インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍    作:ユウキ003

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今回の話や次回は殆どオリジナルの話になると思います。



インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 第18話

――前回までのあらすじ――

埠頭でのIS装備の護送任務をする事になった一夏、機龍、シャル、モーラ

の4人。その際、敵の攻撃で爆発した装備の影響で猫耳と猫の尻尾が

生えてしまった機龍。

それもあり、女生徒たちの機龍の興味が再燃焼。また、予てより服飾部や

写真部などが合同で作っていた機龍の抱き枕カバーの存在を知る

一夏や機龍達。

騒がしいながらも、少しばかり浮世離れした日常を謳歌していた

生徒達だった。

 

 

そんなある日。

学園で一夏達が日常を過ごしていた頃。某国の某所にある巨大なビルの

暗く、ベッドしかない部屋の中で、そのベッドに腰かけ持っているペンダント

の中身を見ている者が居た。M、マドカだった。

だが、彼女は不敵な笑みを浮かべると、≪ベギャッ≫と言う音と共に

ペンダントを握りつぶして部屋の片隅に投げ捨ててしまった。

 

と、その時、部屋のドアが開いて、長い金髪にグラマスなボディ。

露出度の高い服にヒールを履いた女性が入って来た。

???「あらあら?そのペンダント、もう捨てるのかしら?

    あなたの大切なターゲットの顔写真入りじゃなかったの?」

そう言ってベッドに近づく女性。彼女こそ、マドカ、オータムの実質的な

上官であり、2人の所属するファントムタスク実行部隊、

『モノクローム・アバター』の隊長格である『スコール・ミューゼル』だった。

そんなスコールを一瞥してから、無言で視線を戻すマドカ。

スコール「あなたがどこの誰であれ、私にとってはどうでも良い事。

     でもね、M。余り勝手な行動をするようなら……」

 

次の瞬間、スコールの体が光り、彼女のISを展開。

左腕のアタッチメントから伸びるサイドアームのような腕でマドカを

天井付近に押さえつけた。だが、マドカの方もゼフィルスのビットを

展開。既にスコールを取り囲んでいた。

それを見て、自身のIS、『ゴールデン・ドーン』を収納するスコール。

スコール「自分の立場をわきまえなさい。でないと、死ぬことになるわよ」

マドカ「………わかっている」

スコール「ならいいわ。……それにしても、まさかあなたがこれほど

あっさりと執着を捨てるタイプだったとはね」

マドカ「捨てる?笑わせるな。私の目的は世界最強を倒し、真の

    最強となって人類を滅ぼす事だ。織斑千冬はそのターニング

ポイントに過ぎなかった。だが、奴も所詮は人だった。

真に強いのは人間ではない。獣だ」

スコール「あなたが見たという篠ノ之機龍の別人格の事かしら?」

マドカ「そうだ。……ゴジラ。奴を超えることができれば、世界を

    終わらせることなど簡単だ」

そう言って、狂気じみた笑みを浮かべるマドカ。

 

スコール「ゴジラ、ねぇ?たった一匹の獣に、世界が滅ぼせるかしら?」

マドカ「ふ、貴様は奴と向き合った事がないからそんな事が言えるんだ。

    奴が本気を出せば、私も貴様も、あの織斑千冬でさえ、有象無象の

    一匹に過ぎない。だからこそ、奴を超えた時、私は真の力を手に入れる」

スコール「あらそう。まぁ、良いわ。あなた自身に科せられた任務を

     果たしてさえくれればね」

そう言って、スコールはマドカの部屋を後にした。

 

スコール『ゴジラ、ねぇ』

廊下に出て、歩きながらもその事を考えているスコール。

    『≪あの子≫から送られてきたデータにおいては、篠ノ之

     機龍は天才の部類に入るただの子供だった。でも、その力は

     未知数。何より≪あの事件≫の時の福音の反応。福音は

     ターゲットと接触後、暴走した。何故?あの子のDNAデータを 

     回収しただけなのに』

そう思いながら建物の窓から見える夜景に目を移すスコール。

    「どうせなら、一度会ってみようかしら?」

彼女は、そう言って暗い夜の街を眺めるのだった。

 

