・最初から最後までいちゃいちゃは同じ。
・シチュは同じ。でも中身は違います。喘ぎもあるよ!
・前回以上にやりたい放題。八幡にはいろいろと諦めてもらいました。
× × ×
「あ、先輩おかえりでーす。わたしにします? それともわたしにします? ……それともぉ~、わ・た・し?」
と、帰宅した俺を迎えた、無駄にあざとく甘ったるい声。俺の元後輩かつ現恋人のいろはすこと一色いろはである。
「はいはいただいま」
「リアクション薄……もうちょっとノッてくださいよー」
ぷりぷり怒りながらも両腕を広げたいろはを抱き寄せると、彼女はんふーと満足げな吐息を漏らす。はいはいあざとい可愛い。
「で、どうしますか? とりあえず先お風呂にしますか? それともコンビニまでひとっぱしりしてきますか?」
「選択肢変わってるし減ってるし夢もキボーもなくなっちゃってんだよなぁ」
「お醤油ギリ切れかけたので。あとアイス食べたいので」
「せめて本音のほうは隠せよ……」
しかもよく聞いたら醤油のほうもギリ間に合ってんじゃねぇか……。ひくひく顔を引きつらせていると、てへっと笑ってウインクするいろは。
……この子ったらまーたそうやって! そうやって一体何人の野郎共をだましてきたの! 怒らないから正直に言ってみなさい! やっぱり可愛いんだよなぁ……。
けどまぁ、いろはが家事全般をやってくれるのは本当にありがたい。しかも文句の一つもなしに……いや結構言ってんなこいつ。ごろごろしてると「邪魔です」って脚でげしげしされたりもするし。つらいです……ごろごろが好きだから……。だが、その白く綺麗なおみ脚で蹴られるのは悪くない(キリッ)。
と、そこでいろはの目が瞬間冷却したみたいに冷たくなり。
「先輩。なんか気持ち悪いこと考えてますよね」
なにこいつ、エスパー? あくタイプぶつけんぞ。
「か、考えてない」
「えぇ~、ほんとにござるかぁ?」
「ほ、ほんとにござる……。猿じゃないんだから……」
「どの口が言いやがりますかそれ。昨日だってあんなにわたしの」
「悪かった、俺が悪かった。だから言わんでいい言わんで」
ふぅ……あっぶねー、全世界に性癖晒されるところだった。特定とかシャレにならんし。性癖晒されて特定……うっ、頭が……。
などとネットの怖さに一人ガタガタ震えていると、いろはは何事か、俺の背中を優しく叩く。ぽっふぽっふ、ぽっふぽっふ。
「まぁ、先輩も男の子ですもんねー」
「……んぐ」
変態! スケベ! 八幡! と罵られたほうがまだマシだった。
「まぁ、わたし可愛いですもんねー」
「自分で言うなよ……」
「でも否定はしないんだよなぁ」
俺の肩口でもぞついたいろはは、挑発的な横顔で、ついと視線を合わせてくる。
わかった上で言っていて、わかった上でやっている。そんな振る舞いが相変わらずムカつくけれど――その相変わらずがたまらない。
お返しとばかりにいろはの頭をぐっしゃぐっしゃと撫でる。すると、ぎゃーセットがーなんて叫んだ後、彼女は俺の手を取りラジコンのようにして。
「雑ですやりなおし。ほら、撫でるならこんな感じで……」
「あーはいはい、ごめんねこうだね」
「ちょっ、変わってない! 雑! だからざっつい! やりなおし!」
× × ×
で、じゃれあった末に、結局ひとっぱしりさせられた後。
湯の張られた浴槽以下略。同じだと芸がないので今回はカットで……。
また(しかも行まで同じ)メタとはたまげたなぁ……と今回も自重せずにメタメタしつつ、湯の張られた浴槽に浸かりながら、ふーっと大きく長い息を吐く。いや書いてんじゃねぇか。カットするとは一体なんだっ――。
「――お邪魔しまーす」
「え、ちょっ、早、はやぁ……」
前回の導入をまるごと全部蹴っ飛ばして、めっちゃ軽いノリで言いながら、バスタオルを身体に巻いたいろはすインザバスルーム。別の意味で心臓に悪いわ……がっつりガードでエロくないし……。
ただ、本作は一応、前作のいろはすバージョンという体なので……。
「……きゅ、急になに、どしたの」
「は? いや、急にもなにも、毎日一緒に入ってるじゃないですか」
俺のフォローが無に帰した瞬間がこちらです。い、いろはすぅ〜……もうちょっと空気とか展開とか読んでほしいなぁ……。
だが、渋い顔になる俺などどこ吹く風、いろははいつものように(たぶん)ちゃぽんと向かい合う形で身を浸からせる。
「ふー……きもちー……」
「う、ううむ……」
消化不良感もあって、つい材木座みたいな唸り方をしてしまった。
そんな俺の反応を見て、いろはがじとり目を細めて訝しむ。
「もしかしてまたなんかよからぬことを……」
「い、いや、違うぞ? そうじゃなくて、なんつーの? ……あいったぁ……」
なんとか軌道修正しようと試みたら、無言でげしっと蹴られたのでもうダメです。
「イラッとくるんでその喋り方金輪際禁止です」
「アッハイ」
「よろしい」
す、隙がない……全然、まったく、これっぽっちも……!
