艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー   作:きいこ

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高レベルの艦娘が駆逐艦と巡洋艦に偏っている我が艦隊。

そう言えば皆さんは「艦隊名」は変えていますか?自分はたまに変えます(だから何だ)。


第5話「伊8の場合2」

「大丈夫だったか?吹雪」

 

 

「はい、ダメージも小破で済みましたので、問題はありません」

 

 

撤退後、帰投した吹雪の報告を聞いて海原は安堵の表情を浮かべる、いくらインカム越しに声が聞こえていようとも、カメラ越しに状況が確認できようとも、心配になるのに変わりはない。

 

 

「修理ドックの準備はしてあるからお前はすぐに修理してこい、ついでに補給もな」

 

 

「分かりました、それでは失礼します」

 

 

吹雪は軽く会釈をして執務室を後にする。

 

 

「…とりあえずは、また部下を失う結果にはならずに済んだな」

 

 

誰に対して話すわけでもなく、海原はそう小さく呟いた。

 

 

 

 

電子書庫(データベース)を使いたい?」

 

 

「はい、調べたい事があるんです」

 

 

修理と補給を終えて執務室に戻ってきた吹雪が最初に言ったセリフはそれだ。

 

 

「じゃあ俺が調べてやるよ、何が知りたい?」

 

 

「い、いえ…司令官に調べてもらうほどの事じゃ…」

 

 

「遠慮すんな遠慮すんな、部下の調べ物を手伝うのも上官の仕事だからな」

 

 

そう言って海原は電子書庫(データベース)の端末を起動させる。

 

 

「………………」

 

 

吹雪は少し考える、このまま海原に調べさせればあの事を勘ぐられるかもしれない、そうしたら自分の身も危うくなる可能性だって出てくる。

 

 

「…では、お願いします」

 

 

でも、このままあてもなく電子書庫(データベース)を漁っていても答にたどり着けるかは微妙だし、最終的には海原に話さなければいけない、ならここは渡りに船のこの状況に乗っかるべきだろう。

 

 

「よしきた!何を調べればいい?」

 

 

海原にそう聞かれると、吹雪は一枚の紙を渡す。

 

 

「…では司令官、“過去に轟沈した艦娘”の中から、この似顔絵と同じ艦娘がいないかどうかを探してください」

 

 

 

 

 

カタカタカタ…

 

 

夜の執務室にキーボードを叩く音が静かに響く。

 

 

「…あった」

 

 

検索開始から数分後、海原が唐突に言った。

 

 

「こいつじゃないか?」

 

 

そう言って海原は吹雪に画面を見せる。

 

 

「…はい、確かにこの艦娘です」

 

 

そこに映っていたのは、昼間遭遇した潜水棲艦…のそばに浮かんでいた“面影”の姿そのものだった。

 

 

「名前は『伊8』だそうだ」

 

 

そう言って海原は画面の詳細部分を指差す。

 

 

・名前:伊8(い・8)

 

・艦種:潜水艦

 

・クラス:巡潜3型2番艦

 

・所属:舞鶴鎮守府

 

・着任日:2043年03月25日

 

・轟沈日:2045年10月08日

 

・除隊日:2045年10月08日

 

 

 

「伊8っていうんですか…」

 

 

吹雪は電子書庫(データベース)の画面に表示されている伊8の顔写真をまじまじと見る、やっぱり同じだ、あの“面影”と…

 

 

「…吹雪、お前はこの艦娘と面識は?」

 

 

海原は真面目な表情になって持っている伊8の似顔絵を振る、これは修理を終えた吹雪が書いたモノだ、記憶頼みで書いたにしてはめちゃくちゃ上手い。

 

 

「無いです、実際の顔も名前も今初めて知りました」

 

 

 

吹雪がそう答えると、海原は吹雪の方を向き、核心をついた質問をする。

 

 

「お前…何を知っている?あの出撃で何を見てきたんだ?」

 

 

「…司令官、実は…」

 

 

吹雪は一抹の不安をかなぐり捨て、海原に今日あったことを話し始める。

 

 

