異世界御伽草子 ゼロの使い魔!   作:ユウジン

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虫けら

「ファイヤーボール!」

 

キュルケの炎の弾がビダーシャルに直撃するが、それは彼の眼前で止まり、キュルケに向かって跳ね返った。

 

「危ない!」

 

コルベールがキュルケを吹き飛ばして躱すが、背後の城壁が爆発。

 

「魔法が返ってきた?」

「我が先住魔法は反射。あらゆる物を跳ね返す」

「ならば!」

 

ギーシュが背後からバラを剣に変えて斬りかかるが、弾かれてしまう。

 

「残念だが魔法以外も跳ね返せる」

 

それを見たルイズは杖を構える。

 

(さっきは私の魔法は跳ね返せてなかった。エクスプロージョンなら)

「させん!」

 

ビダーシャルが手を振ると、この蓋が地面から生え、ルイズに襲い掛かる。

 

「危ないのね!」

 

竜に姿に戻ったシェフィールドが、ルイズを咥えて逃がすが、詠唱は中断された。

 

「悪魔の末裔よ。貴様だけはここで捉える」

「な、なんかアイツ私に対してだけ怖くない!?」

 

ルイズはパニックになりつつも、シルフィードに助けられた。すると、

 

「アナタ一体何したのね!」

「何もしてないわよ!」

 

シルフィードに怒られ、ルイズは反論。その間に全員が集まり、

 

「ミス・ヴァリエールに対して、かなり執着があるようだ。本当に心当たりはないのかね?」

 

コルベールの問いかけに、ルイズは唇を噛む。本当は分かっている。恐らく、自分の本当の系統。虚無の力を言っているのだ。

 

だがそれを言うべきか。と思っていると、

 

「あなたの力、でしょ」

「え?」

 

キュルケが発した言葉に、ルイズは思わず顔を強張らせた。しかしキュルケは笑うと、

 

「知ってたわよ。あなたの力、明らかに変だったもん」

「キュルケ」

「ど、どういう事だい?」

 

ギーシュは分からず困惑するとルイズは、

 

「私はね。虚無の担い手なの」

『っ!』

 

ルイズの告白にコルベールとギーシュは驚き、シルフィードは、

 

「あ、そういえばお姉様が言ってたのね」

「いやアンタは知ってたんかい」

「良くわからなくて覚えてなかったのね」

 

ビシっとルイズはツッコミを入れ、ルイズは皆を見る。

 

「私の力を、あのエルフは気にしてる」

「そこをつければ……か」

 

エルフが恐れる何かが、この力にはあるらしい。態々反射とか言う魔法を持ちながら、自分の詠唱を止めたのが証拠だ。

 

「私の魔法は跳ね返せなかった」

「だがあの障壁を破壊できるのかい?」

 

咄嗟のエクスプロージョンだったが、ビダーシャルは無傷だった。

 

「別の魔法を考えるしか」

 

そうルイズが口にしたとき、

 

『っ!』

 

城壁の一部が爆発音と同時に破壊され、闘夜とシェフィールドは壁を駆け上がりながら切り合う。

 

「この!」

 

闘夜は鉄閃牙を振り下ろすが、シェフィールドの体に触れる前に弾かれる。

 

「何だ!?」

「エルフの魔法よ。魔法具にはね。攻撃を記憶し、引き出せる物があるの。定期的に魔法を記憶させ直さないと、使えなくなっちゃうけどね」

「だったら!」

 

鉄閃牙の刀身が赤く染まり、

 

「風の傷!」

 

結界破りの赤い鉄閃牙で風の傷を放つが、

 

「なっ!」

 

風の傷が跳ね返り、闘夜に襲い掛かる。

 

「あぶね!」

 

ギリギリでそれを回避するが、背後の城壁を破壊。それを見た闘夜は、

 

「不味いな。なんとかしないと」

「あれはまさか……」

 

するとデルフリンガーが何か呟き、

 

「どうしたんだ?」

「あれはエルフの反射か。ブリミルのやつもアレには苦労させられてたぜ」

「え?知ってるのか?」

「あぁ。対抗策の魔法もあるんだが、嬢ちゃん気づいてないかもな」

「だったら」

 

