億千万の悪意と善意   作:新村甚助

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聖魔王誕生!!編
04:修行編、或いは魔窟での死に覚えゲーの結果


--3年後、中国奥地

 

 出会い頭に軽く殴り殺され、殴り殺した因果応報とはこういうことかと軽く絶望したが、何とか生き残ることはできた。

 師匠は、「確かに心臓を破壊した」とか言っていたが俺は信じていない。信じたくない。信じたくなかった。

 

 師匠に生身の素手で、もっと言うならアンリマンユの権能はある程度効いたものの、アフラマズダの権能による自身の強化がほとんど効果を発揮していない状況で、真正面から殴り返しに行ったのが何かの琴線に触れたのか、俺は師匠の弟子となった。正確には無理やりされた。

 

 師匠とは師匠だ。羅濠教主、羅翠蓮。腕力と武道・武術、そしてそこに向き合う姿勢のみを重視する狂った女だ。口に出したら殺されるだけでは済まないだろうが。

 後に、神殺しであるという意味で同格だからと名前は教えられたが、武術の師であるから「師匠」と呼ぶことを命じられている。

 ここ数年は、師匠と年下の兄弟子である陸鷹化、そして弟弟子でもあり俺が保護した孤児の双子の兄妹としか話していない。

 

 

--3年前、パキスタン某所の小村近く

 

 師匠に殴り殺された後、師匠は戦闘の余波によって周囲に散らばった俺の荷物から地図を拾い上げ、中国奥地の某所を指さし、

 

「ここに来なさい。稽古をつけてやります」

 

 そう言って、文字通り飛ぶようにどこかへ行ってしまった。

 無視するのは怖すぎたのでその言に従い、中国へ向かうことにした。

 

 それでも、食べ物も飲み物も失った身では不安しかなく、同時に、アンリマンユとアフラマズダの権能を掌握するためゆっくり向かおうと決め、ここ数日滞在している村へと引き返した。

 

 しかし、村に残っていたのは孤児の双子の兄妹だけだった。井戸で水は確保できたが食べ物はなかった。

 滞在中、村全体で育てられていた彼らは、新しいことを教える俺に比較的懐いていたので、何とか状況を聞き出すことができた。

 

 要約すると、

 

 悪いものが迫ってきている→逃げよう!

 

 である。

 

 まあ、当然である。人は正体のわからないものに対する本能的な忌避感を持っている。

 兄妹は、置いて行かれたといっていた。

 彼らの話の中に、生贄という意味の言葉も入っていた。

 つまりは兄妹を食べて勘弁してくださいということだ。

 最初から、そういうときのために生かされていたという側面もあるのだろう。

 

 よそ者の俺はどうでもよかったのか…。

 少し落ち込みながらも話を続け、結局、兄妹を連れていくことにした。

 自己満足ではあるが、少なくともこの兄弟にとって、現状よりも幸せにはなるだろうと思ったからだ。

 

 そして人口密集地を避け、小村やスラム、キャンプを転々としながら、いつものように正規以外の方法で国境を越え、

 旅を続け、

 魔窟へとたどり着いてしまった。

 

 

--

 

 修行は正しく地獄だった。

 修行、手合わせとは名ばかりで、一方的にぼこぼこにされた。

 文字通り何度も死んだ。

 その過程で自身の権能の掌握も進んだのは皮肉だったが。

 さすがに、兄弟子に顎から上が吹き飛んで、ボコボコと音を立てながら再生する自分の映像を見せられたときは、自分の人外具合に驚愕し、そしてグロ画像に対して吐いたが。

 

 師曰く、俺の不死性は「異常」とのことだ。

 相手が師匠だし、現状でも未来でも勝てるイメージが浮かばないことから、アンリマンユとアフラマズダとの殺り取りと話したところ、「迂闊だ」といったん殺された。

 

「あなたの不死性は、アフラマズダの成長と再生をつかさどるものだけではないように思えます。

アフラマズダではなくアンリマンユの、根絶不能な悪の性質そのものでしょう。

アンリマンユが司るはこの世すべての悪。

悪は不変のものとして、いつどんな場所だろうと、全くないということはありえません。

根絶したと思っても同様です。どこにでもあり、どこからでも現れるのが悪であり闇です。

思うに、あなた自身が悪性を持つ限り不死なのではないでしょうか?」

(さすがにこの世に悪がある限り不死、なんてことはないと思いますが)

「悪による不死性ですか?」

「そもそもまつろわぬアンリマンユは、悪と闇がはびこる場所に唐突に表れ、悪人をさらって消えていくということを繰り返していました。

ヨーロッパの狼公が対峙し、致命傷を与えたという話も一時は広まりましたが、その後も数年を挟んでいるものの、目撃証言が途絶えることはなかったように記憶しています。

そのうえで、アンリマンユが、自分そのものを喰わせたということであれば、あるいは不思議はないのかもしれませんね」

「えっと、つまり…」

「簡単に言えば、あなたは神殺しでありながら神、特に悪神アンリマンユに近い存在になっているということです。

これは私でも殺し切れるか怪しいですね。

まあ、殺せなくとも封じる術はありますからいいですか」

 

