艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー   作:きいこ

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艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetーのpixiv版が投稿してから1年以上経過していた事にさっき気付きました(2015年10月3日に第1話投稿)、ハーメルン版も投稿から8ヶ月経過してました、時の流れって早いもんですね。


第118話「大鳳の場合5」

「こうも事がうまく進むなんて思ってもみなかったな」

 

 

「灯台もと暗しってやつですね」

 

 

榊原から貰ったFAXを見ながら海原は言う、そこには教えてもらった西村の住所が書かれていた。

 

 

「青森県のむつ市か、結構遠いな…」

 

 

「青森ですか、ならお土産はりんごですね」

 

 

「旅行に行くんじゃないんだぞ、あとお前の他に三日月も連れて行く」

 

 

「三日月もですか?」

 

 

吹雪が首を傾げる。

 

 

「場合によっては混血艦(ハーフ)の説明をする必要があるかもしれないからな、お前は深海痕がないから説得力が薄いし」

 

 

「なるほど、納得しました」

 

 

「…悪いな、こんな扱いばかりで」

 

 

「気にしないでください司令官、だれも司令官が好き好んで見せ物扱いしてるだなんて思ってませんから」

 

 

申し訳無さそうに言う海原に吹雪は笑ってそれを許す。

 

 

「さてと、とりあえず今は出来るだけの準備をしておこう」

 

 

海原は電子書庫(データベース)に表情されている西村の情報を見ながら言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから二日後、海原は吹雪と三日月を引き連れて青森県むつ市へとやってきた、目的はもちろん西村恭吾に会いに行くためである。

 

 

「問題は西村さんに何て説明すればいいかが一番の問題だよな」

 

 

「普通に事実を説明すればいいんですよ、そのために私たちがいるんですから」

 

 

「そうですよ、司令官は安心して西村さんと話をしてください」

 

 

吹雪と三日月は自信満々で海原に言う、2体とも海原の秘書艦(片方は元だが)だけあってとても頼もしい。

 

 

「ところで司令官、それは一体何のために?」

 

 

そう言って吹雪は海原が提げている紙袋を指差す、中には出発前に買っておいた酒の一升瓶が入っている。

 

 

「西村さんの誕生日がもうすぐみたいだからな、お近付きの印としてバースデープレゼントだ」

 

 

「西村さんがお酒好きかどうかなんて分からないのでは…?」

 

 

「心配ご無用、榊原所長に聞いてその辺はリサーチ済みだ、何でも所長と西村さんはそれなりの仲みたいで、住所も年賀状を送るときに聞いたんだと」

 

 

「あぁ、それで所長は西村さんの住所知ってたんですね」

 

 

「あの人の人脈の広さには驚かされます」

 

 

そんな会話をしているうちに台場一行は聞いていた住所の家に到着、表札にも『西村』と書かれている。

 

 

「…考えても仕方ないか」

 

 

どう挨拶しようか玄関前で少し考え込んでいた海原だが、意を決したようにインターホンを押す。

 

 

 

「…はい、お待たせしました」

 

 

待つこと十数秒、ドアが開いてひとりの女性が出てきた、年齢は50代半ばといった辺りだろうか、頭には白髪が目立ち始めているが、あまり年を感じさせない見た目をしている、西村は妻子持ちというのを榊原から聞いていたので、この人は西村の妻だろう。

 

 

「突然押しかけて申し訳ありません、私は日本海軍所属、台場鎮守府提督の海原充と申します、西村恭吾さんはご在宅でしょうか?」

 

 

海原は丁寧な口調で西村の妻と思われる女性に挨拶をする、その様子が普段と違いすぎる事に笑いがこみ上げてくる吹雪と三日月だったが、なんとかこらえた。

 

 

「海軍の方ですか…?失礼ですが主人とはどのような…?」

 

 

「おっと、これは失礼いたしました、私は西村さんが海軍にいた頃にとてもお世話になっておりまして、私にとって恩人のような方なんです、そんな西村さんの誕生日が近いという話を聞きまして、お祝いの品をお持ちした次第であります」

 

 

海原は西村の妻(主人と言っていたので奥さんで間違いないだろう)に事情を説明する、もちろん内容のほとんどは嘘であり、そもそも海原が海軍に所属する前に退役した西村とは全く接点がない。

 

 

それに対してかなりの罪悪感を感じるが、本人と話せれば何とかなるだろうと信じて海原は偽りの恩人として西村を扱う。

 

 

「まぁ、そうだったんですね、それはわざわざありがとうございます、でもすみません、主人は今はおりません」

 

 

「お出かけ…でしょうか?」

 

 

海原が西村の妻にそう聞くと、妻はものすごく言いづらそうな顔をした後、重々しく口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…主人は去年病気で亡くなりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…どうすりゃいいんだ…」

 

 

その日の夜、予約していた宿にチェックインした海原は部屋に入るなりため息をついた。

 

 

西村恭吾は既に死んでいる、それは即ち大鳳の願いを叶える事が出来ないことを意味していた、その現実の重みが今更ながら海原の身体にのし掛かる。

 

 

「大鳳さんに何て説明するかが問題ですよね」

 

 

「そりゃあありのままに真実を伝えるしかないですよ」

 

 

「だとしても、この結果は大鳳にとって酷だよなぁ…」

 

 

 

いきなり分厚い壁にぶち当たった海原たちはどうしたものかと頭を悩ませる。

 

 

「一応妥協案も用意したが、大鳳がこれで納得するかどうか…」

 

 

そう言って海原はポケットから一枚の紙を取り出す、そこには西村恭吾が埋葬されている墓地がある霊園の場所が書かれていた、西村の墓の前で手を合わせる事を許してもらえないだろうか、というお願いを妻にダメ元でしてみたのだが、二つ返事で快諾して地図を書いてくれた。

 

 

ここに大鳳を連れて行って一緒に墓参りをするというのが海原の考えた妥協案である。

 

 

「まぁ、それは台場に戻ってから考えましょう、大鳳さん本人に聞かないとどうにもなりません」

 

 

「…そうだな」

 

 

海原はそう返すが、正直今は大鳳の反応よりも心に引っかかっているモノがあった。

 

 

 

西村の妻から霊園の地図を渡されたときに言われた言葉…

 

 

 

 

 

 

 

 

『故人になってもここまで思ってくれるなんて、あの人も幸せ者ね、ありがとう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

偽りだらけの言葉を信じてそんな言葉をかけてくれた西村の妻の笑顔を見て、密かに胸を痛める海原だった。




次回「墓参り」

本文では書き忘れましたが、西村恭吾の年齢設定は60才(享年)です。

最近ポケットモンスタームーンを買いました、最初のパートナーはアシマリ(水タイプ)です、可愛い。

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