数日後の午後、昼過ぎ。

スコールは学園のある人工島の対岸にある町の、海を一望できる

カフェテラスから学園と、そこを繋ぐ駅の入り口を見つめていた。

    『あの子の報告の通りなら、篠ノ之機龍は最近、休日に町へ

     来ている。理由はどうあれ、接触するチャンスね。…あら?

     噂をすれば……』

その時、彼女の掛けるサングラスに機龍の姿が映った。

 

 

最近、機龍が頻繁に町に来るのには理由があった。それは、丁度機龍の

獣っ子化騒動が終わった時の事だった。

その日は偶々、9人が集まって屋上で食事をしていた。それぞれがそれぞれの

お弁当などを持ち寄っていたのだが、その時機龍は、みんなが美味しそうに

自分の手料理を食べてくれる事に喜びを覚えた。それからという物、

時間があるときは自分の料理の腕を磨いていた。

元々勉強は殆どできる機龍なので、そう言った更なる趣味を持つことに

割り当てられる時間も多い。また、ゲーム等も知らない、と言うか興味を

持っていない彼にしてみれば、こういった事もまた、彼のストレスを発散させる

効果を持っていた。

そして、今日は料理で使う食材の買い出しに来ていたのだった。

 

機龍「えっと。買う物はどうしよ?……この前は中華料理に

   チャレンジしたし、今度は……。う~ん」

何の料理にチャレンジしようかと悩んでいた機龍。

その時、前から紅いスーツを着た女性が歩いてくるのが見えたので、

横に避ける機龍。

???「きゃっ!」

しかし、次の瞬間、その女性が機龍の方に倒れて来た。

機龍「危ない!」

咄嗟にその女性を受け止める機龍。

  「だ、大丈夫ですか?」

???「え、えぇ。ごめんなさい。あなたこそ大丈夫だった?」

機龍「は、はい、大丈夫です」

相手を気遣いながらも、その女性の美貌に見とれる機龍。

  『わ~。綺麗な人だな~。って、あ』

  「靴が、ヒールが折れちゃってます」

女性のハイヒールの片方が折れてしまっていた。

???「あらホント。どうしようかしら?」

そう言って、悩んでいる素振りをしているのは、スコールだった。

 

彼女が偶然を装って機龍に近づいたのだ。ヒールが折れた事自体も、

彼女自身がこけた振りをした際にちょっと足に力を入れて折っただけだ。

しかし、機龍はそれを演技とは知らずに信じているのだった。

 

機龍「あ、えっと。あの、この近くに公園がありますから、

   とりあえずそこに」

スコール「ごめんなさいね。私この辺の事知らなくて、案内を

     お願いできるかしら?」

機龍「はい。任せてください」

その後、機龍はスコールに肩を貸す形で近くの公園のベンチへと

彼女を連れて行った。

 

  「う~ん」

スコール「どうかしら?」

機龍「ヒールは完全に折れちゃってますね。もう取れかかってますし、

   このままこれを履くにはやめた方が良いと思います」

スコール「そう。困ったわね。私この町は初めてなの。どこかに靴屋か

     何かないかしら」

機龍「それなら、よければ僕が近くにある靴屋さんを知ってますから、

   そこで新しい物を買って来ましょうか?」

スコール「え?良いのかしら?」

機龍「はい。大丈夫です」

スコール「そう、なら、お願いしようかしら」

機龍「はい。少しだけ待っていてください。すぐに戻りますから」

そう言って機龍は駆け出して行った。

 

