億千万の悪意と善意   作:新村甚助

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10:聖魔王の号

 狼の爺との戦いと、エジプト神話のアヌビスとの戦い。

 正直、死ぬとも思ったが、何とか生き残ることはできたようだ。

 

 

--イラン某所、連戦の後

 

 連戦の後、目が覚めた俺の周囲には双子がそろっていた。

 俺の体の下は荒野ではなく、俺のリュックに入っていたはずのビニールシートが広げられている。

 

「俺たちがあなたの戦いについていけないことは理解しています。

それでも、…それでも一方的に守られ、そして心配することしかできないというのはつらいんですよ…」

 

 傍らに座る、双子の兄が言った。

 鏡で見たことのある、自分の無力感にさいなまれている表情で、だ。

 山を越えた先に武装した集団が見えたとき、突然の雨で川が決壊したのを見たとき、そういう表情をしていたことを覚えている。

 

 知らず、自分の知っている苦悩を与えてしまっていたようだ。

 見れば双子の妹のほうはすでに泣いている。

 

 よく見れば、俺の上半身はすでに裸だし、俺の再生のことを知っているのであれば、どれだけの戦いがあったのか、推測することは難しくないだろう。

 こちらもまた、少し悩み、言葉にする。

 

「君たちには普通に生きてほしいという思いも確かにあるんだけどなあ…。

まあ、俺と一緒に師匠にしごかれ、俺と一緒に旅をしている時点で今更かもしれないけど」

「俺たちは、あなたに恩を返したい。

そして、あなたとともに歩いてゆきたい。

あなたの見る光景をともに見たいんです。

…置いていかないでください!」

 

 言いながら、兄のほうも涙を我慢できなかったようで、ぼろぼろと涙をこぼし始める。

 

「参ったな。

気持ちはわかるが、どうしようもないんじゃないか、それは?」

「強くなります!」

 

 今度の返答は妹のほうからだ。

 兄が言葉を沿える。

 

「それで足りない分は、あなたが補ってください。

あなたが俺たちを守ってください。

あなたが、あなた自身が、俺たちに同じ景色を見せてください」

 

 言うようになった、というのが最初に思い浮かんだ感想である。

 誰に似たのか、ものすごい傲慢な考えだ。

 しかし、その言葉に、アフラマズダの権能が反応した。

 思い浮かんだ言葉を口に出す。

 

「最高神に生み出されし領域と信仰の守護者、クシャスラの名において、貴様らを我が神官たりえる者と認む。

我を信じよ、我に尽くせ。

その信仰は我が極上の贄にして、貴様らに最上の加護を与える代償となろう!」

 

 貴様とか、そういう強い言葉はあまり使いたくないと思っていたのだが、今回は自分の口ではないように言葉が出てきた。

 おそらくはアフラマズダの権能の一つ、領土と信仰に対して加護を与える権能。その最上級の力の行使のための聖句。

 

 双子から向けられる信仰が俺に呪力として吸収され、そしてその分の呪力が双子に向かって抜けていくのを感じる。

 信仰の強さに応じた神の加護。

 今まで与えてきたものは、本来の格からすれば加護というのもおこがましいような、少々の手助け程度のものだったらしい。

 今の双子たちからは神獣に匹敵するほどの呪力を感じる。

 双子たちの望んだとおり、神殺しとともに歩み、同じ光景を見るための最初の一歩を踏み出したということか。

 

「加護、ですか?

しかし、これは…?」

「力がみなぎるというか、すごく温かいものをいただいた感じです…!」

 

 状況の変化に先にに立ち直ったのは兄、次いで妹だった。

 妹のほうは感覚的ながら、今与えた最上級の加護を理解したらしい。

 

 双子の疑問に答える。

 

「さっきの言葉は、アフラマズダの信者に対して加護を与える権能の、その全力を解き放つための聖句だったらしい。

それで、君たちに、今与えることのできる最高の加護を与えたんだ。

簡単に言えば、今の君たちは神獣と殴り合えるくらいの格になっているんだ。

…こんな俺を信じてくれて、ありがとうな」

 

「ありがとう…、ありがとうはこちらのセリフです!

