艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー   作:きいこ

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吹雪とケッコンカッコカリしました、次の目標は三日月と初霜です。

はっちゃんを出そうと懲りずに潜水艦レシピをぶん回していたら島風(2体目)が建造されました、違う、君じゃないんだ。


第8話「暁の場合2」

「ほぇ~、ここが舞浜鎮守府ですか」

 

 

「台場より全然新しいですね」

 

 

「建ってから年数経ってないからな」

 

 

次の日、海原と吹雪とハチの3人は電車を乗り継いで舞浜鎮守府へとやってきた、目的は同型艦の響、雷、電に話を聞くためだ。

 

 

舞浜鎮守府は海原の言ったとおり2年ほど前に建てられた比較的新しい鎮守府だ、舞浜に限らずここ5年以内に鎮守府の新規建設が進められている所が多い、深海棲艦の活動が近年になって活発化しているので艦隊の活動効率をあげるのが主な目的とされている。

 

 

そんな真新しい舞浜鎮守府に意気揚々とやってきた3人だったが、ここでひとつの問題にぶち当たった。

 

 

「話聞くとして、何て言って切り出そう」

 

 

「え、考えてなかったんですか?」

 

 

「提督…」

 

 

中庭のベンチでうなだれている海原を吹雪もハチも呆れたような顔で見る、そう、話を聞こうとやってきたまでは良かったものの、どうやって話を聞こうかというのをまるで考えてなかったのだ。

 

 

「しょうがねーだろ、同型艦の話を聞けば暁の轟沈(しず)んだ理由も分かるんじゃないかって思ったら身体が勝手に舞浜行きを決めてたんだよ」

 

 

「だからって、少しは策とか考えてくださいよ」

 

 

「提督ともあろうあなたが無策で突撃してどうするんですか…」

 

 

特攻野郎にも程があるだろ、とふたりは心の中でつっこむ。

 

 

「でも、確かに暁さんの事をどうやって話すかは問題ですよね」

 

 

「あなたの仲間の暁が深海棲艦として生きています、なんて言ったところで信じてもらえる訳ないですし」

 

 

うーん、と3人が頭を悩ませていると…

 

 

「あの、少しいいかな」

 

 

海原の背後で声がするのでそちらを振り向く。

 

 

「っ!!お前は…」

 

 

ここで書いておくと、海原が座っているベンチは背もたれを背中合わせにふたつ設置されている、その声の主は海原が座っているベンチの背後に置かれているベンチに膝立ちの状態で話しかけてきたのだ。

 

 

「今の話、詳しく聞かせてもらえないかな」

 

 

その声の主は、暁型駆逐艦2番艦、響だった。

 

 

 

 

「ここなら誰にも聞かれる心配はないよ」

 

 

響に案内されるように通されたのは暁型が使っている自室だった、途中で同型艦の雷と電も連れてきていたのでこの部屋には6人が集まっている。

 

 

少々予想外の展開となったが、暁型が偶然にも海原の会話を聞いていたおかげで話が進みそうなのでこっそり感謝しておくことにする海原だった 。

 

 

「さて、では改めて自己紹介を…私は舞浜鎮守府所属、暁型駆逐艦2番艦の響だ」

 

 

「同じく3番艦の雷よ」

 

 

「同じく4番艦…電です」

 

 

暁型の挨拶を聞き終えた海原は吹雪たちを立たせ、挨拶を促す。

 

 

「台場鎮守府所属、吹雪型駆逐艦1番艦の吹雪です」

 

 

「台場鎮守府所属、巡潜3型2番艦潜水艦の伊8です」

 

 

「台場鎮守府提督の海原充だ、今日は突然押しかけてすまないな」

 

 

それぞれの挨拶を済ませると、海原たちはベッドに腰を下ろす。

 

 

「では、改めてさっきの話の内容を詳しく聞かせてくれないかな、暁が深海棲艦になって生きている、という事について」

 

 

「っ!?それってどういう事!?」

 

 

「暁が深海棲艦に…!?」

 

 

話を聞かされずに連れてこられた雷と電は動揺して身を乗り出す。

 

 

