「ここですか?」
「そうよ」
キュルケがタバサと空を飛び、コルベールがロングビルと食事をしていた頃……闘夜とルイズは二人で城下町に来ていた。ルイズは闘夜の背中から降りながら城下を見渡す。
本当なら馬で来るはずだったのだが、突然馬より自分の脚の方が速いと闘夜が言い出したのだ。そこまで言うなら少し乗ってみようとルイズは仕方なしに乗ったのだが実際確かに速かった。闘夜の背中に乗りながらさながら疾風の如くあっという間に城下についたのだ。予定より早い……
まぁ実は闘夜は馬に乗れないので馬で行くと言われ困っていたと言うのもあるのだが……
「しっかし道幅が狭いですねぇ」
「なにいってんのよ、これでも大通りよ」
うむむ……これではスリも多そうだと闘夜はお金が入った袋をしっかり握りしめた。
「気を付けなさいよ。スリも多いから」
「わかってますよ、だからしっかり持ってます」
「それでもよ、メイジのスリもいるんだから」
「え?メイジって貴族なんじゃないですか?」
闘夜がそういう。闘夜のなかでは《メイジ=貴族》という図式が出来上がっていた。それをみたルイズは何でそんなことも知らないのよと大きなため息をついた。
「貴族は全員メイジだけどメイジは全員貴族じゃないの。何かの理由で没落したりね」
「あぁ……」
闘夜は納得した……しかし、
「没落かぁ……他人事に聞こえませんねぇ」
「はぁ?何で?」
「俺の父方の祖母が没落貴族だったみたいなんで」
「面白い冗談ありがと」
冗談じゃないんだけどなぁ……と思いつつも闘夜がいると、
「あ、こっちよ」
そう言ってルイズは指差す……その先には剣のマークを彫った看板が下がった汚い店があったのだった……
ルイズと闘夜は店の扉を開けて入る……店の中は客一人いない……まさに閑古鳥が鳴いてる状態だ。そんな閑散とした店の店主らしき男がルイズを見るとギョッとした顔をした。
「こ、これは貴族様!私は真っ当な商売してますぜ!」
と、主人は手を揉みながらいってくる……大体そういう輩が真っ当な商売をしているとは思えないのだが……まぁそんなことは置いておこう。
「客よ」
そう言うと店主は更に驚いた……
「おでれぇた……こいつはおでれぇた!」
「そんなに意外かしら?」
「へい、剣を振るうのは傭兵、貴族様は杖を振るい陛下はバルコニーから手を振ると相場が決まってるのでございます」
成程……とルイズは頷いた。そして、
「ま、私のじゃなくてこいつの剣を見繕ってちょうだい」
「あぁ、成程。そういうことでございますか」
そう言って店主は店の奥に一旦消える……そして戻ってきた。見せてきたのは細く、刀身と呼べる部分がない剣だった。
「なんですかこの棒切れみたいな剣は……」
「レイピアよ?知らないの?」
知りませんと闘夜が首を横に振るなか店主が口を開いた。
「最近は土くれのフーケとか言う泥棒も出ているためか下々に剣を持たせる貴族様が増えているのでございます。やはりそういった方々にはこういったものが好まれますね」
「へぇ~」
闘夜は物珍しそうに振ってみた……が、
『っ!』
次の瞬間手からすっぽ抜けたレイピアが店主の顔の真横に刺さった……
「す、すいません……これ軽すぎて逆に……」
ルイズはそういう闘夜に対してため息をつきながら店主に言った……
「もう少し重量がある剣をちょうだい」
「へ、へい」
店主は青ざめた顔をしながら奥に引っ込んだ……さすがに顔面の真横にレイピアが刺さったのは胆が冷えたらしい……
「でしたらこいつはどうでしょう」
そう言って見せてきたのは装飾が派手で宝石まであしらった高そうな剣だった。
「こいつはかの有名なシュペー卿が作り出した剣でございます」
「ほぇ~」
そのシュペー卿という名前は知らんがこれまた豪華な剣だと闘夜は見る……それを見てルイズも、
「この剣は幾らなの?」
「エキュー金貨で二千、新金貨なら三千でさ」
「はぁ!?」
値段を聞いた瞬間ルイズは目が飛び指しそうになった……いくらなんでも高すぎである。因みにどれくらいかというと庭付きの屋敷を買えるくらいである。
「高いんですかね?やっぱり……」
闘夜もルイズの反応で大体察したらしい……ルイズもひきつった笑みで頷いた……
「新金貨百枚で買えるものを頂戴」
と、ルイズが言うと店主が後ろに適当に置かれてる剣の山を指差した。
「彼処のだったらそんくらいで買えますぜ」
と言われ、ルイズが今度は闘夜をみた。
「好きなの一本とってきなさい」
「はい」
と言うわけで剣の山を見ながら闘夜は適当に物色を始める……どれもやはりぼろっちぃ印象がある。別にそれは良い……だがどれもなんか手に馴染まない。鉄閃牙が馴染みすぎたというのもあるのかもしれないがしっくり来ないのだ。
