インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍    作:ユウキ003

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今回は学園祭のお話とファントムタスク襲撃のお話です。
作中ではちょっと楯無の扱いが変わっていると
感じる人も居るかもしれません。


インフィニット・ストラトス 鋼鉄の銀龍 第14話

――前回までのあらすじ――

夏休みも終わりを迎え、二学期に突入したIS学園。

そんな中、一夏と機龍達の1組に転入生、≪モーラ・S・フラワー≫が

転入してきた。

だが、このモーラとは機龍と同じ怪獣から人へと転生した人物だったのだ。

そして、彼女は数か月前の福音事件で一夏達の前に姿を現しており、

その事を問い質そうとした一夏達。

モーラの力によって機龍の記憶の世界に飛ばされた一夏達が観たのは、

ゴジラ誕生と消滅。機械の兵器となった初代ゴジラ、機龍の事。

そして、機龍の別れと最後だった。

だが、それでもなお一夏達は機龍を受け入れ、その絆を

より深く結ぶのだった。

 

 

屋上での一件の後、一夏達は昼食を取るために食堂へと向かった。

そして、9人で集まって食事をしていたのだが……。

 

モーラ「はい♪機龍、あ~ん♪」

そう言って、自分の料理のオムライスをスプーンに乗せて隣に

座る機龍に恋人イベントお約束の≪あ~ん≫をしているモーラ。

機龍「うん。あ~ん」

それに対して、ご機嫌な状態なためか、普通に答える機龍。

 

数分前、自分を一夏達が受け入れてくれた事から、機龍は改めて

この世界を生きて、一夏達と楽しい時間を過ごすことを心に決めたのだ。

 

もっとも、周囲の女子たちは羨ましいのと嫉妬の視線をモーラに

送っていたが、全く気付かない機龍。

 

それを見ていた一夏達も、笑みを浮かべていた。が、そこに来て

ある事を思い出したラウラ、セシリア、簪。

 

簪「そ、そうだ!さっき聞き忘れたんだけど、許嫁ってどういう事ですか!?」

ラウラ「そうだった!すっかり聞きそびれていた!」

モーラ「あ、そう言えば説明していませんでしたね」

そう言ってから咳払いをするモーラ。すると…

   ≪皆さん、聞こえますか?≫

一夏≪これって、テレパシーか?≫

モーラ≪はい。流石にここだと周りの方の目もあるので、

    ある程度嘘を交えます。適当に合わせてください≫

鈴≪OK≫

モーラ「では。……そもそも私と機龍についてですが、私たちは

    血のつながった遠い親戚なのです」

   ≪あ、これ嘘ですからね?≫

シャル≪わかってるってば≫

モーラ「遡る事数世代。私の曾御婆様のお兄様がインファント島を離れ、

    インドネシアに出稼ぎへ行かれたのですが、そこで欧米人の方と

    恋に落ち、無事に結婚されました。そして生まれた男の子が育ち、

    インドネシア人女性と結婚され、さらに生まれた女の子が日本人

    男性と結婚され、生まれた女の子が機龍のお母様となった女性です」

一夏「え~っとつまり、機龍には欧米の人とインドネシアの人と

   日本人の血が流れてるって事?」

モーラ「はい。機龍の銀色の髪と黄色い瞳も、欧米人だった曾御婆様の

遺伝子だと思われます。…しかし、私の知りえた限りでは、

機龍は両親と海へクルーズに出かけたのを最後に、消息不明と

なりました」

シャル「それって、ひょっとしてクルーズ船が事故に会ったとか、

    そういう事?」

モーラ「はい。……機龍の遺体は見つからず、遠いとはいえ家族も同然。

    私と機龍は歳も近いので、私たちは仲の良い姉弟のようだと、

    よく周りの人達から言われるほどの仲でした。機龍の行方不明を

    聞き、数日は食べ物が喉を通りませんでした。

    ……ですが、数か月前、私の元に篠ノ之博士が現れました」

   ≪本当は、私の方から機龍がお世話になった事をお礼申し上げるために

    お会いに行ったのです≫

ラウラ「そうだったのか」

と、語られる嘘と真実の両方に納得する素振りをするラウラ。

モーラ「博士はどうやら、持てる情報の全てを使って、機龍の遺伝子データから

    私たちを探し出したそうです。機龍の無事を聞き、喜んだ私は

    博士に何度もお礼を申し上げました。そんな折、博士から

    機龍の元へ行く気はないかと誘われ、IS適正検査を受けたところ、

    B-という結果でしたが適正がある事が分かり、

    博士の御慈悲で学園に入学する事が出来たと言うわけです」

   ≪機龍がお世話になった事についてお礼を申したのは嘘の話も

    現実の話も同じです。しかし、学園に入れてほしいと

    頼んだのは、私の方なんです≫ 

セシリア「そうでしたの。それで学園に?」

ラウラ「だ、だが許嫁の話はどうなる?二人は血縁者なのだろう?」

モーラ「一応、機龍は日本国籍を取得していますし、

    日本の法律では三親等離れていれば問題ありません。

    ですから、私が許嫁になったとしても、これと言って

    違法などになる事はありません」

簪「じゃ、じゃあつまり」

モーラ「はい♪私と機龍は結婚できますよ♪」

と、笑顔でモーラがそう爆弾発言をした瞬間。

 

女子「「「「「「「「「「「「「「「嘘だぁぁぁぁぁぁっ!!」」」」」」」」」」」」」

 

食堂中に女子たちの無念の叫びが木霊したのだった。

 

それには苦笑するしかない一夏達。

と、ここで一夏がさっきから機龍が無反応な事に気づいて彼の方に

視線を向けた。そして……。

一夏「って、機龍半分寝てるじゃねえか」

 

彼の言葉通り、今の機龍はコックリコックリと首を上下に動かしていた。

そして、隣の居たモーラの膝の上にゆっくりと倒れた。

モーラ「あらあら」

そう言って機龍の頭を優しく撫でるモーラ。

 

一夏「さっき色々あったから、疲れたんだろうな」

そう言って一夏達は眠っている機龍に微笑みを向けた。

 

もっとも、ラウラや簪、セシリアは少々不満そうだったが。

 

その時、ふと箒の頭に疑問が浮かんだ。

箒「そういえば、モーラは姉さんと会ったと聞いたが、

  ISは渡されているのか?」

モーラ「はい。餞別次いでに持っていけと言われて、

    これを渡されました」

そう言って、モーラは左手の薬指に嵌めている指輪を見せた。

 