これは……万策尽きたー!
――はい、というわけでね。
ごっしごっし……とめぐりさんの時のように背中を流してもらうわけでもなく、俺が身体を洗ってあげるわけでもなく、リラックスタイム(とは彼女の言)に付き合う形で再び湯船へ。端的に言わなくても混浴ですね! でも前回との温度差ェ……。
なのでせめて何かR要素をと、いろはが身体を洗っている時にふにふにのお胸やら魅惑の三角地帯やらを目が血走るほどガン見してたら、「気持ち悪……」とゴミを見るような眼差しで吐き捨てられたことをここにご報告しておきますね! 正直ゾクゾクしました。うわ気持ち悪……。
「男の子ですねぇ」
と、俺の身体を足先でつんつんしてくるいろは。問題なのはつんつんしている箇所である。暴発しちゃうからやめてほしい。まずいですよ!
しかしそこはさすがの一色いろは、引き際は弁えているかの如く、モノローグの途中でくすり笑って、脚をすすすと三角座りに戻すと。
「あとでまたしてあげますかねー。気が向いたらですけど」
などとご機嫌でのたまう。
っべー……。セーフ、セーフ。コキじゃないからイッてない。
俺は天を仰ぎ、ほうっ……と震えた息で余韻と欲を逃がしてから。
「いろは、お前なぁ」
「こういうのも好きなくせに」
「アッハイ」
「よろしい」
何か言う前に秒で封殺されてしまった。悔しい……! でも……感じちゃう! と世のいろはスキーの方々は喜ぶのかもしれないが、あいにく俺はそんな嗜好持っちゃいない。……え? PCで冒頭のセリフから二十一行目? 十六行前? ははは一体なんのことやらハチマンワカンナイ。
なんて俺が一人メタリンピックを開催している間に。
「……よいしょ」
「ちょっ、なに、なんでこっち来たの……」
湯船の中で器用にくるりんと身体を反転させたいろはが、くっつきもたれかかってきた。今はお互い裸と裸、となると必然、当ててんのよではなく当たってんのよ状態になってしまうわけである。俺の名誉のために何がどう当たってんのかは省略させていただくが、熱気と緊張と興奮で頭も心も股間もフットーしそうだよぉ……いや全部言ってんじゃねぇか。自重しなさい。
なんて具合にガッチガチ(他意のない表現)となっている俺の様子に、いろはは首だけで振り返り、くすっと微笑む。
「ふふ……いつものことじゃないですか。それにいまさらですし。いい加減慣れてもらわないとわたしも困っちゃいます」
「困るって……慣れたら、それはそれで、ちょっとアレなのでは」
「あー、まぁ、それはそうなんですけど……」
そこでいろはは「でもですよ」と意味深に区切った後、やり場をなくしてさまよう俺の両手を自身の手で掴み添えて、ぎゅっとするように動かしながら。
「――それでも、これはわたしのです。だから、慣れてもらわないと困ります」
直後――左頬に、濡れた髪の感触。本当にかすかな接触音。やわらかなタッチ。ふわり漂うシャンプーの匂い。女の子特有の甘くていい香り。
不意打ちに唇をぱくぱくさせつつそちらを見れば、ぷいといろはが顔を逸らす。頬や耳が先程よりも赤く見えたのは、この態度からして、俺の錯覚というわけではないのだろう。
ほーんと素直じゃねぇなぁこいつ……。
「……まぁ、善処できるよう前向きに検討する方向で」
「でたー……、全然する気がないやつ……。まぁ、先輩らしいですけど」