すると闘夜はデルフリンガーを逆手に持ち、

 

「伝えてきてくれ!」

「え?はぁ!?」

 

闘夜はルイズ達のもとに、デルフリンガーを投擲。

 

「うわぁ!」

 

突然デルフリンガーが飛んできて、ギーシュは飛び上がるが、

 

「おい嬢ちゃん!エクスプロージョンじゃねぇ!デスペル使え!」

「っ!そういうことね!」

 

ルイズは頷き、呪文を唱えようとするが、

 

「させん!」

 

ビダーシャルが魔法を放ち、蔓が襲い掛かった。だがそれをコルベール達が防ぎ、

 

「ミス・ヴァリエールの詠唱の邪魔をさせるな!」

 

コルベールはそう言いながら、炎を地面から吹き上がらせ、ビダーシャルの視界を塞ぐ。

 

(成程。我に攻撃をすれば跳ね返されるのを見越して、視界を奪いに来たか)

 

悪くない判断だ。とビダーシャルは呟きながら、再び唱えると、地面が隆起し、襲い掛かる。

 

「なんて言う力だ!」

 

コルベールはルイズを抱えて転がり、それを避けるが、詠唱は中断。

 

「どうにかして時間を稼がなくちゃ」

 

キュルケはそう言い、再び炎でビダーシャルの視界を塞ぐ。

 

(まず警戒するべきは悪魔の末裔。そして火の魔法を使う男。それと竜。それにあの赤毛の女の順だな)

 

そう言って一瞬ギーシュを見るが、

 

(あれは警戒する必要はないな)

「っ!」

 

ビダーシャルは、ギーシュを警戒対象から外し他を見る。

 

それを見たギーシュは、カァッと顔が熱くなるのを感じた。今、自分は恐るに足らぬとバカにされたのだと分かった。

 

悔しさで歯を噛みしめる。そんなのは分かっている。今この場で、最も弱いのは自分だ。だが、

 

「ウォオオオ!」

「?」

 

ギーシュは剣を再び取り、ビダーシャルに斬り掛かる勿論弾かれるが、今度は突きを放つ。

 

だが切っ先すら入らず止まった。

 

「無駄だ。虫けらに私の反射を破壊するのは不可能だ」

「っ!」

 

虫けらという言葉に、ギーシュは怒りを爆発させるが、

 

「邪魔だ。失せろ」

「がっ!」

 

ビダーシャルが操る蔓が、ギーシュの腹を突き刺す。

 

咄嗟に体を捻ることで、脇腹を掠める程度だったが、それでもギーシュを吹き飛ばすには十分だった。

 

「がはっ……」

 

脇腹を抑え、立ち上がるギーシュに、

 

「おい坊っちゃん。俺を使え!」

「っ!あぁ!」

 

デルフリンガーを掴み、再びビダーシャルの反射に攻撃を加える。

 

カンカン弾かれ、ダメージはないが、ビダーシャルは不快そうな表情を向け、

 

「耳障りな」

 

蔓が再度襲い掛かりギーシュはギリギリで回避しながら、何度も斬りつける。

 

頬を抉られ、蔓が体を叩いて吹き飛んだ。それでもギーシュは立ち上がる。

 

「ちっ!うっとおしい!」

 

ビダーシャルは苛立ちながら、トドメを刺そうとするが、

 

「フレイムボール!」

「キュイー!」

 

蔓をキュルケの魔法と、シルフィードのブレスが焼き切る。

 

「ジャンの言う通り、蔓には反射が反映されてないわね!」

「ちっ!」

 

再び地面が隆起し、ルイズがいた場所に襲いかかるが、ルイズはいない。

 

「悪魔の末裔はどこだ!?」

「ウォオオオ!」

 

探そうとすると、ギーシュが再び斬り掛かる。

 

「僕は虫けらだ。だが、僕はオンディーヌ騎士隊の隊長だ!」

 

