億千万の悪意と善意   作:新村甚助

7 / 36
07:イレギュラーの話、または女神と悪神と神殺しの会話

8人目が生まれたらしい。

日本人らしい。

 

俺の体には盗聴器が仕掛けられているらしい。

正確にはアンリマンユの残滓らしいが。

 

俺は生と死の境界でのことを限定的に覚えているらしい。

それもアンリマンユの残滓に由来するものらしいが。

 

 

--幽界、女神と悪神と神殺しの会話

 

「久しぶりね。

何年振り?」

「一年とちょっとくらいじゃないすかね、義母さん」

 

 サタンとの戦闘の結果として、またいつの間にかよくわからない空間に来ていた。

 目の前には義母さん、そして、義母さんの後ろにサタンの姿がある。

 

「とりあえず、今回は!なんと!権能増えます!!」

「やったあありがとう義母さん!!」

 

 義母さんがものすごい笑顔でこちらの手をつかみまわりだした。半ばやけになりながらそのノリに乗る。

 師匠は「師匠」って感じだったし、天涯孤独のこの身は母性に飢えてはいるのだ。義母は大事に。

 義母さんは義母さんで、未熟児が丈夫に育ってほしい母親の心境なのだろうと思う。あくまで想像だが。

 サタンの強面から放たれるジト目はとりあえず気にしないことにする。

 

「そろそろ、よいか?」

 

 数周回ったところで変わらずジト目のサタンが声をかける。

 

「はいそうしましょう。」

 

 義母が唐突に手を放す。

 切り替えが早すぎて、今度は乗りきれなかった。

 もう一回「わーい」と言いかけた俺がいたたまれない。

 

「うむ。

…おぬしは悪神と善神から加護を得ていたのだな。

それも感情を集める類の」

「そういうことってわかるもんなのか?」

「幽界に入ってやっとわかったことではあるがな。

貴様の中の悪神が、吾輩の力を欲しているのがよくわかる」

「それ、集めるっていうか、吸収するって感じじゃねえか」

 

 確かに、サタンを前にしてアンリマンユの権能?が活性化していることは感じていた。

 

「そこらへんは私が言わなければならないことですので、とらないでくださる?オジサマ」

「承知した。

告げよう。

人を導け、自分の正義を信じよ。それがたとえ神への反逆だとしても。

まあ、神殺しに言うことではないかもしれないがな」

 

 サタンは消えた。

 強面のくせに様になった妙にいい笑顔で消えていった。

 ルシフェルこそ真の救世主であるとする派閥があるとも聞くし、そういう側面から出た言葉だったのかなと少し考える。

 

「はい!

あなたはイレギュラーっぽいからいくつか言わなきゃならないことがあります!

1つ、あなたは監視されている!!

あなたが食べたアンリマンユさまの残滓があなたの体というか精神と絡まってる感じなのよね。

おまけに、それを通して真なる神としてのアンリマンユさまがあなたのことを監視しているみたいなのよねえ…」

「ストーカーか何かか!?」

「それくらいならかわいいくらいだと思うけど…

まあ、現世に思い切り干渉してる私が言うことじゃないかもしれないけどね」

 

 実害は実感していないのだが、起きないでくれるとありがたい。

 思う間も、女神の言は途切れない。

 

「次、前の窮奇の時のここでの話を覚えてる?」

「苦い顔をして仕方ないからって権能を渡されたことなら。

記憶力は悪いほうじゃないと思うぞ」

「はい!

本来はそういうこと、ほんのかけら位しか覚えてません!

普通は苦い顔していたような気がする、くらいです。

たぶんだけど、アンリマンユさまの残滓が記憶した情報を得ているのではないかしら?

それが2つ目です!

で、3つ目!

つい先日、8人目が生まれました。ちゃんちゃーん」

 

 ファンファーレだろうか。

 

「本来なら教えないんだけど、あなたと同じ日本人みたいだしね。

関わりは薄そうだけど、出会ったら先達として何かしら教えてあげてね」

 

 一拍。今までの話の中で少し違和感があった気がする。

 

「8人目?7人目は?俺、6人目だよな?」

「え?知らなかったの?

あなたが生まれたほんの数日後の話よ?」

「そうなのか、なんというか、子だくさん万歳って感じだ」

「そうね、それいいわね」

 

 子だくさん万歳がツボに入ったらしい。

 

「とりあえず注意事項は言いました。

必要があったらあなたの中のアンリマンユさまの残滓が覚えているでしょう。

ではまた、よい神殺しとしての日々を」

 

 言われ、視界が暗転した。

 

 

--

 

 半壊した寺院跡から双子の待つ町まで、歩いて帰る道すがら、幽界とやらで与えられた、そして義母曰く、アンリマンユから必要だ判断され、渡されたのであろう情報について考えてみることにする。

 

 とりあえず、「8人目」について、日本人だということは知ったが、どこの誰かもわからんから出会ったら何かするくらいの認識でいることにする。

 俺の場合は、話していたら笑って消えたという、主観的に見ればごく平和的な形だったが、師匠とかは力の極みという感じだったらしいし、その新しい、日本人(同郷)の神殺しがどのようにしてその偉業を成したのかという点に興味はある。