セシリア「待機状態が指輪なのですね」

モーラ「はい。機体名は≪アイギス≫。ギリシャ神話に登場する

    イージスと同じ意味の伝説の盾から名を貰いました」

シャル「でも、どうして盾の名前なんて」

モーラ「これは私の意思の表れです。…何人たりとも機龍を

    傷つけさせないために、私自身が盾になる。その

    覚悟をとして、盾の名を頂きました」

ラウラ「そうだったのか。…どんな機体なんだ?」

モーラ「それは、見てのお楽しみです♪」

 

その後も話し合いをしながらも、ずっと自分の膝の上で眠る

機龍を愛おしそうに撫でるモーラ。

   「あ、そう言えば思ったのですが、簪さん達は機龍の

    事が好きなんでしたよね?」

とういう発言に……。

セシリア「ふぇぁ!?」

ラウラ「うぐっ!?がふっ!?がはっ!ゲホッゲホッ!」

簪「ッ~~~~~~!!!」

 

セシリアは素っ頓狂な声を上げ、ラウラは飲み物を飲んでいたため、

激しく咳き込み、簪は顔を真っ赤にしてしまった。

 

モーラ「その反応からすると図星のようですね。ですけど……。

    機龍の正妻ポジションは譲りませんからね」

と言って笑って居るモーラだが、簪たち3人や周囲の女子には、

彼女の背後に≪ゴゴゴゴゴ≫という擬音がある事に気づいていた。

 

そして、ラウラ達がモーラと火花を散らしていると、機龍が

薄っすらと目を開けて、赤ん坊のように手の甲で瞼を擦った。

機龍「あれ、僕は……」

モーラ「目が覚めましたか?機龍」

機龍「モス、モーラお姉ちゃん。僕、寝ちゃって……」

そう言って体を起こそうとする機龍だが、モーラがそれを止めた。

モーラ「良いのですよ。好きなだけ眠っていて。私も機龍の

    かわいい寝顔が見られてうれしいですから」

そう言って機龍の髪を撫でるモーラ。

 

その後も辺りに見せつけるように機龍に膝枕をするモーラ。

ちなみに、周囲では嫉妬と羨ましい気持ちの視線が飛び交っていたと言う。

 

そんなこんなで翌日。

その日からは普通に授業も始まり、最初は2組との合同実習となった。

そして……。

 

 

授業開始前、アリーナのグラウンドに集まる1組と2組の生徒達。

しかし、彼女たちと一夏の視線は、機龍へと集められていた。

何故なら……。

 

機龍「うんしょ、と」

   『パチンッ』

「えっと、これで良いのかな?」

モーラ「えぇ、ばっちりです」

そう言ってモーラは機龍がヘルメットを被るのを手伝っていた。

今の機龍は、実は一夏達とは全く異なるISスーツを着ていた。

いや、それはもはやISスーツとは言えないかもしれない。何故ならそれは…。

 

かつて、機龍隊の隊員たちが戦場に赴く際に着装していた黒いスーツを

機龍のサイズに合わせた物だったのだ。

一夏「なぁ、箒、あれってやっぱり」

箒「あぁ、機龍の記憶世界で見た機龍隊の装備だ。…しかし、なぜ姉さんはあんな

  物を?」

と、ひそひそと話す一夏と箒。

一方の機龍は、心情としては複雑な面もあったが、かつて自分と共に戦った

茜や義人と同じような恰好ができる事に少しばかり喜びを覚えていた。

千冬「ほぉ、それが束が送ってきた新装備か」

と、そこにジャージ姿の千冬と真耶もやってきた。

真耶「新しいスーツの着心地はどうですか?」

機龍「はい。…とっても、懐かしい感じがします」

そう言って、自分の両手を見ている機龍。その顔には、少しばかりの涙と笑みが

浮かんでいた。

 

千冬「では、これより1組と2組の合同演習を始める。

   最初は…フラワー」

フラワー「はい」

千冬「貴様は束より専用機を貰ったそうだな?折角だ。今この場には

   専用気持ちがたくさんいる。貴様の物も見せてやれ」

フラワー「わかりました」

そう言うと、一夏達から少しばかり離れるモーラ

    「……出でよ、アイギス!」

左手を上に掲げるのと同時に、指輪形態のアイギスから光が

放たれ、瞬時にモーラの体を包み込み、ISとなって現れた。

 

モーラの持つ第3世代型の新造IS、≪アイギス≫は一夏達のそれと

比較してスラッとした体躯が特徴だった。

機体色はシャルロットのラファール・リバイブカスタムⅡに似た

オレンジ色だが、その上を白や黒、黄色のラインが走っていた。

一夏達のもつ白式や紅椿、ブルー・ティアーズなどと比べると

その脚部はかなり小さく、装甲が申し訳程度に配されているだけだった。

代わりと言っては何だか、体に装備される装甲の部分は胸やわき腹、

肩や腿など、あちこちに装甲が施されていた。

武装は見る限りだが、腰の後ろ部分にヒップホルスターがあり、

そこには銃剣付きのハンドガンのような物が二丁、フレームを合わせる形で

配されていた。

しかし、一番目を引くのは彼女の背後に浮かぶユニットだった。

 

それは、菱形のような、盾のような物体がモスラが持つ羽のように、

左右2対。4枚の物体が浮いていたのだった。

上部の二枚は黄色カラーに黒いラインが入っており、下部の二枚は

濃いオレンジ色に黒いラインが入っていた。

 

千冬「ふむ。それが貴様のアイギスか。…フラワー、その機体の

   武装はその後ろの拳銃二丁だけか?」

モーラ「攻撃用の武装はそうです。しかし、私の機体、アイギスの

    設計思想を言うのなら、この機体は攻撃するための機体

    ではありません」

千冬「何?」

彼女が疑問を漏らした次の瞬間、背部にあった4枚の羽が

ふわりと動くと、アイギスの背後を離れて空中に展開。

そして、それぞれの菱形の中央部から発信器のような物が浮かび上がり、

そこから黄金のエネルギーが横に広がった。

 

ラウラ「これは……エネルギーシールドか」

モーラ「はい。…この機体、アイギスは友軍機。もっと言うなれば、

    他者と自分をこの装備、≪イージス≫で防御する事に特化した機体なのです」

千冬「つまり、この機体は守備に全能力を割いている、という事か?」

モーラ「はい。そのため、攻撃用の装備はこの二丁の拳銃のみなんです。

    開発コンセプトを言うのであれば、アイギスは

    ≪高い機動性により、誰よりも早く味方の元へ駆けつけ、

優れたレーダーで戦場全体の攻撃を認識し、味方を

光学シールド、イージスで護る≫という物です」

ラウラ「つまり、友軍の支援に特化した、最初から単騎ではなく、

    複数の、仲間と戦う事を前提にした機体、というわけか」

箒「仲間を護る、盾となる機体、か」

セシリア「と言う事は、1対1のモンド・グロッソのような大会への

     出場は端から考えていない。というわけですわね」

モーラ「はい。これもすべて、我が身を掛けて、友を、愛する人を

    護るためです」

千冬「では、お前の実力を見るのも兼ねて、誰かに模擬戦の相手になってもらう。

   ……そうだな、オルコット。お前が相手をしろ」

セシリア「わかりましたわ」

 

