セカンド スタート   作:ぽぽぽ

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第26話

 教室の空気には、まだ朝の寒さが残っていた。窓の隙間からわずかに風が入り込み、さむ、と呟く声が聞こえたのか、窓際に座る生徒が静かに閉めた。

 生徒たちは皆決められた席に座り、机の上には教科書を広げている。興味深そうに授業を聞くものが大半であるが、数人の生徒は眠気に打ち勝てず頭で船を漕いでいる。  

 そんな中、ネギ先生が教壇で教科書を読みながら、歩く。黒板の前を左右に移動しながら英語の教科書を持つ姿は、知らぬ人が見れば教師の真似事をする可愛らしい子供にしか見えないだろう。

 

「では、今の部分を誰かに日本語訳してもらいましょう」  

 

 ネギ先生がそう言うと、夢の世界に誘われていた数人は、バッと音を立てて目を覚ました。当てられるかもという空気を感じて即起きられる芸当には拍手を送りたいが、その技術を覚えるより前に、もっとできることがあったのではないか。

 

「えーと、それじゃあ……」  

 

 ネギ先生が誰かを指名しようと教室を見渡す。しかしネギ先生と目が合ったものは、その自信のなさからかすぐに視線を逸らす。彼が見渡すとそれぞれが順に顔を背けていくため、応援席で見るようなウェーブが出来上がっているようであった。  

 えーとえーと、と顔を合わせない生徒に困惑しながらも、ネギ先生は首を左右にして指名する者を探る。すると、彼の目線が明日菜の方に向けて止まった。

 

 明日菜は冷や汗を滴ながら、必死に窓の外に顔をやる。嫌な予感はしているのだろう。決してネギ先生に向き合わず、明日菜は顔を逸らし続ける。ちらりと、ネギ先生に目をやると、彼はまだ明日菜の方を向いている。  

 未だにターゲットにされていることを察し、明日菜はゆっくりと息を吐き、急に落ち着いた顔つきになる。滅多に見れない明日菜のそんな表情は、まるで延々と雲を眺めている老人のようであった。  

 

 

『私思うんだけどさ、先生ってあまりにも堂々としてる生徒にはあてないと思うの』

 

 いつの日か、明日菜がそんな風に言っていたのを私は思い出していた。そんなことないと思うが、と私が返しても彼女はため息を吐きながら首を振っていた。

 

『だってさ、七海。堂々としてる生徒は多分答えを知ってるのよ。先生達は分からない生徒にこそ勉強させたいと思ってるから、逆にそわそわしてたり不安そうな子に指名するの』

 

 一理あると思ってしまった。その後、だからこそ土壇場でそれっぽい顔をするのが重要なの、と言い放った明日菜には、いや分かるように勉強するのが重要なんだが、と言ったのだが。

 

 そして今明日菜がしているあの顔こそが、彼女が中学生活で得た、教師に当てられないための技術の結晶なのだ。

 

 

 

 

「では、そうですね……。明日菜さん! お願いします! 」    

 

 悲しいことに、子供先生には明日菜の必殺技は通用しなかったようなのだが。  

 

 

 

「ちょ、ちょっと! なんで私なのよ! 」

 

「明日菜さんにはこれからお世話になりますし……」

 

「だったらなおさら恩を仇で返すんじゃないわよ! 」  

 

 先生が生徒を当てるのは当然であり、そこに決まりなどないのだが、明日菜は逆ギレしていた。  

 

 ここまで聞いて、数人の生徒が息を呑む音が教室には響く。大抵の先生は指名方式が確立されていて、それは出席番号順だったり席順だったりする。  

 しかし、ネギ先生にはそれがない。まったくのランダムで不規則制。当てられる順番が把握できれば事前に準備が出来て、尚且つ自分の番が来ないと安心出来る。それがないとなると、授業中安息の時間がない。

 これは見た目に反して厄介な教師だぞ、という心の声がクラス中に流れているような気がして、私は軽く呆れる。

 

