艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー 作:きいこ
港湾棲姫(第二形態)の空撃が強すぎて泣けてくる今日のこの頃。
突き抜けるように晴れた青空、地平線に浮かぶ白い雲、そして穏やかに波打つコバルトブルーの海、これほど海に出かけるのに適した天気は無いだろう。
「敵艦発見!駆逐棲艦1体、軽巡棲艦1体、計2体!」
「交戦態勢に入ります!」
…もっとも、深海棲艦との戦闘においてそんな事は全く持って関係のない話なのだが。
「行くよ!ハチ!」
「了解です!」
吹雪とハチがそれぞれ得物を持って深海棲艦に突撃する、ハチが台場鎮守府に所属してから2週間が経った、彼女も台場鎮守府の雰囲気にすっかり慣れたようで吹雪や海原とも仲良くやっている。
以前は訓練用ターゲットを相手にひとりで行っていた自主訓練もハチと演習形式で行うようになってから戦闘スキルがみるみるうちに伸びていき、
ハチも所属初日から深海棲器を所持した、ハチの武装自体は『61cm三連装酸素魚雷』と決して悪くはなかったのだが、やはり開発が出来ない台場鎮守府では少し心許ないという事から深海棲器の訓練を積んでいる。
ちなみに使用している深海棲器は小太刀2本と
「はあぁ!」
吹雪が猛スピードで駆逐棲艦に近づいていく、その合間に砲撃を行うが大したダメージにはなっていない。
駆逐棲艦も吹雪の接近を拒むように砲撃を開始、高速で鉛の砲弾が飛んでくるが吹雪は気にすることなく接近を続ける、そして砲弾が吹雪に当たる瞬間…
「はぁっ!」
武装から取り出した大振りの太刀で砲弾を真っ二つに斬り裂いた、この太刀はハチが所属してすぐの頃に吹雪が使い始めた深海棲器で、これを使って吹雪は“敵の砲弾を斬り落とす”という常人離れした技術を習得した。
訓練用のペイント弾などを使って猛特訓を重ねた結果、吹雪はわずか1週間あまりで“砲弾斬り”をマスターしてしまい、これには海原もただただ驚いていた。
そうして駆逐棲艦の砲弾を凌ぎながら高速で近づいて敵に肉薄した吹雪は…
「くらえええぇぇ!!!!」
殴られた駆逐棲艦は勢い良く2~3m先までぶっ飛ばされ、着地点にいた軽巡棲艦に激突する。
「駆逐棲艦の小破を確認!」
小破した駆逐棲艦に追撃を加えるために吹雪はナギナタを構えて駆逐棲艦に迫る。
「っ!?」
しかし、後ろに控えていた軽巡棲艦が腕の主砲から砲弾を発射、吹雪目掛けて飛んでくる。
「やば…!」
この距離では回避行動をとれないと判断した吹雪は腕を胸の前でクロスさせ、手甲拳を盾代わりにする防御姿勢をとった。
「吹雪さん!」
ハチが足に装着していたホルスターから拳銃を引き抜き、思い切り引き金を引く。
乾いた発砲音と共に銃口から漆黒の弾丸が射出されると砲弾目掛けて一直線に飛んでいき、軽巡棲艦の撃った砲弾に着弾する。
刹那、吹雪に迫っていた砲弾が突如爆発し、無数の鉛の欠片となった。
ハチが撃った銃弾は内部に爆薬が仕込まれている特別製のモノだ、もちろんこの銃弾も深海棲器で出来ており、普通の銃弾よりも威力が高い(それでも駆逐艦の主砲程度の威力しかないのだが)ため砲撃戦でも牽制としてはそこそこの威力を発揮する。
「ありがとうハチ!」
「どういたしまして」
ハチは短くそう言うと海中に潜っていく。
「はあああぁぁ!」
吹雪が再びナギナタを構え、駆逐棲艦に向かって勢いよく右斜め下に斬りつける。
「まだまだぁ!」
攻撃はそれだけでは終わらず、ナギナタをそのまま左斜め上に向かって斬り返す。
駆逐棲艦は悲痛は呻き声をあげながら身悶える。
「トドメぇ!」
追撃として吹雪はナギナタを駆逐棲艦のエメラルドグリーンの目に突きつける。
「ハチ!」
「魚雷一斉発射!」
吹雪のインカム越しの合図と共にハチは水中から魚雷を発射、駆逐棲艦の脇腹にすべて命中する。
「駆逐棲艦撃沈!軽巡棲艦大破!」
魚雷の爆発ダメージで駆逐棲艦が撃沈、その爆発に巻き込まれた軽巡棲艦が大破になる。
「はっ!」
爆発のダメージで軽巡棲艦の動きが止まった隙を突いたハチは素早く海上へ飛び出し、持っている2本の小太刀で軽巡棲艦を素早く斬りつけていく。
更に吹雪が太刀で軽巡棲艦の頭部を一刀両断、完全に動きを停止した。
「…軽巡棲艦の撃沈を確認、周囲の敵影無し、戦闘終了です」
敵の
『ご苦労さん、これにて出撃任務は完了だ、気をつけて帰ってこいよ』
「了解です司令官!」
戦闘で勝利を収めた吹雪達は意気揚々と台場鎮守府へ帰投する。
◇
「いや~、今回は大勝利だったね」
「はい、お陰で
帰投後、ドックで修理を済ませた吹雪とハチは執務室のソファでくつろいでいた。
「どうしてお前らは執務室でくつろぐかね、艦娘の部屋はいくらでもあるだろ」
いつものように先輩から押し付けられた書類にペンを走らせながら海原がボヤく、しかし本気で追い出そうとしないのを見ると案外この状況を気に入っているのかもしれない。
「確かに部屋はたくさんありますけど、司令官がいないと寂しいじゃないですか」
「そうですよ、提督がいると何気ない会話でも楽しくなるんです」