数分後。近くの靴屋で同じサイズのハイヒールを買ってきた機龍は

それを彼女に手渡した。それを履き、感触を確かめるスコール。

スコール「ありがとう。おかげで助かったわ」

機龍「いえ、お役に立てたのなら僕はそれで。…あ、

   じゃあ僕はこの辺で失礼しますね」

そう言って立ち上がって歩き出そうとする機龍だったが…。

スコール「あ、待って」

機龍「はい?」

スコール「靴の代金を払ってないわ。いくらだったのかしら?」

機龍「お、お金なんて必要ありませんよ」

そう言ってパタパタと手を振る機龍。

  「僕はただ、あなたの助けになりたかっただけですから」

スコール「そう?でも、私としてはあなたにちゃんとしたお礼が

     したいの。どうしようかしら?

     ……そうだわ。ねぇ、この近くに喫茶店はあるかしら?」

機龍「は、はい。ありますけど……」

スコール「なら、私がそこで少しだけ奢ってあげるわ。それで

     どうかしら?あなた、予定は大丈夫?」

機龍「はい。少し買い物に来ただけですから。

   あ、でも、やっぱりお礼とかは……」

スコール「良いのよ。私があなたにお礼したいだけだから。

     それとも、私とのお茶は嫌?」

そう言って機龍の顔を近づけるスコール。

 

今の彼女は前かがみの状態で機龍の顔を覗き込んでいる。

そうする事で、スーツの合間から見える彼女の豊満なバストが強調

されている。が、今の機龍は彼女の紅く輝く瞳と、流れる金の髪、

そして、彼女から溢れる女性特有の芳香を見て、感じ、赤面していた。

機龍「いえ。…そ、それじゃあ、その、ご馳走に、なります」

スコール「えぇ♪」

 

 

その後、機龍に案内されて近くのカフェに入り、そこでコーヒーと

オレンジジュースを頼む2人。

優雅に片手でカップを持つスコールと、両手でコップをもって

コクコクと飲む機龍。

    「どう?美味しい?」

機龍「は、はい」

彼女を前にして、少しばかり緊張している機龍。

女優も顔負けの大人の美貌を醸し出すスコールと、幼いながらも愛くるしさを

醸し出す機龍。そして、2人の対比的な髪の色、金髪のスコールと

銀髪の機龍は周囲の人々の視線を集めた。

傍から見れば親子か姉弟のように見える2人。

もっとも、2人について一般人が想像を絶するような能力や過去を持っている事を

知る由もなかったが……。

 

その後もコーヒーを飲んでいるスコールに見られながら彼女が機龍のためにと

頼んだ苺のケーキを食べていた機龍。そんな時だった。

スコール「そう言えば、あなたの名前を聞いていなかったわね。できれば

     教えてもらえるかしら?」

機龍「あ、はい。僕は篠ノ之機龍って言います。えっと……」

スコール「ふふ、そう、機龍君って言うのね。私はスーザン・ケイシーよ。

     よろしくね。…それでなんだけど、あなたにお願いがあるの」

機龍「僕にですか?」

スコール「えぇ。実は私、会社の都合で近いうちにこの町に引っ越してくるの。

     今日も町中を見ておきたくて来たのだけど、あなたが良ければ

     町の方を案内してもらえないかしら?」

機龍「そうだったんですか。わかりました。僕でよければご案内します」

スコール「ありがとう、助かるわ」

そう言って機龍に微笑むスコール。それに対し、機龍は彼女の

微笑に顔を赤くするのだった。

 

その後、機龍はスコールを連れて町の中を案内していた。

機龍『スーザンさんって、綺麗な人だな~。お仕事って何なんだろう?