生まれつき、体格に恵まれているわけではない。寧ろ、細身なくらいだ。闘夜のように、馬鹿力があるわけじゃない。だが訓練を通して知った。自分に剣の才能はない。周りの同世代には、単純な剣の腕前であれば既に才覚を発揮しているものがいる。

 

魔法はどうだろう。それもさっぱりだ。魔法は使える。だが、タバサのような特殊な環境は除くとしても、キュルケにも勝てない。

 

分かっている。分かっていた。自分は弱い。虫けらだ。

 

隊長という立場も、先日の戦争の幸運と、本来隊長になるはずだった闘夜が辞退し、自分を指名したからにすぎない。

 

ずっと分かっていた。でも分かりたくなかった。自分の中の自身が崩れるような感覚を知りたくなかった。

 

朦朧とする意識。それでも、剣を振るのは止まらない。アニエスにゲロを吐いても行われた訓練で染み付いた習慣と言うのは恐ろしい。

 

「彼、死ぬわよ」

 

城壁で戦うシェフィールドの言葉に、闘夜は答える。

 

「死なねぇよ」

「あら、どこからそんな自信が来るのかしら?」

「友達だから」

 

はぁ?とシェフィールドはポカンとする。そして闘夜は続けて、

 

「それにギーシュ様は凄いんだ。俺達の隊長だからな!」

 

ニッと笑い、闘夜はシェフィールドに飛び掛かる。

 

一方ギーシュも、朦朧とする意識の中、闘夜の声が聞こえた気がした。

 

距離的にも声量的にも、聞こえるはずはない。だが、何故か聞こえた気がした。自分を信じてくれる闘夜の声が。

 

「おぉ……」

 

瞳を開き、ビダーシャルを睨みつける。

 

「っ!」

 

ゾクリと、ビダーシャルの背筋に冷たいものが走った。

 

今まで、炉端の石ころ程度にしか思っていなかった相手を、初めてちゃんと見た。恐れるに足らぬ相手に、何故か脅威を感じた。

 

「ありえぬ」

 

自分の中にあった、エルフの誇りを、傷つけられたと感じたビダーシャルは、ギーシュを殺すべく意識を向ける。だが、それは悪手だった。

 

(いや、それよりも悪魔の末裔だ)

 

ギーシュに意識を向けたのは一瞬。優先事項を思い直し、ルイズを探す。だが、その一瞬がビダーシャルのミスだった。

 

「こっちよ」

「っ!」

 

近くの岩陰が姿を見せたのは、ルイズである。炎で視線を切り、影に隠れて詠唱。声はコルベールの魔法で隠した。

 

だが、ビダーシャルであれば、それは看破できる策だった。余りにも単純な策略。一重にそれを阻んだのは、ギーシュの働きに他ならない。

 

「嬢ちゃん!俺に掛けろ!」

 

ルイズは頷き、杖を振る。

 

「デスペル!」

 

強制魔法解除の魔法。それをデルフリンガーに纏わせて、ギーシュは走り出す。

 

(不味い!)

 

ビダーシャルは手を振り蔓を振るうが、

 

「させん!」

「はぁ!」

「キュイー!」

 

コルベールとキュルケの炎と、シルフィードのブレスが焼き切り、ギーシュの道を作る。

 

「ならば!」

 

ビダーシャルが再び手を振り、地面が隆起してギーシュに襲い掛かる。

 

「がはっ!」

 

隆起した地面に吹き飛ばされ、空に浮かんだが、ギーシュはそれでもビダーシャルから目を逸らさない。

 

アニエスからの教え。相手から目を離すなだ。

 

「おおおおおおおおおお!」

 

地面に転がりながら着地し、痛む体にムチを打ってビダーシャルに向かって走る。

 

地面を踏み抜く気持ちで地面を踏み、腰を入れて全力で振り抜く。

 

そして乾坤一擲の刃が、ビダーシャルの反射ごと叩き切った。

 

「が……は……」

 

深々と切られたビダーシャルはそのまま地面に倒れ、ギーシュも倒れるが、

 

「あとは任せたよ。トーヤ」


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