ありがとうございます、ありがとう!」

「ありがとうございます。

私たちはまだ未熟かもしれません。

でも、私たちはあなたと同じものを見るために、いつまでもお傍に…!」

「俺たちは、命ある限り、あなたを信じ、ともに歩むことを、改めて誓わせていただきます!」

 

 自分の道を歩んでほしい、とここでいうのは無粋だろう。

 この子たちは、自分でそう決めたのだ。

 それこそ、命を懸けて。

 ならば、信じられるものとして、それにこたえるのが俺の役目だ。

 

「ありがとうな。

今度からは置いていかないよ。

神との戦いも、神殺しとの内輪もめも、君たちに見守ってもらうことにするよ。

よろしく頼むよ」

「「はい!!」」

 

 

 神的に表現するなら、この子らは俺の巫女とか神官という扱いになるだろうか。

 次からは彼らに心配をかけないように、同時に彼らを危険にさらさないように、意識することにしよう。

 …できるだけ。

 

 

--トルコ某所、現地の魔術結社の拠点の一つにて

 

 回復した俺の様子を見て、兄のほうがどうするのかと聞いてきた。

 回答としては、「トルコへ向かう」だ。予定通りに。

 

 いつものように国境を強行突破して、今度は町で宿をとりつつ、平和に旅していたのだが、何が原因か現地の魔術組織に捕捉されたらしい。

 ごく平和に、ごく普通に旅行と観光を楽しみながらトルコの首都アンカラに到達した時点で、魔術師が接触してきたのだ。

 ただし、「神殺しとして」ではなく、「在野の魔術師として」の俺に対してだ。双子の呪力を見込んでのものでもあるのだろう。

 状況を見る限り、そして話を聞く限り、狼公が新人神殺しとイランで殺しあったといううわさはあっても、それが俺とはつながっていないようだ。

 この点はラッキーというべきだろう。

 しかし問題は、接触の理由の方だ。

 

「首都近郊に神獣が顕現いたしました。

我ら魔術結社"アナトリアの輝き"は国内全土の優秀な魔術師の招集を行っております。

つきましては、強力な呪力を有するお三方にもご同道をお願いしたいと思います。

これはあくまで願いではありますが、この地が襲われ、苦難を得るのは貴方様方も同じであることはご承知願いたい」

 

 正直、困るか困らないかでいえば、それほど困りはしないのだろう。

 しかし、自分ができるのに何もしないというのは俺の信条に反する。同時に心もすごく痛む。

 双子もこちらを見つめ、すでに心を決めていることを示している。

 代表し、回答する。

 

「了承した。

我らは"アナトリアの輝き"の援護を行う。

拠点へ案内をお願いする」

「ありがたく」

 

 

 以上がここに至った経緯だ。

 そして、会議室のような場所に通された俺たちの周囲には、おそらくは討伐のために集められた魔術師であろう者たちが集まってくる。

 子連れの俺に敵意をむき出しにするようなやつはいないが、怪訝な視線を向けるようなやつは何人かいた。

 

「集まっていただき感謝する。

私は今回の討伐戦の全体指揮を担当する"アナトリアの輝き"、その代表であるディランだ。

そして、こちらが…」

「前線指揮を担当する"巨人の足跡"の魔術師、ムハンマド・ユルマズだ。

ムハンマドでいい。

俺の方から状況を説明させてもらう」

 

 最初の感想は、若い、というものだった。二人とも、トルクメニスタンのおっさんの半分も年を取っていないのではないだろうか。声も高めだし、小柄な体系と相まって、当主たる親が急去し家を継いだのではないかと想像する。

 共同戦線ということか、神獣は災害ともされるから、それに対して複数の組織が共闘することはおかしいことではない。

 見れば前に立つ二人のローブと同じ色のワンポイントの入った服装の集団と、それ以外の色の集団がいくつか、そして、俺たちを含む色のない集団に大きく分けられる。色のない集団は俺と同じようにたまたま居たとか集団に所属していない者たちだろう。

 壇上でプロジェクターが光を放つ。

 

「約24時間前、ここから北東三十キロメートルの地点に呪力の集束が観測された。

同時刻、それを感知した我々の同志が神獣の顕現を確認。

顕現直後で自我が覚醒していないその神獣を撮影した画像がこれになる」

 

 言われ、皆がスクリーンに視線を向ける。

 映っていたのは一つ目の巨人だった。

 周囲の岩などと比べると、漠然と5メートル以上10メートル未満という程度だろうか。

 大きいことは大きいが、画像から威圧感などといった情報は感じず、アンリマンユの権能も騒いでいない。

 神獣ということから、俺どころか双子だけでどうにかできるのではなかろうかと考える。

 

 楽観的な俺の思考とは裏腹に、会議室の空気は異様に思いのだが。

 "前線指揮官"の話が続く。

 