   モデル、とかなのかな?………でも、もしかして』

と、思いながら一瞬だけ視線を後ろに向ける機龍。

そんな矢先……。

スコール「少しごめんなさいね。お手洗いに行ってくるわ」

機龍「わかりました。僕はここで待ってます」

と言って、建物の中に入って行くスコールと、外で待っている機龍。

 

そして、スコールはと言うと……。

スコール「オータム、あなたずっとつけていたのね?」

お手洗いの洗面台の前で、オータムと会話していた。

オータム「それよりどういうつもりだよ!あのガキに接触するなんて!」

そう言っている彼女の表情は憎悪に歪んでいた。

オータムは以前、白式と銀狼の奪取のために一夏と機龍を襲撃したものの、

覚醒した機龍の中のゴジラによって徹底的にボコられ、

数週間は動けない体にされてしまったのだ。その事もあり、オータムは

機龍を憎悪していたのだ。

スコール「少し、あの子の事をこの目で見て見たかっただけよ」

オータム「あんなガキが何だってんだ!私が本気を出せれば――」

スコール「気づいていないの?あなたの尾行、彼にバレてるわよ?」

オータム「ッ!?そんな馬鹿な!」

スコール「彼、私と歩いている時に何度かあなたの方を見ていたもの。

     人は見かけによらないって言うけど、彼はそうかもしれないわね。

     可愛い素顔の下は血まみれの獣かもしれない。それに、マドカや

     あの子の報告によれば、彼は二重人格と言う事になるわ。

     ……でも、一体彼の表と裏のどちらが強いのかまでは、

まだ分からないわ」

そう言いながら、鏡を前に唇にルージュ色の口紅を引くスコール。

    「もう少し、彼の事を観察させてもらいましょう」

そう言いながら鏡と向かい合う彼女の瞳は、妖しい光を灯していた。

 

 

それからも機龍によって町中を案内されるスコールと、それをひそかに尾行する

オータム。

しかし、機龍は既にある程度の事を悟っていた。

機龍『さっきから付いて来てるオータムさんと同じように、スコールさん

   からも火薬の匂いがする。……やっぱり』

そう思いながら二人が偶々人気のない路地裏に入ったその時。

 

???「見つけたぞ。スコール・ミューゼル」

そんな声が聞こえて来た次の瞬間、2人の前後を黒服にサングラスを

掛けた男達が囲った。

   「貴様にはテログループ、ファントムタスクのメンバーであり、

各国でのテロ事件の首謀者とする嫌疑がかけられている。

    大人しく同行してもらう」

そう言って、いきなり拳銃を取り出し、構える。

スコール「あらあら、最近のCIAは随分と物騒なのね」

機龍『CIA?それって確か、アメリカの……。じゃあ、

やっぱりスーザンさん、ううん、スコールさんは』

と、その時。

   『ボギャッ!』

   「ぐっ!あぁぁぁぁぁぁっ!!」

後ろの方で何かが折れる鈍い音と共に男の悲鳴が響いた。

機龍が振り返り見たのは、エージェント一人の腕をへし折った

オータムだった。

オータム「へっ!CIAだか何だか知らないが、私達をこの程度の

     人数と装備で捕まえようなんざ、ちゃんちゃらおかしいぜ!」

そう言いながらエージェントの持っていた拳銃を放り、己がIS、

アラクネを展開しようとした。……だが、一瞬だけ待機状態の

アラクネが光ったかと思ったが、その光がすぐに消えてしまった。

    「なっ!?バカな!?」

何度もアラクネを起動しようとするが、反応しない。

それを見て、隊長格らしきエージェントが笑った。

隊長格「ふふふ、どうやら例の試作兵器は効果てきめんのようだな」

機龍「試作、兵器?」

隊長格「あぁそうだ。起動する前のISに特殊な電波を当て、

    搭乗者からの起動コマンドを無力化するという仕組みらしい。

    ラッキーだったよ。貴様らがこの場所に立ってくれて。

    その電波の有効半径は100メートルも無いからな。

    だが、上空を滞空する衛星から照射された妨害電波の

    範囲内であれば、どのようなISでも起動できない。

    もっとも、搭乗後は何の意味もないらしいが……。

だが今はISを起動できない貴様らの方が多勢に無勢だ。

大人しくしてもらう」

そう言いながら、ジリジリと包囲の輪を縮めるエージェントたち。

 