「ほ、ほら、分からなくても挑戦してみることが大事ですよ! 簡単な英文ですし! 」

 

「わ、わかったわよ…………」  

 

 明日菜は抵抗を諦め、がたりと音を立てて席を立つ。教科書を両手に持ち、書かれている英文を睨み付けながら和訳に挑戦する。

 

「えと……えー、スプリングが噛む? あー、ふぉーるして私は高い木になる? えー、と、…………」

 

 教室中がしんと静まる。和訳だというのに片言の英語が混ざっている明日菜の答えは、完全に無茶苦茶であった。

 

 

「……あーあの。明日菜さん、そ、そこまでで大丈夫です…………」  

 

 ネギ先生が額に汗を流しながら明日菜の回答をすぐに止めた。訂正が追い付かない明日菜の英語力を垣間見て、何とも言えない表情をしている。

 

「えっとですね、明日菜さんは、もしかして英語があまり得意では……」

 

「ネギ先生、明日菜さんは体力だけは人一倍あるんですが、英語となるともう駄目なんですわ」

 

「そ、そーなんですか」  

 

 あやかがいつの間にかネギ先生に近より、そう呟く。恥をかかされたと感じたのか、明日菜は未だに立ったまま教科書を持ち耳を赤くしてプルプルと震えているのが、教室の後ろの席にいる私にも分かった。

 

「ちなみに明日菜は理科も苦手ネ」

「社会も不得意だね」

「数学は残念」

「国語は頑張りましょう」 

「体育は素晴らしいんだけど」  

 

 他の生徒も次々と明日菜の各教科の評価を述べる。皆の前で体力バカと言われているようで、その度に明日菜の耳の赤みが増していき、私はそろそろ止めるべきなのではと声をかけようとした。

 

「ま、私に任せて下さい! 明日菜さんに代わって華麗に訳してみせますわ! 」  

 

 教科書を片手に持ち、自信満々の顔をしてあやかが回答しようとする。その時であった。

 

 

「むきーーー!!!! 」

 

「やばい! 明日菜がいいんちょに襲いかかった! 」

 

「いいんちょも抵抗してる! 」

 

「女同士とは思えない激しく醜い争いが! 」

 

「ネギ君は唖然としてる! 」

 

「明日菜に食券10枚! 」

 

「いいんちょに10枚! 」

 

「仲介班いっそげー!! 」

 

「七海ー! 早く来てーっ! 」  

 

 暴れだした彼女たちに便乗して、他の生徒たちも祭りの如く騒ぎ出す。ネギ先生は二人の喧嘩を前にしてあたふたと混乱しているようだ。  

 大人しく席に付く何人かの生徒が、私をじっと見つめているのを感じた。小学校から変わらず彼女達を止めるのは私の役目となっているようで、早くなんとかして、という期待の目が私に集まっていた。  

 

 私は周りにじっと視線を返してから席を立ち、暴れる二人の前まで行く。  

 

「……二人とも、その辺にしておけ」    

 

 私が二人の頭をぽんと叩いて喧嘩を止めるのと同時に授業の終了を知らせる鐘の音が聞こえた。つまりこの瞬間に、二度目のネギ先生の授業が終わりを迎えた。    

 

 

 

 ○  

 

 

「ほんとにもー! ネギ坊主め! 」  

 

 午前中の授業を終え、クラスメイトが教室で各々の昼食を食べている中、明日菜がガツガツと弁当を頬張りながら愚痴を言う。  

 明日菜の弁当は木乃香が作ってくれたようで、彩りがよく栄養バランスにまで気を使っているのが見える。まさに木乃香の優しい性格を表している弁当であった。因みに当の木乃香は占い同好会の集まりがあるらしく、席を外している。

 

「明日菜、米粒が飛んできてるぞ。それに今日の授業で悪かったのは私達生徒の方だ」

 

「うっ……。そーだけど……」  

 

 明日菜の横に机を付けた私が忠告をしていると、向かい側に座るあやかが豪華な弁当からおかずを箸でつかみ、上品に口へと運んでいる。

 