そうして、ブルー・ティアーズを展開したセシリアとアイギスを纏った

モーラが上空で向かい合った。と、その時セシリアの方からモーラに

プライベートチャンネルが開かれた。

セシリア「フラワーさん。あなたが例え、篠ノ之博士に認められた許嫁

     であったとしても、私も恋する乙女。恋も戦いも、

     絶対に負けませんわ!」

モーラ「そうですか。その意気込みは見事です。ですけど、

    私だって負けません!」

そう言って両腰のホルスターから二丁のレーザーピストル、

≪ツインウイングス≫を抜き取り、構えるモーラ。

それに対して、セシリアもスターライトmkⅡを呼び出して構えた。

 

千冬「よし。では……始め!」

彼女の合図で試合が開始された直後、セシリアの背部ユニットから

4機のビット、ブルーティアーズが飛び出して、アイギスに向かって行った。

モーラ「来ましたね!だったら、こちらも!イージス達!」

それを見て、モーラも背部ユニットのイージスの接続を解除。

4枚のイージスがモーラから離れて行った。

 

一夏「何か、モーラのアイギスって見た目シンプルだよな」

箒「そうだな。背部装備のイージスを外してしまうと、何というか、

  ISと言うよりアニメやゲームに出て来る装甲服を着ている

  ようだな」

 

と、地上で彼らが感想を述べている間も戦いは続いていた。

セシリアのブルーティアーズの放つ四方からのレーザーを

イージスで防ぎながらツインウイングスからレーザーを放つモーラ。

彼女の軌道は優雅でありながらも豪快だった。

流れる水のように流線形の軌道を飛行したかと思うと、次の瞬間には

弾丸のように直角的に動いてセシリアを翻弄しつつ二丁拳銃から

レーザーを放った。

 

セシリア「くっ!?流石に早いですわね。それでもっ!」

相手の速さに驚嘆しながらもセシリアは左腕部に内蔵されている

機龍から与えられた武装、0式レールガン改をモーラに向かって

連射した。

それを高速で回避しながらツインウイングスで反撃するモーラ。

そして、レーザーがセシリアのレールガンを掠り、機関部を壊してしまった。

    「そんなっ!?」

一瞬の驚きでモーラから視線を外してしまったセシリア。そして、

モーラはそれを見逃さずに一気にセシリアに向かって接近した。

それに気づいたセシリアも咄嗟にスターライトをモーラに向けた。

 

千冬「双方、それまで!」

と、次の瞬間、千冬の声が聞こえ、動きを止めるモーラとセシリア。

今の2人はお互いの胸とお腹に銃口を至近距離で突きつけ合う恰好となっていた。

しかし、それを聞いてモーラはすぐにツインウイングスをヒップホルスターに

戻し、セシリアに笑みを浮かべた。

モーラ「いい勝負ができました。ありがとうございます」

そう言ってイージスを背中に戻しながら右手を差し出すモーラ。

セシリア「こちらこそ。ありがとうございました」

それに応え、握手を返すセシリアだった。

 

で、その後、最後を締めくくる試合は一夏の白式第二形態≪雪羅≫と

鈴の甲龍の試合が行われ、一夏は善戦したものの、白式以上に

燃費が悪くなった雪羅のエネルギー切れによって結局負けてしまった。

 

授業終了後。機龍と一夏は男子更衣室で着替え、機龍は一夏より

一足先に教室に戻った。のだが……。

その後、一夏が授業に遅刻してひと悶着あった(機龍の一件もあって

シャルロットがラファールを出すことはなかったが、千冬とシャルロットの

鉄拳が一夏を襲った)のをここに記しておく。

ちなみに、その事をみていたモーラ曰く。

モーラ「一夏さんが鈍感なのもあれですけど、やっぱり恋する乙女って

    怒らせると怖いですね~」

だ、そうだ。

 

その後、全校集会が行われ、一夏達は講堂に集まり、生徒会長の

話を聞いていたのだが……。

機龍『やっぱり、あの人が生徒会長だったんだ』

数か月前、ゴーレム乱入事件の時、彼女に会って居た事を思い出していた

機龍だった。

で、その後も彼女、『更識楯無』の発表は続き、一夏と機龍にとって

衝撃の事実が発表された。

楯無「さて、では一つだけ、私からみんなに学園祭に関してのお知らせが

あります。本来学園祭の中では各部活により出し物に対して投票が

行われ、上位の部活動には部費に特別助成金が当てられるのは、

2年と3年の人たちは知っているわね?でも、今回は特別ルールを

設けます。それは……」

と、次の瞬間、機龍と一夏を扇子で指し示す楯無。同時に彼女の

後ろのスクリーンに二人の写真が映し出された。

  「1位の部活動には織斑一夏君を。2位の部活動には

   篠ノ之機龍君を強制入部させる事になりました」

一・機「「………え??」」

女子「「「「「「「「「「ええぇぇぇぇぇぇぇっ!?!?!?!?」」」」」」」」」」

一夏と機龍の呆けた声に続いて、大ボリュームの女子の声が

響いた。

楯無「と、言うわけで、みんな出し物、がんばってね」

とだけ言い残すと、楯無は壇上を降りた。で、一夏達の周りの女子は

と言うと……。

女子「今すぐ部室に戻って部員全員集めて会議よ!授業!?