その時、今度は機龍の体の一部、背中と両腿の辺りが光ったかと

思うと、制服の上に配置されるようにスラスターが展開された。

   「ッ!バカな!?」

次の瞬間、そのスラスターから大量の白煙が噴出され、周囲に居た

人間の視界を奪った。

 

次の瞬間、その白煙の中から3式機龍改となった機龍が両脇に

スコールとオータムを抱え、飛び出してエージェントたちの脇を

すり抜けて行き、空へと飛翔していった。

 

数分後。

夕暮れになり始めた町はずれの人気のない森林公園にある展望デッキに

着地し、二人をゆっくりと下す3式機龍。

そして、機龍が数歩下がるとその体が光りに包まれ、人間態へと戻った。

オータム「テメェ、何のつもりだ!」

そう言って懐から拳銃を取り出して構えるオータム。しかし……。

今の機龍は待機状態のアラクネを見つめてすぐにオータムの

顔に視線を移した。

機龍「既にあの試作兵器の影響はなくなっています。今なら普通にあなたの

   アラクネを起動できるはずです」

それを聞き、オータムは怪訝な表情をしてからアラクネを起動し、

無事に装着する事に成功した。

そして、今度はアラクネが装備するアサルトライフルを機龍に

向けて構えた。

オータム「何でテメェがISを展開できたが知らねえが、

     お情けで助けたつもりか!」

次の瞬間、アサルトライフルが火を噴く。

銃弾は機龍の足元に命中し、発射の跳ね上がりで弾道は上がっていく。

大抵の銃弾は機龍の横をすり抜けた。が、ある一発だけが機龍の

頬を掠った。機龍の頬に横一文字の傷ができ、そこから血が流れ出す。

しかし、それでも動じず、じっとしている機龍。

更に連続で放たれた銃弾が機龍の腕や足を掠る。破ける制服の

袖と、切れた皮膚から垂れる赤い血。

    「どうした!ビビッて動けねえのか、あぁ!」

挑発や罵倒とも取れるオータムからの言葉を聞きながらも、

機龍は動こうとはしない。

機龍「……。あなたには、僕を撃つ理由が。僕はあなたに撃たれるだけの

   理由がある。それだけです」

オータム「くっ!ふざけやがってぇ!」

ライフルを捨てて突進したアラクネの第二の拳が機龍に突き刺さる。

機龍「っぐ!」

腹を抑えながら膝をつく機龍。だが、彼はお腹を抑えながらもすぐに

立ち上がった。

オータム「っの野郎!」

だが、そこを再びオータムのアラクネの拳が襲い、吹っ飛ばされる機龍。

彼は背後にあった木の柵に背中からぶち当たった。

 

しかし、それでも再び立ち上がる機龍。既に彼の四肢から流れていた

血の川は途絶え、傷口も回復しつつあった。

    「化け物がっ!」

突進してきたアラクネのラッシュが機龍の腹や胸、顔に繰り出される。

そして、一発のフックが機龍の顔面を捉えた。

再び倒れる機龍。そして同じように立ち上がり、微動だにしない。

まるで、相手からの攻撃を待っているかのように。

    「なんなんだ!何なんだよお前はっ!」

殴っても殴っても立ち上がり、殴り返そうともせず、相手の拳を

唯々受け止める機龍。泣きもせず、喚きもせず、痛みをさも同然の

ように受け入れている彼の姿に、一夏達以上に実戦を経験している

はずのオータムでさえ、狼狽していた。

    『こんな奴、今まで見たことねぇ!何で私を憎まない!?