「明日菜さん、まだ言ってるんですの。寧ろ私は先程の授業のことを謝りに行きましたわ。ネギ先生は今時珍しいとても素敵な子だと思いますの。ねぇ千雨さん」  

 

 あやかはおかずをもぐもぐと咀嚼し飲み込んだ後、長谷川さんにそう尋ねた。  

 

「……その前にちょっといいか。……なんで私はこの輪に入れられてるんだ」    

 

 購買で買ったパンの袋を開けることもせず、長谷川さんは若干のイラつきを示しつつ答える。その疑問に対して、明日菜は頭を傾げた。

 

「なんでって、今日は七海と食堂行かないんでしょ? なら私らと一緒に食べればいーじゃん」   

 

 普段弁当を作らない私は食堂を利用しており、長谷川さんも同様のためよく一緒にお昼を共にしていた。しかし今日は食堂があまりに混んでいたため、購買でパンを買って教室で食べようとなったのだ。私達はパンを片手に教室に戻ると、すぐに明日菜に一緒に食べようと誘われた。私と共にいた長谷川さんは、明日菜の強引な誘いに断る間もなく無理矢理席に着かされ今に至る。

 

「私も千雨さんとは前々からお話したかったのですわ。七海と仲良くしている所をよく見ていましたが、今まであまり機会がありませんでしたからね」

 

「……はぁ。別に話すことなんかそんなにねーぞ」  

 

 長谷川さんが諦めたように溜め息をつき、持っているパンの袋を開け始める。この場から離脱することを断念し、共に昼食を食べることを決めたようだった。

 

「んじゃ私らが色々聞くから! 千雨ちゃん好きな音楽とか食べ物とかスポーツは?! 」

 

「千雨さんと七海との初めての出会いは!! 二人で遊んだりするんですの?! その時は何をなさるんですか!? 」

 

「まてまてまて! 一気に来すぎだ! いいんちょは七海のことばっかじゃねーか! 神楽坂は米粒飛ばすな! 」

 

 長谷川さんの制止をものともせず、二人はぐいぐいと迫っていく。二人に圧迫されながら長谷川さんは助けを求めるように私を見つめるが、私は静かに微笑んで、頑張れと心の中で告げた。  

 私はわいわいとはしゃぐ彼女達を前にして、友達同士が仲良くなる瞬間とは嬉しいものだな、なんて呑気に思いながら、買ったパンを口にした。    

 

 

 ○

 

 

 騒がしい昼休みを終えて、午後の授業をいつも通り過ごし、放課後の時間となった。

 長谷川さんは昼休みにあった怒涛の質問攻めにより、いつもよりぐったりとした様子だった。あの後あやかたちに便乗して長谷川さんと仲良くなろうとした子達も集まり、てんやわんやになっていたのだ。

 長谷川さんはうっとうしそうにしながらも、それぞれのご飯を食べ終わる頃には今までクラスメイトにしていた壁をなくして話しているようにも見えて、それがまた私には嬉しかった。  

 

 

 皆が部活動もしくは帰宅しようと教室を出るのと同時に、私も廊下に出る。大学の研究室に向かうという目的もあったが、それと同時に、帰りの会の後すぐに教室を出てったネギ先生のことも気になったのだ。  

 

 放課後だからか生徒達の明るい声が行き交う学校を、足早に抜けた。中等部の玄関を出て、晴天の下で大学へ向かう道ながらにネギ先生の姿を探す。  

 制服を着替え、各々の部活動用の服になった生徒ばかりが目につき、ネギ先生は一向に見つからない。  

 

 ……あてが外れたか。職員室のほうか……?  

