艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー   作:きいこ

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篝編終了です、次はどんな艦娘が出るでしょうか。

活動報告にてキャラクター人気投票を開催しています、よろしければご参加ください~。


第113話「篝の場合15」

川内は電探を起動させると、コンソールのモニターに表示されている情報に目を通す、これを見る限りだとあの深海棲艦以外に敵はいないようだ。

 

 

「さすがにちょっと緊張するけど、今度こそ大丈夫!」

 

 

川内は主砲を構えて眼前の敵艦に向かって突撃する、艦種は軽巡棲艦、おそらく司令艦(フラグシップ)だろう。

 

 

川内が軽巡棲艦に攻撃を加えようとすると、敵の船体が一瞬オレンジ色に光る、敵が砲撃をしてきたのだ。

 

 

「うわっと!」

 

 

その直後に飛んできた軽巡棲艦の砲弾を川内は身を捻ってかわす、光った場所から大まかな弾の軌跡を予想しての回避行動だったが、上手くいって良かった。

 

 

(…流石にすぐ克服ってのは無理か)

 

 

敵の攻撃を間近でかわした川内は身震いするのを感じる、トラウマから開放されたとはいえ、長年心の奥底に張り付いた感情はすぐには消え去ってはくれなかったようだ。

 

 

でも怖いという気分にはならない、むしろ武者震いとすら感じられる、それほどまでに今の川内の戦闘意欲は高まっていた。

 

 

「今までの私とは違うよ!」

 

 

川内は目の前の軽巡棲艦を睨むと、今度はこちらが主砲を撃って軽巡棲艦を攻撃する。

 

 

川内の撃った砲弾は軽巡棲艦に命中してダメージを与える、装甲の柔い部分に当たったのか、すでに中破相当のダメージを負っていた。

 

 

軽巡棲艦も反撃として背部の主砲から砲撃を次々と行う、川内はそれを紙一重のタイミングでかわしていくが、敵の主砲が蛇のようにうねるアームに取り付けられているタイプなので細かく射出角度を調整して的確にこちらを狙ってくる。

 

 

「くっ!」

 

 

軽巡棲艦の撃った弾のひとつが川内の頬を掠める、皮膚が裂けるような鋭い痛みが走り、傷口からじわりと血が滲む。

 

 

「…へぇ、なかなかやるじゃん」

 

 

傷口から溢れた血を指で掬い舐めると、川内はニタァ…と不敵な笑みを浮かべて軽巡棲艦に突撃していく。

 

 

軽巡棲艦は尚も砲撃を続けている、途中かすり傷を作りながら小破未満(カスダメ)を積み上げていくが、川内は気にせず軽巡棲艦に接近していく。

 

 

「はぁっ!」

 

 

軽巡棲艦まであと数メートルといったところで川内は大きく跳躍し、軽巡棲艦の背後をとる。

 

 

「食らえええええええぇぇぇぇ!!!!!!!」

 

 

川内は軽巡棲艦のがら空きの背中に借りっぱなしだった吹雪の太刀を突き刺す、すでに外側から中破相当のダメージを受けているのだ、内側からもダメージを受ければ無事では済まない。

 

 

さらに川内は太刀を引き抜くと切り口に主砲の砲身を突っ込み、軽巡棲艦の内側から砲撃を行う、零距離未満とも言える場所から攻撃された軽巡棲艦は内側から爆発を起こし、海の底へと沈んでいく。

 

 

「ふああぁぁ…勝ったあぁ…」

 

 

電探のコンソールのモニターに敵艦の反応が無いことを確認すると、川内はその場にへたり込んでしまう、たった1体相手しただけなのにどっと疲れが押し寄せてくる。

 

 

『川内さん、夜嫌い克服おめでとうございます!スゴかったですよ!』

 

 

そこへ篝がはしゃぎ気味なテンションでやってくる、もちろんその声は川内には聞こえていないのだが、そこは大袈裟にとっている“ルンルン♪”みたいなリアクションでカバー。

 

 

