艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー   作:きいこ

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今日初めて泊地水鬼と戦いました、拠点型なので損害(中破)にするのが限界…

そう言えば泊地水鬼は拠点型ですけど、その下位の泊地棲鬼は拠点型じゃないんですね、なんか珍しさを感じます。


第80話「大鯨の場合15」

 

 

『…これがだいたいの事の顛末です』

 

 

大鯨の話を聞き終えた台場の連中は全員拳を握る、その身は怒りで震えていた。

 

 

「ひどい…ひどすぎる…」

 

 

「こんなの…あんまりじゃないですか」

 

 

吹雪たちは殺意の籠もった目で怒りの言葉を口にする。

 

 

「あいつ、本当にひよこミキサーの刑になって死ねばいいんですよ」

 

 

「同感だな」

 

 

海原はそう頷くと、改まって大鯨の方に向き合う。

 

 

「大鯨、お前の事情は分かった、何も知らない俺が言っても何にもならないだろうが、気の毒だとは思うよ」

 

 

『じゃあ…』

 

 

「お前を殺すことは出来ない、今の話を聞いたら尚更な」

 

 

『どうして…!』

 

 

「お前は今まで、人間の負の面しか知らずにつらい思い出ばかりを抱えて沈んじまった、それしか知らないお前をそのまま殺すなんて出来るわけねぇよ、これからは楽しい思い出をいっぱい作らせてやる、それこそ沈みたくないって思うほどな」

 

 

そう言って海原はニヤリと笑って大鯨を見る、それを聞いた大鯨は戸惑うような顔をする。

 

 

『…そう言われても、私はもう…』

 

 

「それでも気が変わらないって言うなら、深海棲艦(そのすがた)でしばらくここにいればいい、俺たちがその気にさせてやる」

 

 

 

真剣な眼差しで自分を見る海原に対して、大鯨が何を思ったのかは海原には分からない、でも…

 

 

『…分かりました、少し…ほんの少しだけ、前向きに考えてみます』

 

 

その言葉が聞けたということは、自分の事を少しでも信じてくれたという事なのだろう、大鯨のその言葉を聞き、海原はありがとうと言って笑った。

 

 

 

 

 

『そうか、そんな事が…』

 

 

「はい、所長のお役に立つ情報かどうかは分かりませんが…」

 

その日の夜、海原は榊原の所へ電話をかけ、大鯨から聞いた話の内容を話していた。

 

 

『いやいや、十分すぎるほどの話だったよ、本当にひどい話だ、大鯨がかわいそうでならないよ…』

 

 

「俺もそう思います」

 

 

榊原はやりきれない思いを込めて言う、それには海原も同じ気持ちだ。

 

「大鯨の事もそうですが、大鯨の最期を見た大和も気の毒だと思います、彼女からも何かしら話を聞ければ良いんですが…」

 

 

流石に横須賀に行くのは危険だよなぁ…などと海原が考えていると、榊原が意外な提案をしてきた。

 

 

『なら、台場に大和を寄越そうか?』

 

 

「えっ?そんな事出来るんですか?」

 

 

『簡単だよ、艤装の調整という理由をつけて造船所に呼び出せばいい、そのまま台場に向かわせれば横須賀の佐瀬辺も騙せる』

 

 

本当にこういうことを考えるのは上手いよなぁ…と海原は感心半分呆れ半分で思う。

 

 

「分かりました、じゃあそれでお願いします」

 

 

『了解した、じゃあ日程が確保出来次第連絡するよ』

 

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 

 

そう言って海原は電話を切る。

 

 

「…さてと、こっからが勝負だな、まずは大和から話を聞いて…あわよくば2体を和解させられれば良いんだが…」

 

 

 

海原は椅子の背もたれに身体を預けて言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…大和さんが、台場に?』

 

 

その言葉を、大鯨が提督室の扉越しに聞いていたことを海原は知らない…

 

 

 

 

 

『はぁ…どうしよう』

 

 

海原の話を偶然聞いてしまった大鯨は鎮守府埠頭に座り込んでため息をついていた。

 

 

大和が来る、それは深海棲艦(このすがた)の自分と会う事を意味する、今の自分を見て、大和はどんな顔をするのだろうか…

 