「外見から、我らの民話に伝わる巨人、テペゴズの伝承に従い顕現したものと判断した。ただし神ではなく神獣として。

まつろわぬ神でなく僥倖であったというべきであろうが、今回、カンピオーネ様方の助力は絶望的である。

加えて、すでに巨人は覚醒し、付近の遺跡に陣取っている。

追加で派遣した我らの同志と"アナトリアの輝き"の魔術師が共同で人払いと認識阻害の魔術をかけ、事態を隠蔽しているが、いつ最悪の事態になってもおかしくはない」

「カンピオーネ様の助力が得られないとはどういうことだ!?」

「サーシャ・デヤンスタール・ヴォバン侯爵閣下に対する依頼の返答は、療養中とのことだった。

この結果に困惑しながらも連絡が取れる可能性のあるカンピオーネ様を探した。

しかし、ヨーロッパ近辺に拠点を持つカンピオーネ様方とはいずれも連絡がつかず、先日、イラン国内で侯爵閣下と争ったというカンピオーネ、草薙の王はすでに日本にいるということだ。

よって、すぐさま、どうにかするということは不可能である」

「それじゃ、俺たちだけで神獣をどうにかしなけりゃならんのか!?」

 

 所々で「無理だ」という声が上がる。

 そこまで"無理"なのか?俺の方が間違っているのか?と疑問を感じ始める。

 今度は"全体指揮官"の方が口を開く。

 

「知っての通り、神獣ほどの格との戦闘経験を持つ者はここにすでにおらん。

今ここにいる者たちの大半は、これまでの侯爵の戯れに巻き込まれた者たちの子供たちだろう。

神と呼ばれる格の恐ろしさはよく知っていよう。

此度の戦いが絶望的なものであることは我々とて理解している」

 

 隣の前線指揮官や、会議室内の数人がうなずいているのが見える。

 というか、神格に対する怯えとかの大元はあの爺のせいだったのか。どんな残虐なことをやったのかは知らないが、あの爺さんだったらやっててもおかしくないなあと思える当たり、罰当たりな爺さんである。

 そんな爺さんに神獣退治を依頼するというのもどうかと思うが、今回に限っては「俺のせい」と言えなくもない。

 あの爺さんが狸寝入りするようなたまには思えないし、サマエルの毒は相応の痛手を与えてしまっていたらしい。

 

 考える間に話は終わりに近づいていた。

 

「…しかし!どれだけ絶望的だろうと、自らの故郷を守れずして何が魔術師か!!

皆、出陣の時ぞ!命を惜しむな、誇りを惜しめ!

最後に栄光を手にするのは我ら人間ぞ!!いざ、征かん!!!」

 

 なんか、最初よりも大ごとになっているような気がしないでもない。

 しかし、口々に「征くぞ!」とか「命を懸けて一矢報いることができるなら儲けもんだ!」とか、盛り上がっているところに水を差すわけにもいかない。

 こちらを見つめ、闘気をたぎらせている双子を連れ、魔術師たちについていった。

 

 

--トルコ首都近郊、神獣の拠点付近

 

 第一陣として、いきなり前線指揮官の兄ちゃんを()()()、魔術師の約半数が突っ込んでいった。

 構成は単純に、剣や槍といった武器で戦うことのできる、組織に所属する魔術師の全員だ。

 俺たちはその後ろから支援攻撃を行う担当らしい。といっても俺の出番はまだ回ってきていないが。

 

 思う間に、前線が半壊している。

 死者は出ていないように見えるが、前線指揮官の兄ちゃんがいたあたりが巨人の足で薙ぎ払われるのが見えた。

 指揮官ならもう少し戦術とかを考えろ!

 思いつつ、双子に援護するよう指示を与える。

 

「あの神獣、神としての格はそれほどでもないし、倒しちゃって問題なさそうだ。

とりあえず前線に出てる兄ちゃんたちを死なせるわけにはいかないから援護するよ。

君らは神獣相手に少し時間を稼いでくれ。

今の君らなら問題ないと思うから、出来そうだったら倒してしまってもいいよ」

 

 言い終わったところで、アフラマズダの権能による強化を双子に与え、背をたたき、促す。

 

「「行ってきます!!」」

 

 元気がいいのはいいことだ。

 こっちはこっちの仕事を始める。

 前線にいる奴らが根本的にはいい人たちだと仮定して、アフラマズダの加護を与える。ナイフに対する権能の付与と同じように、しかし神格の上昇ではなく、自己再生能力の付与を行う。

 何人か、弾かれたような感覚を得たやつがいたが、前線指揮官の兄ちゃんを中心に、前線部隊の大体にはいきわたったようだ。

 後ろ暗いことをしていたやつらは天罰だと思ってくれ。できる限り助けるが。

 

