒は居る。が、普段は戦わない機龍が

戦うとあってか、大勢の生徒達が集まった。

 

一夏「機龍、本当にやるのか?お前は——」

機龍「わかってる。確かに僕は戦うのは嫌いだよ。でも、今だけは!」

   『ジャキッ!』

一夏「ッ!」

機龍の右腕に備えられているレールガンの銃口が一夏を睨んだ。

咄嗟にスライド移動で横へ移動する白式。

   『ヒュヒュヒュヒュヒュンッ!』

先ほどまで一夏、白式が居た場所を無数の銃弾が薙ぐ。

  『機龍、本気なのか!?』

スライド移動から体制を立て直した一夏が飛び、その後を追う機龍。

  『やるしか、無いのかっ!!』

  「うぉぉぉぉぉっ!」

振り返った一夏の白式の左手、その機体名にもなっている多機能武装腕、

『雪羅』。その荷電粒子砲のエネルギーが機龍に襲い掛かるが、

機龍は左右によけるでもなく、真っ直ぐ前に飛び、そのビームの

隙間の中を、体を捻って紙一重で回避しながら飛んだ。

  「なっ!」

余りの事に一瞬気を取られる一夏。同時に、粒子砲の攻撃も止まった。

それを見た機龍は更に加速し、一夏の眼前でくるりと体を縦に回転させた。

  「しまっ——」

そして、その動きに合わせて鋼鉄の尻尾が一夏に叩きつけられた。

   『ドガァァァァンッ!』

  「ぐあぁぁぁぁっ!!」

かなりの質量を持つ尻尾を高速で、上段から叩きつけられた白式、

一夏はそれを雪片で防ごうとしたが、防ぎきれずに地面に向かって

弾き飛ばされてしまった。

 

箒「一夏!」

それを、ピットのオペレータールームで見ていた箒が叫ぶ。

鈴やシャルも、彼を心配していた。だがそれと同等に驚くべきことが

あった。IS展開時の機龍の戦闘能力である。

 

粒子砲のビームを紙一重で避ける動体視力と反射神経、

相手の隙を見逃さない観察眼。そして、加速を生かした重い一撃を

叩き込むパワー。一夏とて、決して弱いわけではない。彼も既に

力をつけている。今の彼なら下手な代表候補以上には強くなっていると

言えるだろうが、機龍はそれすらも圧倒するほどの力を持っていたのだ。

 

シャル「まさか、機龍があんなに強いなんて……」

機龍が戦うときとなれば、それは殆どが命がけの戦いの時のみだ。

そして、その殆どには3式機龍としての姿を使っていた。

今にしてみれば、本格的に銀狼を使って機龍が戦うのは、

福音戦以降初めてかもしれない。

鈴「で、でも、機龍ってあんなに速かったっけ?」

と、そんな疑問を口にする鈴。

 

現在の彼女たちの専用機の中で、最も速度面で優れているのが

一夏の白式である。だが、機龍と銀狼はそれに勝るとも劣らない

速度を見せた。彼女たちが驚くのも無理はない。と、そこへ……。

 

千冬「重さだ」

部屋のドアが開いて、そこからスーツ姿の千冬が入ってきた。

箒「織斑先生。……どういう事ですか?重さ、とは」

千冬「忘れたのか?あいつの本当の姿、と言うか、奴の戦闘形態の

   時は、一体どれだけ重くなると思っている」

そういわれ、はっとなる箒たち。

機龍の戦う時の姿。即ち、3式機龍の重さは、一般的なISの

それを遥かに凌ぐ。

  「本来の奴の重さは、ある意味において高機動戦闘が当たり前の

   ISとの戦いではデットウェイト、つまりハンデにも等しい

   物になる。だが、今の機龍と一夏の間に、その重さと言う

   ハンデは存在しない。それだけだ」

シャル「ハンデって」

千冬「奴の持つ重量は、放たれる一撃に上乗せされてその威力を

   引き上げる。だが同時に、それは奴自身の枷となっていた。

   奴は、機龍はその重い一撃、つまりはパワーを捨てる代わりに、

   その枷を解いたんだ」

彼女の言葉を聞いてから、改めて映し出される状況に視線を戻す3人。

部屋のスクリーンに映し出されている状況は、防戦一方に

追い込まれていた一夏の姿だった。

 

