艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー 作:きいこ
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最近「みんなで決めるゲーム音楽ベスト100」という動画を見るのにハマっています、知らないゲームでも音楽を聞いているとついつい楽しくなりますね。
あとポプテピピックというアニメの狂気に惹かれつつあります、OPが太鼓の達人に収録されると知ってヒャッホウ!でした。
何気ないヴェアアアアアアア!が重巡棲姫を傷付けた。
「まさか反対されるとはな、さてどうしたもんか…」
救護所の設置に反対して騒いでいる避難住民と、それを抑えている隊員たちを見て海原はため息を吐く、反対の理由はその気になれば人も殺せる
「提督、どうしましょう?このままでは…」
大鯨が不安そうに聞いてくる、ただでさえ支援班のハチや大鯨たちもシェルター内の避難住民から煙たがられているのに、これから負傷した艦娘たちを運んでくるのは無理がある。
「…仕方ねぇ、ここは俺が何とかするか」
すると、意を決したようにそう言った海原は騒いでいる避難住民を抑えている隊員たちの方へと歩いていく。
「みなさん、ここは俺が避難住民を説得するので救護所の設営をお願いします、半ば強行突破になるかもしれませんが、俺が責任を取ります」
海原は避難住民を説得している隊員たちに向かって言う、陸自の隊員や医療関係者よりは艦娘側の立場に近い海軍司令官の海原の方が説得力はあるだろう、海原の申し出を受けた隊員たちは説得を海原に任せ、簡易ベッドやその他設備などを設置していく。
「おい、邪魔だ、さっさとどけ」
それからの海原の行動は早かった、座り込んでいる避難住民を道に落ちているゴミを退かすかのようにぞんざいに引っ張っていく。
「おい!何すんだよ!?」
「さっき陸自の隊員が説明してただろ?今からここに救護所を設営する、これは決定事項だ、反対意見は聞かん」
「何だよそれ!一方的じゃねぇか!」
「こんな所に化け物を連れてくるんじゃねぇよ!上でやってりゃいいじゃねぇか!」
強硬手段に出るという海原の言葉も聞かずに尚反対する避難住民たち、流石に鬱陶しくなってきた海原は次の手を打つ。
「なら一つ教えてやる、現状戦線はだいぶ押されていて艦娘側は不利だ、敵はすでにこのシェルターのあるスクランブル交差点に差しかかかっている」
海原の言葉に避難住民たちは一斉にどよめき出す、普通ならこういうときは安心できるようにポジティブな事をいうのがセオリーだが、この連中にそんな気を使う必要な無いと判断した海原はストレートに事実だけを伝える。
「戦線後退の影響で救護所がある艦娘の拠点が敵の射程圏内に入った、そのせいで負傷した艦娘の処置がマトモに行えないからより安全なここで手当を行う、それが理由だ、納得したか?」
海原は淡々と事実を口にして避難住民たちを黙らせようとするが、それでも避難住民たちの反対意見は止まなかった。
「そもそも艦娘は兵器なんだろ!?満足に手当なんかしなくても動ければそれでいいじゃねぇかよ!」
「そうだそうだ!あいつらは人間じゃない!救護所なんか必要ないじゃないか!」
その意見が出たとき、海原はやっぱり来たか…と心の中でため息を吐く、艦娘は兵器か人間か、その線引きの議論は海軍の内輪だけでなく今や民間人の間にも広がりつつある、そして今海原はその線引きに対する自分なりの答えで避難住民を説得しなければならない。
「そうだよ、艦娘は人間じゃねぇ、だが兵器でもねぇ、『艦娘』は『艦娘』だ、艦娘は人間同様に感情や自我がある、それと同時に深海棲艦と戦う力を持った兵器でもある、つまり人間と兵器の二面性を併せ持つ艦娘は『艦娘』っていう第三のカテゴリーなんだよ、それを『人間』だの『兵器』だのって古いカテゴリーに無理矢理収めることに何の意味がある?」
そして、これが今の海原の答えだ。
「『兵器』のように深海棲艦を倒し『人間』のように休息や食事をする、それが『艦娘』という第三の存在だ、その艦娘にとって今必要なのは安全に手当てが出来る場所だ、違うか?」
海原はそう避難住民に問う、艦娘は人間か兵器か、その議論は内輪でも外側でも平行線になることが多い、理由は先ほど海原が言ったとおり艦娘は人間と兵器の二面性を持っているからだ、どちらも併せ持っているからこそどちらかに収めることに対して平行線の議論が生まれる、ならば新たに第三の選択肢を作ってそこに収めてしまえばいい、それが海原の考えだった。
避難住民たちはそれでも反論しようとしたが、前例がなければ作ればいいという海原の無茶苦茶な理屈で迫られ、反論の言葉が見つからなかった、結果避難住民たちは泣く泣く座り込みを止めるしかなかった。