   そんなの後よ!私たちの想像力と努力に女子としての

   命運がかかってるのよ!」

  「機龍君と、一緒の部活動。一緒に汗を流して、夕日で

   オレンジ色に染まる部室に、二人っきりで……あぁ」

   「しっかり!それを夢で終わらせないために頑張るのよ!」

「待っててね機龍君♪一緒に青春して、大人の階段、

     一緒に登ろうね♪」

一夏『待て待て待て待て待て最後の!機龍に何させる気だ!?』

と、内心でツッコミを入れる一夏だった。

 

こうして、女子たちの(一夏と機龍を手に入れるための)やる気を

最大まで引き上げた楯無だった。

 

その後、教室に戻った一夏達は、学園祭が近い事もあり、クラスの出し物を

決める事になったのだが、女子たちが提案した物が一夏にとっては

あまり納得できないものだったのだ。で、どんなものかというと……。

1、一夏・機龍のホストクラブ

2、一夏・機龍とツイスター

3、一夏・機龍とポッキー遊び

4、一夏・機龍と王様ゲーム

というのばかりが出てきていた。まぁ、そんなのを出されれば

一夏が言う事はひとつだけだ。

一夏「却下!!」

女子「「「「「えぇぇぇぇっ????」」」」」

一夏「アホか!?誰がうれしいんだこんなもん!」

女子「私は嬉しいわね。断言する」

  「そうだそうだ!女子を喜ばせる義務を全うせよ!」

  「織斑一夏と篠ノ之機龍は共有財産である!」

一夏「俺と機龍は物扱いかよ!?」

と、一夏の批判も空しく女子たちの声には勝てなかった。

  「き、機龍も何か言ってやれよ!お前もこんなのは

   嫌だろ!?」

と、機龍の方に話題を振るが、当の機龍は画面の文字列を

見て、首を捻っていた。

  「機、機龍、どうした?」

それが気になってもう一度声をかける一夏。

機龍「うん。実は僕、ポッキーゲームとか、ツイスターって言うのが

   何なのかわからなくて、ずっと悩んでたんだ。

   どういう遊びなの?」

と、疑問を口にする機龍。

一夏「そ、そうか。じゃあそれはとりあえず決まった時に説明

   するから。……とりあえず誰かまともな意見を

   出してくれ~~!」

と、叫ぶ一夏だった。

 

その後、何とラウラの発言によって1組の出し物の候補にメイド喫茶が

上がった。それに食いついて行く女子たち。で、一夏は執事服になり、

機龍はというと……。

女子「じゃあじゃあ!機龍君はメイドさん姿で!」

  「良いねそれ!」 「あ、でも機龍君だとそう言うのの経験は…」

機龍「出来るよ?」

女子「「「「「え????」」」」」

機龍「少し前にある人に頼まれてアルバイトをしたことがあるんだ。

   その時お店の店長さんのメイド服姿でお仕事してって頼まれて

   お仕事したことがあるんだ。それに料理は束達と一緒に生活

   してた時教えてもらったから、レシピさえあればなんでも

   作れるよ」

と言うと。

女子「ち、ちなみにその時はどんな格好したの?」

機龍「えっと。メイド服に猫の耳と尻尾を着けて、ニャン♪って

   言ってって言われたよ」

それを聞いた女子たちは当然想像したわけで……。

   『『『『『ぶっはぁぁぁぁっ!!』』』』』

盛大に鼻血を吹き出したのだった。

 

その後、一夏はクラス委員長として職員室に千冬に報告のために

訪れた後、楯無と出会い、彼女に連れて行かれる形で生徒会室へ行き、

そこでのほほんさんの本名を初めて知ったり、彼女の姉である≪布仏虚≫と

出会った。そしてそこで、一夏は楯無から弱いと指摘された。

そして、鍛えてあげると言われた一夏。だが……。

 

今、一夏は自分の右手を見て、握りしめながら頭の中に鮮明に

刻まれている機龍の、ゴジラの、戦いの、本当の殺し合いの記憶を

見返していた。

あの殺し合いと、硝煙が漂う戦場に比べれば、自分たちの戦いは

何と滑稽なんだろう。と思っていた一夏。

一夏『バリアーに守られて、死ぬこともないスポーツのような戦い。

   俺はそんなので強くなんてなりたくない。ならなくていい。

   戦うためじゃない。俺達の、大切な人を守れるだけの

   力があればそれでいい。……そうだろ?機龍』

  「……コーチの件、断ります。俺に、コーチ何て必要ありません」

楯無「ふ~ん?良いの?君、ずっと弱いままだよ?」

そう言って扇子を開く楯無。そこには、弱者の文字が描かれていた。

一夏「……弱いって、なんですか?」

楯無「?」

一夏「あなたの言う、弱さって何ですか?ISの操縦の事ですか?

   だったら俺、弱いままで良いです。兵器をスポーツと

   勘違いしてる人が強くて、ただ大切な人を命がけで護る事しか

   できない人が弱いなら、俺は弱いままで良いです」

楯無「………」

一夏「俺は誰かを傷つけるためにここに居るわけじゃありません。

   それに、俺はあなたよりも強い人を知って居る」

楯無「……一夏君、それはあなたのお姉さんの事を言ってるのかしら?」

一夏「いいえ。……あいつは、ISの試合だとしても戦う事が嫌いで、

   それなのに誰かが危険な時は、真っ先に飛び出して、自分の

   逃げたいって叫んでる心を必死に抑え込んで、誰かのために

   戦える。そんな奴が俺にとっての強い人です。…生徒会長、

   あなたにとっての強さってなんですか?」

楯無「………」

一夏「俺は戦いたいからここに居るんじゃありません。

   失礼します」

そう言って生徒会室を出て行こうとする一夏。しかし。

楯無「待ちなさい」

その言葉に足を止める一夏。

  「そこまで言われちゃうと少しお姉さん悲しくなっちゃうのよね。

   あなたの言う人ってもしかしてだけど、あの機龍君の事でしょ?

   流石にあんな子が私より強いって言われると、お姉さん

   ショック」

それを聞いて、一夏は苛立った。機龍の覚悟と過去を聞いても、そうやって

ふざけて居られるのか、と。

一夏「あんたにはわかんねえよ。人に生み出されて、利用されて、

   それでも俺達人間を友達だって言ってくれる、機龍の強さを」

そう言うと、一夏は生徒会室を出て行った。

 

あの記憶との邂逅以降、一夏達7人の中には、機龍に対する一種の

尊敬のような感情が生まれていた。

絶望と地獄を経験し、その元凶であるはずの人間、自分たちをそれでも

受け入れ、友として、愛する人として見てくれた事が、その感情が生まれる

一端となっていたのだ。

そして、あの記憶を受け、自分たちがここで行っている演習や試合が

機龍やゴジラの記憶から見れば、≪お遊び≫程度にしか見えない事も

実感していたのだ。砲声と怒号、轟音が響き渡り、全てが壊れて行くあの

記憶に描かれていた風景こそが本当の戦いの場、戦場なのだと。

そして、あそこで誰かを護るために命がけで戦っていた戦士たちに

比べて、スポーツ感覚で兵器を使って戦う自分たちの姿はどれだけ矮小なのだと。

ここでの戦いには、誰かを護るなんて崇高な使命なんてない。

命の危険なんてほとんどない。唯お互いの優劣を競う『競技』でしかないのだから。

心の奥底で7人はそう思っていたのだった。そして、その日を境に

7人はそれぞれの鍛錬に力を入れ始めたのだった。

少しでも、自分の大切な仲間を護れる力を、戦うためではなく、護るための

力を手に入れるために。

 