一夏が切りかかれば、機龍は両腕のレールガンに組み込まれていたブレード

と両腕のクローで的確に雪片を受け止めた。

上段切り、袈裟切り、刺突、と、連続で攻撃を繰り出す一夏だが、

それを尽く弾き、躱す機龍。そして。

機龍「はっ!」

一夏「ぐあっ!」

一瞬の隙をついた機龍の掌打が白式の胸部を突く。反動で

数メートル後ろに飛ばされる一夏。何とか彼は体制を立て直したが、

その前には小さいながらも大きな、とてつもなく巨大な壁が

立ちふさがっていた。

 

そして、その様子を見てヤキモキしていた者たちがいた。箒たちだ。

ラウラ「お前たちは見ているだけで満足なのか?」

と、その時、再び部屋の扉が開いてそこからラウラを先頭に

簪たち4人が入ってきた。

シャル「ら、ラウラ。それに他のみんなも。どうしてここに」

ラウラ「機龍から伝言を頼まれてな」

やがて、深呼吸をしてからラウラは語り始めた。

   「『3人の一夏への思いを試したい。もし、一夏への思いが

     本物なら、彼と共に僕を超えて見せてほしい。

     2対1でも、3対1でも、4対1でも構わない』だそうだ」

シャル「そ、それって……」

ラウラ「言っていただろう?一夏はパートナーとして、相性や

    呼吸について。ならば最強の敵と戦って試してこい。

    お前たちの相性を」

その言葉に驚きながらも、動こうとしない箒たち。

 

いくら何でも機龍を相手に4対1など卑怯過ぎると思っていた彼女たち。

だが。

   「このままでは、一夏は確実に負けるぞ。お前たちは

    それでも良いのか?それとも、卑怯な事をするくらいなら

    大切な男の無様な姿を晒してもいいのか?」

その一言が、彼女たちの心を燃やす結果となってしまった。

 

 

一方、アリーナの戦闘は。

一夏「はぁぁぁぁぁっ!」

雪片を構えて突進する一夏。だが、斜め上からの斬り下ろしを半身をずらして

回避した機龍は白式の腕を片手で掴んで軽々と投げ飛ばしてしまった。

  「うわっ!」

地面に墜落する白式。それに近づこうとした機龍。だが、

次の瞬間彼の眼前を数発の銃弾が薙ぎ、彼の足を止めた。

銃弾が飛んできた方に視線を向ける機龍。

そこには、アサルトライフル『ガルム』を構えたシャルのリヴァイヴ

カスタムⅡの姿があった。

更に、体を起こす一夏の左右に着地する紅椿と甲龍。

一夏「箒、鈴にシャルロットも。どうして」

機龍「僕が呼んだんだよ」

一夏「え?」

と、疑問に思う一夏や、アリーナに居る生徒達が誤解しないように

スピーカーを通して話す機龍。

 

機龍「一夏、言ってたでしょ?タッグマッチのパートナーは

   相性や呼吸の問題だって。だから、ここで試すよ。お兄ちゃんと

   お姉ちゃん達の相性を」

そう言って一夏達3人の方に突進する機龍。

それを見たシャルロットがガルムの照準を咄嗟に機龍に向けるが、

次の瞬間彼女めがけて機龍のバックユニットからミサイルが発射された。

咄嗟に回避行動に移るシャルロット。そしてその隙に3人に接近する機龍。

 

箒「はぁっ!」

紅椿の持つ双刀、『雨月』と『空裂』の二本が機龍を捉えようとX字の

斬撃が放たれた。それを二本のブレードで受け止める機龍。

鈴「はぁぁぁぁぁっ!」

 

その時銀狼の背後に鈴の甲龍が牙月を構えて突進してきた。だが。

   『ブォンッ!』

   『ガッ!』

繰り出された一撃は、テールユニットによって防がれた。

 「なっ!」

驚く鈴の一瞬の隙を突き、蛇のようにうねったテールユニットの一撃が

甲龍を弾き飛ばした。

 「きゃぁぁぁぁっ!」

一夏「鈴!」

吹き飛ばされた鈴を受け止める一夏。

 

シャル「箒離れて!」

機龍と鍔迫り合いをしていた箒の耳に、その声が聞こえた。その声に

従って機龍と距離を取ろうとする箒。だが、機龍はピッタリと彼女の

背に追いついていた。

   「ダメ!これじゃ撃てない」

タダでさえ速い機龍の傍に箒が居るため、下手に発砲できないシャル。

一夏「うぉぉぉぉぉっ!」

そこへ、機龍を追って突進する一夏。

箒「はぁぁぁぁぁっ!」

それを見て箒も反転し、機龍に迫った。

 