吹雪とハチにそう言われ、海原は自然と顔を綻ばせてしまう、部下にそんな事を言われれば嬉しくなってしまうものだ。
「ったく、ふたりとも口が達者な事で」
海原は書類を書きながらそっと呟いた。
◇
鎮守府の各支部には“
「さてと、早速計りますか」
吹雪は練度測定器の前に立ってスイッチを入れる、病院などに置いてあるCTスキャンを立てにしたような見た目のそれは、上から下に向かってレーザーのような光を当てて艦娘の潜在能力を計る…というモノらしい、もっともコレは大本営の公式見解なので海原は全て信じているわけでもなかった。
測定自体は10秒ほどで終了し、モニターに吹雪とハチの現在の練度が表示される。
○駆逐艦『吹雪』
•
○潜水艦『伊8』
•
「おぉ、結構上がったね!」
「前回計ったときより10くらい上がってますね」
ふたりが満足そうにモニターを眺めていると…
「吹雪!ハチ!出撃だ!」
ドアが勢いよく開いて海原が入ってくる。
「出撃ですか?」
「あぁ、駆逐棲艦が一体この近くに来てるらしい」
「了解です、すぐに出撃準備に入ります!」
吹雪とハチは準備の為に出撃室に向かって駆けていった。
◇
出撃任務を受けて吹雪とハチは台場鎮守府の近海へと向かった、このあたりは敵のはぐれ艦がやってくるくらいなので吹雪達のいい練習にもなっている。
「で、あれが今回の
「はい、そうだと思います」
吹雪達は目の前にいる敵艦を見据える、艦種は駆逐棲艦が一体のみ、長い髪は黒色だが一部で白髪が混じっており縞模様に見える、頭には黒い帽子を被っており、服装は白いセーラー服だ。
「ハチ、この感じ…」
「はい、間違いありません」
吹雪とハチは互いに納得したようにうなずくと、インカム越しに状況を聞いている海原へ簡潔に伝える。
「司令官、敵艦に“面影”あり、この娘…艦娘です」
『…よし、吹雪とハチはそのまま“面影”との会話を続行、情報を引き出せ』
「了解しました」
吹雪はそう言うと“面影”に声をかけようと試みる。
「あの~、すみません」
“面影”の艦娘は吹雪の言葉には反応せず、ただ俯いてボソボソと何かを呟くだけであった。
「?」
何を呟いているんだろう、と気になった吹雪とハチは“面影”に近付いて耳を澄ます。
『…ご…めん……ね』
ごめんね、声は所々掠れていたが、確かにそう聞こえた。
(“ごめんね”?誰かに謝ってるのかな…?)
続けて“面影”の声を聞く。
『ごめんね…ひび…き……いか…ずち……いな……づ…ま…私のせい…で』
今度はちゃんと聞き取ることが出来た、どうやら誰かに謝りたいという想いがある“面影”らしい。
「あの…私の声、聞こえてますか?」
吹雪は再び“面影”に声をかけるが、何も反応がない、試しに肩を叩いたりもしてみたが結果は同じだった。
「司令官、“面影”との会話は不可能と判断しました、情報は多少は引き出せたので帰投しようと思います」
『了解した、吹雪たち第一艦隊の帰投を許可する』
この日、“面影”との接触で得られた情報は、“面影”は誰かに謝りたいと思っている事と数人の艦娘と思われる名前だけだった。
◇
帰投後、吹雪は海原に出撃であったことを報告し、例のごとく帰投中に描いた“面影”の似顔絵をもとに海原に
「…見つけた、この艦娘だな」
海原は
○艦娘名簿(轟沈艦)
・名前:
・練度:50
・艦種:駆逐艦
・クラス:暁型1番艦
・所属:舞浜鎮守府
・着任日:2048年8月25日
・轟沈日:2049年10月14日
・除隊日2049年10月14日
「暁…さんですか」
ハチは
「そうそう、吹雪に頼まれてた別件も調べておいたぞ」
そう言って海原は別フォルダに分けた資料を見せる。
「お前が言ってた『ひびき』『いなづま』『いかずち』の名前を調べておいた」
○艦娘名簿
・名前:
・練度:60
・艦種:駆逐艦
・クラス:暁型2番艦
・所属:舞浜鎮守府
・着任日:2048年8月25日
・2050年現在活動中
・名前:
・練度:59
・艦種:駆逐艦
・クラス:暁型3番艦
・所属:舞浜鎮守府
・着任日:2048年8月25日
・2050年現在活動中
・名前:
・練度:55
・艦種:駆逐艦
・クラス:暁型4番艦
・所属:舞浜鎮守府
・着任日:2048年8月25日
・2050年現在活動中
「暁の同型艦だったんですね」
「ほかの姉妹艦はまだ健在のようですよ」
「…ん?」
ここで吹雪が名簿のデータの中で気になるところを見つける。
「舞浜鎮守府って、そんなところありましたっけ?」
「うーん…私も聞いたこと無いですね」
「舞浜鎮守府は2年くらい前に開かれたトコなんだよ、艦隊の規模はあまり大きくないけどそれなりの戦果をあげてるらしいぞ」
吹雪とハチの疑問に海原が答える、吹雪もハチも轟沈していたので知らなくても不思議ではない。
「うーん…しかし舞浜か、呉や佐世保に比べたら遠くはないな」
海原はそう呟くと自身の携帯で電車の路線図を呼び出す。
「…司令官?」
海原は携帯のモニターを見ながら考えるような仕草をすると、唐突に言い放った。
「お前ら、明日舞浜に行くぞ」
うちの吹雪がケッコンカッコカリ目前になってきました。