「フンフフーン♪」
朝……キュルケは口紅を塗り服を着替える……髪を解かし立ち上がり鏡で全体像を確認……問題はなし。
「さて、行くとしますか」
そう言って杖を持ちキュルケは外に出た……向かう先はルイズの部屋……とはいえ目当てはルイズではなく闘夜である。
昨日の告白を恭しく断られたキュルケは寧ろ燃えていた。今までキュルケは振ることはあっても振られたことはない。それにたいして怒りがあるわけではもちろんない……だがそれゆえに目が向いた。
寧ろキュルケはムリゲーにこそ燃えるタイプなのだ。そんな中キュルケはドアを叩くが返事はない……闘夜が出てきたらキスのひとつでも噛ましてやろうと息巻いていたのに残念と思った……となるとキュルケは黙って杖を抜いて呟いた……
呪文の名前は【アンロック】……コモンマジックと呼ばれる魔法に分類されるもので効果は何てことはない。閉まった鍵を開けるだけだ。とは言え魔法学院ないでの使用は禁止されてる。まぁ彼女にそんなものは無意味なのだが……
「相変わらず殺風景な部屋ねぇ~、これじゃあ男を呼んでも楽しめないわ」
と、ルイズのへやをみながら部屋の住人が居ないのを確認しつつ窓に向かった……すると、
「あ、居た」
外をみるとそこにはルイズと闘夜がなにかを話していた。そしてそのままルイズは訝しんだ顔をしながら闘夜の背中におんぶされると、
「え?」
キュルケは目を丸くした……そりゃそうだろう。何せいきなり闘夜が走り出したかと思うとまるで旋風の如く走りだしみるみる豆粒になったのだ……その速さは明らかに常人を凌駕しており馬より速い……
「…………ってこうしちゃいられないわ!」
そう言ってキュルケは部屋を飛び出した……
一方その頃……眼鏡をかけ、小柄な少女……タバサは本を読んでいた。彼女は魔法の腕は学園でも上位に余裕で食い込むのだが如何せん愛想の無さがタマに傷だった。更に今年で十五になり闘夜と同い年なのだが全体的に小さく年相応にみられない。良く良く見れば整った何処か気品を感じさせる高貴な顔立ちなのだが本人は全く気にも止めない。
彼女にとって本が読める生活であれば文句はないのだ……
「…………」
スゥッとタバサの目が上にあがる……
文句はない?違う……彼女には目的がある。誰にも言えないし言わない……必ずや成功させなければならない彼女の……目的があった。
もしその目を彼女を知るものが見たら背筋が凍っただだろう……それだけこの少女の目は感情が点っていた。いや、ただの感情なら良い、この眼は……復讐者の目である。闇に身を置く殺し屋の目である……すると、
「タバサ!いる!開けて!」
「………………」
友人の声でタバサの眼は何時もの無感情に戻った……そしてタバサは黙って杖を振った……するとどうだろう……突然音が消えたのだ。
この魔法は【サイレント】……音を消す魔法で彼女は自分の周りの音を消したのだ。彼女にとって今日は至福の時間になるのだ。いくら親友でも邪魔はさせない……
と思っていたのもつかの間、彼女の目の前にあった本が取り上げられたのだ……勿論犯人はキュルケである……そしてキュルケはなにかを抗議している……一見すればパントマイムに見えるがただ音を消しているだけだ……仕方無いのでタバサは杖を振ってサイレントを解除した……
「ねぇタバサ!お願い力を貸して!」
と、いきなり聞こえたのがそれだった……
「虚無の休日……」
と、タバサは短く抗議する……折角の休日なのだ。本を読んで過ごしたい……と、訴えるが、
「分かってる……でもねタバサ!どうしてもあなたの力が必要なの!」
タバサはキュルケの言葉に若干既視感を覚えつつも何故かと眼で問う……すると、
「ルイズとトーヤが何処かに遊びに行ったのよ!それを追いかけたいの!そう……私は彼に恋をしたのよ!」
あぁ、何時ものことかとタバサはため息をついた……彼が良いだのあのこが良いだのと毎日騒いで今度はあの使い魔か……
「分かった」
「ありがと!タバサ!」
彼女がこうなると止まらないのは知っている……故にタバサは抵抗せずに力を貸すことにした……無論……タバサ自身も闘夜については気になっていた……
あの身体能力……そして魔剣……自分のほしい【
「行く……」
そう言ってタバサはバルコニーを開けると指笛を吹く……そこに一匹の蒼い龍が飛んできた。名前は【シルフィード】……風龍と呼ばれる数多く存在する龍のなかでも取り分け飛行速度に特化した龍である。
と、表向きはみられているが実はこの龍には秘密があった……まぁそれはここでは内緒にしておこう。
とりあえずタバサとキュルケは龍に飛び乗ると、
「どっち?」
「あ……」
キュルケはしまったと思った……闘夜たちがどこに向かったのかみていなかったのだ。だが、
「あ、でもルイズをおんぶして走っていったわ」
「………………」
何がどうなってそうなったのかわからないがタバサはシルフィードに命令した。
「人二人……走ってる……食べちゃダメ」
「キュイ!」
と、命令を受諾した龍は天高く飛び上がっていったのだった……
「ちっ!」
その頃学園内にある宝物庫前で舌打ちをする影があった……名前はミス・ロングビル……学園長の秘書である彼女は悪態をついた。
「スクウェアクラスの魔法が何重にもか……流石に頑丈だね……」
すると、
「そこにいるのは誰ですか!」
「っ!……あぁ、ミスタ・コルベール……」
と、言う声でそこにちょうどやって来ていたコルベールは驚きの表情になった。
「ミス・ロングビル、何をしているんですかな?」
「宝物庫の目録を作ろうと思ったのですがオスマン学園長から鍵をもらうのを忘れてしまって……」
また今度にしますわ、と言って離れようとするとコルベールが止めた。
「あ、ミス・ロングビル……」
「はい?」
そういったコルベールは次の瞬間、
「お昼一緒に食べませんか?」
「………………」
パチクリとロングビルは瞬きを一つし……クスリと笑うと口を開いた。
「構いませんよ」
コルベールはこっそりガッツポーズをした。普段は教鞭をとるか研究に没頭する彼だがそんな彼だって女性を伴った食事をしたいことだってあるのだ。それが今である。
そうして食事に向かう最中に話題を探したコルベールは口を開いた。
「宝物庫の鍵は頑丈でしょう?ですがあそこには一つ弱点があると思うのですよ」
「それはどんな?」
ロングビルは目を光らせて聞いた……それに対しコルベールは言う。
「それは魔法に対する強度を優先した余り物理的な攻撃に対する防御がなっていないところですよ」
成程……とロングビルは頷いた……だがコルベールは気付かなかった……その時のロングビルの目が……良いことを聞いたと黒い笑みを浮かべていたことに……
今回はちょいと短めかな……でもここが一番切りやすいんだよね……と言うことで次回はデルフリンガー取得&対に動き出すフーケ編です。