俺も大概だった。でもねいろはす、やれやれって感じのオーラ出してるけど、君は人のこと言えないからね。まったく誰に似たのかしら……。
けれど、やはり、そんなところが何よりも可愛くて。なんとなく、本当になんとなく、彼女のお腹を優しく撫でるように、抱きしめる力を入れた。
「ん……ふふっ、先輩、どうしたんですか〜……?」
「なんかな、うん……なーんかなぁ……」
「……あはっ。じゃあ、そんな素直じゃない先輩のためにぃ〜……」
曖昧な俺の言葉にそんなことを囁いたいろはは、ゆっくりと、瞳に瞼のカーテンを下ろしていく。差し出された唇はぷるりと瑞々しく、やたらと蠱惑的で、扇情的で。
俺は、ふらふらと花の蜜を求める蝶のように。
いろはのそこへ唇ごと誘われて、そのまま――そっと吸い込まれた。
「んっ……ん……」
禁断の果物かと思えるほどに。彼女の吐息が、彼女の唾液が、彼女の匂いが、何もかもが甘くて、甘くて、甘い。
もう、この子のこと以外何も考えられない。考えたくない。
いろはから離れたくない。いろはを離したくない。
「……んぅ〜……」
と、俺の手をにぎにぎしながら、わざとらしく声を上げるいろは。そこはかとない微笑と挑発のニュアンス。言葉に起こすなら『先輩はまったくもう』だろうか。
…………。
手玉に取られっぱなしは癪なので、試しに舌を伸ばしてみる。
「ん……っ?! ……ふっ、はっ……」
拒まれなかったので、少し激しくしてみる。
「……ぁ……っはぁ、んっ……んっ、んん……っ」
拒まれない。
なら、もう少し、もっと。
「ん、ぁ、はっ……ぁん、んふぅ、んっ……はぁっ、あっ、はっ……」
舌を絡ませ合って、お互いの口内をまさぐって、掻き回して、まぐわって。
ぴちゃぴちゃと唾液を交換して、ぬちゃぬちゃと糸を引かせまくって。
ただただ、二人で卑猥な水音を響かせて。
「いろは……」
やがて、俺は、最愛の女の子の名を呼んで。
ゆっくり、ゆっくり、彼女のお腹に添えたままの手を。
上へ、上へ――。
「………………あいったぁ」
が、そこへ辿り着いてハッピーになる前に、手の甲をつねられてしまった。
「もう……先輩、すぐ調子乗るんですから……」
「こ、ここまできて、おあずけ……?」
「はい♡」
残念、えろはすタイムはここで終了のようです。まぁこれ以上はRタグ必要になっちゃうからね、仕方ないね。当作品は全年齢対象のKENZENな作品です。にしてもこいつ悪魔かよ。こんなん半殺しみてぇなもんじゃねぇか……。
なので、悪あがきではあるが、全力で恨みがましく見つめていると。
「……あ、あの……そんなに……?」
「当たり前だろ。超したい。できれば口と下で、両方」
「うっわ欲望ダダ漏れ……」
先っぽだけでもいいじゃないか、だって男の子だもの、はちを。いや何言ってんだ俺。どうやら待てを食らいすぎて性的欲求がブレーキをかける力を上回ってしまったらしい。理性の化け物とは一体なんだったのか。あれそういう意味じゃないけど。
「はー……もう、仕方ない人だなぁ」
ふすーふすーと理性で欲望をなんとか必死に抑えつけている俺に、いろはは楽しげにくすり笑って、俺の手の甲をさわさわと優しく撫でさすりつつ。
「まぁ、さすがにちょっと可哀想になってきましたし……」
お? お? どすけべオッケーくる? クルー?
