艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー   作:きいこ

196 / 231
とある少女の、二度と思い出される事のない記憶の欠片。

通算UAが10万を突破してました、いつも読んでいただきありがとうございます!

あと感想数も800件を突破しました、感謝です!(翔鶴MVPセリフ風)


番外編「水原香織」

照りつける太陽、空を突き抜けるようにそびえ立つ積乱雲、辺りに鳴り響く蝉の声、夏本番とも言える8月の上旬に相応しいシチュエーションだ。

 

 

「ぷはあっ!」

 

 

そんな夏の日の昼下がり、ひとりの少女が息を切らせながら水面から顔を出す、彼女の名前は水原香織(みずはらかおり)、都心の高校に通う水泳部の女子生徒だ、今日は夏休みを利用して学校のプールに練習に来ている。

 

 

「どうだった!?」

 

 

香織はプールサイドでタイムの計測をしていた友人の後輩女子部員、霜月暁(しもつきあきら)に問い掛ける。

 

 

「うーん…さっきよりかは多少伸びてはいますけど、大会に出るためにはもう少し縮める必要がありますね」

 

 

「マジかぁ…」

 

 

香織は大きくため息を吐きながらうなだれる、今の泳ぎでもかなり本気を出した筈だったのだが、それでもまだ足りないらしい。

 

 

「…今日はここまでにしませんか?練習も大切ですけど、今日は午前中からぶっ続けですし、あまり根を詰めても…」

 

 

「…うん、そうだね」

 

 

暁の言葉に従って香織はプールから上がる、暁の言うとおり今日は朝から続けているせいか身体に疲労が溜まり始めている、ここで突き詰めて足でも攣ろうものならシャレにならない。

 

 

「ごめんね暁、朝から付き合ってもらっちゃって、私のタイム計測で暁ほとんど練習出来なかったし…」

 

 

「そんな事気にしないでください、私が好きでやってることですから、それに香織先輩は私が水泳をやろうと思ったきっかけになった憧れの人です、そんな先輩の手助けが出来て私も嬉しいんです」

 

 

暁は屈託のない笑顔で香織を見る、暁は1年の3学期に水泳未経験で水泳部に入ったルーキー中のルーキーだ、しかし入部直後からその頭角を現し始め、今や2年の中ではトップクラスの実力を持つ将来有望な部員であった、何でも去年香織が出た大会を偶然見学したときに泳ぐ香織の姿を見て一目惚れし、それまで帰宅部であったが水泳部に入ることを決めたらしい、今聞いてもすごい入部動機だ。

 

 

「…ありがとう暁、それじゃ着替えに行こうか、付き合ってくれたお礼にお昼ご飯奢るよ」

 

 

「本当ですか!?なら私ダックドナルドのダブルチーズバーガーがいいです!」

 

 

「いいけど、この前も同じお店だったよね、違うところじゃなくていいの?」

 

 

「先輩の懐事情は把握済みですから」

 

 

「…なんか申し訳なくなってきた」

 

 

 

 

 

 

ダックドナルドに付いたふたりはそれぞれダブルチーズバーガーとビックダックを注文し、空いている手頃な席につく。

 

 

 

「そう言えば先輩、来栖先輩とはどうなんですか?」

 

 

「席ついて食べ始めて開口一番の言葉がそれですか暁サン…」

 

 

唐突な暁の質問に香織は顔をひきつらせる、来栖…来栖和則(くるすかずのり)は香織や暁と同じ水泳部の部長を努めている男子部員で、香織の交際相手だ。

 

 

「もうイくところまでイっちゃったんですか?というかヤりました?」

 

 

「するわけ無いでしょ!まだキス止まりよ!」

 

 

「キスしたのは認めるんですね…でも付き合ってもうすぐ半年なんですよね?そろそろ踏み込んでもいいんじゃないですか?」

 

 

「そんなのは分かってるけど、何か女の私から迫るとビッチみたいで嫌なんだよね…こういうのは和則からリードしてくれないとイマイチ踏ん切りが…」

 

 

「色々めんどくさいカップルですね」

 

 

コーラを飲みながら暁はつっこみを入れる。

 

 

「で、でも!来週の夏祭り一緒に行くし!全く進展無いって訳じゃないわよ!」

 

 

「そうなんですか?先輩がお祭りデート…これは勝負下着+浴衣で決まりですね!」

 

 

「何でオモチカエリ前提で話が進んでるのかしら…?」

 

 

すぐにそっち方向に話を持って行こうとする暁にはもう呆れるしかなかった。

 

 

 

 

「何か風強くなってきてるわね」

 

 

その帰り道、午前中よりも風速が強くなっていることに気付いた香織がぽつりと呟く。

 

 

「台風が近付いてるみたいですからね、明後日にはこっちにも来るらしいです」

 

 

「…しばらくはプール使えないかもなぁ…ってうわっ!?」

 

 

香織が思わずそんな愚痴を漏らしていると、突風が吹いてふたりの身体を前方に押しやる。

 

 

「ビル風ですかね…?風も強いですし、このあたり高層ビル多いですし」

 

 

「都会も良いところばかりじゃないわね…って、あんなビルあったっけ?」

 

 

香織の視線の先には高さ30メートルほどのビルが建っており、ビル全身に作業用の足場が組まれている。

 

 

「最近作業を開始したビルみたいですよ、元々建ってたビルが損傷したので修繕してるみたいです」

 

 

「第三次世界大戦の爪痕かしらね、今は深海棲艦とかいうのが海に棲みついた影響で停戦中みたいだけど」

 

 

これから日本はどうなるのかしらね…と香織は足場に覆われたビルを見上げながら思う。

 

 

「せんぱーい!そこのクレープ屋台が3割引セールやってますよ!デザート食べましょう!」

 

 

ふと気付けば暁が少し先にあるクレープの屋台カーから手を振っている。

 

 

「…はいはい、今行くよ」

 

 

(まぁ、今それを考えても仕方ないか)

 

 

そう思いながら、香織は暁の方へと歩き出した。




本編はもう少しお待ち下さい。

予定通り話が進めば海原がテレビに出ます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。