 

一方、残された楯無は彼の最後の言葉を思い返していた。

楯無「機龍君の、強さ、ね~。…ねぇ本音。あなたから見て、

   その機龍君って子はどんな感じ?」

本音「ほぇ?うんと、リュウ君はとっても優しいよ~。よく勉強とか

   でわからない所があると教えてくれたり~。あ、後はお財布

   忘れてお昼食べられなくなった時奢ってくれた事もあったよ~」

と、間延びした声で語る本音。

  「とっても優しいよ~。……あ、でも」

楯無「何々?どうかしたの?」

本音「リュウ君って戦うのだけは大嫌いみたいだよ?一学期の頃は

   戦うのが大嫌いだって言ってたよ~」

楯無「戦う事が、嫌いね~。……ちょっと様子見してくるわね」

虚「……仕事があるのですから、早く戻ってきてくださいね?」

楯無「わかってるってば」

そう言うと、楯無は生徒会室を出て、機龍の親しい人物たち、

つまり一夏と箒達に彼の事を聞いて回った。

 

7人は彼の事をこう評した。

一夏曰く『俺にとって、大切で、弟みたいなダチ』

箒曰く『世界でもっとも高潔な獣であり人間である男』

鈴曰く『泣き虫だけど誰よりも優しい勇者』

セシリア曰く『世界で一番、女性が夫にするのに相応しい男性』

シャル曰く『僕達の友達で居てくれる大切な友人』

ラウラ曰く『世界で一番人間の罪深さについてを知りながら、それでも人間を

愛する神』

モーラ曰く『破壊神にもなれるのに、誰よりも心優しい王様であり、

私の全てを捧げられる男性』

 

7人の彼に対する評価を聞いた後、楯無は夕食後に彼の部屋の近くで

機龍を待ち伏せた。そして、待つこと数分。

彼女の予想通り機龍が現れた。しかも、彼女にとっては幸運な、

彼一人の状態だった。チャンスとばかりに柱の陰から

機龍の前に現れる楯無。

機龍「あ。あなたは確か、生徒会長の、簪のお姉さんの。

   更識楯無先輩」

楯無「そう。学園最強のお姉さん。生徒会長のお姉さんなの。

   こんな夜に悪いんだけど、実は私あなたに聞きたい事があるの?」

機龍「僕に、ですか?」

と、疑問符を浮かべる機龍。

楯無「そうなの。…実は少し前に私が一夏君のコーチをしてあげるって

   言ったらあっさり断られちゃったの。それでその時一夏君がね、

   私にこう言ったの。機龍君は私よりも強いって」

その言葉を聞いて、機龍の体を悪寒が襲った。

機龍「そんな、事、ない、ですよ。僕何て……。あ、あの。

   それで、質問って、何ですか?」

楯無「そ・れ・は、あなたの強さの秘密、教えてくれない?」

そう言って機龍に迫る楯無。その顔は笑って居たが、機龍にとっては

今の一言で心臓が跳ね上がった。

 

機龍『もし、もし、この人に僕がゴジラだって、知られたら……』

まだ親しくもない彼女には話す気になれなかった機龍。

  「ダ、ダメです!そんな事、教えられません!!」

そう言って楯無の横を走り去ろうとするが、彼女は機龍の

腕を掴んで壁に彼の体を押し当てた。俗に言う、壁ドンの男女逆バージョン

状態だった。

楯無「ねぇ良いでしょ~?お願~~い」

と、言って機龍に体を近づけ、胸を押し当てる楯無だったが、今の機龍

にとっては早く彼女から離れたかったのだ。

機龍「やめて、ください」

そう言って泣きそうになる機龍。流石にこれはまずいと思って

離れようとした楯無だが、遅かった。何故なら……。

 

簪「機龍!!」

通路の角から現れた簪が機龍と楯無を見るなり走ってきて、楯無を

突き飛ばした。

楯無「きゃん!痛った~~い」

そう言って尻餅をつく楯無から機龍を奪い、抱きしめるようにして

彼を庇う簪。今の彼女の目は、実の姉であるはずの楯無を

恨みたっぷりの視線で見つめていた。

簪「機龍?大丈夫だった?この人に何か変な事されなかった?」

機龍「う、うん。何とか」

と言うが、その目尻には涙がたまっており、それが簪の心を

逆撫でしてしまった。

楯無「この人って、流石にそれは無いんじゃないの?簪ちゃん」

そう言ってスカートのパンパンと払ってから立ち上がる楯無。

簪「……。機龍に何をしていたんですか?あなたは」

楯無「ん~。ちょっとお話をしてたの。私ね、一夏君の

   コーチをしてあげるって誘ったけど断られちゃったの。

   で、その時一夏君がこういったの。機龍君の方が私より強いって。

私的にはロシアの代表としてその言葉は聞き捨てできなかったの。

お姉さん、これでも学園最強なのに」

というが、簪はそれを聞いて奥歯を噛みしめた。

簪『違う!機龍の強さは、誰かを倒すための強さなんかじゃない!

  みんなを護りたいって言う心が、誰よりも強い!織斑君も、

  私たちもそれはわかってる!機龍に酷い事しかしなかった

  私たち人間を受け入れてくれた機龍の、本当の強さを!』

楯無「それでね。じゃあここは本人に直接聞こうって事で、

   ここで機龍君とお話を―――」

簪「相変わらず、身勝手だよね」

楯無「え?」

簪「他人の事を自分のお遊びで振り回して、傷つく事も気にしないで。

  機龍にだって、喋りたくない事があるのに、無理に喋らせようとして。

  ……何が生徒会長よ。私たちは、あなたのお人形でも、

  玩具でもない!」

そう言うと、簪は機龍の手を引いて楯無の横を通り過ぎて行った。

その去り際、彼女に向かって簪は……。

 「私たちは、孤高な強さなんて要らない。私たちは、仲間の力で強くなる

  もう、私はあなたのおまけなんかじゃない」

と、密かに呟いたのだった。

 