「何?ひょっとして祝福してくれてるとか?」

 

 

川内がそう言うと、篝は嬉しそうに頷く。

 

 

「へへっ、それは嬉しいね、よっこらしょ…と」

 

川内はそう言って力無く笑うとおもむろに立ち上がり…

 

 

 

「ありがとね、篝のおかげで夜嫌いを克服出来た、私はもう大丈夫、本当にありがとう」

 

 

篝の頭を優しく撫でる、その身体は深い海のように冷たかったが、川内にはそれすら愛おしく感じられた。

 

 

『…私の方こそありがとうございます、これで、私の未練は消えました、もう亡霊として生きる必要もありませんね』

 

 

 

篝は心から嬉しそうに笑う、その直後、篝の身体が光り出し、深海棲艦の装甲にヒビが入る。

 

「っ!これは…!?」

 

 

ヒビは篝の全身に広がっていき、卵のカラが弾け飛ぶように飛散する。

 

 

「…篝?」

 

 

そこに現れたのは、かつて自分が轟沈(ころ)した大切な後輩、篝そのものだった。

 

 

「はい、川内さんを誰よりもお慕いする、あなたの篝です」

 

 

篝はスカートの裾を摘まむと、長く艶やかな黒髪を揺らしてお辞儀をする。

 

 

それを見た川内は、無意識に涙を流して篝を抱きしめていた。

 

 

「良かった…!本当に良かった…!!」

 

 

嗚咽を漏らしながら泣きじゃくる川内の背中を、篝は優しく撫でていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

篝の艦娘化(ドロップ)後、戦闘を終えた吹雪たちと合流した川内と篝は台場鎮守府まで帰投、篝の事を説明すると同時に途中でパニックになり戦線離脱した事を謝罪するが、吹雪たちはそれを許してくれた。

 

 

「改めまして、本日より台場鎮守府所属になります、暁型駆逐艦5番艦の篝です、どうぞお見知り置きを」

 

 

篝が台場鎮守府メンバーの前で挨拶をする、篝も深海棲艦との混血艦(ハーフ)艦娘化(ドロップ)しており、深海痕は右頬、左わき腹、右腿に出来ていた。

 

 

「あっさり台場鎮守府に入るのを決めたけど、良かったのか?川内と佐世保に戻るって事も出来るんだぞ?」

 

 

海原の言葉に、篝は首を横に振ってそれを否定する。

 

 

「いえ、こんな姿では佐世保に帰れませんし、それに川内さんはもう私がいなくても夜を乗り越えられます、ですからこれからは台場鎮守府で助けていただいた恩を返しながらご厄介になろうかと思います」

 

 

そう言って篝はにこりと笑う、川内もそれを良しとしているようで、“篝をよろしく”と海原を信頼して任せる方針のようだ。

 

 

「そういうことなら我が台場鎮守府は篝の着任を歓迎しよう、これからよろしくな」

 

 

「はい!よろしくお願いいたします!」

 

 

篝は満面の笑みで敬礼をする。

 

 

 

 

川内が佐世保に帰った後、毎度お馴染みの深海棲器選びを行った。

 

 

「なるほど、白兵戦ですか…台場鎮守府は中々変わった戦い方を取り入れているのですね」

 

 

「変わってるのは認めるよ、てか無理して深海棲器を持つ必要は無いよ?見たとこ結構優秀な装備持ってるし」

 

 

吹雪は篝の装備品を見ながら言う、主力艦隊に所属していただけあって篝の装備は豪華なモノであった。

 

 

・10cm連装高角砲

 

・53cm艦首酸素魚雷

 

・33号対水上電探

 

 

Deep Sea Fleetでは誰も持っていなかった電探を持っていたのでこれからの艦隊戦での活躍が期待できるだろう。

 

 

「…決めました!」

 

 

長考の末に篝が選んだ深海棲器は3つ。

 

 

1つ目は『クレイモア』

 

1m程の刀身を持った両刃の剣だ、全身が黒色をしており、柄の部分には申し訳程度の装飾として深紅の宝石のような玉が埋め込まれている。

 

