艦隊これくしょんーDeep Sea Fleetー 作:きいこ
「お帰り、演習はどうだった?」
補給を済ませた吹雪たちが再び執務室に戻ってくる、心なしか舞浜艦隊の面々が疲れているように見える。
「私たちの圧勝でした!」
吹雪たちは誇らしげな顔でピースをする。
「いろんな意味で規格外なんだね、台場艦隊は」
「あれはいくら何でも強すぎでしょ…」
「手も足も出なかったのです…」
執務室のソファでぐったりしている響たちを見て海原は苦笑する。
「吹雪たちは毎日訓練ばっかりしてるからな、戦闘技術なら
「毎日訓練!?」
「飽きないのですか?」
海原の言葉に驚いた雷と電が吹雪に聞く、自分たちなら三日と持たないだろう。
「飽きるというか、それ以外にすることが無いからやってる…って感じかな」
「見ての通り辺境の鎮守府ですから、娯楽も何も無いんですよ」
吹雪とハチがそれぞれ答える、他の鎮守府の艦娘であれば外出許可さえ貰えれば近くの街へ繰り出す事も出来るが、台場鎮守府は近くの街へ行くのにも車で一時間以上掛かる。
「たまに司令官が街へ買い出しに行く時に買ってきてくれる漫画とかが娯楽と言えば娯楽かな」
「この前の『白子のバスケ』は面白かったですね」
その会話を聞いて響は何ともいえない気分になる、自分たちは漫画なんて外出許可さえ貰えれば近くの街へ行けば手にいれる事が出来た、コンビニで流行りのスイーツを食べる事だって出来た、だが吹雪とハチはそのほとんどが自由に出来ないのだ。
「吹雪たちは、他の鎮守府に移りたいと思ったことは無いのかい?」
「他の鎮守府…?」
「ここは暮らすのにも不便だし、楽しめるものも周りにない、何より出撃が少ないから艦娘としての任務をほとんど全う出来ないじゃないか」
だから、響は吹雪をかわいそうだと思い、憐れみを込めて聞いた。
「移りたいと思ったことは無いよ」
「私もありません」
しかし、吹雪とハチの答えはNOだった。
「…理由を聞いてもいいかい?」
「私、元々は横須賀鎮守府にいたんだけど、そこはブラック鎮守府で毎日ひどい目にあってたの、
「えっ…!?」
「横須賀が、ブラック!?」
「本当なのですか!?」
響たちが驚きの声を上げる、三人が知る限り横須賀鎮守府はトップクラスの戦力と
「華々しく活躍できるのは戦艦や空母だけ、駆逐艦なんて単なる捨て駒程度にしか扱われなかった、だから戻りたいなんて思ったことは一度もないよ」
そう言って吹雪はどこか懐かしむような目をして明後日の方を向く、これ以上深入りするのはやめた方がいいだろう、響はそう察する。
「無神経な事を聞いたね、すまない」
「気にしなくていいよ、ただの昔話だから」
そう言って吹雪は響に笑いかける。
「…そうだ、この前買ってきたシュークリーム、まだ残ってたからおやつで食ったらどうだ?」
湿っぽい空気を変えるつもりなのか、海原が思い出したようにそんなことを吹雪たちに言う。
「あ、そういえばそうでしたね!響、食べに行こう!」
「…うん、じゃあいただこうかな」
吹雪は響たちを連れて食堂へと向かっていった。
暁が現れたのは、それから2日後の事だった。
◇
「…本当にここなのかい?」
「うん、
場所は例のごとく台場鎮守府近海、深海棲艦出現の連絡を受けた吹雪たちは第6駆逐隊を引き連れて出撃した。
「あ、あれじゃないですか?」
ハチが指差した先には一体の駆逐棲艦がいた、しかもただの駆逐棲艦ではない。
「…司令官、暁を発見しました、接触を試みます」
『おう、気張ってけよ』
そこには数日前に姿を見せた駆逐棲艦、暁がいた。
『…ごめんね、ごめんね』
暁は依然謝罪の言葉を呟きながら俯いて立っている、ここまで来て言うのもあれだが、響たちが話しかけて暁は気付くのかという疑問が吹雪の頭に浮かぶ。
「とりあえず、何かしら暁に話しかけてみて、敵対するような様子は無いからある程度近付いても大丈夫だと思うし」
「うん、分かった」
まずは響が暁に近付く、この時点では何も反応がない。
「…暁、聞こえるかい?私だ、響だよ」
『…えっ、響…?』
次の瞬間、今まで何も反応を示さなかった暁が、恐る恐る顔を上げた。
三日月の改二はよ。