その後、部屋に戻った簪と機龍だが、簪は急に機龍を自分のベッドの

上に押し倒した。

機龍「簪、どうしたの?大丈夫?」

そう言って、自分に覆いかぶさっている状態の簪を気にする機龍だったが、

簪は無言のまま、機龍を抱きしめていた。やがて……。

小さいながらも嗚咽を漏らす簪。それを聞いた機龍は、何も言わずに

簪の頭を撫でた。

簪「私……私は、やっと、大切な人ができて、護りたい人ができて、

  前を向いて、歩き出せて、本当は、お姉ちゃんと、仲直りしたい

  って思ったのに、機龍とお姉ちゃんが、一緒に居たのを見て、

  抑えられなくて……私は……」

機龍「大丈夫だよ簪。……きっと、お姉ちゃんと仲直りできるよ。

   僕も、応援するから」

簪「うん。ありがとう」

そうして、すぐに二人は眠りに着いた。

 

 

そして数日後。

とうとう学園祭の日がやってきた。

開始と同時に、一夏、機龍と言う学園で唯一男子が居るクラスという

メリットもあり、多くの生徒や生徒によって招待された外部の人達。

――主に生徒の女友達――などが一組に集まった。

 

一・機「「いらっしゃいませ、お嬢様」」

と、入口では燕尾服姿の一夏と、メイド服姿で銀髪のカツラを被った

機龍がお出迎えをしていた。

女子「見て見て!執事服姿の織斑君よ!」 「こっちはメイド服の機龍君ね!」

   「かっこいい~!」 「かわいい~!」

と、それぞれ来店客に大反響になったのだった。

 

その後。接客係をしていた機龍だったが、休憩時間になると制服に

着替えてすぐに教室を飛び出して行ってしまった。

セシリア「あら?機龍はどちらへ?」

モーラ「あぁ、それはですね。機龍がチケットを使ってクロエさんを

    招待したからですね。クロエさんは少々目が不自由ですから。

    今から迎えに行くんだ、と言っていました」

それを聞いて、彼女と面識があったセシリアは納得しつつも

彼女に嫉妬した。

セシリア『相変わらず、この恋にはライバルが多いですわね。

     でも、私も負けませんよ』

と、思いながら接客に戻るセシリアだった。

 

そして、校門の前には麦わら帽子を被った少女、クロエ・クロニクルが

杖を持った状態で立っていた。そこへ……。

機龍「あ!クロエ~!」

彼女を見つけた機龍がクロエの元に走り寄って来た。

クロエ「こんにちは機龍。こうして会うのは、イギリスでの一件以来

    ですね」

機龍「うん。クロエと束は?元気だった?」

クロエ「はい。私もあの人も元気です。……それでなのですが…」

と、笑って居たクロエの顔が少しばかり暗くなった。

それを見て、機龍は大体想像ができた。

機龍「そっか。モスラから、僕の記憶を見せてもらったんだ」

クロエ「……。すみません。あなたの過去を勝手に……」

機龍「ううん。良いだよ。クロエと束には、ずっとお世話になっていたんだ。

   二人には、それを知る権利があるんだ」

クロエ「……。ありがとうございます、機龍」

機龍「気にしないで。それより、ほら。一緒に学園祭を

   見て回ろうよ」

クロエ「はい」

 

その後、クロエの手を引きながら学園祭を回る機龍。

出店で料理を食べたりとしていたが、楽しい時間はあっという間に

過ぎてしまい、機龍は戻らなければならなくなってしまった。

機龍「ごめんね、折角来てくれたのに」

クロエ「いえ。機龍とのひと時。とても楽しかったです。では、

    私はそろそろ失礼しますね。それと、もし何か手伝いが

    必要な時は通信機で呼んでください。飛んできますから」

機龍「うん。ありがとうクロエお姉ちゃん。時間ができたら、

   束とお姉ちゃんの所に一度戻るよ」

クロエ「わかりました。束様にも伝えておきます。では」

そう言うと、クロエは学園を後にした。

 

で、機龍は仕事に戻るために一組の教室に戻ってきたのだが、

そこでは一夏と簪た8人それぞれ執事服やメイド服、チャイナ服

等で集まっていた。ちなみに簪の居る4組は料理系の出し物

だったので、今の簪は制服の上に白いエプロンをした状態だった。

そして、8人の前にはメイド服姿の楯無が神出鬼没と書かれた

扇子を持った状態で立っていた。

 

で、戻ってきた機龍だったが、この前強引に迫られた事もあり、警戒して

一夏の後ろに隠れてしまった。

まるで怯える小動物のようだが、一夏達はそんな事より気になった事が

あった。

一夏「……。生徒会長、機龍に何したんですか?」

そう言いながら楯無を睨みつける一夏。

他の7人も無言のまま楯無を睨んでいる。

特にモーラのはその視線だけで相手を射殺せるほど強烈な物だった。

楯無「ご、誤解よ!いや、確かにちょっと聞きたい事があっただけで、

   それでちょっと迫る感じになっちゃったのは確かなんだけど~!

   とにかく誤解なの~!」

その後、何度か謝られた事で機龍は一夏の後ろから出て来た。

 

で、一夏と機龍、そして箒達を含めた9人は何の因果か生徒会が

行う演劇に強制的に参加させられてしまった。

その後、アリーナの更衣室に連れていかれた一夏と機龍は

青い王子様の服と金色の王冠を渡され、それに着替え始めた。

一夏「なぁ機龍。今気づいたんだが、楯無さんと更識さんって」

機龍「うん。簪と生徒会長は姉妹みたいなんだ」

一夏「そっか。…何というか、正反対だよな」

という事を話しながら着替えた二人は、言われた通りに暗い

アリーナにやってきた。

 

アリーナの天井は閉じられ、天井部分にはプラネタリウム並みの

夜空が映し出されていた。

と、その時、一夏達の前にスクリーンが投影され、『シンデレラ』の

お話(オリジナル)が楯無のナレーション付きで映し出された。

そんな中。

機龍「ねぇ一夏。シンデレラって確か御伽話とか童話じゃなかったっけ?」

一夏「良いか機龍。あれはシンデレラじゃねえ。あれは改悪された

   間違ったお話だ。ぜっったいにあれがシンデレラのお話だって

   信じるなよ!?」

  『生徒会長ぅぅぅっ!これで機龍が間違った常識を覚えたらあんたの

   せいだからな~!』

と、心の中で叫ぶ一夏だった。

 

と、次の瞬間、周囲の明かりが一斉に点灯した。 

一夏と機龍の周囲にはお城をイメージしたセットがあり、辺りを

キョロキョロと見まわす二人。

と、その時。

鈴「一夏~~!王冠を寄越しなさ~~い!」

近くのテラスの上から一夏に向かって鈴が飛びかかってきた

一夏「おわっ!?いきなり何すんだよ鈴!」

それを咄嗟に避ける一夏

鈴「良いから!その王冠を早く渡しなさい!そうすれば私は!」

と、再び掴みかかって来る鈴だったが、それを左右から伸びた手。

シャルロットと箒の腕が掴んで止めた。

箒「鈴、貴様には悪いが――」

シャル「こればっかりは譲れないんだよね!」

そう言って、鈴を投げ飛ばす箒とシャルロット。

一夏「なんか、俺達の王冠がターゲットっぽいが、どう思う機龍?」

と言って機龍の方を向く一夏だが…。

 

