艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー 作:きいこ
敵水雷戦隊との戦闘を終えた吹雪たちは無事ベースキャンプへと到着した。
「さてと、三日月は一旦ここで隠れててね」
「分かりました」
三日月には桟橋近くにある物置小屋に隠れてもらう事にした、本当は連れてきてもいいのだが、三日月の場合は深海痕が目立つ位置にある上に隠す手段も無いので人前には出られないのだ、もっともみんなに説明するのが面倒だというのもあるが。
「さてと、それじゃあ中央広場に向かおう」
「そうね、なんか妙に行きづらいけど…」
「頑張ってください~」
三日月に見送られながら吹雪たちは中央広場に向かう。
◇
中央広場についた吹雪たちはそれとなく挨拶をしながら入ったのだが、入って3秒で瑞鶴が泣きながら飛びついてきた。
「あんたたちどこにいたのよ!?めちゃくちゃ心配したんだからね!あぁ、でも本当に生きてて良かった…」
瑞鶴は涙で顔をぐしゃぐしゃにして吹雪たちを抱きしめる。
「本当によく生きてたな!」
「よく帰ってきました」
「本当に心配したのよ」
摩耶たち他の第4艦隊のメンバーも吹雪たちの帰りを心から祝福していた。
「…心配かけてごめんなさい」
いままでこんなに心配してもらった事が無い吹雪は瑞鶴たちの様子を見て、何だか照れくさくなってしまった。
(もっと早く帰ってくれば良かったな…)
島でのんびりしていたことをちょっとだけ反省した吹雪だった。
◇
「何!国後島に流れ着いたのか!?」
帰投後すぐに司令部テントに呼び出された吹雪と暁は長嶋に事の顛末を報告する、もちろん三日月の事は伏せて報告した。
「はい、身体の損傷もあったので、応急処置をして少し休んだ方がいいと判断しましたので…」
「なるほど、それはいい判断だったな」
「しっかりしてるのね、ウチの北上さんに見習わせたいくらいだわ…」
大井はため息をついて呟いた、その様子を見て本当に苦労してるんだろうな…と思う吹雪だった。
「まぁ何であれ、無事に戻ってこれて何よりだ、今日はゆっくり休むといい」
「ありがとうございます」
2体が司令部テントを出ると、そこには瑞鶴とローマが待っていた。
「あの提督さんに何か言われなかった?」
どうやら長嶋に何か言われたりされたりしていないか心配で見にきてくれたようだ。
「大丈夫でしたよ、特に何もありませんでした」
「そう?なら良かった」
それを聞くと瑞鶴とローマは安堵した表情になる。
「今夜は作戦成功と2体の生還を祝って祝賀会をやるの、ぜひ参加してね」
「本当!?やったー!」
それを聞いて暁は飛び上がってはしゃいでいるが…
(…三日月の事はどうしよう…)
吹雪だけは浮かない顔をしていた。
◇
「それでは、あまりすっきりしない結果となりましたが、色丹島の敵勢力排除の成功と、吹雪、暁の生還を祝いまして…乾杯!」
「「乾杯!」」
その日の夜、瑞鶴の乾杯の音頭と共に今回の大規模作戦に参加したメンバーは互いのグラスを当てる。
「いやぁ、大変だったね」
「アタシもあの時はどうなるかと思ったぜ」
艦娘たちは料理をつまみながら今回の作戦について思い思いの話をする。
「あの…」
「もしよろしければ、一緒にいいですか?」
すると、蒼龍と飛龍が第4艦隊の所へやってきた。
「もちろんいいわよ、あんたたちには色々助けられちゃったからね」
「あの時のとっさの艦戦さばき、お見事でした、流石は主戦力鎮守府の最前線…横須賀の艦娘です」
最初こそいがみ合っていた彼女たちだが、今では普通に友人のように接している。
「いえ、そんなご立派なモノではありません…」
「私たちが艦戦の存在を軽視したせいで苦戦を強いられたのは事実ですから…」
「過ぎたことは気にしないの、艦戦なんてこれから積めばいいんだから」
落ち込んでいる二航戦に瑞鶴が励ましの言葉を送る、それを聞いて蒼龍たちの表情が少し柔らかくなった。
「んじゃ、そう言うことで蒼龍先輩も飛龍先輩も飲んで飲んで!」
「えっ…ちょ…」
「ず、瑞鶴…?」
「諦めなさい、瑞鶴はこういう子よ」
瑞鶴と一番付き合いが長い加賀が諦めムードで二航戦に言う。
◇
「(暁、ちょっと行ってくるね)」
「(分かったわ)」
祝賀会も盛り上がりを見せてきたところで吹雪は料理をいくつかの小皿に乗せてこっそりとテントを出る、三日月の分の食事を届けに行くのだ。
「結局何時間も待たせる結果になっちゃったなぁ…」
吹雪は軽いため息を吐きながら物置小屋に入る、電気を付けるとばれるかもしれないので中にあった懐中電灯で明かりを作っていた。
「三日月、ご飯持ってきたよ」
「ありがとうございます!ちょうどお腹が減ってたんですよ」
吹雪は三日月の前に小皿を並べる、内容はサイコロステーキにオムライス、そしてサラダ。
「ごめんね遅くなって、本当はこんな寂しい思いさせたくなかったんだけど…」
「そんな、とんでもないです、吹雪さんがこうして持ってきてくれるだけでも、十分嬉しいですよ」
(あぁ!やっぱり眩しい!眩しすぎる!)