 

「どうしたの?こんなところで」

 

 

『吹雪さん…』

 

 

どうしたものかと悩んでいると、吹雪が隣にやってくる。

 

 

『どうしてここが?』

 

 

「また勝手に死なれたら困るからね、こうやって交代で見回ってるの」

 

 

『そんな事しませんよ、海原提督にああ言っちゃいましたし』

 

 

「ふーん、なら何でここに?」

 

『実は…』

 

 

大鯨は提督室で偶然聞いてしまった電話の内容を吹雪に話す。

 

 

「そっか、大和さんが来るんだ、なら大和さんと話すの?」

 

 

『別に…話す事なんて何も…』

 

 

「恥ずかしがらずに、素直になっちゃいなよ」

 

 

『私はこれでも素直です』

 

 

そっぽを向いてそう言い切る大鯨を見て、吹雪は一瞬意地の悪い顔をして言った。

 

 

「そうだよね~、自分を見捨てた偽善者となんて話したくないよね~」

 

 

吹雪がそう言った瞬間、大鯨が一瞬だけ眉を吊り上げる。

 

 

膣内(なか)に硫酸流されたときも、大和さんは大鯨を助けようとせずにしっぽ巻いて逃げちゃったような裏切り者だもんね~、そんな人と話なんてしたくないよね」

 

 

『…まれ』

 

 

「本当にヒドいよね、大和さんって、大鯨が怒るのも無理無いよ」

 

 

『黙れ…』

 

 

「おまけに大鯨が自沈(じさつ)したときも何も出来ずに見殺しにしたんでしょ?やっぱり…」

 

 

 

『黙れ!黙れ黙れ黙れ黙れ!』

 

 

弾かれたように立ち上がった大鯨は吹雪の胸ぐらを掴み、一気にまくし立てる。

 

 

『あなたに大和さんの何が分かるって言うんですか!大和さんは私が傷つくたびにドックに入れてくれて、悲しくて泣いていたときには頭を撫でながら側にいてくれて、そのたびに大和さんは涙を流して悲しんで…心を痛めてたんですよ!!』

 

 

大鯨はものすごい剣幕と形相で吹雪を睨みつけるが、吹雪は何も言わずにただ大鯨を見ていた。

 

 

『いつも私のために悲しんで、私のために心傷(きず)ついて、一番私の事を理解してくれていたのは大和さんなんです!何も知らないあなたに大和さんを侮辱する権利なんて無い!』

 

 

大鯨はハァハァと息を弾ませて吹雪から手を離す。

 

 

「…つまり、それが大鯨の本音って事で良いんだよね?」

 

 

『えっ…?』

 

 

吹雪の言っていることが分からず首を傾げる大鯨だったが、すぐにその意味が分かりハッ!と口を押さえる。

 

 

「中々自分に素直になってくれないからカマをかけてみたけど、こんなにあっさり引っかかるとは思わなかったよ」

 

 

『…まさか、今のはワザと…?』

 

 

「うん、こうでもしないと本音を話してくれないと思って、もちろん今言ったことは私の本心じゃないよ」

 

吹雪は苦笑しながら言うと、大鯨はポロポロと涙を流す。

 

『…本当は私だってわかってるんですよ、大和さんは私と同じような扱いを、私より長い間受けてるんです、だからまた元の日々に戻るのは怖いし嫌だ、そう考えるのは当たり前なのに、そんな事は分かってたはずなのに…』

 

 

大鯨はボロボロに泣きじゃくりながら言う、自分だけ悲劇のヒロインを演じ、同じ被害者の大和を偽善者だと罵った自分が許せなかった。

 

 

「…謝りたいの?」

 

 

吹雪が聞くと、大鯨が頷く。

 

 

「なら、それまで死ぬわけにはいかないよね?」

 

 

吹雪が挑戦的に言うと、大鯨はそうですね…と言って苦笑する。

 

 

『…無いと思ってたけど、未練ってあるんだなぁ…』

 

誰に言うわけでもなく、大鯨はそっと呟いた。




分かっているからこそ認められない、そんな事ってあると思うんです。

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