 加護によってつながった前線部隊に指示を出す。

 もちろん撤退の指示だ。

 

「前線はうちの双子に任せていったん下がってください!」

 

 前線の兄ちゃんが何か言いたそうにしていたが、こちらは端から反論を聞くつもりはない。

 繰り返した撤退の指示に前線が引き始めたところで、巨人の元に双子が到着した。

 

 「危ない」だったのだろうか、そうでなければ「危険だ」とかか。

 その光景を見て、双子が巨人に踏みつぶされる光景を幻視したのは一人や二人ではなかったようだ。

 俺を除いて、だが。

 

「セイッ!」

 

 兄の方が、気を吐く言葉とともに、右拳で巨人の左膝をけり砕いた。

 横に九十度ほど曲がっているし、関節としての機能は完全に殺したとみていいだろう。

 

「フッ…」

 

 バランスを崩し倒れる体を支えようと動いた巨人に対し、妹が仕掛ける。

 飛び上がりながら拳で狙った場所は巨人の顎。

 直撃した拳の一撃は、前傾していた巨人の体を反らせ、そのまま後ろへ倒す。

 

 前衛部隊の唖然とした顔が向けられている双子は、しかし、それを無視して俺を見る。

 目は爛々と輝いている、つまりは「自分たちで斃していいのか?」ということだ。

 

 

 一応、経験を積ませるにもちょうどいいかなという思惑があったのは確かだが、俺の与えた加護の力は予想以上だったようだ。

 話に聞く日本の神憑りの巫女に引けを取るものでもないだろう。

 だが、こちらが強すぎたせいで、俺の心に余裕が生まれ、少し嫌なことにも気が付いてしまった。

 神獣といえども血が出る。そして顔にまで返り血を浴び、こちらを見る双子はあんまり教育にいい感じでもなさそうだ。

 

 何より、倒してもいいとは言ったが、殺して斃すところまでこの子たちに経験させたくもない。

 よって、首を振り、同時に「待て」という意思を加護越しに伝え、今度は自身に対してアフラマズダの権能を活性化させる。

 

 周囲の魔術師たちが、俺たちのことをある種の希望として見ていたことを権能越しに感じ、いつもより二割り増しくらいの、神速に迫る速度でもって、立ち上がろうともがき半身を起こした巨人に肉薄し、右拳をふるうことで巨人の頭部を消し飛ばした。

 

 巨人はその後数瞬もがいたが、すぐに光になって消え去った。

 返り血は消えなかったので、止めをこちらで刺した判断に誤りはなかったと思う。

 

「私たちでもやれました!」

 

 妹は不満げだ。兄の方も口にこそ出さないが不満げなその表情は消せていない。

 

「君たちに殺してほしくなかったんだよ。

一度殺すことを覚えてしまったら、もう戻れないからね。

どうしようもないときはもちろん別だけど、そのどうしようもないときが来ない限りは、君たちに殺してほしくはないな」

 

 どちらかというと「お願い」と言う感じだが、双子の不満げな表情がいくらか和らいでくれたのでいいと思うことにする。

 できれば、殺しを覚えてほしくない。できる限り、純粋に世界を見れるように育ってほしいのだ。

 

 

 魔術師の皆さんが静かすぎる気がして双子から目線を外し、周囲を見渡すと、百人弱の人間が平伏している光景が目に入った。

 トルクメニスタンのおっさんの時と同じ。

 言うつもりこそなかったが、特段隠すつもりでもなかったし、ここに来た時点でこの結果になること自体は理解していたつもりだ。

 さすがに、ガタガタ震えて平伏されるという状況までは想定していなかったが。

 

「すいません、頭を上げてくれませんかね?」

「おおお御身をカンピオーネ様とはつゆ知らず、数々の無礼な振る舞いを行ったこと、心から謝罪させていただきます!

罪は私のみにあります!なな、何卒、私の命で代償となさっていただけませんでしょうかぁ!!!」

 

 裏返ったりもしているが、声を聞く限り、最初に接触してきた魔術師だと思う。最初は顔を隠していて分からなかったが女の子、らしい。

 俺は今、女の子を土下座させて怯えさせている!

 心が痛い!!!

 

「立ってください!お願いしますから!!

ほら、皆さんも!!!