機龍「う~~ん」

ラウラ「機龍!私に!私に王冠をくれ!」

機龍「じゃ、じゃあ」

簪「ダ、ダメ!私に頂戴!」

機龍「え~っと」

セシリア「いえ!そこはこの私に!」

機龍「それなら」

モーラ「違います!私に下さい機龍!」

と、ドレス姿の簪、モーラ、ラウラ、セシリアに囲まれ、王冠を

渡してほしいとせがまれている機龍は誰に渡そうかと迷っていたのだった。

その様子を見て苦笑する一夏。

彼女たちが王冠に拘る理由はただ一つ。一夏の王冠を手にした者は一夏と。

機龍の王冠を手にした者は機龍と。それぞれのルームメイトとなれるのだ。

箒達は一夏と相部屋になるために。セシリア達は機龍と。簪は

現状を維持するために。想い人の王冠を狙っていた。まぁ、だからと言って

暴力的な事は機龍の記憶の事もありストッパーとして働き、

鈴たちは武器を使わない力ずくで。セシリア達は機龍を説得して

王冠を手に入れようとしていたのだった。

 

しかし、参加者は彼女たち7人だけではなかった。何故ならこれは、

『観客参加型』演劇なのだから。

 

と、その時、近くにあった城門から無数の生徒達が雪崩れ込んできた。

一夏「な、なんだこれ!?」

楯無「ではでは~。これからフリーエントリーグループの入場で~す」

と、呑気な楯無の声がアナウンスされた。

それを見て、流石に驚く箒達

箒「不味い!あの人数で囲まれたら逃げ場がないぞ!」

ラウラ「くっ!止むおえないか!一夏!お前は機龍を連れて

    逃げろ!」

一夏「わ、わかった!」

ラウラ「良いか。今から一時共同戦線だ。今あの者達を排除

    しなければ、我々が王冠を手にするチャンスすら消えてしまう」

モーラ「致し方ありませんね」

簪「わかりました。そうしましょう」

7人「「「「「「「ここは通さない!!!」」」」」」」

と、あたかもアナウンス時に流れた映像のように箒達はドレスの下に

隠してあった武器を片手に生徒達に向かって突進していった。

 

一方その頃、機龍の手を引きセットの裏に逃げ込んだ一夏。

と、その時、走っていた一夏達の足元が突然開き、そこから伸びた手が

まるで一夏と機龍を奈落に引き込むように穴の中に引きずり込んだ。

 

薄暗い更衣室の中に入った一夏と機龍の前には、一人のスーツ姿の

女性が居た。一夏はどうやら彼女と面識があるようだが、その彼女と

目が合った瞬間、機龍の中に吐き気がこみあげて来た。

機龍『この感じ。僕は、知って居る。これは、敵意と蔑視の感情だ』

 

しかし、その事に気づかない一夏はどこか呆けた表情をしていた。

一夏「どうして、巻紙さんがここに?」

巻紙「はい。この機会に白式と銀狼の両方を頂こうと思いまして」

一夏「は?」

呆けた声が漏れた次の瞬間

巻紙「良いから寄越せって言ってんだよ!」

振り向きざまの蹴りが一夏に向かって飛んだ。

機龍「一夏!」

咄嗟に巻紙と一夏の間に飛び込んだ機龍の腹部に彼女の蹴りが炸裂した。

  「かはっ」

息を吐きだしながら吹き飛び、近くのロッカーに背中から激突する機龍。

一夏「機龍!こいつ!来い!白式!」

相手の事を敵と認識した一夏は咄嗟に白式を装着し、機龍を護るために

倒れている彼を背に雪片を構えた。

  「お前、何者だ」

雪片を両手で構えながら目の前の敵に問う一夏。

巻紙?「私かい?私は企業の人間に成りすました、謎の美女だよ!」

そう言った次の瞬間、巻紙のスーツの背中部分が盛り上がったかと思うと

蜘蛛を思わせる8本足が服を突き破って出て来た。

 

一夏「そのパーツ、まさかIS!?」

巻紙?「そうさ!その目に冥途の土産ついでに焼き付けな!」

彼女が叫んだ次の瞬間、その体が光り包まれ、部分展開していた

巻紙。もとい『オータム』のIS『アラクネ』が姿を現した。

 

アラクネは一夏達の人型を成したISとは抜本的に異なるスタイルをしていた。

自重を支えているPICを内蔵した足が全部で8本4対ある事。

また、第2の腕とも言えるオータムの両腕とは異なり独立した3、4本目の

腕がある事。そして背部に大型のユニットを装着している事だ。

その名通り、見る者に蜘蛛を連想させるISだった。

 

そのアラクネを見ても、一夏はできるだけ冷静であることに努めた。

一夏『落ち着け。よく考えろ。俺が相手にしているのは、人間だ。

   ゴジラじゃない。無敵の王様じゃないんだ。考えろ。考えろ』

  「あんた、専用気持ちって事は、軍の特殊部隊か何かなのか」

少しでも相手を喋らせ時間を稼ごうと、汗を流しながらも質問する一夏。

オータム「はっ!違うねぇ。私は悪の秘密結社、≪ファントムタスク≫が

     一人、オータム様っていやぁ、わかるか?」

一夏「ファントム、タスク?」

オータム「あぁ?知らねえのかよ。ま、どっちでも良いけどな!」

と、次の瞬間6本足と第2の腕それらに内蔵されたビーム砲。

合計で8個のビーム砲の砲口が一夏の方を向いた。

一夏『ッ!不味い!俺が避けたら機龍がやられる!ここはせめて、

   何発か受けきってから、機龍を抱えて逃げるしか!!』

そう思いながら雪片で攻撃をガードするために斜めに構え、

射撃を防ごうとしたが……。

オータム「へへ、さぁてガキども!仲良くあの世でおねんねして――」

 

と、その時。一夏の背筋が凍り付き、オータムは視線を一夏の

後ろに移した。

その理由は簡単だ。他者の行動を制するだけの『殺意』を持った者が

すぐそばに居たからだ。

 