それを見た機龍は前方に向かってロケットを発射した。

ロケットを雨月で切り裂く箒。爆発で出来た煙が一瞬だけ彼女の

視界を奪った。だが、その一瞬だけで十分だった。

 

次の瞬間、その煙の中から現れた銀色の爪が箒の腕をつかんだ。

 「なっ!?うわっ!」

そして、そのまま煙の中に引きずり込まれるようにして投げ飛ばされた。

煙を反対側に投げ飛ばされた箒は一夏と正面衝突した。

一夏「うわっ!!」

箒「くっ!」

   『ヒュヒュヒュンッ!』

そこに機龍のレールガンの銃弾が殺到し、二人に命中して小規模な

爆発を起こした。

 「あぁぁぁぁぁっ!」

一夏「ぐぁぁぁぁっ!」

衝撃で落下する二人。

 

シャル「はぁぁぁぁぁっ!」

鈴「やぁぁぁぁぁっ!」

そこに、今度は左右からシャルは近接ブレード『ブレッド・スライサー』を

構え、鈴は牙月を構えて突進してきた。

二つの刃が機龍に迫った。だが。

   『ガキガキィィンッ!』

それを左右両腕のブレードで防いだ。

 「くっ!?」

シャル「そ、そんな!?」

カスタムⅡのブレードはともかく、大振りな牙月さえも細いブレード一本で

受け止める機龍の技量の高さに驚く二人。

そして次の瞬間、二人の刃を逸らした機龍がその場で高速回転した。

   『ブォンッ!』

   『ドガガッ!』

   「うわぁぁぁぁっ!」

鈴「きゃぁぁぁぁっ!!」

鞭のように繰り出された尻尾の一撃が二人を弾き飛ばした。音を立てて地面に

落ちるカスタムⅡと甲龍。

 「ちょっと。試すとか言っていて、機龍どんだけ強いのよ」

箒「私たちの攻撃の殆どが、通用していない」

シャル「僕、だんだん代表候補としての自信無くなってきたよ」

何とか立ち上がり、上空の機龍を見る箒たち。

 

 

機龍は確かに戦いを好まない性格だ。だが、はっきり言えばその体は

戦闘において最強足りえる能力を有していたのだ。

ゴジラのDNAを持ったその肉体は、並のエースさえも凌ぐ

反射神経を備え、パワーもまた圧倒的だ。

そして何より、コンピューター、機械としての側面もまた、

それに拍車をかけていた。

相手の攻撃モーションを見るだけで相手の動きの先を

予測する、未来予測さえ可能にする処理能力。一度見た攻撃を

覚える記憶能力とそれに対処する行動を瞬時に考える思考能力。

相手のスキルや成長ぶりから、相手の行動、攻撃精度、

武器別の使用頻度を数値として予想し、はじき出し、相手に合った

戦略を考えるといった行動をできるのが、今の機龍だった。

 

機械の持つ正確性と、人、生物の持つ咄嗟の判断力の両方を持つ

機龍こそ、この場においては最強と言えたのだ。

戦いを嫌うがその力は最強と言えるのは、何たる皮肉だろう。

 

だが、そのような事はこの場において関係ない。今はただ、

その最強が一夏達4人の前に立ちふさがっている、と言う事が大切なのだ。

 

そして、その強さに驚く一夏達。同時に、と言うか、当然と言うべきか、

その驚きは一夏達だけではなく、観客である生徒達にも広がっていた。

本音「りゅ、リュウ君強すぎだよ~」

と、クラスメイト達と共に試合を見ていた本音が、間延びした声で

ストレートな事を言っているが、周りの生徒達もそれに同感だった。

 

今の彼は専用機持ちを4人も、しかも代表候補2人を含めて

相手取り、その上で圧倒的な力でまともな攻撃一つ貰ってはない。

専用機4機を相手取って善戦どころか圧倒しているなど、普通の

ISパイロットに出来る事ではない。それどころか、経験豊富な

パイロットですら、それは不可能と言えるかもしれない。

彼女たちの中で、今の彼と互角にやれるのは千冬だけだろう、

と言う思いが生まれ、この試合は結果的に機龍の強さを

周囲に知らしめる結果となったのだった。

 

 

一夏「機龍って、こんなに強かったんだな」

  『俺たちなんか、やっぱり……』

と、実力の差を思い知って諦め、俯く一夏。他の3人も似たり寄ったりだ。

その時。

機龍「一夏、お姉ちゃん達も。本当にこのままで良いの?」

その言葉に視線を上げる一夏達。

  「戦いは、最後の最後まで何が起こるか分からないから戦いなんだよ。

   諦めるなんて、まだまだ早すぎるよ」

その言葉によって4人の脳裏に思い起こされたのは、機龍の関する記憶だった。

 