「…暁と思われる深海棲艦が度々台場鎮守府近海に出没している、その深海棲艦がお前たちに謝るような言動をとっていたんだ、それが轟沈(しず)んだキッカケなんじゃないかと思って俺たちはここに来た、何か知らないか?」

 

 

「たぶん、それは…」

 

 

「その前にひとついいかい?」

 

 

電が何かを言いかけたとき、響がそれを遮るように手を挙げる。

 

 

「なぜその深海棲艦が暁だと分かるんだい?そもそも艦娘が深海棲艦になるなんてなぜ断定できる?そして深海棲艦が言葉を話すなんて今まで聞いたことがない」

 

 

響が感じた疑問点を次々と海原たちにぶつけてくる、一気に話して誤魔化そうとしたのだが、冷静な判断力を持っているらしい響には通じなかったようだ。

 

 

「あなたたちは、一体何を知っているんだい?」

 

 

透き通ったアイスブルーの目で真っ直ぐ見つめられ、これは逃げられないなと海原は腹をくくる。

 

 

「ハチ、悪いが“アレ”をやるぞ」

 

 

「了解です、提督」

 

 

「…すまないな」

 

 

「気にしないでください、あなたに救われた命です、あなたの為に使います」

 

 

そう言ってハチは立ち上がると、着ているセーラー服の右袖を二の腕辺りまで捲っていく。

 

「なっ…!?」

 

 

「えっ…!?」

 

 

「嘘…!?」

 

 

“それ”を見た瞬間、3人凍り付いたように固まっていた。

 

 

「お前らは、艦娘と深海棲艦の混血艦(ハーフ)を…灰色の存在を信じるか?」

 

 

ハチは何も言わずに自分の腕を、深海棲艦化した腕をさらしていた。

 

 

響、雷、電の3人はハチの腕を見て愕然としていた、深海棲艦と艦娘の混血艦、そんな存在がいるなんて今まで聞いたこともなかったし想像もしていなかった。

 

 

「あり得るのですか…?混血艦(ハーフ)なんて…」

 

 

「詳しいことは俺にも分からない、でもハチと吹雪が一度轟沈(しず)んでいるのは事実だ、それは鎮守府の電子書庫(データベース)で確認している」

 

 

「つまり、一度轟沈んだ艦娘が再び生還(もど)ってきて、その際に深海棲艦と対話する能力を身に付けて混血艦(ハーフ)になった…という事だね?」

 

 

響は相変わらずの冷静さで海原の話をまとめる、同じ同型艦でもさっきから唖然としてばかりいる雷と電とではエラい違いだ。

 

 

「ざっくり言うとそうなるな、今の吹雪とハチは混血艦(ハーフ)になった影響なのか深海棲艦と意志疎通が出来る能力がある、ハチも最初は潜水棲艦として台場近海に現れた敵艦だったんだ」

 

「えっ!?」

 

 

海原の話を聞いて雷が驚きの声を漏らす。

 

「そこを私がハチと会話をして艦娘に戻したんです、轟沈(しず)んだ事を受け入れられずに苦しんでいたんですよ」

 

 

「…なるほど、そこまで聞いてしまうと、暁が深海棲艦になっているという話もあながち嘘じゃ無いのかもしれないね」

 

 

響が顎に手をあてて考えるような仕草をする、どうやら信じてもらえるらしい。

 

 

「それで話を戻すが、暁がお前たちに謝っていたことに関して何か知らないか?」

 

 

海原の質問を聞いた響は何かを決意したかのような顔をして、海原に話し始めた。

 

 

「あれは、暁が轟沈する直前の事だ…」

 

 

 

 

『ごめんって言ってるじゃない!』

 

 

『ぜーったいに許さないわ!』

 

 

『はわわ、ふたりとも落ち着いて欲しいのです…』

 

 

響が昼食の買い出しから戻って自室に入ると、雷と暁が何やら言い合いをしており電がオロオロしながらそれを止めようとしている。

 

 

『電、何があったんだい?』

 

 

『実は、雷が暁のプリンを食べちゃったみたいなのです、演習が終わったら食べようと楽しみにしてたみたいで…』

 

 

『それでご立腹なのか』

 

 