お願いしますよ!私の心が痛いんですよ!」

 

 同時に腹も痛くなってきた。

 しかし、言っても誰も立ってくれない。

 双子からじとっとした視線が向けられていることを感じ取れてしまう。

 混乱に拍車がかかりかけた段階で、"アナトリアの輝き"の全体指揮官さんが立ってくれた。

 こっちの人まで前線にいたのかローブが破れているようだ。

 指揮官二人して突っ込んで後衛組の指揮は本当にどうなっていたんだろうか。

 軽く現実逃避気味にそんなことを考えたことには理由がある。

 

 ローブが破れた指揮官さん、胸があったのだ。胸囲的な意味ではない。バスト的な意味だ。

 こっちも女の子なのかよ!と思っていたところで、周囲の魔術師たちが少しずつ立ち上がってくれた。

 全体指揮官の女の子が口を開く。

 

「すべての責任は、今回の討伐作戦を立案し、魔術師様方を招集した私にあります。

妹は私の指揮に従ったにすぎず、何も責任はありません。

その上で、私を贄とし、どうか怒りを鎮めてはいただけませんでしょうか?」

 

 姉妹かよ!

 思いつつ言葉を返す。

 

「そもそも何も怒っちゃいないよ。

何かを求めているわけでもない。

今回の討伐戦だって、俺の近くで人死にが出ちゃ目覚めが悪いっていうだけの理由で参戦したんだ。

そっちが何か贖わなきゃならないような責任はないよ」

「…御身のお言葉を、信じてもよろしいのでございましょうか…?」

「大丈夫だと思いますよ。

兄ちゃんは"いい人"ですから」

「うん!」

 

 子供たちの言葉は確かに保証としての力を発揮したらしい。

 魔術師さんたちの間にわかりやすいほどの安堵の空気が広がる。

 一部は神獣討伐を生き残ったことを実感し、喜びの声まで上げ始めた。

 

「カンピオーネ様。

このたびは我々にご助力いただき、その上、大けがした者たちの治療までしていただき、感謝の極みでございます。

これに対し、御身は代償はいらぬと申しましたが、それでは我らの程度が知れるというもの。

ついては、此度の戦で救われた我ら一同、御身に生涯の忠誠をささげたく存じます!」

 

 生涯の忠誠というあたりで双子がなにがしかの意味を含んだ視線をこちらに向けたことを感じたが、同時に魔術師たちから信仰という形で呪力が集まってくるのを感じ、同時に、少しだけ、加護という形で魔術師たちに呪力が流れていくのを感じ取る。

 少なくともアフラマズダの権能は、彼ら俺の信者として認めたということだ。

 なし崩し的にだが、俺はトルコの魔術結社を乗っ取ることになってしまったらしい。

 

 とりあえず、死人が出なくてよかったとだけ、思うことにする。

 

 

--数日後、イギリス、某所、賢人議会にて

 

「以上がトルコにて認められた新たなる神殺し、8人目、いえ、予言によれば6人目とのことでしたか。

その人物についての情報となります」

 

 言い、周囲を見渡す。

 

「現在わかっている権能は、信仰に対して加護を与えるものと信仰に応じて自身を強化するものか。

連れの子供たちが神獣を圧倒したとも聞く。与える加護は強力か。

だが性質が似ているな。併せて一つの権能ではないのか?」

 

「わたくしもそう思います。そのように訂正させましょう」

 

「その数日前には侯爵がイランで何かと戦闘したという情報があったな?

青銅黒十字からは"草薙の王"と戦ったという報告だったが」

 

「それについては先日お話しした通り、草薙の王はその時点で日本国内にいることが確認されております。

ヴォバン侯爵はこの6人目を8人目と勘違いしたのでは?」

 

「ではそちらも訂正しておくようにな。

ほかの情報はないのか?」

 

「トルコ国内の魔術結社はすでに"アナトリアの輝き"の元に統一されております。

スパイというわけではありませんが、彼の魔術結社から得た情報では、暗黒神の加護を得ている、というものもあります。

これもおそらく権能に関するものでしょうが、やはり、詳細は不明です」

 

「信仰に応じて強化を得る。おそらくは善に属する高位神格の権能。その上暗黒神の加護とは、また素晴らしい二面性だな」

 

「笑い事ではありません。

6人目の王は神獣の討伐に無償で協力したとのことですが、暗黒神の加護を得ているということは、そういった側面も持っていることを示しているのですよ!?」

 

 

 

「光と闇の側面を持つ王、聖魔王とでも呼ぶことにするかね」

 

 会議は終わる。

 「聖魔王」の名は、本人の知らぬ間に広がってゆく。

 二面性を持つ、最善にして最悪の魔王の名として。

 




やっぱり、聖魔王です。

160318追記
「俺たち」が双子の兄、「私たち」が双子の妹のセリフになります。
双子は基本的に複数形を一人称として用います。

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