 

2つ目は『鎖鎌』

 

3m程の鎖に繋がれた小振りの鎌の深海棲器だ、鎖の遠心力を利用して鎌を遠くまで飛ばし、離れた敵にダメージを与える事が出来る、ちなみに鎖の反対側には野球ボール程の大きさをした鉄球が繋がれており、これを敵にぶつけて打撃戦を行うことも出来る。

 

 

3つ目は『フライパン』

 

一般家庭で使われる調理器具のフライパンよりも大きく、よく年末年始に放送されているスポーツ王を決めるバラエティ番組で登場する巨大テニスラケットを想像してもらえれば分かりやすい、基本的には盾のように使うが打撃武器としても一応使える。

 

 

 

「…って何でフライパンなんてモノがあるのよ、大本営は何を考えてこれを作ったんだか…」

 

 

「まぁ、雪風の包丁の前例があるし、大本営にも頭の湧いたバカがいるんじゃないかしら」

 

 

吹雪の疑問に暁が辛口なコメントをする、他にも武器なのかと言いたくなるようなモノもチラホラ見えるので、暁の予想もあながち間違ってないのかもしれない。

 

 

「さてと、それじゃあ早速篝に入隊訓練を施さないと」

 

 

「いやー、それは必要無いんじゃないかしら…?篝さんは練度(レベル)も十分高いし、吹雪さんが訓練を施すまでも…」

 

 

「いえ!私はこれから台場鎮守府の戦力として頑張らなければいけないんですから!是非とも訓練を受けさせてください!」

 

 

あの地獄の入隊訓練を篝に受けさせたくなかったので暁がそっとフォローを入れようとするが、篝の真面目さが却って悪い方向へと転がってしまった。

 

 

「その意気だ!じゃあ私も張り切っちゃうよ!」

 

 

(あぁ‥また犠牲者が‥)

 

 

これから篝を待ち受ける運命を想像し、暁は心の中で十字架を切る。

 

 

その日、練度(レベル)150オーバーの駆逐艦による扱きを受けた篝の嘆きと苦しみの叫びが訓練所から発せられたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし!上手くいった!」

 

 

 

ベアトリスは透明な巨大カプセルに取り付けられたコンソールのモニターを見ながらガッツポーズをする。

 

 

「どうしたの?いやにテンション上げて」

 

 

するとシャーロットが長い髪を揺らして部屋に入ってくる。

 

 

「シャロか、実は『キメラ』の開発が上手くいきそうなんだ」

 

 

「あら、そうなの?そう言えばこれも随分長いことやってるわよね、たしか2年くらいだっけ?」

 

 

「言われてみればそれくらい経つわね、それにしても本当に時間掛かった…」

 

 

ベアトリスは肩をコキコキ鳴らしながら息を吐く。

 

 

「でも身体が出来ても兵装が無いと役に立たないでしょ、そろそろ開発にかかったら?」

 

 

「兵装は既に組み上がってるから心配はいらないわ、そこにおいてあるやつがそうよ」

 

 

「随分早いわね…」

 

 

「素材にした艦娘の兵装を一部使ってるからね」

 

 

シャーロットは台の上に乗っている『キメラ』の兵装をまじまじと見る。

 

 

「…ん?」

 

 

ここでシャーロットは兵装の一部に何かが書いてあるのに気づく。

 

 

●●型駆逐艦●番艦●●

 

●●型駆●●●番艦●●

 

 

 

おそらく個人を特定するためのネームプレートのようなモノなのだろうが、加工した行程でネームプレートの文字が潰れてしまって何が書いてあったのかが分からない。

 

 

「ねぇベアー、このキメラって何の艦娘を元にしてるの?」

 

 

「えーっと確か…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『秋月』と『夏潮』…だったかな」

 

 

 




次回「ヒーラー」

ちなみに篝の深海棲器は最初3枠としていましたが、もう一枠増やしました、chapter9で登場するのでお楽しみに~。

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