「安全地帯でふんぞり返って命令だけしてる司令官が偉そうに…!」
その途中、ひとりの中年の男が海原を睨みながら吐き捨てるように言う。
「…確かに俺は安全な場所から艦娘に指示を出しているだけだ、お前らの言うように偉そうに言える立場じゃない、けどな、今この瞬間にも命を懸けて戦ってる艦娘たちは、少なくとも今のお前らよりは偉いと思うぞ」
海原はその言葉に腹を立てる事もせず、静かにそう返した、そしてそうこうしているうちに救護所の設営が完了し、大破や轟沈寸前の重傷を負った艦娘が優先的に運ばれてくる。
それを見た避難住民たちは総じて顔を引きつらせた、全身血塗れの艦娘や四肢が欠損している艦娘、思わず目を覆いたくなるような光景が容赦なく飛び込んでくる、本当なら衝立などの仕切りを使うべきなのだろうが、あえて使わないように海原が周りに指示した。
民間人が普段目撃する事がない戦闘中のリアルタイムな艦娘を知ってもらおうというのが主な目的だ、大衆から人ならざる化け物と忌まれている艦娘も、ひとたび戦闘に出れば人と同様に怪我はするし、最悪
(…これが鹿沼や元帥にバレたら大目玉食らうだろうな…)
…もっとも、いくら海軍司令官の海原と言えどそこまでの決定を下せるほどの権限など持っているわけもなく、ほぼ独断での決行なのだが。
「高速修復材持って来い!」
「ガーゼは常に清潔なモノに交換しておけよ!」
「こっち包帯足りないぞ!」
一方急ピッチで設営された救護所では艦娘たちの応急手当がてんてこ舞いで行われていた、室内なので高速修復材の中身をぶっかけるわけにはいかず、修復材を染み込ませたガーゼで体を拭いて傷を修復する方法を取っていた、尚回転率を重視するために小破相当まで回復したら処置を切り上げている。
それを見ていた避難住民たちはその痛々しい光景に目を反らす、しかしそれをするということは艦娘のことを化け物ではなく人に近い存在であるという事を認めている事になる、もっとも当人たちは自覚していないようだが。
「すみません!通してください!轟沈艦娘が出ました!」
担架を担いできた隊員の言葉にその場にいた隊員たちが一斉にそちらを見た、運ばれてきた艦娘は両足と左手を失っており、左脇腹に開いた大きな風穴からは骨や内臓が丸見えになっている。
「海風!海風!返事してよ!ねぇ!」
そして、運ばれてきた艦娘…白露型駆逐艦7番艦『海風』に付いて来た艦娘が必死に海風の亡骸に声をかけている、海風と同じ鎮守府に所属している『村雨』だ。
「ねぇ海風!起きてよ!今度一緒に原宿のクレープ食べに行くって約束したじゃない!チョコバナナ食べるんだって…言ってたじゃない…!」
「…もうやめておけ、その子はもうこの世にいない」
すると、応急手当を終えて戦線に復帰しようとしていた武蔵が村雨の肩に手を置いて諭すように言う、目の前の友人の死から目を反らすように話しかける村雨を、無慈悲に現実に引き戻すように…。
「うわあああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」
海風の死を自覚してしまった村雨は人目もはばからず狂ったように泣き叫ぶ、それを見た武蔵は村雨の頬を思い切り殴った、殴られた勢いで村雨は床に叩きつけられるように床を転がったが、武蔵は構わず村雨の胸倉を掴んで持ち上げる。
「泣いてる暇があったらさっさと戦線に戻れ!今はここにいる人たちを守ることだけを考えるんだ!死んだ連中のことは忘れろ!」
武蔵はそう村雨を一喝する、死んだ海風を侮辱するような事を言った武蔵に対して村雨は激昂しかけたが、武蔵の目に浮かんでいるモノを見た村雨はすぐに悟った、彼女は今までにそういった戦いをたくさん経験していて、それと同時に失っているのだと。
「…悲しむのは後からいくらでも出来る、今は任務を遂行する事だけに集中するんだ」
武蔵は落ち着いた口調に戻ると村雨を下ろし、それ以降は何も言わずにシェルターの出口へと歩いていく。
「…はい!」
村雨は涙を流しながら大きく返事をすると、武蔵の後を追うようにシェルター出口へと向かった。
◇
避難住民たちは救護所で武蔵と村雨の一幕を見て震えていた、その理由は艦娘の死をリアルに見たからでも武蔵の厳しい言葉を聞いたからでもない。
…それらを含めた目の前の艦娘たちの全ての言動や行動が、“自分たちを守るため”という目的から来ているからだ、彼女たちを化け物と罵り、様々な罵詈雑言で非難した自分たちを…。
避難住民たちの心の中にあった艦娘に対する“化け物”という像が別のモノに変わっていくのを、住民たちは少しずつ感じていた。
次回「変わり始める思い」
それは確かに人の心の何かを動かした。