自分の命を懸けて、怪獣王と戦った人間たちが居た。

その戦いの記憶が蘇る。その記憶が一夏達を結果的に励ます結果となった。

一夏「ハハ、確かに。こんな事で諦めてたら、この先何度も

   諦める事になりそうだもんな」

そう言って立ち上がり、雪片を構えて浮かび上がる一夏。

箒たちもそれに続いて空中に浮かび上がった。

 

その時だった。

箒「一夏、それに鈴、シャルロットも聞いてくれ。私に作戦がある」

鈴「へ~。どんな作戦?」

箒「一か八かの博打になる。成功するかどうかも分からない。

  それでも乗るか?」

シャル「正直言うと、そうでもしないと機龍に一太刀も入れられ

なさそうだし、僕は乗るよ」

一夏「俺もやる」

箒「わかった。では、その作戦についてだが、———」

と、数秒で手短に説明する箒。対して機龍の方もその会話を

邪魔せずに4人と距離を取って待っていた。

 

やがて、鈴とシャルの二人が左右に飛び、2方向からの同時射撃を

始めた。衝撃砲の見えない砲弾やシャルのガルムやショットガン、

『レイン・オブ・サタデイ』の散弾が機龍に襲い掛かるが、それすらも

的確に体を捻って、或いは空間に壁があるかのように跳躍して

回避する機龍。と、そこへ。

箒「勝負だ!機龍!」

雨月と空裂を構えた箒が全身の展開装甲からエネルギーを吹き出しつつ、

弾丸のように突進してきた。

 

セシリア「あ、あれは特攻では!?」

それをモニター越しに見ていたセシリアが叫ぶ。が。

千冬「いや、あれは……」

 

箒「はぁぁぁぁぁぁっ!!」

膨大なエネルギーをまとって、弾丸のように突進する箒。

しかも周囲では機龍の動きを阻害するかのように、鈴とシャルの

攻撃が行われている。と言うより、銃弾の檻を形成して機龍の

行動範囲を限定させていた。

そして、箒は真正面から機龍に突進する形となった。

機龍の眼前に迫った箒の紅椿。

ハサミのように、箒は胸の前で交差させた双刀を外側に向けて振りぬいた。

だが、それを体を後ろに倒して回避した機龍の真上を、箒が通過していく。

本音「あわわわっ!あれじゃ意味ないよ~~!」

観客席にいた本音が、周りの生徒の意見を代弁するかのように

喋っていた。だが。

 

箒「今だ!一夏!」

一夏「うぉっしゃぁぁぁぁぁっ!」

その時、機龍は地面に対して平行に倒れている自分の背後。つまりは

背中を向けている地面の方から声が聞こえていたので、咄嗟に体を

回転させた。

 

今、機龍の眼前には零落白夜を展開した雪片弐型の刀身が迫っていた。

機龍「ぐっ!?」

それを咄嗟に両腕をクロスさせて防ぐ機龍。

一夏「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

 

白式の全力が、ボクサーのアッパーのように真下から機龍を捉えていた。

真下から打ち上げられる機龍。そして。

   『ドガァァァンッ!』

機龍「う、あ」

彼の両腕の防御は破られ、機龍の体に一太刀を浴びせて吹き飛ばした。

そして、機龍はゆっくりと地面に向かって落ち始めた。

ラウラ「ッ!機龍!」

その様子を見ていたラウラや簪たちが叫ぶ。だが。

 

   『ギュッ』

   『トサッ』

落下する彼の手をつかみ、お姫様抱っこで抱きしめた者がいた。

一夏だった。

やがて、薄っすらと目を開く機龍。

機龍「……僕の負け、だね」

そう言って彼は自身の負けを宣言するのだった。

一夏「そんなことねえって。俺とお前が一対一で戦ってたら

   間違いなくお前が勝ってたよ」

機龍「でも、戦いは一人でするものじゃない。でしょ?」

一夏「あぁ、そうだな」

そう言いつつ、一夏は機龍をお姫様抱っこしたまま箒たちと一緒に

ピットへと戻って行った。

 

※ちなみに、一夏にお姫様抱っこされる機龍を見たとき、大勢の女子が

倒れたことをここに追記しておく。

 

 