機龍?「あ~~。ようやく入れ替われたぜ」

一夏の後ろからゴキゴキと骨を鳴らしながら立ち上がった機龍。

その言葉だけでも、他者を威圧する暴君の覇気がにじみ出ていた。

一夏の横に並んだ機龍を、恐る恐る見る一夏。今、機龍。彼の

体は白かった髪が真っ黒になり、瞳は血の如く紅く、獲物を

求めているかのようにまっすぐオータムを睨みつけ、その口元は

残忍な捕食者の如き見る者すべてを畏怖させる笑みを浮かべていた。

 

一夏「お前、まさか。ゴジラ」

自分の喉から絞り出すようにかすれた声でしゃべる一夏。

そう。今機龍の体を操作しているのは機龍自身ではない。ゴジラなのだ。

ゴジラ「あぁ?見りゃわかんだろ?これが変わってんだからよ」

そう言って髪の毛をいじるゴジラ。

   「ま、良い。……おい」

その言葉だけで、オータムは武器を構えた。

   「よくも人を足蹴にしてくれたなクソババァ。覚悟は

    できてんだろうなぁ?あぁ?」

オータム「誰がババァだ!このガキが!」

彼女は叫ぶと、アサルトライフルを取り出し、ゴジラの頭に向けて

一発放った。

銃弾は寸分たがわずゴジラの眉間に命中し、その体が僅かにのけぞった。

    「ハハハ!ざまぁねえ――」

だが、次の瞬間、笑って一瞬目を閉じたオータムのヘルメットの前に、

ゴジラの頭があった。

    『バゴォォォォンッ!』

次の瞬間、アラクネが吹っ飛び、いくつものロッカーを巻き込んで壁に

激突した。ガラガラと音を立てて崩れる瓦礫。

 

その光景に唖然となる一夏。

ゴジラは撃たれてからすぐさま体勢を戻し、その勢いで突進するように

跳躍。オータムのアラクネに頭突きをかましたのだった。

その時、瓦礫の中からヘルメットが割れ、素顔を露にしたオータムが

這い出て来た。

オータム「バカな!?お前の頭を確かに撃ち抜いたはずなのに!!」

ゴジラ「撃ち抜いた?これがか?」

そう言って自分の額を見せるゴジラ。彼の額は少し赤くなっている

だけで傷一つついていなかった。

   「貴様の持つちゃちな銃器では俺を撃ち抜くことなど

    到底不可能なのさ!何なら、もう一発試してみるか?ん?」

と、オータムを挑発するゴジラ

オータム「っのガキがぁ!!!」

まんまと挑発に乗ったオータムがアサルトライフルとさらに

4本の脚からビームを放ってきた。

 

無数のレーザーがゴジラの体を襲うが、それは機龍の服を貫通しその下の

皮膚を赤くするだけで決定打にはならなかった。

オータムはルーム内に煙が充満したところで一度銃撃をやめた。

    「へへ、流石にこれだけの攻撃を喰らえば―――」

ゴジラ「無傷なわけがない?そう言いたいのか?あぁ?」

次の瞬間、煙の中から飛び出してきたゴジラがオータムの腹部を

下からのアッパーで殴りつけた。

オータム「ごはっ!!!」

ゴジラのアッパーはシールドエネルギーさえも貫通してオータムの

腹部に突き刺さった。

    「ゲホッゲホッ!う、おぇぇぇっ」

腹ばい状態に倒れたオータムの口から胃液と血が混ざった吐しゃ物が

吐きだされ、部屋の床を汚している。そんなオータムに近づいたゴジラの

足が、オータムの頭を真上から押さえつけ、吐しゃ物に水たまりに

彼女の顔を押し付けた。

ゴジラ「は、ハハハ!クハハハハハハ!!無様だなクソババア!

    気分はどうだ?自分のぶちまけたクソで自分の顔を

    汚される気分は!ん?」

オータム「っの、ガキがぁ」

ゴジラ「ククク、良い目だ。さぁ、もっと俺を――」

そう言って頭から足を離し、それを後ろへ振り上げるゴジラ。そして

   「楽しませろぉ!」

オータムをサッカーボールのように蹴飛ばした。

爆音と共に壁に激突し煙を上げながら壁にめり込むアラクネ

   「どうした?もう終わりか?あれだけ息巻いておいて

    随分ショボい幕切れだなぁ」

と、その時、無数の糸が煙の中から飛び出してきてゴジラの体に

巻き付いた。

一夏「ッ!機龍!」

オータム「ハァ、ハァ、ハァ。…バカが。捕まえちまえばこっちのもんだ!」

煙の中から顔の汚れを拭ったオータムが出て来た。

アラクネの第2の腕には特殊な素材で出来たワイヤーの射出機構があり、

それを撃ち出してゴジラを縛り上げたのだった。だが……。

 

ゴジラ「ほう。獲物を封じ込め、じわじわと喰らう。成程、見た目通りの

    蜘蛛だな貴様。……しかし知って居るか?

    獲物の力量を見誤ったハンターの末路を!」

次の瞬間、ゴジラの体から黒い瘴気が溢れ出し、ルームの床を

覆っていった。今、一夏は自分の足元を見るが、彼の目には自分が

今何もない暗闇の底に引き込まれ始めているように錯覚し、慌てて床から

飛び上がった。

 

と、その時、ゴジラの体から仄かに湯気のような物が立ち上り始め、

次第に周囲の空間までもが歪んで見えだした。それが意味するのは

ゴジラが高温状態である事だ。そして、その高温はゴジラの体に

巻き付いていた糸を簡単に溶かしてしまった。

 

オータム「バカな!?その糸はそんじょそこらの火や炎であぶっても

     溶けない代物なんだぞ!?それをどうして!!」

ゴジラ「ふん。……糸を用意するなら、もっと溶けない物を

    使うべきだったな。さぁ、パーティーは終わっていないぞ。

    まだまだ、俺を楽しませろ。もっと、もっともっと!

    殺し合おうじゃないか!!クハハハハハハ!!」

 

狂気とも取れる笑みを笑い声を上げるゴジラの体に、黒い瘴気が

まとわりつき、覆っていく。

そして、その瘴気が晴れた時、現れたのが……。

 

黒龍『GYAOOOOOOOON!!!!』

 

ラウラとの初めての戦いの時、彼女の頭を握りつぶす寸前まで追い込んだ

暴君の姿、黒い機械の体、血の如く紅い目、毒を連想させるラインを

持った、『黒龍』がその場所に立っていた。

 

 

新たに一夏達の前に現れた謎の敵、『ファントムタスク』。

だが、その敵の前に立ちはだかるのは、世界最強にして絶対の暴君、

『ゴジラ』だった。

 

     第14話 END

 




というわけで、ゴジラ本格的覚醒&参戦です。
これ、オータムとマドカの死亡フラグ確定かな?

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