「全部済ませてから、寝るときにまた、……ね?」
ヨッシャキタァァァァァ! ウワヤッタァァァァァ!
とまぁ、おいまたこのパターンかよRシーンもちゃんと書けよと言いたくもなるだろうが、今回はキスシーンを喘ぎ多めのアウトラインギリギリまで描写したので、読者諸兄姉のみなさま方におかれましては以下略。
× × ×
いろはす、ごちそうさまでした。とてもおいしゅうございました。
ふぅ……ん? ご飯の話だろって? 今回は事後だよ! 残念だったね! とメタメタの実で本作もしっかり七行前を回収しつつ、場面はふぅ……なピロートークよろしく普通のベッドシーンへと飛びまして。
時刻は日付をまたいで少し。俺の胸に顔を埋め、いろはがもぞもぞもふもふ。
「先輩はほんとーにけだものですねー……」
「んなことは……」
「ありますー。わたしがどれだけイッたと思ってんですか」
直接的な描写はないからセーフ。
「……ちなみに」
「いや、そんなの言えるわけないですけど……ていうか、女の子にそういうこと聞かないでください。マナー違反ですよ?」
「だって、本当は俺だけとか、……嫌だろ、そんなん」
こんだけ盛っといてあれだが、相手の気持ちを無視してする行為なんざ自慰と変わらない。相手あってのセックスなんだから、そんなことできるはずがない。もし自分だけがというなら「オナニーでもしてろバーカ!」である。そんなものにひとかけらも愛などなく、ただの可哀想なお猿さんである。アルファベットが示す並びのようにHとIは隣どおしあなたとわたしさくらんぼ、愛がなければエッチはできねーんだよわかってんのか? お? ともはや濁す気も伏せる気もゼロだが、前と言ってること同じだし前以上に目が滑るだろうし大丈夫でしょ、っつーか手抜きがバレるんでお願いします目よ滑ってください(震え声)。
「ほんとマジでアホですねー、この人はー……」
と、いろはが思いっきり呆れた顔で。
「わたしがあんなふうになるの、先輩だからに決まってるじゃないですか。先輩だから……あーもー、なんでわたしがこんなこと……。察し悪い先輩とかもうただのゴミですよゴミ、あーもー、ほんとにもー……いちいち言わせないでほしい……」
「ひでぇ言われよう……」
「このばか、あほ、ぼけなす、とーへんぼく、けだもの」
素直な本音だったのか、俺の胸元で真っ赤になった顔を隠しながら、いろはがぶつ切りにしたワードをぽっしょぽっしょと呟いた。
「……このばか、あほ、ぼけなす、とーへんぼく、けだもの」
まさかの二周目突入。しかしあれだな、こいつほんとめんどくせぇな……俺も大概だけども。
ああ、そうか――そうだったな。
「……いろは」
理由も理屈もいらない。残すのは感情だけでいい。
「はい? ……ふふっ、またそんな物欲しそうな顔してどうしたんですか〜……?」
――めんどくさくない女の子なんていませんよ。
そうだな、超めんどくせぇよ。勝手に勘違いしてキレるし、かと思えば、勝手にへこんでいきなり泣き出すし、めんどくさいったらありゃしない。ただでさえ人間自体がめんどくさいってのに。
――ちょっとくらいずるいほうが女の子らしいじゃないですか。
ちょっとなんてもんじゃない。その勝手な勘違いも、理不尽な泣き落としも、傍若無人でしかない振る舞いも。
それらのめんどくさい素顔が、俺一人に向けられているというだけで――こんなにも可愛い。こんなにも愛しい。たまらない。ずっと独り占めしていたくなる。
だから、世界で一番めんどくさくて仕方ない女の子に。誰よりも一番ずるくて、可愛くて、愛しくなった女の子に。
俺の腕の中で、眠るように目を閉じた、最愛の女の子に――そっと。
……と、やはりここで、前作同様のフィニッシュですけれども。
ほら、誰だって、最愛の人や推しとの時間は他人に奪われたくないでしょう? 幸せの余韻を噛みしめながら眠りたいでしょう?
そんなわけで、おあとがよろしいようでということで、どうか一つ。