 

 そう思いながらも、私はきょろきょろと周りを見る。  

 ゆっくりと歩きながら捜索を続け、少し外れの中庭の方に目をやると、噴水の近くの階段で腰を下ろしている赤毛の頭を見つけた。  

 中等部園内にいる赤毛の少年など、ネギ先生以外にあり得ないだろう。ネギ先生は座って空を見ていて、私には気付いていない。

 

 噴水の水が跳ねる音を耳にしつつ、私は緩やかに彼に近づき、膝を折って後ろからそっと声をかけた。

 

「……ネギ先生。こんな所でどうしたんですか? 」  

 

 私の声に驚いたのか、彼はびくりと肩を震わしてから此方を振り向いた。

 

「っ! 七海さん。……どうしてここに? 」

 

「ネギ先生の様子が気になったので。落ち込んでいるように見えましたから」  

 

 そう言うと、彼は驚いた表情で私を見た後、そっと目を伏せた。

 

「……はは。生徒に心配されちゃうなんて、駄目ですね、僕。授業も満足に出来ないし、明日菜さんには嫌われてるみたいだし」  

 

 小さな声で、彼はぼそりと呟く。  

 

 

 ……やはり、この年の子にはまだ厳しいのかもしれない。  

 

 私は彼の横にすっと座り、どんな言葉をかけるべきなのかを悩む。  

 

 少しの間、私達の間には沈黙が続いた。コンクリートの冷たい感触を臀部に感じつつ、部活に励む生徒の声を遠巻きに耳にするばかりであった。ネギ先生の顔を見ると、深く考え込むような顔をしている。励ましの言葉を掛けなければ、と私が声を出そうとしたその時、彼はすっと立ち上がった。  

 

 顔を上げ空を見て、ぐっと拳を握ってから、言う。

 

「でも!こんなことではへこたれませんよ!まだ始まったばかりですし、何も満足に出来ていません!僕の教師生活は、ここから、ですよ!七海さんにはちょっとカッコ悪いとこ見せちゃいましたが、もう大丈夫です! 」

 

 

 ネギ先生は空に向かって拳を振り上げ、自分を鼓舞する。私が横で座って呆気にとられていると、彼は微笑みながら私を見る。

 

「弱音を吐いたら吐いた分だけ前を見なさい、って故郷の姉にも言われてたんです。失敗したとき、それを愚痴にするのはいいけど、前を進んで行かないのはだめだって」  

 

 生徒に弱音を吐くこと自体が間違ってるのかも知れませんが、と続けて彼は頭をかく。

 

 聞き覚えのある言葉に、私は思わず目を見開いていた。      

 

 

 

『私にだって、弱音を吐きたい時はあるわ』  

 

 疲れた様子で家に帰り、珍しく酒に酔った妻がそう言っていたのを思い出す。自身の研究に行き詰まり、その上他の教授に目の敵にされ、その時妻は私に初めて後ろ向きな発言をした。その内容は他人を悪く言うものではなかったが、どうしたものかしらね、と悩む姿は、見ている私をも悩ませた。

 

 だが彼女は、酔いに任せ散々言いたいことを言った後、一人で立ち直った。

 

『人生ずっと順風満帆なんて行くわけないもの。苦しいことも辛いことも悩むことも沢山あるに決まってるわ。……でもね、一度弱音を吐いた後は前を見るって決めてるの』  

 

 妻は酔いが治まったかのように静かに笑いながら私にそう言って、相談に乗ってくれてありがとね、と私の額をつついた。        

 

 

 

 

 

「ネギ先生なら、きっと大丈夫だ」  

 

 気付けば私も立ち上がり、彼の頭に手をやる。

 失敗はあっても、彼は一人で立ち上がって、前を向けた。ならばきっと、これからも大丈夫だ。

 撫でられたことでネギ先生は少し照れ臭そうにしながらも、元気を取り戻したかのように大きな声を出す。

 

「よし! それじゃあ! とりあえず、クラス全員分の成績を把握して、それに見合ったプリントを作って、それからそれから…………」  

 

 ネギ先生は自分で解決案を探り、ぶつぶつ呟く。  

 

 その時、ふと、誰かの息づかいが後ろから聞こえた。ひっそりと振り向くと、私のよく知る少女が、こちらに向かって全力で走ってやってくるのが見えた。

 

 