懐中電灯しか明かりのない小屋の中だというのに、目の前にいる天使がめちゃくちゃ眩しく見えてしまう。
「吹雪さん、私は大丈夫ですから、そろそろ戻ってはどうですか?多分苦しい言い訳で抜けだしたんでしょう?」
バレテーラ、確かに暁にはジュース飲み過ぎてトイレに行くってごまかしておいて、などと言って抜けてきたが艦娘は身体構造的な理由でトイレをしないので今考えれば苦しすぎる言い訳だった。
「…うん、ごめん…もう戻るね」
「私のことはお気になさらず、思う存分楽しんできてください」
(あぁ…こんな天使を置いてパーティーに戻る自分に罪悪感が…)
後ろ髪を引かれる思いで吹雪はテントに戻っていく。
◇
吹雪がテントに戻ると、加賀と瑞鶴がデュエットを組んで歌を歌っていた、どうやらカラオケ大会が始まったらしい。
「セーラーワ~ンピを~」
「剥~ぎ~取らないで~」
ノリノリで歌っているのは“おワン子クラブ”!の“セーラーワンピを剥ぎ取らないで”、数年前にCDが絶版した知る人ぞ知る曲だ。
(それにしても息ぴったりだなぁ…)
瑞鶴と加賀は親友同士と本人たちから聞いていたが、それに相応しい阿吽の呼吸っぷりを見せていた。
「ありがとうございます!続いて摩耶が歌います!」
「はぁ!?聞いてねーよ!」
テンションの上がった瑞鶴は摩耶をステージに引きずり出し、彼女が知っている曲を流してマイクを押し付ける。
「君の夏のあの日~忘れないよ~」
「布団に描いた~世界地図~」
歌っているのはアニメ“あの日見た髭面オヤジの名前を僕たちは知りたくもない”のエンディングテーマだった。
「摩耶さんって意外とそういうのも歌うんだな~」
思った以上に摩耶の歌が上手く拍手大喝采だった。
それから祝賀会は日付が変わる頃まで続いた。
◇
「…(暁、行くよ)」
「(えぇ、わかったわ)」
祝賀会終了後、艦娘たちはそれぞれのテントに戻るなり爆睡してしまった、第4艦隊の面子も例外ではなく、瑞鶴たちもぐっすりと眠りこけている。
その隙を見て、吹雪たちは三日月の様子を見に行こうと計画していた。
「…誰も来てないわよね?」
「…うん、大丈夫みたい」
辺りを見回しながら物置小屋に向かう、扉を開けるとまだ起きていた三日月が出迎えてくれた。
「ごめんね、遅くなっちゃった」
「はい、暖かい飲み物持ってきたわ」
「わぁ!ありがとうございます!」
三日月は暁からココアを受け取ると、コクコクと小さく喉を鳴らしてゆっくり飲んでいく。
「あと、毛布も持ってきたよ、夏って言っても北海道は少し冷えるからね」
吹雪は余分に貰ってきた毛布を三日月に渡す。
「何から何まですみません…」
「なに言ってるのさ、こんな所に閉じこめちゃってるんだから、これくらいするのは当たり前だよ」
「そうそう、暁と吹雪さんがお世話するんだから、ドーンと満喫しなさい」
暁がそう言って胸を張ったその瞬間、突然小屋の電気が付き、何事かとスイッチのある扉付近をみる。
「こっそりテント抜け出して何してるのかと思ったら、こういう事だったのね」
そこには寝ていたハズの瑞鶴が立っていた。
艦これのキャラソンなら「二羽鶴」と「華の二水戦」がお気に入り。