 出会ったら何かの代わりにでも教えてもらうことにしよう。

 

 

 次に、俺の中のアンリマンユ。

 こう考えると、「鎮まれ、俺の中の闇よ」とか素でできる存在になったんだなあと思わなくもない。やってみたいとも思わないったら思わない。

 話がずれたが、こっちは多分どうしようもないんだろう。

 まつろわぬアンリマンユの発言からして、俺のことを面白いテレビ番組か何かだと認識しているのだろう。または直接的に芸人か。

 直接的な害はないっぽいし、これもスルー安定だろう。

 

 そもそも、アンリマンユの権能?という扱いなのかどうかわからないが、サタンを目視した時点でアンリマンユの権能が活性化し、意味のある言葉をこちらに伝えようとしているのを感じていた。

 同じことは窮奇の時にもあった。こちらの時はもっと直接的にどういう神格なのかという情報が、頭の中に叩き込まれた感じだった。今回のサタンの場合についても、正体がわからないままアンリマンユの権能を意識していれば、アバウトながらもその来歴を叩き込まれたことだろう。

 逆に、というか、別な例として、師匠と権能ありで殴り合いをした時には、師匠の権能の行使に対してアンリマンユの権能が騒ぐことはなく、思い返してみればアフラマズダとの接触の時も、「あれがお前の天敵だ!」と叫んだのみで、どのような神格なのかといった情報は戦闘が始まる前はもちろん、戦闘が終わった後も伝えられることはなかった。

 

 手に入れた権能に対してもそうだ。

 窮奇の権能を手に入れた際に、それがどういう権能をふるうことができるのかといった情報を直感的に理解した。同時に、アンリマンユの権能が活性化しているのも分かった。

 与えられた情報は、「悪に属する神獣の召喚」と「善性を持つ対象の弱体化」だ。

 最も実際に掌握を進めようとした時点で、その情報がすべてではないことが分かった。

 特に神獣召喚の権能は、師匠相手に使ってもアジダハーカ以下の戦力にしかならなかった。

 それでも翼の生えた虎という見た目は格好が良かったので、兄妹弟子たちに見せびらかそうと召喚したところ、翼のある小さな虎になってしまった。愛らしいと双子の妹の方には好評だったが、俺含め男性陣は何とも言えない表情で固まってしまったのも仕方ないだろう。

 窮奇の権能には、神獣としての格を上げるための条件とかがあるのかもしれない。今回、サタン相手に使わなかったのもそのせいだ。物量相手に戦力になるかどうかわからない神獣を召喚する余裕もなく、その上サタンみたいな悪意の塊みたいな神格に、善性に対する弱体化の権能も意味はないだろう。

 しかし、アンリマンユとアフラマズダの権能については何も教えてくれなかった。

 自己再生がどちらかというとアンリマンユに由来するものであることを知ったのも実戦なら、権能が持つそのほかの能力の効果を理解したのもまた実戦だ。死に覚えの賜物である。

 

 サタンの権能についても、この思索に沈む前に叩き込まれた。

 曰く、十二枚の翼が背に生え、悪魔と堕天使を召喚し、死の呪いを付与する。

 窮奇よりも複雑な神格だからだろうか、漠然とした感じに磨きがかかっている。

 特に、「死の呪い」の辺り、取り扱いを注意しなければならない感じがビンビンである。

 

 思うに悪に属する神格の情報を教えてくれるものなのだろう。同じくその権能も。あくまで漠然とした、アバウトな情報としてだが。

 あるいは、(アンリマンユ)が統べるべき「悪」に、ふがいない俺が下剋上されないようにという手助けかもしれない。

 

 まあそれでも、ここまでの状況でも「この世すべての闇(アンリマンユ)」とまた話してみたいとか思う俺は狂ってるかもしれない。

 

 

 考えて、とりあえず「スルー」という結論が出たところでちょうど町に着いた。

 双子が迎えてくれる。

 それなりに心配してくれていたようでいつもより物理的にも身体的にも距離が近いように感じる。

 パンドラが義母さんなら、この双子は兄妹とか、それじゃなきゃ子供とかってこんな感じかなと思わなくもない。

 双子はすでに二ケタには乗っているから子供ではないか。

 

 その日は一番いい宿をとり、3人で一緒に寝た。

 お金掏られただろ?双子が一日で稼いでくれてました(泣)。

 心配してくれてありがとうとか、子供に働かせて自分はとか、いろいろ考えて少し涙が出た。

 




主人公が自覚していないことが多すぎて、それをまとめようにもネタバレにしかならないだろうなという現状。

とりあえず、現状の主人公の滅ぼし方だけ。正攻法。
周囲数十キロに知能が高い生物がいない状態で、同じ範囲の影を光によって消し、全身を原子レベルで消し飛ばす。

悪神の権能を取り込むと、その数と格に比例して難易度が上がります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。