「言葉を話す深海棲艦に艦娘の“面影”か…」

 

吹雪の話を聞いた海原は少し驚いたような表情になる、そりゃあこんな突飛な話を聞かされて驚くなと言う方に無理がある。

 

 

「…信じられないですよね、こんな話、やっぱり私疲れてるんでしょうか…」

 

 

吹雪はその場を誤魔化すように乾いた笑い声を出すが、海原はその場で考え込むようにうーん…と唸っている。

 

 

「…司令官?」

 

 

吹雪が怪訝な顔で海原を見ていると、彼の口から耳を疑う発見が飛び出した。

 

 

「お前の見たモノ…本当に艦娘の“面影”なのかもしれないぞ」

 

 

 

 

「深海棲艦の正体が…過去に轟沈(しず)んだ艦娘!?」

 

 

吹雪はあんぐりと口を開けてなにも言えずにいた。

 

 

「何年か前にそんな都市伝説が流れたことがあったんだ、すぐに否定されて忘れられたけどな」

 

 

当時を思い出すような表情で海原は言う。

 

 

「もしその都市伝説が本当なら、吹雪が遭遇した深海棲艦は轟沈(しず)んだ伊8ということになる、世界がひっくり返る程の衝撃的ニュースだな」

 

 

まるで他人事のような呑気さで海原は笑う。

 

 

「まだ事実だと断定されたワケじゃないですけどね…」

 

 

吹雪は苦笑しながら言った。

 

 

「でも、これで一つの可能性が浮かんだ」

 

 

 

ひとしきり笑って満足した海原は人差し指を立てて言う。

 

 

「可能性?どんな可能性ですか?」

 

 

 

「吹雪は深海棲艦と意思疎通が出来る能力を持っている…っていう可能性だ」

 

 

それを言われて吹雪はやっと自分の状況を理解する、今日の出撃で見た伊8の“面影”と声が自分の妄想ではなく本当に深海棲艦になった伊8のモノだとすれば、吹雪は深海棲艦との意思疎通の能力を持っているという事になる。

 

 

当然そんな能力を持った艦娘など前例が無い、これが大本営に知られればおそらく吹雪は身柄を拘束され身体中を調べられるだろう、それこそ非人道的な方法で…。

 

 

「多分これもお前が轟沈(しず)んだ時に起こった何かが影響してるんだと思うが、いかんせん一回出撃しただけだからな、せめてもう一回来てくれると検証の余地もあるんだが…」

 

 

「艦娘部隊の指揮官が言うセリフじゃないですよね…」

 

 

 

吹雪は呆れ気味に言って流すが、まさか本当に再会することになるとはこの時誰も思っていなかった。

 

 

 

 

次の日、台場鎮守府に再び深海棲艦の出現を知らせる連絡が入った、場所は昨日と同じ海域だという。

 

 

「…ひょっとしたら昨日の奴かもしれないぞ」

 

 

「ま、まさか…深海棲艦が意志を持って特定の場所に現れるなんてありえないですよ」

 

 

そう言って出撃した吹雪だったが…

 

 

「…ほんとうにまさかでした」

 

 

「だろ?」

 

 

目の前に現れた潜水棲艦…もとい伊8を見て吹雪が何とも言えないような顔をする。

 

 

『助けて…私…まだ沈んでないよ…』

 

 

伊8は虚ろな声でぶつぶつと呟きながら海上を蛇行していた、その“面影”もどこか悲しそうで…寂しそうだった。

 

 

『吹雪、伊8はなんて言っている?』

 

 

インカム越しに海原の声が聞こえてくる、今回も小型カメラとインカムを付けての出撃だ。

 

 

「まだ沈んでない、助けて、そんな事を繰り返し呟いています、攻撃してこないのを見ると敵意は無いかと」

 

 

『ふむ…よし、なら吹雪、今から作戦を伝えるからよーく聞いとけよ』

 

 

「はい!」

 

 

海原が口にした作戦は、吹雪の予想を遥か斜め上をいくものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前、そいつと会話してみろ」




戦闘シーンがほとんど無いけど大丈夫だろうか…(焦)

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