そして、ピットに戻る5人。

機龍「それで一夏。一つ質問なんだけど、どうして試合の時

   箒お姉ちゃん達が飛び出してきたと思う?」

一夏「え?」

そういわれれば、と言いたげに視線を箒たちに向ける一夏。

  「あ、でも機龍言ってたな。俺たちの相性を試すとか何とか」

と、ここに来てそんなことを思い出す一夏。

  「ただまぁ、3人ともそれぞれ特徴とかあったし、何て言うか、

   3人とも頼もしいって言うか」

そんなことを言い出した一夏を見て、ため息をつく機龍。

機龍『あ~もう。仕方ない。ここは最終プランに移ろう』

と思って、ラウラ達に目配りをする機龍。その視線に気づいて

頷く4人。

 

  「一夏お兄ちゃん。本当にそれだけの理由でお姉ちゃん達が

   出てきたと思ってるの?」

一夏「え?なんだよ急に」

機龍「お兄ちゃん、それだけじゃないんだよ。お姉ちゃん達が

   戦おうとした理由は」

一夏「え?どういう事だ?」

と、疑問符を漏らした一夏に対して、機龍はため息をついたのだった。

機龍「一夏、これまでお姉ちゃん達としてきた事を思い出してみてよ。

   聞いた話だと、臨海学校の時、箒お姉ちゃんとキスしそうになって

   鈴お姉ちゃん達に追っかけられた事があるって聞いたけど?」

一夏「あ、あぁ、まぁ、そ、そんなこともあったな」

と、顔を赤くしてそっぽを向く一夏。

機龍「それに、鈴お姉ちゃんからは毎日酢豚を食べてくれる、って

   約束もしたって聞いたし、シャルロットお姉ちゃんとは一緒に

   お風呂も入ったって聞いたけど、まさかまだ気づかないの?」

一夏「き、気づくってなんだよ」

と言ってどうやらまだ気づいていない一夏。

 

しかし、箒たちは機龍が何を言おうとしているか察して止めようとするが。

ラウラ「少しだけ黙っていろ。そうすれば、機龍があの朴念仁を何とか

    するから」

と言ってラウラ達に制止、と言うか止められていた。

 

機龍「一夏、この際だからお姉ちゃん達のためにはっきり言うよ?

   箒お姉ちゃんが好きでもない人とキスしたいと思う?

   鈴お姉ちゃんの言ってた毎日お姉ちゃんの料理を食べるって、 

   毎日一緒食事をするって事じゃないの?

   シャルロットお姉ちゃんが好きでもない人とお風呂に

   入りたがると思う?

   一夏、これでも分からないなら、僕は一夏に怒らなきゃいけない。

   もう気づいてあげてよ。お姉ちゃん達の想いに」

そう言われて、脳みそをフル回転させる一夏。

そして、いくら朴念仁の彼でもそこまで言われれば、と言う事で

一つの結論にたどり着いた。

同時に、彼は顔を赤くしながら箒たちの方に視線を移した。

 

それを見たラウラ達が箒たちを止めていた腕を離し、彼女たちから

離れて機龍の傍に移動した。

  「僕のしたことが余計なお節介なのは十分わかってる。でも、一夏

   に気付いてほしかったんだ。お姉ちゃん達の気持ちに。

   その恋心に」

一夏「機龍」

機龍「僕はそろそろ行くよ。あとは、一夏達自身で決めて」

そう言って機龍はピットを後にし、簪たちもそれに続いたのだった。

 

 

そんな中で一人浮かない顔をしていた者がいた。簪だ。

簪『気持ちに、気付く』

心の中で呟いた彼女の頭をよぎるのは姉、楯無の顔だった。

 

彼女は姉との絆を修復する事はできるのだろうか?

 

だが、それが試される日は刻一刻と近づいていた事に、まだ

誰も気づかないのだった。

 

     第18話 END

 




と、言うわけでこの回で一夏は箒たちの恋心に気付きました。
次回もおそらく、オリジナル的展開になると思います。

それと、まだ構想の段階なのですが、この作品の派生形
として、機龍をこの作品の中から他作品、つまりは別の
ストーリーとクロスオーバーさせて、徹底的に死亡フラグを
へし折ろうかと考えています。
現在の考えでは、ヒロインが死ぬことで有名な
『マブラヴ』とその派生作品、『トータル・イクリプス』を
ベースに、機龍が死亡フラグをバキバキとへし折る事を
考えています。
また、読者様の中で『このキャラの死亡フラグを
へし折ってほしい』と言う方がいたら、コメントください。
ただ、あくまでも構想の段階ですので、確実にやるか
どうかは不明ですので、ご了承ください。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。