響の言葉に電が首を縦に振って肯定する。

 

 

『そもそも、食べようと思ってたのなら名前くらい書いておけばいいのよ!冷蔵庫にあんなに無防備に置いてあったら普通に食べられるわよ!』

 

 

『自分で買ってきたものでもないのにホイホイ食べる雷もどうかと思うわよ!』

 

 

『うーん、お互いの言うことに一理あるから仲裁がし辛いな…』

 

 

いつもは響が間に入ってふたりをなだめるのだが、この時は互いの主張が的を射ていたのでどちらが悪いとは言いづらかった。

 

 

『いっそのこと喧嘩両成敗で引き分け…みたいにすればいいと思うのです』

 

 

『…まぁ、ここはそれがベストだろうね』

 

 

話が決まると響がふたりを止めようとベッドから立ち上がる。

 

 

『暁型駆逐艦1番艦暁、至急提督執務室に来てください、繰り返します…』

 

 

すると、廊下のスピーカーから暁を招集する館内放送が流れる。

 

 

『暁に呼び出し…?』

 

 

『あ、そう言えば午後に出撃予定があったわね』

 

 

思い出したように言うと暁は踵を返して部屋を出て行こうとする。

 

 

『ちょっと暁!話は終わってないわよ!』

 

 

『出撃があるのよ、この件は一応持ち越してあげるわ』

 

 

『何よそれ!』

 

 

さも自分が悪いかのように言われて雷は激昂する。

 

 

『暁なんか、出撃中に轟沈(しず)んでも助けてあげないんだからね!てゆーか轟沈(しず)め!』

 

 

『ざーんねん、暁は簡単には沈まないのよ』

 

 

ムキー!と地団駄を踏んで悔しがる雷とそれを冷ややかな目で見ながら部屋を後にする暁、残った響と電はそれを黙って眺める事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

そして、暁が轟沈したという連絡が届いたのは、その日の夕方の事だった…。

 

 

 

 

 

 

「…以上が大体の事の顛末だよ」

 

 

響の話を聞き終えた海原たちは何とも言えない空気になっていた、ぶっちゃけ喧嘩の内容は子供レベルの微笑ましいモノだが、その後に相手が轟沈んでしまっては内容など関係無くなる。

 

 

「私があの時轟沈(しず)めなんて言ったせいで暁は轟沈(しず)んだのよ、私のせいで…」

 

 

雷は目に涙を浮かべながら弱々しい声で呟いた、今でもその事で罪悪感を感じているようだ。

 

 

「雷のせいじゃないのです、空母棲艦の空撃が暁に当たったせいだって鹿島さんも言ってたじゃないですか」

 

 

「だって、後で言い過ぎたなって、仲直りしようって思ってた矢先にあんな事になって…」

 

 

依然涙を流す雷の頭を電が撫でて落ち着かせる。

 

 

「…響、お前に、いや…お前たちに提案がある」

 

 

ここでだんまりを決め込んでいた海原が慎重に口を開く。

 

 

「さっきも言ったように吹雪とハチは深海棲艦と会話する能力がある、つまりこのふたりを通訳として間に挟めば響たちも深海棲艦化した暁と話が出来るって事になる」

 

 

「っ!?」

 

 

その言葉を聞き、3人の顔色が瞬時に変わった。

 

 

「100パーセント成功する保証はないが、ハチの時のように暁を艦娘に戻すチャンスは残っていると思う」

 

 

3人は驚きと喜びがごちゃ混ぜになったような表情(かお)をしている、無くなったと思っていた希望が残っていた、そう考えただけで今にも身を乗り出しそうになっている。

 

 

「だから、もしよかったら俺たちに協力してくれないか?」

 

 

海原の提案に3人は顔を見合わせ、同じタイミングで頷いた。

 

 

「分かった、私たち暁型駆逐艦は、海原司令官に全力で協力するよ」

 

 

暁にもう一度会えるかもしれない、そんな千載一遇のチャンスを前に“断る”などといった選択肢はなかった。




pixiv版のストックが尽きたので少し更新の間隔が空くと思いますが、なにとぞご容赦ください。


バケツが枯渇しすぎてツラいでござる。

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