     殴ってるのはこっちだぞ!?何で、何でだ!』

戦場において唯一無二の感情。それは、敵に対する『憎しみ』のみ。

 

相手を倒さなければ、自分や仲間が死ぬか殺される。それ以上の事だって

あるかもしれない。だからこそ、戦場において敵とは憎まれる者。

敵となった人物への下手な同情は仲間を殺す。

だからこそ、敵に心を許すなど自殺行為以外の何物でもない。

そして、人とは他者からの憎しみに対して、無反応で居られるはずがない。

相手からの憎悪に反応するかのように、自分も相手を憎む。

或いはその憎しみによって悲しみと言った負の感情を呼び起こされるかもしれない。

 

だが、機龍は一方的な蹂躙の前にあっても、オータムに憎しみの目を

向けることはない。ただ、決意と言う名の炎を瞳の中で燃やしていた。

彼の持つ魂は、大きく、気高く、どこまでも美しい。

 

己が咎を背負うと決めた――決意――

自分のすべてを掛けて、愛する人々を守ると誓った――覚悟――

決意と覚悟はやがて、『王の貫禄』へと昇華していった。

 

今、オータムは機龍の放つ圧倒的なオーラに気圧されていた。

今まで彼女が見てきた相手とは別格過ぎるその王の波動を前に、

冷たい汗を流すオータム。

いくら殴り倒そうが、彼はすぐに起き上がり、真っすぐにオータムを

見つめる。

    「はぁぁぁぁぁっ!」

すると、今度はアラクネの近接武装、カタールを取り出し機龍に

迫った。そして、その刃は寸分違わず機龍の腹部に突き刺さった。

機龍「っぐ!!」

カタールの突き刺さった部分から、ボタボタと大量の血が溢れ出す。

だが、それでも機龍は歯を食いしばり、倒れない。片手を後ろの柵に置き、

何とか体を支えながら立っている。そして、それでもなお、王の貫禄は

消えない。むしろ、傷つく度にそのオーラは純度を増していった。

 

避けられたはずだ。機龍と、ゴジラと戦った経験のあるオータムの頭に、

そんな単語が過った。

だが、機龍はカタールの刃を受け止めた。

オータム「どうして避けないっ!?お前なら避けられただろ!」

機龍「僕は……。もう、二度と、自分の、罪から、目を、逸らさない。

   うっ、げほっ、ごほっ!」

   『ビシャッ!』

吐血し、その口元を血で汚しながらも、いくら膝が震えようと

決して倒れない。

  「僕は、僕自身の、罪を償う。そして、僕は……」

機龍の空いている左手がオータムのフルフェイスヘルメットに触れた。

  「あなた達とも、分かり合えると、信じているから……」

オータム「ッ!」

次の瞬間、カタールを離して数歩下がるオータム

    「ガキがっ!粋がるな!私とお前が分かり合うだと!?

     笑わせるなっ!私たちは殺すか殺されるかの敵なんだよ!」

そんな彼女の言葉を聞きながら、ゆっくりと左手でカタールを

引き抜く機龍。

機龍「それ、でも!」

   『ブシュッ!』

   『カランカラン』

鮮血と共に抜けた血まみれのカタールが地面に落ちる。そして、

なお決意のこもった瞳でオータムと、彼女の後ろで事態を静観していた

スコールを見つめる機龍。

  「例え、殺しあう相手だとしても!僕たちには、言葉がある!

   意思がある!だからこそ、どんな相手でも、分かり合う事は、

   きっとできる!僕は、それを――。うぐっ!げほっ!げほっ!」

再びせき込み、吐血し、震えながらも立っている機龍。すでに

彼の足元には血によってできた赤い池ができていた。

  「それを、信じているから!」

いくら傷つこうと、彼の意志は変わらない。

  「例え、痛みと苦しみの先にしか、分かり合う事の出来る未来

   が、それが、ただ一つの道なら、僕は、痛みも、苦しみも、

超えて見せる!」

少年は今、確かに覇気を纏っていた。『王者』の覇気と、

人間の『希望』としての覇気。すべてを滅ぼしかねない『力』と

全てを救いたいと願う『意思』が一つとなって、彼の思いは

無限大に昇華していく。

 

彼の持つ『王』としての覇気に完全に気圧されているオータム。

オータム『何なんだよ!?こいつは!?ビビってるのか!?