 勝手に納得されたが、今の俺は人間の皮をかぶった化け物らしい。

 ちゃんと死んでたんだな俺。死んでも死なないんだな俺。

 

 それからの修行は一層苛烈になってしまった。

 

 

--現在、中国奥地

 

 兄弟子の陸鷹化君には、武術ではいまだ敵わない。

 せいぜい一撃、有効打を与えられるかどうかといったところだ。

 権能を使っていないとはいえ、人類を超越する神殺しの身体能力を凌駕する軽く凌駕する、その武術の冴えはまさしく人類の可能性そのものだろう。そういって褒めたたえるものの、

 

「神殺しには敵いませんよ」

 

 と、ハイライトの消えた目でつぶやくのみだった。

 

 

 兄弟子曰く、双子は筋がいいそうだ。

 自分が同じ年齢の時にはこれ以上出来ていたとは語るが、同時に人の身で登り詰める限界を目指すことができる器を持っているとも言っていた。

 特に兄。俺の攻撃をいなせるってどういうことなの。

 

 併せて、偶にではあるが、師匠が魔法を教えてくれたりもした。これは兄妹も一緒に教わった。

 中国だと道術とか(タオ)とかいうものらしいし、火とか水とかそういうわかりやすいものではなく、自分の体を強化するというのが主題の技術だったが。

 後で思うと、この扱いを覚えたころから権能の効果が向上し、アジダハーカ召喚時の魔法の効率と威力が上がったように思う。

 

 

 なんだかんだ言いつつも、それでも権能は一つ増えている。

 師匠が気まぐれなのか何なのか、唐突に「南アメリカに行ってきます」と姿をくらませた(おいていかれた)時期に、神獣が現れたという話を聞き、修行の成果の試しがてらと出かけた結果だ。

 

 顕現していた神の名は「窮奇(きゅうき)

 有翼でハリネズミの棘をまとった虎の姿をしていた。

 疫鬼と呼ばれる病と不幸を振りまく神獣として顕現したが、数年をかけ、少しずつ人を喰らい、力を蓄えながら潜伏していたのが、土砂崩れで孤立した集落に住む人間を一気に喰らい、神としての格まで登り詰めたらしい。

 

 相手の悪性が強く、神格が低かったことからアンリマンユの権能はそれほど効果を発揮しなかったかわりに、アフラマズダの権能は異常なほど効果を発揮した。

 現世で数百人規模を一気に喰らい、悪性を高めた結果だったのだろうが、同時に、連れてきていた双子からの信頼も力に変換されていることに気付いた。

 

 いつものように殴り合いだが、今度は武器にアフラマズダの権能を付与することができるようになっていたので、それも使えた。

 

 過程としてはいつものように殴り合いであるが、結果としては一方的な勝利だった。

 知恵ある化け物としての顕現ではあったが、悪意を吸収しておらず呪力が人並みだった俺のことを旨い獲物だと考えたことが奴の敗因だったのだろう。

 

 パンドラ義母さんは苦い顔をしながらも、

 

「最弱とはいえ神の格、人の子を喰らいまくった悪神でもあるしあなたにあげるわ」

 

 と、窮奇の権能をもらうことになった。

 

 

 そして、今日、基礎の修了を認められ、武者修行の旅に出なさい、ということで、出発である。

 

 

 双子を連れ、インド、パキスタンを経由して、トルコあたりからヨーロッパに入ろうと思う。

 

 




この時点で6人目の存在は眉唾のうわさ扱いです。
パンドラはドニに7人目と発言して、ドニもそれを周囲に言っていますが信じられていません。
師匠は話していません。話す必要性を感じていないだけですが。

旅立ちの時点で、護堂が神を殺す前、前年の9月末くらいです。(修正)

現時点でのカモ(神)は善神かつ高位神格。
 不意打ちが入ると今度は何もできずにやられます。
現時点での天敵は中立性の高い裁きなどをつかさどる神です。
 中立性の高い神格だとバフはともかくデバフはほとんど効かなくなります。神格と善性だと善性が高いほうがより効果が高いです。

--
河村闇理(26)男 偽名
権能:
この世すべての闇(All of despair dark):デバフ

この世すべての光(All of luster light):バフ

悪の威を借る聖獣(Sacred beast from darkness):
 悪性を持つ者に対するバフ
  神獣として窮奇の召喚。窮奇は召喚者の善性と敵対者の悪性に応じて攻撃力を上げる
 善性を持つ者に対するデバフ
  5感、特に顔周辺の感覚の妨害、または封印
  
追記
一応ですが、狼公はワン公みたいなニュアンスになります。嫌ってるそうなので。

160318修正
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