「ネギ先生、その前に」  

 

 私は彼に後ろを向くように促す。よく分からぬまま彼は体の向きを変えると、此方に来る明日菜に気付いたようだ。  

 

「彼女と仲良くなれるんじゃないか? 」  

 

 そう言って、私はネギ先生の背中を押した。  

 

 

「ネギ坊主! 探したわよ! 」

 

「明日菜さん……。どうしてここに?」

 

「えーと、それはその……。なに落ち込んでんのよ!……じゃなくて、えーと、あの」  

 

 

 私達の前で急停止し、明日菜は何か言おうとしている。突然やって来た明日菜の意図を読み取れず、ネギ先生はオロオロと私と明日菜を交互に見る。

 明日菜はしばらく言うべき言葉を探るようにしていたが、一度深呼吸をすることで覚悟を決めたようだ。  

 

「ネギ。悪かったわよ……。授業中暴れちゃって」

 

 明日菜は、すっと手を前に差し出してそう述べる。口をすぼめ、少しうつむきながら手を出すその様子から、彼女がネギ先生に歩み寄ろうとしていることがよく分かった。  

 

 ネギ先生はそんな明日菜をみた後、ぱぁっと表情を明るくし、私を一瞥する。

 

「いえ!僕もしっかり授業できなくごめんなさい」

 

 嬉しそうに笑顔を浮かべながら、彼はぎゅっと明日菜の手を握り返した。    

 

 

 

 それが、今後も宜しくという握手なのか、仲直りの握手なのかは彼らにしか分からないが、二人が手を握り会う姿を見て、何故か私は心を強く打たれた。  

 この二人ならば、どんな問題を切り抜けられるだろうと、脈絡もなくそう思った。    

 

 

 

 

「では、明日菜さん! せっかく同じ部屋なんですから、夜は僕と英語の勉強をしましょう! 」

 

「……………………へ? 」

 

「心配いりませんよ! とても簡単な英文から教えますから! 」

 

「い、いや、あの、私朝バイトで早いし」

 

「三人称単数って分かります? 過去形は? あ、疑問詞って知ってますか? 」

 

「う、うわー!! 」

 

「ちょ、待ってくださーい!! 」    

 

 質問に耐え切れなくなった明日菜は逃げるように凄まじい俊足で走り去っていき、ネギ先生も負けずとそれを追いかけていく。    

 

 気付けばいつの間にか私は一人にされていて、先程のやり取りを思い出してクスリと笑った後、私はそのまま大学へと向かっていった。

 

 






小ネタ
『帰宅部』





「あら、千雨さん。今お帰りですの」

「ん? ああ、委員長か。そっちこそ、部活はいいのか?」

「今日はお休みですの。千雨さん、部活動は……」

「してない。今から帰宅するとこだ」

「つまり帰宅部ですか」

「そうなるな」

「……んー」

「……どうした?」

「帰宅することが活動だとしたら、一応部活動をしていることにはなるんでしょうか」

「……意外とくだらないことを気にすんだな」

「なぜ無所属を帰宅部と称するんでしょう」

「まぁ、何もせずに家に帰るからだろ」

「結局みんな家には帰るんですが」

「帰宅部に入るような奴は速攻で帰宅するからな。帰宅のエースといってもいい。そういう悲しい奴らのことを帰宅部っていうんだろ」

「私、家ですることがあるならばすぐに帰宅する人を悲しいとは思いませんわ」

「……そか。ま、私も立派な帰宅部だから、さっさと帰らせてもらうわ」

「……いえ、待ってください千雨さん」

「なんだよ」

「せっかくなので一緒に帰りませんか。少し、寄り道でもしながら」

「……」

「嫌、ですか?」

「……たまには、そういう帰宅をしてみるのも、帰宅部としていいかもしれんな」

「くす。そうですね。友達とあまり通らない帰宅通路も探すのも、立派な帰宅部の活動だと思いますわ」

「……じゃ、一緒に部活動するか」

「はい。仮入部させてもらいますわ」



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