     私が!?ありえない!そんな事、あり得るはずがねぇ!』

自分自身の体に感じる物を振り払うようにアサルトライフルを

構えるオータム。

だがその時、スコールが彼女の前に出てオータムを制した。

スコール「正直、驚いたわ。あなたがここまでの相手だったとはね。

     私はあなたの事を見くびりすぎていたわ。でも、本当に

     できると思うの?私たちは敵よ?」

機龍「例え、敵だったとしても、それは、意思を、お互いの想いを、

   伝えられない訳じゃない。だからこそ、僕は、ぐっ!」

と、ここに来て限界が来たのか前のめりに倒れそうになる機龍。

だが。

   『ギュッ』

倒れそうになる機龍をスコールが受け止め、ゆっくりと近くのベンチに

座らせた。

  「スコール、さん」

スコール「あなたの事は認めてあげるわ。…生きていれば、またどこかで

     会いましょう?機龍君」

そういうと、スコールは自身のIS、ゴールデン・ドーンを

起動してオータムと共に飛び去って行った。

それを見送ってから深呼吸をする機龍。

 

これが一般人なら致命傷で死ぬだろうが、機龍ならすぐに回復

させることができた。そして、一番の重傷であるお腹の裂傷が

ある程度癒えた時だった。

機龍「束、見てるんでしょ?」

不意に呟いた機龍。すると、森の中から小さなドローンのような

物が無音飛行しながら出てきた。そして、そのドローンから機龍の

前に映像が映し出された。

束『リュウ君大丈夫!?お腹痛くない!?平気!?平気なの!?』

もはやバレているからか、機龍の傷を見てテンパっている束。

機龍「大丈夫だよ、これくらい。もう殆ど塞がったから。

   ……でも、ありがとう束。黙っててくれて」

束『………』

機龍はもともと、束が自分の事を陰ながらに見守っている事を

知っていた。そして、今日もその視線を感じていた。そんな時に

あんなことがあったのだ。束ならゴーレムを数十機は投入して

機龍を助けようとしただろう。だが、束は機龍の意志を酌んで

そのような事はしなかった。そして、それにも気づいていた機龍。

 『でも、大丈夫なの?傷とか体の事とか』

機龍「大丈夫。……もう決めたんだ。僕は、この世界を。ううん。

   この世界と、そこに生きる人たちの明日を守るんだって、

   決めたんだ。そのための痛みなら、僕は乗り越えて見せるよ」

束『……。すごいね、リュウ君は』

機龍「ううん。これは、皆が居てくれたからだよ。みんなと一緒に

   なれたから、僕はこの世界を守りたいって思うようになったんだ」

束『リュウ君』

機龍「そ、それでなんだけど、束」

と、途端に顔を赤くする機龍。

  「着替え、届けてもらっていいかな?制服とかがその、

   ボロボロになっちゃって」

束「……ぷっ!ふふ、あはははははっ!は~、やっぱり

  リュウ君は面白いな~!」

と言って赤面する機龍と、目を丸くしてから吹き出し笑い出す束。

機龍「ちょっ、からかわないでよ束!僕このままじゃ帰れないよ~!」

束「はいはい。ちょっと待っててリュウ君。今お姉さん宅急便が

  超特急で届けに行くからね!」

夕暮れの公園の中で、そんなやり取りをしていた機龍と束。

 

 

少年の意志は、周囲へと伝播していく。それを感染と称するか、

繋がりと称するかは人次第だ。だが、その意志は確実に広がっていく。

そして、その意志は大いなる力となっていくのだが、

その力が試されるのは、まだ先のお話。

     第18話 END

 




え~っと、大体予想できると思いますが
これでスコールとオータムのフラグが立ちました。
どうなるかは今後をご期待ください。

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