艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー 作:きいこ
「深海棲艦に…助けられた?」
伊刈の言葉に海原は思わず言葉を失う、深海棲艦に命を救われたというのは、どういうことだろうか?。
「今から7年前、当時提督をやっていた私の父と乗っていた船が嵐にあって、その時波に揺れた衝撃で私は海に投げ出されてしまったんです」
「…それを助けたのが深海棲艦だと?」
海原がそう言うと、伊刈は頷いて肯定する。
「その深海棲艦は荒波に揉まれてまともに泳げなかった私を近くの入り江まで運んでくれました、深海棲艦の話は当時子供だった私も父から聞いていたので最初は恐怖するしかなかったんですけど、その深海棲艦は優しい声で“大丈夫”、“怖くないよ”と私に話し掛けてくれたんです」
「言葉を話す深海棲艦…姫級か…」
人間を助けた姫級の深海棲艦、俄には信じがたい話だが、伊刈が嘘を吐いているとは思えない。
「その深海棲艦は嵐が収まるまで私を介抱して、一番近くの海岸まで運んでくれたんです」
「…その深海棲艦はどうなったんだ?」
海原が伊刈にそう問い掛ける、今の伊刈の話が事実であれば、深海棲艦と人類の関係を大きく変えるきっかけになる存在になっているだろうし、今とはもう少し違う結果になっていたはずだ。
「…残念ですが、私を送り届ける際に艦娘に“人
「…なるほどな、だからお前は和解を…」
伊刈が深海棲艦との和解を望んでいる理由を知った海原がそう言うと、伊刈は頷く。
「確かに深海棲艦は私たち人間に牙を剥く敵です、でもあの時私を助けてくれた深海棲艦のような個体もいるのであれば、対話が出来て、それが進めばこの戦争も終わりが見えてくるんじゃないかと思うんです」
「だからお前は吹雪たち
「はい、深海棲艦に関する情報を知ることが出来れば、和解という結末に近づけるんじゃないかと思って…」
そう自分の過去や思いを打ち明けた伊刈だが、それを聞いた海原はどこか申し訳無さそうな表情をしていた。
「伊刈には悪いが、吹雪たちは深海棲艦だったときの記憶はほぼ無いんだ、だからお前が欲しがっているような情報は持ってないと思う、すまない」
「いえいえ!海原さんが謝るような事は何もないですよ!これは私のわがままですし!」
頭を下げて謝罪する海原に慌てて両手を振ってそれを否定する伊刈。
「でも、深海棲艦との和解は俺も賛成だな、俺も最初は深海棲艦に復讐するために提督になったけど、吹雪たちを見てるうちにそんな未来もありなんじゃないかって思い始めてる」
「海原提督、伊刈提督、お話中のところ申し訳ありませんが、前衛の4艦隊が会敵しました」
海原と伊刈が話をしている中で早瀬が無感情な声でそう告げる。
「本当か早瀬!?」
「はい、前衛に水上打撃艦隊と空母機動艦隊によるバリケード、後衛には空母棲姫、戦艦棲姫、飛行場姫、軽巡棲姫、駆逐棲姫、そして正体不明の深海棲艦の6体による本隊の二段構えです」
「…敵も本気ってわけか」
「苦戦が予想されますね…」
早瀬の艤装モニターに表示されているカメラの映像を見た海原と伊刈が顔をしかめる、まさに艦隊決戦の名に相応しい布陣だ。
「お二人とも、艦隊指揮の配置についてください」
「OK了解だ、伊刈!とっとと勝って終わらせるぞ!」
「はい!」
ふたりはインカムをそれぞれ付け、戦いを始める。
◇
「…なによあの数」
「見たところ50体以上はいるわね」
「こりゃ骨が折れそうだぜ…」
眼前に広がる敵連合艦隊を見てレオ隊の面々は唖然とする、こんな数の敵を一度に見るのは初めであるし、さらに後ろには姫級の深海棲艦が5体もいる。
今回の布陣は前衛、中衛、後衛に4艦隊ずつ配置する三段構えの隊列になっている、まず前衛のアリエス隊、レオ隊、アクエリアス隊、ヴァルゴ隊は主力戦艦や空母を中心とした火力重視の艦隊で、持ち前の攻撃力で敵を一気に叩き数を減らす。
中衛のサジタリウス隊、タウロス隊、スコーピオン隊、カプリコーン隊は水雷戦隊を中心とした機動力重視の艦隊で、前衛が取りこぼした敵や攻撃を耐えてダメージを負った敵をヒットアンドアウェイで追撃し仕留める。
そして後衛のリブラ隊、ジェミニ隊、ピスケス隊、キャンサー隊は再び火力重視の主力艦隊で、ここまで防衛ラインを突破してきた敵を完膚無きまでに叩きのめす。
各艦隊はこのような布陣になっている、それぞれの艦隊はその都度状況を見て隊列を入れ替えるようになっており、仲間の消耗にも対応できるようになっている、後衛の後ろには補給部隊も待機したいるため、現在整えられる中では盤石の布陣で望んでいる。
『敵艦隊、前衛の射程圏内に入りました、戦闘を開始してください』
「…よし!みんな行くわよ!戦闘開始!」
「「おおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!!!」」
ローマの合図と共にレオ隊含め前衛艦隊が敵艦隊のバリケードに突撃し、戦いの火蓋が切られた。
まずは瑞鶴と加賀含む空母たちが艦載機を発艦させ、バリケードの一掃をはかる。
「向こうも攻めてきたか、
ベアトリスの指示に従い、空母棲艦と軽母棲艦が艦載機を発艦、
「向こうも結構やるわね、シャロ、ちょっと暴れてきてくれない?」
「了解、行くわよ、
シャーロットは艤装の
『戦艦棲姫が向かってきます、総員迎撃体制に入ってください』
早瀬のオペレーションに前衛艦隊が身構える、その時、シャーロットを見ていた吹雪と暁が違和感に気づく。
「…えっ?」
「嘘…でしょ…?」
その違和感の正体に気付いた吹雪と暁は身を小さく震わせ、額を脂汗が伝う。
「…どうしたの?吹雪、暁」
その様子にどこかおかしいと感じた瑞鶴が2体に尋ねる。
「…シャーロットの後ろの
「それも、10体以上の…」
吹雪の言葉に、レオ隊の全員が言葉を失ってしまう。