引っ張り出しては持ってみて……なんか違うと元に戻すを繰り返す……すると、
「へん!お前さんみたいなガキに使いこなせる剣なんぞここじゃなくたってねぇよ、諦めな」
『っ!』
闘夜だけじゃない……ルイズもビックリした顔をした……それもそうだろう……何せこの店には自分達の他には店主しかいないのだ……そもそも聞いたことのない声に闘夜が首をかしげる……
「やいデル公!あんまり客に失礼なこと言うと溶かしちまうぞ!」
そう言って店主がずかずか来ると山の中から一本の剣を引っ張り出した……その剣は真の姿の鉄閃牙から見れば細身であるが刀より肉厚で大きい片刃の剣だった……所々錆びているが充分使える形である。
「んだとこら!溶かせるもんなら溶かしやがれ!俺はもうこの世に未練なんぞねぇ!」
ま、少々口が悪いが喋る武器というのは中々面白いじゃないか。まぁ戦国時代では喋る武器もあるにはあるが大体持ち主を呪おうとしたりする邪悪な面が強いがこっちはそうでもなさそうだ。あとは持ち心地である。
「すいません、持ってみて良いですか?」
「あ?まぁ良いですけど……」
店主から剣を受けとると持ってみる……うん、持った感じも悪くない。しっくり来る。でもなんかちがうな……あ、この剣左手で持つとしっくり来る。左手で持つための剣だったのか……何て考えながらいると……
「おめぇ……使い手か……」
「はぁ?」
闘夜は突然驚いたような声を出す剣に首をかしげた。
「おめぇ自分のことわかってねぇのかよ……まぁいい!俺を買え!力になるぞ!」
闘夜はますます首をかしげた……だが悪いやつじゃないっぽい……なので、
「ルイズ様、これ買いましょ」
「えぇ……そのインテリジェンスソード買うの……」
「いんてり……なんですって?」
「要は意識を持った魔剣のことよ……しかもボロいし……」
というルイズに闘夜は首を振った。
「いえいえ、これはちゃんと刃もありますし作りも頑丈そうだし良いと思いますよ?」
そもそも真の姿にならない状態の鉄閃牙は切れ味皆無で突き刺すのが精々……それに比べこれは切れ味がありそうだ。少しボロいがまだまだ現役だろう。
「それにこれ左手用でしょ?だから鉄閃牙と合わせて二刀流ってできますしね」
「両手に剣で何が変わるのよ……」
とルイズは言う……それを聞いた闘夜はニカッと笑った。
「両手に剣を持てば二倍強くなれそうじゃないですか」
『それはないない……』
と、ルイズ・店主・そして喋る剣こと、魔剣・デルフリンガーは見事なハモリを見せたのだった……
「しっかしデル公がいねぇと静かだなぁ……」
闘夜とルイズが剣を購入し帰っていったあと店主はポツリと呟いた……少し前まで喧嘩しながらも喋り相手がいたのだ……それがないと余計に静かに感じた……そんな中……
「ねぇ店主さん」
「ひぇっ!」
考え事をしていたため気づかなかったが客が来たらしい……客は二人……だが店主は片方に目を奪われていた。
豊満な胸をちらつかせ……美しい足をスカートから覗かせる……赤い髪は情熱を感じさせる……そんな美人。
無論キュルケとタバサであった。
「今帰っていった二人組のお客が買っていったものを教えてちょうだい」
「へ、へい……何でもお連れの方に剣をプレゼントされるとかでして……ですがお金が足らずにそこの安い剣を買っていかれました」
そう店主が言うとキュルケはやれやれと肩を竦めた。男にプレゼントを渡すのにお金がないとかまだまだである。
「それで?あの子達が気に入っていたのとかないの?」
「へい、それでしたら」
そう言って店主は先程の金ぴかの剣を見せた。
「これはかの有名なシュペー卿が……」
と、先程の謳い文句を繰り返す……そして値段まで言うとキュルケは眉を寄せた……
「ちょっとお高くありません?」
「へぇ……名剣ですの……っ!」
店主は目を見開いた……何せいきなりキュルケは店主の目の前で脚を組み始めたのだ……扇情的なその姿に目を奪われる。
「け、計算を間違っておりました!エキュー金貨1600でいかがでしょう」
キュルケはまだ高いとスカートの裾を少し持ち上げる……
「せ、1500……いや!1400でいかがでしょう!」
キュルケはそっと店主の耳打ちした……
「1000……よ」
それから数分後……ホクホク顔のキュルケといつもと変わらないタバサが店から出てきて正気に戻った店主が涙を流したのは……別の話だろう。
デルフリンガーが左手用ってのは原作では特に言われてませんがこっちの作品では少なくともそうです。まぁ神の左手であるガンダールヴの愛剣ですしおすし……